工繊大の塚本です.

In article <2919016d-5287-45d9-8264-ed56934d0617@g37g2000yqn.googlegroups.com>
kyokoyoshida123 <kyokoyoshida123@gmail.com> writes:
> Φには始集合があり,そこの中でのx+t(y-x))に対してでしか
> |Φ'(x + t(y - x))|は定義されないのですよね。
> なのにx+t(y-x)が始集合からはみ出す事があるのでしょうか?
> 単に始集合からはみ出すなら|Φ'(x + t(y - x))|は定義されない
> という丈の事ではないのでしょうか?
> x+t(y-x)がΦの始集合内に無いのに
> |Φ'(x+t(y-x))|が定義される場合があるのでしょうか?

何を示そうとしていたかをお忘れのようです.
 Φ が E において Lipschitz であることを示す,
つまり, ∀x, y ∈ E について, |Φ(x) - Φ(y)| ≦ M |x - y|
となる定数 M が取れることを示すのに,
 ∀t ∈ [0, 1] について Φ'(x + t(y - x)) が定義されて
連続であれば, Φ(y) - Φ(x) = (∫_0^1 Φ'(x + t(y - x)) dt)(y - x)
が成立することを用いようとしていたわけです.
 x, y ∈ E であり, Φ の定義域に入っていても,
 x + t(y - x) が Φ の定義域にあるとは限りませんから,
上の形で証明しようとすれば, x + t(y - x) も Φ の
定義域に入っているという仮定を置く必要がありますし,
 |Φ'(x + t(y - x))| ≦ M となる M の存在を言うには,
そのような x + t(y - x) が Φ の定義域のある有界閉集合に
入っているという仮定を置く必要があります.
従って, E は, 例えば, 定義域内の閉円板の場合を考えるのが
一番良いことになります.

> 「f:R^2→Rとすると
> Df=
> [[∂f/∂x,∂f/∂x],
> [∂f/∂y,∂f/∂y]]
> なのですね。
> D^2f=
> [[∂^2f/∂x^2,∂^2f/∂x∂y],
> [∂^2f/∂y∂x,∂^2f/∂y^2]]
> となるのですね。」
> と書きたかったのでした。

 Df は [∂f/∂x, ∂f/∂y] とするか,
  [[∂f/∂x],
   [∂f/∂y]]
とするかのどちらかです.
 
> あれ、、
> (Df)(a+kt,b+ht)が
> [[(∂f/∂x)(a+kt)k,(∂f/∂x)(b+ht)h],
> [(∂f/∂y)(a+kt)k,(∂f/∂y)(b+ht)h]]
> という2×2行列になるのですかね。

なりません. 2×1 行列とするか, 1×2 行列とするか,
のどちらかです.

> 「 (∂Φ_i/∂x_j)(x_1 + t(y_1 - x_1), x_2 + t(y_2 - x_2),
>                  ... , x_d + t(y_d - x_d))
> を (i, j)-成分とする d×d 行列です.」
> とご教示頂いていたのでDfは2×2行列とばかり思ってましたが。。。

その Φ は R^d-値 です. Φ: R^d → R^d のときと,
 f: R^2 → R のときの違いが分かりませんか.

# それに合わせるなら, 1×2 行列です.

> D^2 f = D(Df)
> =
> [[∂/∂x],
>  [∂/∂y]]
>    ・
> [[∂f/∂x], [∂f/∂y]]
> =
> [[∂^2f/∂x^2,∂^2f/∂x∂y],
>  [∂^2f/∂y∂x,∂^2f/∂y^2]]
> という2×2行列。

これはそれで良いのですが,
 
> D^3 f = D(D^2f)
> =
> [[∂/∂x],
>  [∂/∂y]]
>    ・
> [[∂^2f/∂x^2,∂^2f/∂x∂y], [∂^2f/∂y∂x,∂^2f/∂y^2]]
> =
> [[∂^3f/∂x^3,∂^3f/∂x^2∂y,∂^3f/∂y∂x^2,∂^3f/∂y^2∂x],
>  [∂^3f/∂x^3,∂^3f/∂x∂y^2,∂^3f/∂y^2∂x,∂^3f/∂y^3]]
> という2×4行列。

 D^3 f から先は, 行列ではなく, テンソルと考えるのが良い.
 2^3 = 8 個の成分を持つ量ですから, 2×4 の行列に並べる
ことは可能ですが, 上のものは正しくありません.

