Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
# 間が開き過ぎてしまいましたが、投げ出した訳ではありません。^^;
# スレッドツリーが変な事になってますが、第175話をぶら下げていた
# 親記事(第174話への最後のフォロー)がサーバから消えた所為です。
## 京大サーバだと物凄く古い記事も残ってたんですがねぇ。
^L
★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その17)
●桃栗町の外れ・何処か
エリスの見たところでは、今のところ勝負は互角に見えました。もっとも、多数
の敵の相手を一人でこなしている分、ユキの方が負担は大きいとも思えました。
しかしながら、その割には決着を急ごうとする様子も無く、淡々と攻防を続ける
姿からは何処か余裕の様な物も感じられます。
「(楯の戦闘モードは姉上の性格に似てるなぁ)」
等と考えつつ、同時に敵の様子も注意深く観察します。神の御子と天使達の連携
はほぼ完璧で、まるで障壁に銃眼が開けてあるかの様に完全な防御と隙の無い
攻撃が繰り返されています。もっとも、射手が神の御子の障壁の外に出られない
が故に半自動的なユキの応戦が成立してしまうのですが。そしてふとエリスの
脳裏に疑問がよぎります。もしかして、天使達の作り出す光球は神の御子の障壁
を擦り抜けているのではあるまいか、と。
「(よく考えてみると、攻撃のタイミングだけ障壁を消しているはずは無いん
だよな、ユキ様の攻撃はほとんど休み無しなんだし。障壁の一部に穴を開ける
程の器用な真似が、まろん様に可能なのかが判らないけど…。神の御子の障壁は
彼女に仇なす存在を無条件に阻止するらしいけど、逆に悪意の無い力は素通し
かな。だとしたら、純粋な想いだけの力はどうなるんだろう。悪意は無く、でも
神の御子へ向けた訳では無い力を向けられた時に何が起こるのかな)」
判らないなら試すのみ。丁度良い具合に、今のエリスの手の内には例のうっかり
天使のプレゼントしてくれた光球が一発分有るのでした。向かって左端、以前に
一度手合わせをした天使の方へ向けて下ろしたままの左手のひらをそっと向け、
魔術を起動するイメージを頭の中に浮かべます。即座に微かな応えが返り、同時
に手のひらにスッと一筋の裂け目が走ります。それは閉じていた瞼が開く様に
隙間を広げ、更にまるでそこに目があるかの様に澄んだ色をした球体の一部が
覗きます。直後、球体の正面、手のひらから少し離れた位置に極く小さな面積の
水面の様な領域が生まれ、そこから気の集中という準備も無しにいきなり光球が
発して目標へと撃ち出されています。遠く、障壁の向こう側で異変に気付いた
トキの視線がエリスのそれと交わります。即座に応戦すべき相手を切替え攻撃の
鋒先を自分に向けつつあるトキの判断に感心しつつ、事の推移を注意深く観察して
いたエリスは予想外の展開に“あ…”と呟きを漏らします。放った光球はまろん
の障壁へ到達する事無く、ずっと手前で遮られ力を放出して弾け飛んでいました。
そしてほぼ同時に光球と似た、しかし異質の気の塊が猛然とエリスに向かって
飛来して来ます。放出から吸収への魔術の切り替えは間に合わないと判断して、
エリスはその場から跳躍。頭上に迫り出していた上階の廊下の縁を右手で掴み、
そのままの勢いでくるりと身体を回して手すりの上に降り立ちます。わずかの後、
その後を追う様に少し埃臭い煙がもわっと立ち昇ります。直前までエリスが
もたれていた玄関ホールの壁には、ぽっかりと大穴が空いていました。
「危なっ」
上階廊下の手すりに鳥の様に乗った格好のまま見下ろすエリスを、肩越しに
振り向いているユキの横顔が見つめています。
“今、光球を撃ったのは貴様だな”
“そうですよ。ちょっと実験しようとしただけなのに”
“貴様天界の回し者か”
“そんな訳無いでしょう”
“妙な術を使う。だがまぁ良い。邪魔だ”
“はいはい、引っ込んでますよ”
“それが賢い選択だ、竜の小娘”
ほんのわずか、エリスは体温が上がった気がしました。
“私は竜じゃないですよ。何時も言ってるでしょ”
ハッ。吐き捨てる様な短い嘲笑が、直接エリスの耳に届きます。
“貴様が竜で無くて何だと言うのだ”
“私は私です”
“戯言だ、竜の小娘よ。プンプン臭うぞ、トカゲ臭い”
“黙れ”
ハハハハハ。その笑いは今度はまろん達にさえもハッキリ聞こえていました。
