佐々木将人@函館 です。

>From:YASUI Hiroki <jyasui@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp>
>Date:2003/09/22 20:35:21 JST
>Message-ID:<ymrmu175awee.fsf@as302.ecc.u-tokyo.ac.jp>
>
>なお、この中国での化学兵器遺棄に関する最初の判決が2003年5月15日に
>東京地裁で出たようでして、

これは最高裁のホームページからたどれます。
 http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/9C2015EBB06A47B549256D3D0034F006/?OpenDocument 
で見れれば幸い。見えない場合は
 http://www.courts.go.jp/ から最高裁判所のホームページの
「判例情報」「下級裁主要判決情報」「検索ページ」で
東京地方裁判所平成9年(ワ)第22021号事件平成15年5月15日判決
を指定して見てください。

原告の法的構成は
1次的には国際法に基づく損害賠償請求
 陸戦の法規慣例に関する条約
 それと同内容の国際慣習法
 国際人権規約B規約
 世界人権宣言
2次的には中国民法に基づく損害賠償請求
3次的には日本の国家賠償法及び日本民法に基づく損害賠償請求
 公務員の故意過失による行為責任
 公の営造物責任
 一般不法行為責任
 使用者責任
 土地工作物責任
です。

で、被告はごちゃごちゃ言っていますがこれはばっさり切りまして(笑)
原告のこれらの点に対する裁判所の判断は

まず1次的主張である国際法違反を理由とする損害賠償請求は
陸戦法規関係については個人の損害賠償請求権を規定したものではそもそもない
人権関係については自動執行的な条約ではない
としていずれも否定しています。
2次的主張である中国民法違反を理由とする損害賠償は
国家権力の行使の場合には法例11条1項は適用されないとして否定。
3次的主張にはまず作為である「遺棄行為」と
これと時間軸を異にする不作為である「放置行為」とは
一緒に論じることはできないとして、
一緒に論じる原告の主張を否定しています。
続いて放置行為については国家権力の行為であることを理由に
民法の適用を否定。
そして国家賠償法の適用があるかどうかを詳細に論じています。

まず(判決とは順序が変わりますが)
公の営造物責任については
公の営造物にはあたらないし
遺棄は設置にならないし
放置は管理にならないということで否定。

公務員の故意過失による責任については
「原則としては,
 公務員の作為義務が法令によって規定されていない場合には,
 不作為をもって職務上の義務違反とすることは
 相当でないといわざるを得ない。」
とし、その例外として
「少なくとも
 公務員ないし国家機関による権限の行使と密接な関連のある行為に基づいて
 人の生命・身体・財産等に係る
 重大な法益を侵害する危険性が生じただけでなく,
 その危険性が現実化することが切迫している状況にあり,
 この危険性を予見した上で結果に向けられた因果の流れを遮断して
 結果の発生を阻止し得る立場にある公務員ないし国家機関は,
 法令上に具体的な根拠がなくとも,
 条理に基づき,これを行うことが義務づけられるものと考えられる。」
という基準を立てた上で
その具体的な検討に入っています。

その中で終戦後の厚生省の担当者については
砲弾について予見可能性を否定、毒ガスについて予見可能性を肯定したものの
結果可能性を否定して
結局請求棄却判決になった訳です。

>ただ、この判決が扱っているのは1980年代の化学兵器漏出事故ですので、
>今回のチチハルでの事故のように1999年覚書によって日本政府に「回収・
>保管業務」の義務が発生した後のものに対しては、「中国政府の判断に委
>ねられるから」という理由はその意味を失うのではないかと思うのですが、
>どうなのでしょうか。

いや、この判決の線だと1999年覚書の存否は結論に影響しません。
判決中に
「前提としては
 具体的な所在場所についてまで把握していなければならないことになるが,
 被告が事前にそこまで具体的に特定して把握していたとは認められず,
 この点でも,
 回収措置による結果回避可能性の存在には疑問が残るところである。」
としているところ
この結果回避可能性というのは
「原則としては,
 公務員の作為義務が法令によって規定されていない場合には,
 不作為をもって職務上の義務違反とすることは
 相当でないといわざるを得ない。」
ことの例外が認められるための要件となっており
その例外が無過失責任や
実行困難な作為義務を設定した上での不作為の責任を問うというのでは
原則と例外という位置づけに影響を与えるもので
妥当性を欠くからです。

ちなみに私個人の意見としては
国家賠償法による救済ができない場合に
もし民法上の救済が可能であれば
それを否定する理由は全くないという立場なんですが
その点を除けばこの判決におおむね賛成です。

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まさと  「それ青いブレザーでキュンキュンさせながら言わないと……。」