  [∂^3f/∂x^3,    ∂^3f/∂x^2∂y,  ∂^3f/∂x∂y∂x, ∂^3f/∂x∂y^2,
   ∂^3f/∂y∂x^2, ∂^3f/∂y∂x∂y, ∂^3f/∂y^2∂x,  ∂^3f/∂y^3]

が 8 個の成分です. # 無論, 同じ値になるところがあります.

正しくは,

  D^3 f = D(D^2f)
  = [[∂/∂x],
     [∂/∂y]]
     ・
    [[∂^2f/∂x^2,∂^2f/∂x∂y], [∂^2f/∂y∂x,∂^2f/∂y^2]]
  = [(∂/∂x)[[∂^2f/∂x^2,∂^2f/∂x∂y], [∂^2f/∂y∂x,∂^2f/∂y^2]],
     (∂/∂y)[[∂^2f/∂x^2,∂^2f/∂x∂y], [∂^2f/∂y∂x,∂^2f/∂y^2]]]
  = [[[∂^3f/∂x^3,∂^3f/∂x^2∂y], [∂^3f/∂x∂y∂x,∂^3f/∂x∂y^2]],
     [[∂^3f/∂y∂x^2,∂^3f/∂y∂x∂y], [∂^3f/∂y^2∂x,∂^3f/∂y^3]]]

となります.

> D^4 f = D(D^3f)

これも 2^4 個の成分を持つ量ですから,
 2×8 の行列に並べることは可能ですが,
それは少しも分かり易くしていることになりませんから,
そういうテンソル量であると理解することになります.

> という2×8行列になるのですね。

成分の全体はそれではありません.

> よってD^k fは2×2^{k-1}行列になるのですね。

 D^k f は 2^k 個の成分を持つ量, テンソルであると
御理解下さい.

> In article <090524025523.M0120891@cs2.kit.ac.jp>
> Tsukamoto Chiaki <chiaki@kit.ac.jp> writes:
> >  D^2 f = D(Df)
> >  = [[∂/∂x],
> >     [∂/∂y],
> >     [∂/∂z]]
> >    ・
> >    [[∂f/∂x],
> >     [∂f/∂y],
> >     [∂f/∂z]]
> > なら良いでしょう. 「積」は上手く翻訳する必要があります.
> 
> 有難うございます。これは1×3行列と3×1行列の積ですよね。

そうではなく, 3×1 行列と 1×3 行列の積, と考えます.

> D^2 f = D(Df)
> = [[∂/∂x],
>    [∂/∂y],
>    [∂/∂z]]
>    ・
> [[∂f/∂x],[∂f/∂y],[∂f/∂z]]
> =
> [[ ∂^2f/∂x^2,  ∂^2f/∂x∂y, ∂^2f/∂x∂z ],
>  [ ∂^2f/∂y∂x, ∂^2f/∂y^2,  ∂^2f/∂y∂z ],
>  [ ∂^2f/∂z∂x, ∂^2f/∂z∂y, ∂^2f/∂z^2  ]]
> という3×3行列。

これは良い. 以下は駄目.
 
> という3×9行列になるのですね。
> 
> よってD(D^kf)は3×3^{k-1}行列になるのですね。

行列ではなく, テンソルです. その違いは,

> D^3fが3×9行列だからD^3f((h,k,j),(h,k,j),(h,k,j))は
> (h,k,j)(D^3f)・t^(h,k,j,h,k,j,h,k,j) (但し,t^は転置を意味する)
> という1×3行列,3×9行列,9×1行列の積(1×1行列)を意味するのですね。

こうはならないことに現れます. 上のような行列の積にすると,
 (h, k, j) についての2次式になってしまいます.
 (D^3 f)(x, y, z)((h, k, j), (h, k, j), (h, k, j)) は
 (h, k, j) についての3次式です.

