Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
# 第175話のラストです。
^L
★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その22)
●桃栗町の外れ・ノインの館
目が醒めると何か堅いものに顔を押し付けていて、少し経って意識がはっきりし
て来たところでそれがテーブルの上なのだとユキは気付きました。居眠りをして
いたと勘違いして慌てて顔を上げ、同時にテーブルが濡れているのを見て更に慌
てて手で口を塞ぎます。そしてそれが眠っている間に垂らした涎では無いと気づ
きました。口元では無く頬が濡れている感触が手に伝わってきたからです。そん
なユキの事を心配そうな三つの顔とやけに楽しそうな笑顔が一つ、見つめていま
す。
「ユキ、大丈夫かい」
差し出されたハンカチをあたふたと受け取り、目許を拭うユキ。目が赤く腫れて
いないかどうかが心配でしたが、鏡を見に行く状況でもありませんでした。
「大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「まったく、目覚めないんじゃないかと焦りましたよ」
「え?でも」
エリスがホレホレといった仕草で指差した壁の時計を見るユキ。三つの詞を聞い
てから、たっぷり二時間は経っていました。
「随分と遠くまで行っていた様ですね」
まるで全てお見通しとばかりに、ノインがニヤっと笑いながら言っています。何
故かとても恥ずかしくなりながらも、ユキは何とか言葉を返す事が出来ました。
「昔、住んでいた家に行っていました」
「そうですか」
「ユキ様」
「はい?」
椅子に座ったままでユキが顔を後ろへ向けると、そこにはエリスが左手を構えて
待ち受けていました。手のひらに裂け目が走り、彼女に使える唯一の魔術が発動
間近の状態になっています。途端、ユキとエリスの間に小さな球体が三つ出現し、
互いを結ぶ線で囲まれた三角形の壁が出来上がりました。
「よして、危ないわ」
落ち着いた、そして普段と同じ優しい響きを持つ声でユキがエリスを制します。
「どうやら、本当に外れているみたいですね」
「エリス」
そう呼びかけたのはノイン。
「はい?」
「貴方、今本気で撃とうとしましたか」
「ええ、当然でしょ。でなきゃ楯が残っていても発動しませんから」
「ここは私の家なんですがね」
「知ってますけど」
「吹き飛ばす気ですか」
「吹き飛ばずに済みましたね」
「…そうですね。ありがとう、ユキ」
「はぁ…」
相変わらず、ノインにはついていけないままのユキでした。
今度こそ本当に休む為に、自分達の宿営に戻って行ったミカサとユキ。ノインが
今宵も泊まっていったらどうかと勧めたのですが、その表情が不真面目だった為
か二人は丁重かつ断固としてそれを断っていました。そして今は、かなり遅くな
った夕食を済ませたエリスとアンが二人でキッチンを片付けている最中。ノイン
は何時の間にか出してきたワインを飲みながら、リビングで何か考えている様子
でした。洗いものをしながら、時折ちらりと向けられるアンの視線に気付いてか、
エリスが彼女に尋ねます。
「何か言いたい事でも?」
「うん…あのね、何かあった?」
「何かってなにさ」
「面白く無い事とか」
「別に。ちょっとしくじったけど、仕方ないし」
「ほんとに何もない?」
皿に何かを盛っていた手を止めて、エリスが顔を上げました。
「まったく。敏感なのも考え物だね」
「エリスの事では鈍感になりようが無いわ。判ってるでしょ」
「まぁね」
「で、何?」
「ちょっと下らない事考えちゃってさ。神の御子の御友人を籠絡したら後々の作
戦が楽かな、とかそんな感じの事だよ」
「お友達って、どっちの」
「男」
「あぁ」
そう言ってからクスクス笑い始めるアン。
「何だよ、ちゃんと教えたのに笑う事ないだろ」