“はぁ?たかが竜族が正統悪魔族のこの私に黙れだと。笑止”
“うるさい”
“ならば黙らせてみせろ。竜の小娘”
“では、お望みのままに”
言うが早いか、エリスは手すりを蹴って宙を舞っていました。
そこでどんな会話が交わされたのか。無論知る由も無いまろん達にとっては唖然
とせざるを得ない状況が生まれつつありました。稚空は眼前で繰り返される光景
に思わず再び“止せ”と叫びそうになり、言ったらまろんに後で何を言われるか
判った物では無いと瞬時に気づいて口をつぐみます。もっとも、稚空のみならず
ほぼ全員が事の成り行きに注目していた為に、多少の呟きを気に留める者はそこ
には居なかったでしょうが。
後先無くユキに真っ直ぐ突っ込んだまろんと違い、エリスは階段の手すりを蹴って
吹きぬけ構造の最上部、すなわち建物の中で可能な最も高い位置まで跳躍してから
天井を足場にしての急降下。その手の事象に慣れてしまっているまろんや稚空で
無ければ、人間の目には留まらない速度でユキの頭上に蹴りを入れています。
しかも身体を回転させて勢いを加えた踵で。ですが当然の様にユキの周囲の球体が
集結してこれを受け止め、同時にエリスを押さえ込むべく振り下ろされた足に
纏わり着きます。しかしながらそれはエリスの想定内でした。空中で押さえ込まれ
た足を軸にして膝を曲げて重心を下げ、残った足を球体が作る防壁の隙間から叩き
込みます。爪先がユキの首筋に入り、その細い身体がグラリと傾きます。相手が
見た目の肉体に強く縛られた存在ならば、首と胴体が別れわかれになっていても
不思議では無いはずの一撃。ですがそれはユキの視線をほんの一瞬だけあらぬ方向
へとねじ曲げただけでした。そしてその最中にも、球体群の一部が不規則な多角形
の面を作り瞬時に黒いもやっとした塊 − 光を放射しない事を除けば天使達の放つ
光球に近い気の集まったモノ − をエリスに向けて発射。ですがエリスはその時
にはユキに蹴りを入れた足を引いて、自分の足元の球体群を蹴散らしつつ跳び
退いています。多角形の面が執拗に追従して更に数発の攻撃を加えますが、これは
全てエリスの左手の前で波打つ面、空間上の穴に遮られて消滅していました。
ユキの中の自律防衛機構は即座に戦法を変更。球体群を構成していたモノがスッと
その形を失い、全てが細長い矢の様な形態に変化しつつ直接エリスを襲います。
四方から飛来するソレをエリスは玄関ホールの空間を最大限に活かして避け、それ
でも避け切れない分は全て左手の魔術層で吸収しています。ユキの表情は全く変化
しませんでしたが、内面では次第に焦れて来たのでしょう。エリスを襲う矢と黒い
光球の攻撃が段々と入り混じり、既に見境の無いと言って良い状態でした。
そして勿論、何時までも唖然と見ていた訳では無いまろん達。実際、その苛烈な
攻撃の只中にあっては流れ弾と呼ぶにはあまりにも多過ぎる余波が彼女達の上に
も雨あられと降り注いでいます。当然ながら、全てまろんの障壁の存在を淡い光
で知らしめるだけの効果しかありませんでしたが。
「…何だか凄い事になってるね」
「俺達、どうするよ」
「退くべきでしょう。ある意味、好機です」
「放っとくって事か」
「あの二人の、どちらかに荷担する理由が我々にありますか?」
「無い。無いが、背を向けた途端にドカンってのは願い下げだ」
「当然、目は離さずにゆっくり後退です。可能ですか、まろんさん」
「駄目。可能かどうか以前に未だ逃げられないの、二階にツグミさんを待たせ
てるから」
「何っ、二人で何してたんだ」
「寝てた」
「…それは言葉通りの意味か、それとも」
「さぁ、どっちかな〜」
「お二人とも、そういう話は後に願います」
「ごめん」「悪ぃ」
「でもよぅ、これじゃ助けにも行けないじゃん」
「弱りましたね」
軽口を利いたものの、まろんは内心では冷や冷やしていました。今すぐ、出来る
なら稚空達を置き去りにしてツグミの元へ駆けつけたいと思っていたのです。
ユキの攻撃は既に玄関ホールにて見渡せる限りの天井や壁、階段を既にボロボロ
に破壊しており、二階の壁にも穴が空いています。ツグミが待っている部屋が、
廊下の奥である事が唯一の救いでしたが。ですがその我慢も、あっと言う間に
限界でした。
「稚空、一緒に来て!アクセスとトキは頑張ってね」
三人の返事を待とうともせず、まろんは玄関ホールを大きく廻りつつ突進。そして
稚空も即座に後を追っています。アクセスとトキは一瞬の目配せの後に、自らの
障壁を展開していました。
「信頼されてるって良いよな」
