工繊大の塚本です.

In article <9290dc4d-2c72-4e08-8e5c-28c20d413241@x6g2000prc.googlegroups.com>
KyokoYoshida <kyokoyoshida123@gmail.com> writes:
> In article <090803203528.M0105418@cs2.kit.ac.jp>
> Tsukamoto Chiaki <chiaki@kit.ac.jp> writes:
> > n×m 行列 A で定まる K^m から K^n への線形写像 ψ_A は
> > 通常, x ∈ K^m に対して y = A x ∈ K^n を対応させます.
> > ( x, y はタテベクトルとして扱います.) そのとき,
> >          f
> >      V ――→ W
> >      |       |
> > ι_v |       |ι_w
> >      ↓       ↓
> >     K^m ―→ K^n
> >         ψ_A
> > が可換な図式になるようにしておかないといけません.
> 
> すいません。"図式"というのは上記のような概念の理解を
> 視覚的に捉えるための表記法の事で
> その図式が"可換な"というのは何ういう意味なのでしょうか?

矢印に沿って写像を合成したものが, 途中の経路に依らない
ことです.

> 可換な図式を調べてみたのですが
> "可換な"とはどういう図式の事か分かりませんでした。

# 「圏」の話でも可換な図式は出ていました.

> つまり,Vの任意の元Xに対してfを辿ってV→Wと写しても,
> ι_w^-1○ψ_A○ι_vを辿ってV→Wと写しても
> f(V)=ι_w^-1○ψ_A○ι_v(V)となる時,
> この図式は可換であるとか言ったりするのでしょうか?

直接には V から K^n への写像,
 ψ_A○ι_v と ι_w○f が等しいことが
可換であるということですが,
 ι_w は(又, ι_v も)同型写像ですから,
 f = (ι_w)^{-1}○ψ_A○ι_v としても
( ψ_A = ι_w○f○(ι_v)^{-1} としても)
構いません.

> ここで{v_1 v_2 … v_m}はVの基底で
> xはx=t(x_1,x_2,…,x_m)はv_1,v_2,…,v_mの係数ベクトル
> (つまり,X=Σ_{i=1}^m x_i v_iという関係)ですよね。

(残念ながら)普通そう書きますね.

> 今,X=Σ_{i=1}^m v_i x_iの意味なさっているのですよね。
> どうして(v_1 v_2 … v_m) xという風に右から係数を掛けれるのでしょうか?
> (v_1 v_2 … v_m) xもtx t(v_1 v_2 … v_m)も1×1行列ですが
> 係数とベクトルは一般には可換ではない
> (v_i x_i=x_i v_iは成り立たない)ですよね。
> Vは左加群であって右加群ではありませんよね。

いいえ, 今, V は右加群と考えています.

体 K の元を係数とする n×m 行列 A を
 m 次のタテベクトル x ∈ K^m に左から掛けて
 n 次のタテベクトル y = A x ∈ K^n を作り,
 x に y = A x を対応させる
 K^m から K^n への写像 ψ_A を考える時,
それが線形写像になるのは, K^m, K^n を
右ベクトル空間と考える場合です.

実際, K が四元数体などであれば, そう考える他,
仕方がありません.

 K が通常の(積が可換な)体であれば,
左ベクトル空間と右ベクトル空間の区別はありませんから,
スカラー倍を左から掛けるように書くことが慣習となって
おります. それは(残念ながら)

  X = (v_1 v_2 … v_m) [[x_1],
                        [x_2],
                         …
                        [x_m]]

という(自然な)記法とは整合しませんが,
「〜の〜倍」という言い方に慣れることができなかった
西欧人を怨んで下さい.

結局, K^m と同型である V も右ベクトル空間として
扱うのが「正しい」のですが, 普通の体 K については
区別が付きませんので, 左ベクトル空間であるかのような
記法が通常使われます.
-- 
塚本千秋@応用数学.基盤科学部門.京都工芸繊維大学
Tsukamoto, C. : chiaki@kit.ac.jp