Re: 3×3正値エルミート行列の正値性
工繊大の塚本です.
2015年11月7日土曜日 5時11分52秒 UTC+9 Kyoko Yoshida:
> > 貴方は先に, (C w, w) の計算において,
> > (C w, w) = \sum_{i,j=1}^3 x_i \bar{x_j} (C u_i, u_j)
> > としていましたから, 前について線形, 後ろについて反線形な
> > エルミート内積を使うことにしていた筈です.
> > 前について反線形, 後ろについて線形にする定義も良く使わますが,
> > 一つの話の中ではそれらを混合して使ってはいけません.
>
> これは失礼致しました。
> 前が反線形,後が線形を採用されてたのでしたね。
私が採用したかどうかではなく, 貴方が一つの話の中で
両者を混合して使ったことを咎めているのです.
以下では前が反線形, 後が線形で話を進めます.
> エルミート内積の定義は
> (i) (x,x)≧0∈C, (x,x)=0⇔x=0∈V
> (ii) (x,y)=\bar(y,x)
> (iii) (x,αy_1+βy_2)=α(x,y_1)+β(x,y_2) (後での線形性)
> なのですね。
(ii) から (x, x) \in R には注意しましょう.
> (f(v),w)=(v,f(w))⇔([f]v)^*w=v^*[f]w
> (但し,[f]は正規直交基底についてのfの表現行列)
> が必要十分条件なのですね。
* が, 転置を取り, 更に, 複素共役を取る, 操作を表すものとして
そうです.
> > ところで f^* とか [f]^* の定義も復習されますように.
>
> F,F'を体としV-FをF上の線形空間とする時,
> V-FからF'への線形準同型全体Hom(V-F,F'-F')をVとF'の双対空間といい,
> D(V,F,F')と表す事にする。
双対空間の概念を2つの体 F, F' が関係する場合に一般化しようと
しているようですが, F 上の線形空間 V から F' 上の線形空間 F' への
「線形準同型」とは何か, が定義されていなければ無意味です.
普通, 双対空間を考えるときには, F 上の線形空間 V から F 自身への
F-線形準同型全体 Hom_F(V, F) を考えます. V^* としましょう.
> この時,f∈Hom(V-F,V'-F)を採ると,∀x∈V,∀y∈D(V',F,F')に対して,
> ∃!g∈Hom(D(V',F,F'),D(V,F,F')); y(f(x))=(g(y))(x)が成り立つ時,
> このgをf^*と表して,左随伴写像と呼びます。
F 上のベクトル空間 V, V' と線形写像 f \in Hom_F(V, V') について,
f の双対写像 f^* \in Hom_F(V'^*. V^*) を
h \in V'^* = Hom_F(V', F) に対して,
(f^*(h))(v) = h(f(v)) (v \in V) で定義される f^*(h) \in Hom_F(V, F) を
対応させることによる線形写像とすることはそのとおりですが,
これは今考えているエルミート双対写像とは違います.
F = C としても違います.
双対ベクトル空間の間の双対写像を考えるときには,
内積もエルミート内積も出てきません.
> これはyとf(x)間の演算を内積(,)、g(y)とx間の演算を内積(,)'、即ち
> (,);V'×D(V',F,F')→Cと(,)':V×D(V,F,F')→Cとすると,
> ∀x∈V,∀y∈D(V',F,F')に対して,(f(x),y)=(x,g(y))'が成り立つ事を意味します。
F は止めて, C にしても, 内積を考えるのと, エルミート内積を考えるのでは
話が違います.
C 上の有限次元ベクトル空間 V にエルミート内積 ( , ) が与えられているとき,
V の線形変換 f \in Hom_C(V, V) に対して,
(f^*(v), w) = (v, f(w)) (v, w \in V) が成立するような
f^* \in Hom_C(V, V) が存在して f のエルミート双対と呼ばれることを
知っているか, という問いであったわけですが,
V の双対空間 V^* や f の双対写像 f^* \in Hom_C(V^*, V^*) とは
どう関係するか, は預けておきましょう.
> > Λ^2 C^3 の元とは α e_2Λe_3 + β e_1Λe_3 + γ e_1Λe_2 の
> > 形のものであり,
>
> α(e_2∧e_3)+β(e_1∧e_3)+γ(e_1∧e_2)ではなく
> (αe_2)Λe_3+(βe_1)Λe_3+(γe_1)Λe_2だったのですね。
いいえ. 前者であることは文脈から明らかだと思います.
> 前記事で∧^2C^3の定義は∧^2C^3:={x×y∈C^3;x,y∈C^3}
> (但し,×はベクトル積)の意味ではないと仰ってますが,
> ご紹介いただいた山本哲朗「行列解析の基礎」SGCライブラリ79, サイエンス社,
> 2010.第11章の「Grassmann積と複合行列」のp175のGrassmann積∧の定義を見ましたら,
> この∧はベクトル積そのものだと思うのですが,勘違いしてますでしょうか?
山本さんの本では, Λ^p C^n を定義するのに, 正規直交基底を固定して
C^{ n \choose p } と同型になることを利用して書いていますが,
固定された正規直交基底と組にして考えないと間違えます.
(a_1 e_1 + a_2 e_2 + a_3 e_3)Λ(b_1 e_1 + b_2 e_2 + b_3 e_3)
= (a_2 b_3 - a_3 b_2) e_2Λe_3
+ (a_1 b_3 - a_3 b_1) e_1Λe_3
+ (a_1 b_2 - a_2 b_1) e_1Λe_2
と e_2Λe_3, e_1Λe_3, e_1Λe_2 が基底となっているのが
山本さんの定義です. ですから, 正しくは基底付きで考えて下さい.
(a_1 e_1 + a_2 e_2 + a_3 e_3)×(b_1 e_1 + b_2 e_2 + b_3 e_3)
= (a_2 b_3 - a_3 b_2) e_1
+ (a_3 b_1 - a_1 b_3) e_2
+ (a_1 b_2 - a_2 b_1) e_3
というベクトル積 × は, C^3 の(非退化双線形形式である)内積と
(3重線形交代形式で正規化条件を満たすものである)行列式から
定義される, C^3×C^3 \to C^3 なる写像ですが,
Λ^2 C^3 の基底として, e_1Λe_3 の代わりに e_3Λe_1 を取って,
Λ^2 C^3 と C^3 の同一視を行うのでなければ,
外積 Λ と一致しません.
# 外積における e_1Λe_3 の係数は (a_1 b_3 - a_3 b_1) で
# ベクトル積における e_2 の係数 (a_3 b_1 - a_1 b_3) の(-1)倍です.
外積に対しては, 内積などなくても, 自然な定義を与えることができます.
それは少し議論が高級になるので, ここでは省略します.
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塚本千秋@基盤科学系.京都工芸繊維大学
Tsukamoto, C. : chiaki@kit.ac.jp
Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
GnuPG Key ID = ECC8A735
GnuPG Key fingerprint = 9BE6 B9E9 55A5 A499 CD51 946E 9BDC 7870 ECC8 A735