> 従って,D^kf((h,k,j),(h,k,j),…,(h,k,j)) (但し,((h,k,j),(h,k,j),…,(h,k,j))は
> 3×3^{k-1}行列)は
> (h,k,j)D^kf・t^(h,k,j,h,k,j,…,h,k,j)という
> 1×3行列,3×3^{k-1}行列,3^{k-1}×1行列の積
> (1×1行列)を意味するのですね。

ですから, 違います. それでは k が何であっても
 (h, k, j) の2次式です. k 次式が出て来ないと
駄目です.

> そうしますと,d^k/dt^k)(Φ(ψ_1(t), ψ_2(t), ... , ψ_d(t))は
> どのように書けますでしょうか?

一般式は書き下し難い. d = 2, k = 2 では

  (d^2/dt^2)(Φ(ψ_1(t), ψ_2(t))
  = (d/dt)((∂Φ/∂x_1)(ψ_1(t), ψ_2(t)) (dψ_1/dt)(t)
           + (∂Φ/∂x_2)(ψ_1(t), ψ_2(t)) (dψ_2/dt)(t))
  = (∂^2Φ/(∂x_1)^2)(ψ_1(t), ψ_2(t)) ((dψ_1/dt)(t))^2
    + (∂^2Φ/∂x_2∂x_1)(ψ_1(t), ψ_2(t)) (dψ_1/dt)(t) (dψ_2/dt)(t)
    + (∂Φ/∂x_1)(ψ_1(t), ψ_2(t)) (d^2ψ_1/dt^2)(t)
    + (∂^2Φ/∂x_1∂x_2)(ψ_1(t), ψ_2(t)) (dψ_2/dt)(t) (dψ_1/dt)(t)
    + (∂^2Φ/(∂x_2)^2)(ψ_1(t), ψ_2(t)) ((dψ_2/dt)(t))^2
    + (∂Φ/∂x_2)(ψ_1(t), ψ_2(t)) (d^ψ_2/dt^2)(t))

のようになります.

> つまり,t=0はt=0での微分(係数)を表しているのですね。

そうですが,

> t=t_0でのΦ(x + t(y - x))のTaylor展開は
> Φ(y) = Φ(x + t_0(y - x))

 t_0 = 1 とするから, x + t_0(y - x) = y となるので,
 t_0 = 1 でないなら, 単に, Φ(x + t_0(y - x)) = …
となるだけです. まあ, t_0 を一般にする意味はありません.

>        = Φ(x + 0(y - x)) + d(Φ(x + t(y - x)))/dt|_{t=0}・t_0
>          + (1/2) d^2(Φ(x + t(y - x)))/dt^2|_{t=0}・(t_0)^2
>          + (1/3!) d^3(Φ(x + t(y - x)))/dt^3|_{t=0}・(t_0)^3
>          + …
>          + (1/(n-1)!) d^{n-1}(Φ(x + t(y - x)))/dt^{n-1}|_{t=0}・(t_0)^{n-1}
>          + (1/n!) d^n(Φ(x + t(y - x))/dt^n|_{t=θ}・(t_0)^n
> となるのですね。

最後のところで, θ は 0 < θ < t_0 のある数, となります.

> d(Φ(x + t(y - x)))/dt=Σ_{i=1}^d (∂Φ/∂x_i)(x + t(y - x))h_i

これは, h_i = y_i - x_i だから,そうなりますが,

> d^2(Φ(x + t(y - x)))/dt^2
> =d/dtΣ_{i=1}^d (∂Φ/∂x_i)(x + t(y - x))h_i
> =Σ_{i=1}^d (∂^2Φ/∂x_i^2)(x + t(y - x))h_i^2

これは駄目です.

  = Σ_{i=1}^d Σ_{j=1}^d (∂^2Φ/∂x_j∂x_i)(x + t(y - x)) h_i h_j

です. 以下同様に駄目です.
-- 
塚本千秋@応用数学.基盤科学部門.京都工芸繊維大学
Tsukamoto, C. : chiaki@kit.ac.jp