Re: 強い物理学
Nakagawa <naka111@silk.plala.or.jp> writes:
> 中川@つくば です
> こんな話を持ち出したのも、
> 基礎科学に多額の税金を使う事に疑問を提出したyamさんにたいして、
> 基礎科学は役に立っている、という主張の根拠として
> 野村さんがGPSを持ち出したので、
> 基礎科学が役に立つ、とはどういうことなのかを、
> もうすこし綿密に考えてもらいたかったからです。
まず、私の主張を整理します。
1. 基礎科学は、役に立つことを目的として遂行されるわけではなく、知的興
味などを動機とするが、パトロン(納税者)の側もそのことは納得している。
2. しかし、基礎科学が数世代経ってから発展して役に立つことはある、ただ
しその時点では当初投資したパトロン(納税者)のかなりがもう利益を教
授できない。またはその知識が(数世代後には)広く世界に行き渡ってい
るので投資したパトロン(納税者)が独占的に利益を享受できない。
3. 一方、これに対して「すぐ経済的に役に立つ研究」ならば、国民の税金で
はなく、民間に任せた方が良い。理由は基礎科学の研究者に経済観念薄い
ばかりでなく、政府の役人も経済観念薄いので、税金の浪費になる。これ
に対し、民間企業による研究投資、少なくとも民間企業と大学の研究者の
共同研究ならば、経済観念の欠如が回避できるし、定義上経済的にも割り
に合う。
3-b. 逆にいえば、国民の税金を投入してまでサポートすべき研究は、民間企
業では維持できない「経済的に役に立たない研究」である。
そのジャンルの複数の研究の中でも優先順位の付け方が問題となるだろ
うが、その場合、「役に立たつ、立たない」の定義から議論しなければ
ならない。
> 役に立たない基礎科学はあります。
> 素粒子物理や天体物理は、普通の意味では役に立たないでしょう。
「素粒子物理」の発展史をどこまで遡るかによりますが、核分裂とその応用は
かつては「素粒子物理」と同じジャンルで扱われていましたね。
核分裂とその応用は 1945 年からですが、
放射能の発見(1896)、
E=mc^2(1905)
中性子の発見(1932)
オットー・ハーンによるアイソトープの観測と核分裂の発見(1938)
というほぼ2世代の前史があります。
また、原子爆弾製造のためには正確な核反応定数知る必要があり、これには
1930 年に開発されたサイクロトロンが重要な役割を果たしました(ドイツに
はサイクロトロンがなかったこともドイツ原爆開発の失敗の原因の一つともい
われています)。
どう考えたって
「原子爆弾、原子炉を作るために放射能、中性子、サイクロトロンが発明された。」
とはいえないでしょう。
で、原爆開発のマンハッタン計画で物理学者が大きく寄与したこともあって、
第2次世界大戦後にアメリカは巨額の税金を基礎科学に注ぎ込むようになった。
また、競争相手のロシアも同じ道をたどって基礎科学重視となった。
むろん、原子炉の開発もありますが、当初は軍用で、民間用はその後。
「素粒子物理」と「核物理」が分離するようになったのはそれから10数年以上
後。その時点で国防に役に立つ「核物理」のみをサポートするという選択もあっ
たわけですが、そんな選択しなかったわけですね。
# 科学技術の発展の相互作用の考慮や、1、2世代後に役に立つ基礎科学の例を
# 強烈にイメージづけられたせいもあるでしょう。
素粒子物理への巨額の税金投入にストップかかったのは、冷戦終結後。
=========================================================
> 基礎科学の成果は、発表当初は大抵役に立たないと思われる
> という考えが、いくつかのエピソードを根拠に
> 通俗書などにもかかれていますが、
> どれほど役に立つかの全貌は別にして、
> 役に立つものは最初からどう役に立つか大体分かるものだし
> 役に立たないと思われていたものは大抵やっぱり役に立たない。
> 役に立つと思われていたのに、役に立たなくなったものも
> 結構あります。
> それらと比べると、役に立たないと思われていたものが
> 役に立つようになるのは、やはり少数派だと思います。
中川さん、あなたの主張を歴史的な例から根拠づけていただけませんか?
また、
> 役に立つものは最初からどう役に立つか大体分かるものだし
というと、過去2,3世代に及ぶ高速増殖炉の開発や、核融合炉の開発の説明を
していただきたい。
# どちらも実現すれば「どう役に立つか大体分かるもの」ですがね。
それから、ファラディーが電磁場の研究した当時の時点で
> 役に立つものは最初からどう役に立つか大体分かるものだし
といえますか?
また、
> それらと比べると、役に立たないと思われていたものが
> 役に立つようになるのは、やはり少数派だと思います。
というにしろ、電磁気学とエレクトロニクスを考えただけでも(これがなけれ
ば現代技術文明の大きな部分が成り立たない)、
「数世代後に大きな役に立っている」研究の例になっていませんか?
この例だけでも、少数派といって切り捨てるにはあまりにも重要度が高過ぎる。
> 現在の数学研究の重要性を主張するのに、
> 「微分積分は役に立っています。だから現代の数学研究は役に立ちます」
> といったらおかしいでしょう?
いえ、
現代の数学研究はすぐに役に立たないといって切り捨てるわけにはいきません、
数世代後に大きく花開くことがあるからです。
これが、過去の(微分積分学を含む)科学史からの結論です。
--
===============================================
Kiyohide NOMURA
Department of Physics,
Kyushu University,
812-8581 Fukuoka
JAPAN
e-mail:knomura@stat.phys.kyushu-u.ac.jp
http://maya.phys.kyushu-u.ac.jp/
TEL,FAX:+81-92-642-2566
================================================
Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
GnuPG Key ID = ECC8A735
GnuPG Key fingerprint = 9BE6 B9E9 55A5 A499 CD51 946E 9BDC 7870 ECC8 A735