「だって可笑しいんだもん。男性を誘惑してみようかとか思って、途中で恥ずか
しくなったんでしょ」
「あぁそうだよ悪いか」
「別に悪くなんか無いわ。ただ…」
「朝まで笑ってろ」
プイっと顔を背け、エリスは皿を持ってリビングへ戻ります。それをノインの前
に置こうとして、既に彼の前に置かれた物に気付きます。
「それって」
「神の御子の忘れ物ですね」
「というか、ノイン様が盗ったんでしょ」
「人聞きが悪いですね。あくまでも忘れ物です」
エリスはそれ、ロザリオをつまみ上げて少し離れた場所へ置きなおすと今度こそ
持ってきた皿をノインの前に差し出します。その皿には、夕食の残りを刻んだ物
と何かの調味料を混ぜた物を乗せたクラッカーが数個載っています。
「何ですか」
「お酒だけ飲んでると身体に悪いですよ」
大げさな身振り付きで、ノインが驚いていました。
「貴女が私の心配をしてくれるなんて、感激ですね」
「単なる職業上の習慣です。ノイン様個人を心配したわけじゃありませんから」
「意外に良いお嫁さんになりそうですね」
「そんなもんにはなりません」
ノインが更に何か混ぜ返しそうな言葉を繋ぐ前に、二人の注意はキッチンに引き
付けられていました。小さな声でしたが、二人の耳には確かにアンの悲鳴が聞こ
えていたのです。助走も何も無しでリビングの決して小さくは無いテーブルを跳
び越え、エリスは一瞬でキッチンに飛び込んでいます。その気配に気付いて、口
元に手を当てていたアンが振り向きました。
「ごめん。ちょっと驚いただけだから」
「何に驚かされた?」
「窓の外」
アンが指差す先、窓の外の夜の闇にぼんやりと人の顔が浮かんでいました。何者
かと誰何しようとし、しかしエリスはすぐにその顔を思い出していました。
「オットー隊長の所の。何ですかこんな時間に」
「いや、すんません。驚かす気は無かったんだけど」
「ノイン様に用なら玄関から入ってリビングへどうぞ。ミカサ様かユキ様なら既
に宿営に戻られました」
「いやそうじゃねぇんで。敢えて言うならメイドさんに用が」
「私に?」
「もしあったらで良いんで、氷もらえませんかね」
「氷?どなたか怪我でも?」
「いやそうじゃなくて…」
少し歯切れの悪い相手に、エリスとアンは顔を見合わせるのでした。
●桃栗町の外れ・何処か
閃光の中を駆け抜け、既に充分な距離を離しても彼女は走る事を止めずに林を突
っ切っていました。向かった先は予め決めていた集結地点。そこには既に前線を
退いているオットーら他の面々が待っていて、更に他の戦士もぽつぽつと別の方
向から姿を見せつつありました。彼女はその身体と同じくらいありそうな背嚢と
巨大な武器をぶら下げたまま全力疾走し、それでも息ひとつ乱さずにオットーに
報告します。撤退した理由を示す、要点だけの一言で。
「ジャムった」
オットーがチラっと目を向けると、彼女は自分の武器を操作して見せます。本来
なら甲高い機械音を発して動き出すはずの銃身が微かに唸っただけでそれ以上は
動きませんでした。
「ご苦労。もう充分だろ」
「未だしばらく持つはずだった。敵が隊長の棒っきれ使ってきた所為」
「すまねぇ。置き忘れだ」
「ふざけんなバカ」
耳ざとく聞きつけた周囲の者たちが横槍を入れます。
「お嬢がご立腹だ。誰かお慰めしろ」
「俺の方が慰めて欲しいぜ」
「お嬢、男の慰め方知ってっか?ベッドの上でだな」
ヒュッヒュッと風を切る音がして何かが集団の中を飛び、直後には野次った戦士
達の軍服の一部がハラリと地に落ちます。お嬢と野次られた彼女の手には、更に
何時でも投げる事が可能な細身で両刃のナイフが数本光っています。
「次は襟でなく耳」
「冗談だって。怒るなよ」
オットーがニヤりと笑いながら口を開きます。
「何でソレ使って続けなかったんだい」
「決まってる」
ずっと仏頂面だった彼女が、やっと見せた表情は微笑。その笑顔には、そこそこ
満足したと書いてありました。あくまでも、そこそこ、でしたが。
