工繊大の塚本です.

In article <40B46835.3030403@slis.tsukuba.ac.jp>
Yuzuru Hiraga <hiraga@slis.tsukuba.ac.jp> writes:
> うーん。話が見えていないのですが、
> 高階の微分(というか、導関数)はテンソルで表現されるといった話ですか?
>  # 例えば杉浦光夫:「解析入門 I」 pp. 134, 148-149

手元には高木貞治の「解析概論」も杉浦光夫の「解析入門」も
ありませんので, 書いてあることの繰り返しになるかも知れま
せんが, 「導関数」ではなく「微分」の話です.

多変数の場合で良く分かるように, 関数の微分というのは実数
に値を取るのではなく, (接空間ではなく, 接空間から実数への
線形写像全体である)余接空間というベクトル空間に値を取る
ものです.

# ちらと見た時の記憶に基づいて書くと, 「解析概論」でも
# 点 x での微分 df は, より正確に書くと df_x, 或いは df(x),
# いや, (df)(x) かな, は
# 
#   ((df)(x))(Δx) = f'(x) Δx
# 
# という Δx の関数であるという書き方になっていますね.
# ()内に「 x は止めて, Δx が変数だと考える」といった
# 記述があった筈.
# つまり df は「関数」値関数.

そういう実数値関数でないものの「微分」を定義もなしに導入する
とは高木貞治もエムシラ……もとい, 初学者が混乱しないようにか,
混乱しても構わないとしてか, 曖昧な書き進め方をした責めはある
だろうと思います.

(有限次元)ベクトル空間 V, E に対して, V の開集合 U 上定義
された E に値を取る関数 F: U → E についての解析学から始め
るなら, V から E への線形写像全体を L(V, E) で表すことに
すると,

  F: U → E

の微分 dF は(存在するとすれば)

  dF: U → L(V, E)

として定まりますが, その微分 d(dF) は, L(V, E) がベクトル
空間ですから, 同じように(存在するとすれば)

  d(dF): U → L(V, L(V, E))

として定まり, 更に高階のものを考えるのも同様です.

無論, これだけでは不十分で, L(V, L(V, E)) が V×V から E へ
の双線形写像の全体 BL(V×V, E) と同型であり, 又, V と V との
テンソル積 V(×)V から E への線形写像の全体 L(V(×)V, E)
とも同型であり, 又, V(×)V の双対空間 (V(×)V)^* と E との
テンソル積 (V(×)V)^*(×)E, 或いは V^*(×)V^*(×)E と
同型であるというのも押さえておかなければなりません.

又, d(dF) が連続であるとかの良い性質を持てば, 対称な双線形写像
に値を取ることなども必要でしょう.

このような設定の下で, 実数値の関数 f と ベクトル値の関数 F と
のスカラー倍 f F の微分 d(f F) が df(×)F + f dF になる
ことを証明し, 定ベクトル値関数 C の微分が 0 になることを示せば
実数上の実数値関数 f についての

  d(df) = d(f' dx) = df'(×)dx + d(dx) = f'' dx(×)dx

は自然と得られます. もっと高階のものについても同様.

但し, このようにして得られる高階の微分の美しさは「ベクトル空間
の開集合で定義されたベクトル値関数」という理想郷においてのみ保
たれるので, 座標変換のある世界に一歩踏み出せば雲散霧消してしま
うのはその通り. そこでどうするかは又別の話.
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塚本千秋@応用数学.高分子学科.繊維学部.京都工芸繊維大学
Tsukamoto, C. : chiaki@kit.ac.jp