Re: 強い物理学
中川@つくば です
Kiyohide Nomura wrote:
> まず、私の主張を整理します。
>
> 1. 基礎科学は、役に立つことを目的として遂行されるわけではなく、知的興
> 味などを動機とするが、パトロン(納税者)の側もそのことは納得している。
> 基礎科学は、役に立つことを目的として遂行されるわけではなく
が、
「基礎科学は、テーマ選択の条件に役に立つことが含まれるわけではない」
の意味なら、その通りです。
しかし、「役に立たない」または「どう役に立つか分からない」が
マイナス点であることには変わりありません。
特に、「どう役に立つか分からない」は往々にして、
テーマの性質を表すものでなく、
その研究者にテーマを役立たせる意思が不足していることを示唆します。
非常にオリジナルで、他者の追随を許さない研究ならともかく、
論文発表の先人争いをしているような分野なら、
そのような研究者からの情報発信は、価値が半減します。
知的興味とは、提案研究者の知的興味を指すのですか?
だとするならば、役に立つという公的な理由の代わりに
個人的な理由を持ち出しているのがおかしいです。
少なくとも、同業研究者の知的興味でなければなりません。
できれば、パトロン(納税者)の知的興味であって欲しい。
> パトロン(納税者)の側もそのことは納得している。
それはおかしい。
人間の知的活動のうちで基礎科学にこれだけの公的資金が投入されるのは
多くの場合、広い意味で「役に立つ」と考えられているからです。
広い意味での「役に立つ」は、パトロン(納税者)の知的興味であったり、
国威発揚であったり、各種技術の涵養であったり、
そして、役に立たないと思われていたものが役に立ったりすることです。
> 2. しかし、基礎科学が数世代経ってから発展して役に立つことはある、ただ
> しその時点では当初投資したパトロン(納税者)のかなりがもう利益を教
> 授できない。またはその知識が(数世代後には)広く世界に行き渡ってい
> るので投資したパトロン(納税者)が独占的に利益を享受できない。
数世代たってから役に立つのは例外中の例外でしょう。
十年たって役に立つものですら、
役に立つきっかけは再発見であることが多いです。
その場合は、第一発見者の業績は全く「役に立っていない」。
> 3. 一方、これに対して「すぐ経済的に役に立つ研究」ならば、国民の税金で
> はなく、民間に任せた方が良い。理由は基礎科学の研究者に経済観念薄い
> ばかりでなく、政府の役人も経済観念薄いので、税金の浪費になる。これ
> に対し、民間企業による研究投資、少なくとも民間企業と大学の研究者の
> 共同研究ならば、経済観念の欠如が回避できるし、定義上経済的にも割り
> に合う。
「すぐ経済的に役に立つ研究」は「役に立たない」と相補的なのですか?
両者の間には大変なギャップがあると思いますが。
第一、工学部の研究は、どう位置付けられるのでしょう?
ここでいう経済観念とは、より少ない資金で充実した結果を出すことと
考えてよいですか? そうだとしたら、
役に立つ研究をするにしろ役に立たない研究をするにしろ、
経済観念は身につけてください。税金の浪費ですから。
基礎科学上のちょっとした問題に突き当たった時に、
大学の先生に相談して共同研究の形で解決を図る代わりに、
充実してきた分析専門会社や解析専門会社に発注する傾向が加速されます。
> Nakagawa <naka111@silk.plala.or.jp> writes:
> > 役に立たない基礎科学はあります。
> > 素粒子物理や天体物理は、普通の意味では役に立たないでしょう。
>
> 「素粒子物理」の発展史をどこまで遡るかによりますが、核分裂とその応用は
> かつては「素粒子物理」と同じジャンルで扱われていましたね。
私の主張が分かりませんか? 現在の素粒子物理の話です。
ニュートンの万有引力は、当時「天体物理」という言葉があれば
その中に明らかに含まれますが、ニュートンの万有引力を役に立たないと
私が主張していると、野村さんは読むわけですか?