「隊長はオペレーションと言わなかった。イベントだって」
「ああ。そうさ」
そしてオットーは宣言します。
「状況終了」
歓声。そして無事に任務を全うした補給班から各人へ向けて、缶ビールウィスキ
ーのボトル一升壜その他が投げ渡されます。作戦行動の後始末、通称“反省会”
が開始されました。
*
およそ三時間後、反省会は終わる様子を見せませんでしたが物資は確実に消耗さ
れていました。オットーが近くにいた部下に声を掛けます。
「おい」
「は。何でありますか」
「副司令殿の所へ行って氷を貰ってきてくれ」
「副司令殿に、でありますか?」
「違う違う。頼む相手はメイドの嬢ちゃんだ」
「ああ、成る程」
「無いって言われたら仕方ねぇ。町に下りて買って来い」
「了解」
こうして使いに出た戦士の一人が戻った時、彼は連れを従えていました。湧き上
がる歓声(というかヤジ)に迎えられた彼女が誰なのか、殆どの面子は酔いもあ
って直ぐには気付きませんでした。
「お姉ちゃん何処から来たのかな〜」
「重そうだなぁ、俺が荷物持ってやろうか」
「代わりに俺のマグナムを握ってくれ」
「引っ込めデリ野郎」
「いやに薄着だなぁ、寒くないのかな」
「そのスカートの下に毛糸のパンツ履いているなんてガッカリなオチは拒否」
「スカートじゃねぇ、ワンピースってんだよアレは」
「詳しいな、さてはテメぇ女装癖でもあるんだろ」
「うるせー。つか良く見ろよ」
「あらららら〜、メイドさんだよ」
「おぁ、私服もかぁいいねぇ」
「褒めるのが遅いだろお前ら」
「そうかぁ、俺はやっぱりメイド服の方が」
「俺的に彼女のイメージだと私服はタンクトップにホットパンツなんだがなぁ」
「あ、それ良いね」
「ちなみにホットパンツの下はショーツ無しな」
「デニムの固い生地の縫い目が彼女の敏感な部分に触れてぇ」
「お前、エロ雑誌の見過ぎ」
エリスはそれらを軽く聞き流し、ぶら下げて来たバケツ二個をオットーの前にデ
ンと置きました。同じ物を使いに出た戦士も並べて降ろします。中身は砕いた氷、
そしてその合間にはゴロゴロと缶ビールとワインのボトルが混ざっています。
「お、嬢ちゃん気が利くねぇ」
「私じゃありません、ノイン様がよろしくって」
「あぁ、そういう事かい。感謝してたって伝えてくれ」
「判りました。それで」
周囲にさっと視線を巡らせるエリス。
「何だい」
「皆さん、何か召し上がりますか」
「召し上がるかってのは何か食い物って事か」
「食い物じゃないモノを召し上がりたいのですか?」
すかさず野次。
「メイドさんを食いて〜」
バケツの中の缶ビールを一本掴んで肩越しにヒョいっと放るエリス。彼女をオー
ダーした戦士の額に見事に命中します。ぐぁっ、と一声叫びそのままダウン。直
後にその周辺から笑い声が沸き起こります。
「すまねぇ、下品な奴らばっかりでよ」
「別に構いません。それでどうしますか」
「有難てぇ話ではあるが、それなりに食い物はあるんだ」
オットーは空になった缶詰の空き缶 −− 文字だけが書いてある簡素なラベルが
横に貼ってあるだけの物 −− を草むらから拾い上げて見せました。
「そろそろ食っちまわねぇと、保存期限切れって奴だな」
「そうですか。では私はこれで」
「おう。お休み」
「お休みなさいませ」
「えぇ〜、帰っちゃうの〜。一緒に飲もうよ」
「朝まで付き合ってくれ〜」
「バーボンあるよ」
「そんな臭い酒が飲めるか…ってメイドさんの背中が言ってる」
「その土臭い酒よりマシだろが」
「土じゃない、ピート香だっ」
「何なら俺のマグナム弾も試しに飲んで」
(ぐへっ…)
「あ、お嬢の制裁がキマった」
「ギャハハハ」
「誰だ子供にのま」
(ぐふっ…)
「隊長、二名死亡しました」
「埋めとけ」
「らじゃ〜」
「あぁ、ほんとにメイドさんが帰っちゃった」
「お前らが失礼な事ばっか言うからだ」
「メイドさんかむばっくぷりぃず」
