佐々木将人@函館 です。

>From:YASUI Hiroki <jyasui@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp>
>Date:2003/08/28 18:35:29 JST
>Message-ID:<ymrmbruai0pq.fsf@as302.ecc.u-tokyo.ac.jp>
>
>このスレッドで問題になっているのは、戦争賠償ではなく、遺棄化学兵器
>が引き起こした損害の補償です。

そう言いきれます?

中国在住の個人が誰かの何かによって損害を受けた場合に
戦争に関係あるからって日中友好宣言持ち出すのと
遺棄化学兵器だからって1997年条約や1999年覚え書きを出すのは
問題の解析が十分でない点が一緒だと思います。

個人が誰かの何かによって損害を受けた場合
(そしてそれが契約に基づかない場合)
これは各国の不法行為法の適用を受けるかどうかという
国内法だけでかたのつく問題ではないでしょうか?

これ仮に日本国内で同様の事故が起こった場合
基本的には民法709条の不法行為なり国家賠償法の問題で
それぞれの要件を満たすかどうかの検討をし
要件を満たすとなれば損害賠償義務が認められるし
要件がなければ認められない……で終わってしまいます。
で、民法の不法行為なら
原則なら故意過失が要求されるところ
処理当時の技術水準に照らし故意過失がないとなれば
損害賠償はしなくてもよいという話になります。

中国国内で旧中国軍の物による同様の事故が起こった場合
日本法ではなく中国法においてどう処理されるかという変化だけで
中国不法行為法が今どうなっているかさっぱりわからないので
詳細は避けますけど
「中国法でどうなるのか?」という肝は変わりません。

そしてそれは中国国内で「旧日本軍」に変わったとしても
被告が中国政府から日本政府に変わるだけで
肝は全く一緒。
もし損害賠償義務の法的存否を言うのであれば
まずこの議論についてきちんと整理をしておかなければなりませんし
中国不法行為法についての知識が私にはありませんので
コメントを避けておきます。
(上でも示唆しましたが日本法だと故意過失がかなり問題になるし
 無過失責任規定の存在なり立証責任転換をもってこない限り
 たぶんだめではないかなあ……と思います。)

国内法で国際法の問題が出てくるのは
国内法で認められることが
国際法の存在のみを理由に否定された場合でしょう。

国際法の問題でいうなら
まずもって「国際法違反」であることを示さなければ
国際法上の損害賠償義務は発生しません。
そしてその国際法違反が戦争や戦争終結にともなうものであれば
戦争にともなう賠償権の放棄との関係という論点は必ず出てきます。
(さらに事情変更が効くかどうかという問題にもなるでしょう。)
その国際法違反が1999年覚書違反だというなら
それはそれで成立しますが……。

(もっとも私見ですが
 同覚書が日本国政府に調査義務を課したと解するのはともかく
 その義務内容が、中国すみずみまで地下何mまで確認をしなさい
 それでも見つかれば確認義務違反になる
 という類の不可能を強いたものとは到底思えないのですが。
 未発見のものを含むのは
 条約締結時にわからなかったとしても可能な限度内での探索義務を課し
 その後発見されたもの含めて発見後きちんと処理する義務を課すという
 文字通りの義務にすぎず
 未発見のものについての無過失責任の根拠規定にはなり得ないように
 思います。)
 
----------------------------------------------------------------------
Talk lisp at Tea room Lisp.gc .
cal@nn.iij4u.or.jp  佐々木将人
(This address is for NetNews.)
----------------------------------------------------------------------
ルフィミア「私のアンソロ本を書くって本当?」
まさと  「それ、微妙に間違っている……。」