Re: “級数”とは、Cauchy に とって、何であったか?
話にいろいろな要素が錯綜しているように思いますので、
少し整理していくことを試みます。
また書かれていることの趣旨を必ずしも理解できているわけでは
ないので、トンチンカンなところがあったら適宜訂正してください。
さらに以下に記すことは必ずしも資料等をきちんと調べた上ではなく、
記憶などから書いているところもありますので、その面での誤りが
あるかもしれないことをご承知ください。
ABC wrote:
> (1). ご説明に
>>>>ただし「数列」とは言っても、変数や不定元を持つような場合も含みます。
> とあったので、 不定元を持つ例として、多項式を考えました。
>
> A(x)=p1(x)+p2(x)+… ; 部分和 Ar(x)=p1(x)+p2(x)+…+pr(x)
> 部分和 Ar(x) は多項式であるけれど、A(x) は大抵の場合、多項式でない。
> 次に、ご説明に
>
>>>>「昔の定義」もなにも、級数という言葉(というより概念)は昔から今まで
>>>>ずっとこのままです。これはニュートンもオイラーも同じ。」
>
> とあったので、上述のような場合、昔からどう扱かわれて来たのかを想像
> しました。 Ar(x)=Cr,0+Cr,1*x+Cr,2*x^2+…+Cr,nr*x^nr
> の様に部分和を不定元xのベキに整理して Cr,j を与えるときに、すべての j
> について Cj=lim Cr,j が存在する場合に、 A(x)=C0+C1*x+C2*x^2+…
> と定義したのであろうと、想像しましたが、説明に言う「昔から」の流儀は
> 如何なるものか確信が持てませんでした。
話を整理していく視点として:
・「級数そのもの」の形ないし概念だけについての話なのか、
収束性等、実質的な内容を伴った話なのか。
・コーシーあるいはコーシー以前の話なのか、
現在の状況についての話なのか。
・具体的・個別的な例についての話なのか、一般的な話なのか。
といった軸を分けていく必要があります。
特に歴史的な視点で考える場合、発展というのは一様に行儀よく進むものではなく、
一部が突出して発展している反面、とんでもないところが置き去りになることは
ままありますので、十分注意してかかる必要があります。
例えばπを表すライプニッツ=グレゴリー級数だの、
Wallis の公式だの Stirling の公式だのはすでに 17 世紀にあったわけですし、
それ以前から認識されていたものも多数あるでしょう。
ここでは無限級数だけでなく、無限乗積もすでに存在しています。
ニュートンはベキ級数、とりわけ (1+x)^α の一般2項展開を詳しく研究しています。
オイラーは個別事例をワンサカ研究していて、例えば今で言う(実)ζ関数を導入し、
三角関数の無限乗積を使ってζ(2) = π^2/6 を求めたりもしています。
# 当然 ζ(1)、つまり調和級数の発散も知ってました。
しかし総じて言えることとして、19 世紀以後の数学、さらに特定するなら、
Cauchy, Abel (, Dirichlet, Weierstrauss, ...) 以後の数学とそれ以前の数学の
大きな違いは、個別的な関数・事例の扱いに留まるのではなく、
一般的な関数、一般的な級数等々を考えるようになった点だと思います。
その1つの表れは、コーシーが示したような数列・関数・級数等の収束概念は
オイラーなんかには見られないわけですが、個別的・具体的な事例を
研究している立場から言えば、そもそもそのような発想そのものが考慮外
だったのかもしれません。
ですから「級数概念は昔から同じ」と言っても、コーシー以前において、
一般的な関数列とか関数級数:
f_1(x) + f_2(x) + ... + f_n(x) + ...
とかを考察対象にしていたという意味ではなくて、
ニュートンだのオイラーだのが扱っていた具体的・個別的な対象が、
今の目から見ればそのような枠組で捉えられる、というだけの意味です。
例えばおっしゃるような「多項式級数」のようなものが
ニュートンやオイラーの視野に入っていたかといえば、それは違うでしょう。
何も多項式に限らず、フーリエ級数展開のような関数級数もあるわけで、
これは 19 世紀数学の大発展の1つの源になってもいますが。
コーシーにしてからが、すでに述べたように「点収束」と「一様収束」の
区別はしていません。
これは今流に言えば、関数空間での収束とか位相といった概念そのものが
なかった、ということですね。
その結果として、両者の区別が効いてくるような場面、
例えば関数列の極限での連続性の保存とか、微分・積分との交換可能性とかで
ミソをつけ、それをアベルに指摘されることになるわけです。
コーシーの翻訳書での小堀先生の解説にも、このアベルをもって
「19 世紀後半における解析学は、様相を変えたのである」といった
書き方がされています。
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で、話としてはまだ入り口段階なのですが、今は時間がないので
続きは別便にします。
ただし、間に休みが入りますので、続きは 24 日以降になってしまいます。
(平賀)
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