Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その16)
●桃栗町の外れ・何処か
後に、良く考えれば自分でも相当な無茶をしたと無茶の数なら誰にも負けない
まろん自身が思ったくらいの行動。気を高めてロザリオ無しでの変身を試みる
時間的余裕も無さそうな状態で、唯一何時でも使える能力を有効に活用出来た事
は幸いでした。
「うわっ、止せ!」
その姿に稚空が気付くやいなや、上階の手すりを飛び越えて事もあろうに悪魔に
跳び蹴りを敢行したまろん。勿論ただ単に蹴りを入れた訳では無く、当然展開
されるであろう相手の障壁を打ち消すべく足元へ自らも気を集中させて小さく
まとめた障壁を展開しています。もっとも、これも無茶な事に出来るだろうとは
思っていたものの試したのは初めてだったのですが。そしてその攻撃は、行った
当人が一番驚いた事に見事に悪魔、すなわちユキの側頭部に決まっていました。
ぐねり、という嫌な感触に驚きながらも何とか体勢を立て直しつつ着地。即座に
距離を取ったまろんの傍に、稚空達も集まります。そして四人はしばしの間、
言葉を失ってユキを見つめました。
「やだ…どうしちゃったのかな」
「まろんが蹴ったんだろうが」
「だけど」
「まろんちゃん凄ぇ」
「見事な攻撃です」
やっと出た言葉は基本的には賞賛、ですが皆に共通しているのは激しい戸惑い。
そして事の次第をホールの片隅から見物していたエリスもまた、殆ど同じ様な
感慨を抱いていました。曰く“やっちゃったよ、まろん様”と。そして今、全員
の視線の集まる先には首をあらぬ角度に傾げているユキが居ます。人間ならば
間違い無く生きていないであろう位置にまで倒れている頭部が、ゆっくりと元の
位置に戻っていきました。それから間接の感覚を確かめるがごとくに、左右に
数回首を傾げるユキ。傍に居ればコキコキと音がしそうな仕草に、まろんは何故
か深く安堵し、自覚も無いままに敵が生きている事を喜んですらいます。しかし
その緩みかけた緊張は再び張り詰められる事になりました。まろんが敢えて存在
を無視して障壁で蹴散らした球体の一部が他を吸収して輝き始め、ユキの正面側
すなわちまろん達の側に集まります。数個が一組になっていびつな多角形の面を
構成し、今度はその面全体が淡く光を放ちます。そうしてその光が強さを増した
直後、ふっと唐突に光る面が消失します。同時にまろんと稚空達全員を包む半球
が薄い緑色に輝き、衝撃音がホール全体をぐらぐらと揺さぶりました。まろんの
障壁の光が薄れると、その膜の向こう側に無表情で両手を正面に突き出したユキ
の姿が見えていました。
「な、何があったの」
「知るかっ」
「恐らく間の空間を跳ばして攻撃してきたのです。放った瞬間に相手に届く様に、
自分の身体ではなく攻撃そのものだけを空間転移させたと推測します」
「はぁ、反則だぜそんなの」
「まろんさんで無ければ防げなかったでしょうね」
「逆に」
まろんが視線を逸らさずにニッと微笑みます。
「私が居る限りは大丈夫なんでしょ」
「…多分」
「じゃ簡単。私がみんなを守るから攻撃に専念して」
「オッケー」
アクセスが応えるまでも無く、同時にトキも気の集中に入っています。敵の次の
攻撃までの猶予が読めない以上、それ以外に出来る事が無かったとも言えますが。
そんな双方の様子を感心しつつも傍観する事に専念していたエリスが、ピクッと
身を震わせた事に勿論気付く者はおりません。エリスは訝しげな視線を自分の
胸元に向け、それからエプロンドレスの中に手を差し入れて中から一枚の紙切れ
を引っ張り出しました。その紙切れが微かに震えると、誰も居ない彼女の目の前
の辺りからボソボソと囁く声が聞こえます。
「エリス、聞こえてますか。もしもし」
「…聞こえてますよ」
「ああ、良かった。普通は硬い物に貼り付けて振動で音を伝えるんですが
硬い物が無かった。無いですよね、いくらエリスでも胸まで筋肉でコチコチって
事は無いですよね」
「…」
「そこで符から直接音を出してみたのです。上手く行きました」
「ちっとも上手くなんかありません。硬い物が必要なら壁でも床でもいくらでも
探せばあるでしょ」
「貴女が傍に居るとは限りませんし」
「どうせ何枚でも作れるくせに」
「単なる攻撃用と違ってデリケートなんですよ」
「そもそもそれ以前の問題ですけど」
「はて、何か不都合でもありましたか」
「何時の間に私の前掛けにこんなもん貼り付けたんですか」
「脱いで置いてあった時ですが」
「部屋以外で脱いで放っておいた事はありませんが」
「はてさて、するとどういう結論になるのでしょうか」
「ノイン様が私の部屋に勝手に入った事があるという結論しかないでしょ」
「それはいけませんね、今後の検討課題としておきます」
「検討するまでもなく、ひとつ結論が出ましたよ」
「はい、何でしょうか」
「魔界に帰ったら殺します」
「誰をです」
「貴方をです」
「何とも激しい愛情表現ですね、でもそういうのは嫌いではありません」
ビリっ、という音が届いたらしくノインが慌てます。