#もっとも、「万有引力説は役に立たない」も面白い切り口ではある。
> で、原爆開発のマンハッタン計画で物理学者が大きく寄与したこともあって、
> 第2次世界大戦後にアメリカは巨額の税金を基礎科学に注ぎ込むようになった。
そうです。SSC建設問題が議論されていた時、
建設推進派と建設中止派との間で激論が交わされました。
物理学界以外の研究者はおおむね冷淡だったように思います。
「対称性の自発的破れなどは、素粒子物理が固体物性に寄与した成果だ」
と主張した人がいたおかげで、物性分野の研究者の顰蹙すら買いました。
建設中止が決まった時、物理帝国主義の終焉という言葉がささやかれました。
戦後の物理への多額の研究資金投下は、
原爆発明のご褒美であった、と総括した人もいました。
まさかご褒美でお金を配ったわけではありません。
物理学は原爆発明に匹敵するインパクトのある成果を
継続的に出す分野だと、政治家が考えていたというほうが正しいでしょう。
物理学界のロビイストも、それを否定はしなかった。
物理学はそういうものではない、または、
物理学のそういう時代は終わった、ということに、
政治家が気づいたのがSSC建設中止の大きな理由だと思います。
#地場産業に最も恩恵のあるトンネル建設が終わる頃に
#SSC中止が決まった所などは、どのかの国と良く似ている。
> > 基礎科学の成果は、発表当初は大抵役に立たないと思われる
> > という考えが、いくつかのエピソードを根拠に
> > 通俗書などにもかかれていますが、
> > どれほど役に立つかの全貌は別にして、
> > 役に立つものは最初からどう役に立つか大体分かるものだし
> > 役に立たないと思われていたものは大抵やっぱり役に立たない。
> > 役に立つと思われていたのに、役に立たなくなったものも
> > 結構あります。
> > それらと比べると、役に立たないと思われていたものが
> > 役に立つようになるのは、やはり少数派だと思います。
>
> 中川さん、あなたの主張を歴史的な例から根拠づけていただけませんか?
歴史的な例から根拠付けられるとはどういう意味なのですか?
1930年代までの物理は、
現在の科学の目から見たら白紙同然のキャンバスの上に、
自然理解の骨格を書く作業でした。
そこで得られた結果は、基本法則と呼ぶにふさわしいものです。
将来の新発見によって
例えば量子力学が、相対論が間違っていたということになっても、
それらには、「多くの場合、充分に正確な近似則」という地位が
約束されています。
そして、近似則さえあれば十分、という分野は多いです。
その意味で、量子力学、相対論に匹敵する
基礎的かつ広範な応用を秘めた物理学上の発見は、
もう二度となされない、と言って良いでしょう。
時代が違うのです。
GPSには一般相対論が使われている、という例を出して、
「現在の」基礎科学の重要性を説明しようとした野村さんの投稿は、
20世紀初頭の基礎科学と現在の基礎科学との歴史性の違いを
殊更にはぐらかしたものになっています。
> また、
> > 役に立つものは最初からどう役に立つか大体分かるものだし
> というと、過去2,3世代に及ぶ高速増殖炉の開発や、核融合炉の開発の説明を
> していただきたい。
「役に立つ」と「実用化できる」との違いが分からなかったのですか…
なら「役に立つ」を「実用化できれば、こういう風に役に立つ」
と読み替えて下さい。
> それから、ファラディーが電磁場の研究した当時の時点で
> > 役に立つものは最初からどう役に立つか大体分かるものだし
> といえますか?
言えるでしょう?
ファラディーがどういう環境の中で、どういう研究をしていたか
ご存知ないのですか?
#もちろん、どう役に立つかの全貌は知るよしもありませんでしたがね。
ファラディーを例に出さなくても、
どう役に立つか分からなかったものを研究していた人はいくらでもいます。
>
> > 現在の数学研究の重要性を主張するのに、
> > 「微分積分は役に立っています。だから現代の数学研究は役に立ちます」
> > といったらおかしいでしょう?
>
> いえ、
> 現代の数学研究はすぐに役に立たないといって切り捨てるわけにはいきません、
私の主張を良く読んでください。
現代の数学が役に立つことの根拠に、
微分積分学が役に立っていることを持ち出したらおかしい、と言っているので
す。
それから、数学に限らず、役に立たないからといって切り捨てろ、
とは言っていません。今、役に立つことが分かっているものと
(資金的には)同列には扱えないと言っているだけです。
> 数世代後に大きく花開くことがあるからです。
> これが、過去の(微分積分学を含む)科学史からの結論です。
微分積分学が役に立たない数学として出発したというのは初耳ですが…
過去の科学と現在の科学を等質に見なして結論を出すような
粗雑な科学史は、クーンのエピゴーネンくらいしか思いつきませんが。
Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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