「いやそうじゃない。あのメイドさんは俺達の為にメイド服に着替えに行ったに
違いない」
「おぉ〜」
「どうせならタンクトップにホットパンツの方が」
「当然、下着は無しで」
「ローラースケートで滑って来てほしいな、それなら」
「で、俺らの前で転んで可愛いお尻をパカっと開いて見せてくれ」
「お前ら全員並べ!銃殺してやる」
「今度は雌ゴリラのショータイムだってよ」
「引っ込め。メイドさんを出せ」
「うるせーバーカ」
実のところ、こういう雰囲気はそれほど嫌いでも無かったエリス。もしも彼女が
本調子ならば求められなくとも暫くは付き合ったかもしれません。ですがその夜
は、本気で身体を休めたいと思ってもいたのです。ノインの屋敷に戻ると、彼も
既に寝室に引き上げた後でした。リビングで一人で待っていたアンと二階へ上り
部屋の前で別れます。服を脱いで浴室へ入り、鏡に映して自分の全身を観察しま
す。良く見なければ判りませんが、所々で肌の色が濃くなっていました。概ね自
身で感じていた通りの具合である事を確かめると、軽くシャワーを浴びて浴室を
出ます。身体にタオルを巻きつけたまま、髪が乾くのを待たずにベッドに潜り込
み、そのまま寝てしまうつもりでした。ですが毛布の下に身体を滑り込ませたと
ころで扉が静かにノックされました。もっとも、その前から誰が来たのかは気配
で判っていましたが。
「どうぞ」
そっと入ってきたアンはエリスの姿を見て呆れた様に言いました。
「着替えないの」
「面倒くさい」
「まったく」
「何?」
「何でもないわ。早く寝なさいって言いに来たの」
「寝るよ。言われなくても」
それだけ言って、エリスは本当にベッドに横になります。アンがベッドの横に膝
をつき、エリスの枕元で頬杖をついて見ていました。
「何さ」
「何でもないってば」
「一緒に寝たいの?」
「今夜はいい。ただ見てるだけ」
「あっそ」
暫くして、エリスの寝息が聞こえだしたのを確かめてからアンは静かに自分の部
屋に戻っていきました。そして今度は、アンの部屋から物音が消えた頃にエリス
がそっと呟きます。
「私を眠りに落とそうなんて、百年早いよアン」
それでも、真っ暗な部屋の中で浮かべた表情はどこか嬉しそうなものでした。
「おやすみ」
今度こそ本当に眠りに落ちると、朝まで身動き一つする事はありませんでした。
(第175話・完)
# ユキを普通の女の子に戻しておきました。(笑)
★某所で約束したメモ公開
【オットー隊の装備一覧】
USSR ドラグノフ 自動狙撃銃
US M1918 “BAR”
バレット M82 12.7mm 対装甲車用セミオートライフル
USSR PTRS1941 14.5mm シモノフ 対戦車ライフル
ダネル NTW 20mm アンチ マテリアル ライフル
ゼネラル エレクトリック M134 “無痛ガン”
USSR RPG7 対戦車ロケットランチャー
パンツァーファウストIII 対戦車ロケットランチャー
ゼネラル ダイナミックス FIM92 “スティンガー”地対空ミサイルランチャー
9K32 "Strela2" 地対空ミサイルランチャー
# 誰がどれを使っているのかは敢えて明示してません。^^;
# また、必ずしも作中でブッ放した描写が無い物もあります。
では、また。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■■ 可愛いんだから
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■ いいじゃないか
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
GnuPG Key ID = ECC8A735
GnuPG Key fingerprint = 9BE6 B9E9 55A5 A499 CD51 946E 9BDC 7870 ECC8 A735