「待ちなさいエリス、呪符を破かない様に」
「まだ何かあるんですか」
「まだも何も用を伝えてません」
「さっさと言ってください」
「神の御子が乱入しましたね」
「ええ、そうですよ。というか見てるんでしょ」
「勿論です、こんなおも…思いもよらぬ事態ですから」
「今、こんな面白いネタを見逃すはずが無いと言いましたね」
「言ってませんよ。エリス、耳が遠くなったのでは」
ビリリっ。
「あぁ、判りましたすぐ要点を言います。ユキを連れ戻してください」
「はぁ?」
「神の御子が大人しく引っ込んでいてくれないのは誤算でした。それにユキを
いきなり襲うとは」
「機先を制したという意味じゃ間違ってないですけどね」
「しかしその所為でユキが本気になりかけている様に見えるのですが」
「その様で」
「アレが表に出てますか?」
「プツンと心の声が切れましたので、多分」
「じゃ、やっぱり連れ戻してください。正気じゃ無いユキと神の御子の接触は、
今は避けたいので」
「気安く言わないでください。正気じゃないユキ様を止めろって、それは
“せ・い・と・う・あ・く・ま・ぞ・く”に刃向かえって事でしょうに」
「出来るでしょ、侍女職なんですから」
「まったく…」
口をへの字に曲げながら、エリスはユキの攻撃に反応するまろんの障壁の光が
段々と強くなっている様子に目を向けていました。
*
エリスが紙切れと独り言の様な会話をしている一方、ノインの方は静かな場所で
明らかに暢気に椅子に座っていました。いったい何処に撮影手段を仕込んでいる
のか、鮮明で臨場感の溢れる戦場中継がTV画面に映っていて、傍目には映画を見
ながらお茶を飲んでいると言われれば誰も疑わない光景がリビングに広がって
います。
「ノイン様」
「はい」
「私が行くべきでは」
「ユキを止めに?」
「はい。方法は判ると思います」
「魔王様から聞いていますか」
「ユキが私について来てくれる様になった直後に魔王様に拝謁する機会があり、
その折にあれは特別な娘だからと仰って」
「らしいですね。だから特別手厚い楯が付いていると私も聞いています」
「だが少し敏感過ぎる楯であるから、不必要な時に発動して他人の話に耳を
傾けなくなったら正気に返す呪文を囁く様にと」
「ふむ」
ノインは小さく頷く事でミカサの申し出を肯定し、手のひらをテーブルに載せて
ある呪符の上に重ねます。
*
もそもそと手の中で何かが動く感触に気付いたエリスは、握っていた手を
耳元に寄せます。
「エリス」
「はいはい何ですか」
「ミカサをそっちに行かせます。彼がユキを大人しくさせる熱い台詞を言い
ますので、サポートしてください」
「あぁ、とうとうユキ様を受け入れて差し上げるのですか。そりゃ良い」
コホン。何処か遠く、紙の伝える振動の背後で誰かの咳払い。
「冗談はさておき」
「ノイン様がそれを言いますか」
「さて置かせてください。ユキを大人しくさせる為には呪文を囁く必要がある
のですが、彼女の傍で何か囁ける状況では無さそうですね」
「まぁ無理でしょうね」
「ですから囁ける状況を作ってくださいな」
「そっちの方が難しいじゃないですか」
「期待してますよ」
「ちょっ」
エリスが更に何か言おうとする前に、ノインはさっさと会話を切り上げて
しまっていました。仕方なく、呪符はくしゃくしゃに丸めてエプロンドレスの
ポケットに突っ込みます。ふと気になって、服の他の部分もまさぐってみますが
他に余計なオマケが付いてはいない事を確認しすると即座にユキの戦いへと注意
を戻します。球体が集まって作ったいびつな平面、或いは板と言ってもよいモノ
がユキの攻撃の瞬間的な中継と天使たちの放つ光球の防御の二役をこなしており、
ユキと彼等の間ではなく、球体群と彼等の間で激しい閃光がほぼ絶え間なく
続いていました。
「(体力勝負になっちゃってるけど、ユキ様、体調は万全に戻ってるのかな)」
この一仕事が終わったら何か夜食でも用意しようか自分とアンの分も作って三人
で、そういや晩飯食い損ねてるな私、アンは食べたのかな…そんな事をエリスは
考え、直ぐに頭を振って先に済ませなければならない事柄に考えを切り替えます。
(第175話・つづく)
# 最近、色んな意味で余裕がありません。書いてる暇が…。
では、また。
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■■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■■ 可愛いんだから
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■ いいじゃないか
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Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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