「一応、そういう事にしておきます」
当然ながら二人の呟きが届くはずも無く、まろんは既に玄関ホールを横切って二階
へと通じる階段の下へと到達していました。既に正面しか見ていないまろんの後を、
稚空が油断無く左手側で続く戦いから目を離さずに追っています。そして稚空が
一瞬息を飲んだ気配が、彼が声を掛けるよりも早くまろんに事態を伝えていました。
視線をさっと横へ走らせ、咄嗟に踏み留まって障壁へ向ける意識を高めるまろん。
直後、予想以上に軽い、ふわりとでも表現出来そうな感触がまろんに伝わります。
まろんと稚空の見上げる中、障壁の上にエリスが着地し即座に再び跳び退いて行き
ました。そしてエリスが居なくなった直後、今度は凄まじく重い衝撃が数回続き、
まろんは自分の身体まで軋みを上げているかの様な感覚を味わいました。その衝撃
に伴う轟音に掻き消されてしまいましたが、稚空は跳び退いた時にエリスが二人に
向けて何か言った様な気がしていました。障壁の上に乗った時、彼女がこちらを
見たと思えたのです。
「まろん、今の気付いたか」
「ああいう風になってるんだね、メイド服の下って」
「そっちかよ」
「…稚空も見たの?えっちスケベ変態」
「だ〜っ!」
「急ご、ツグミさんが待ってる」
再び脇目も振らずに走り出すまろん。まるで呼吸を合わせた様に、ほぼ同時に
走り出しながら、稚空はエリスが何と言ったのか考えていました。ですが稚空に
は結局、エリスが“危ないですよ”と警告したのだとは判らず仕舞いでした。
傍目には一方的に押されている様に見えるエリス。しかしながらその表情からは
焦りの感情を読み取る事は出来ません。むしろ楽しんでいるとさえ言える表情で
あったのですが、かといって笑顔を振りまいている訳でも無く彼女を良く知る者
ならば判るであろう位の少し余裕のある表情といった所です。そしてユキ自身も
彼女の楯も、エリスの表情の意味を感じとれる程には長い付き合いではありません
でした。ですから無闇に避けて跳び回っている様にしか見えないエリスの防戦に
幾つかのパターンがある事には、ユキの楯は気付いていません。それは客間のある
側の壁を背にした時には、殆どの攻撃を自らの魔術で吸収し、それ以外の壁や天井
或は床に向かう攻撃は強い破壊力を持つ黒い光球以外は敢えて見逃している事、
更にそれも避けた時に本来の敵に当る場合は吸収していないのです。そしてその
防戦は唐突に終りを迎えます。既に表面の漆喰が剥がれて崩れ落ちる寸前の壁の
前でわざわざほんの少しだけ跳び退く方向を迷った様に見せ、ユキの攻撃が四方を
囲む事が出来る隙を作ります。楯の攻撃は方法論に実に忠実で、こうした隙を
完全かつ速やかに利用する事を見越して。案の定、見渡す限りの方向から同時に
黒い光球が迫ります。エリスはそれを全て炸裂するに任せます。もっとも自らの
身体で受け止める訳では当然無く、全て紙一重で避けてはいます。それでも、傍
をかすめただけで皮膚を焦がさんばかりのじりじりとした感触が伝わっています。
エリスはそれには構わず、ほぼ一直線に床すれすれの高さを真正面に跳躍します。
そして次の瞬間にはユキの胸元に飛び込んでいました。右手を背中に回し、左手
をユキの胸の下に添えた姿勢は恋人を抱き留める姿に見えなくもありません。
勿論、その様なロマンティックな行為ではありませんが。身体が触れ合わんばかり
の距離に居るエリスを、ユキの光る瞳が軽蔑を込めて見下ろしていました。
そして堅く結んだ口を使わず、声と哄笑とを同時にエリスの脳内に響かせます。
“バカめ、この距離で撃てば自分もただでは済まんぞ”
“さぁ、どうでしょう”
ほぼ密着させた状態の左手の魔術を起動すると、反動で少しユキの身体から手が
離れます。そして即座に今まで吸収したユキ自身の攻撃の中でも、威力のある
黒い光球だけを選んで数発を放出。ですがそれらは何も無い空間を貫いて、二階
へ向かう階段と玄関ホールの床が接する辺りを消し飛ばします。直後、背後に
現出したユキの手はエリスの頭部を左右からわしづかみしていました。
“お前の脳漿をブチ撒けてくれる”
“嫌ですよ”
ひた。ユキの楯が、ユキ自身の心より一瞬遅れて自身の身体に何かが触れる感触
を受信した時には、既にエリスが自分の背中に手のひらを外に向けて回した左手
の正面には次弾が放出され始めていました。
(第175話・つづく)
# 連休を完全な連休に出来ませんでした。
# 出来たからといって妄想書きが進む訳でもありませんが。(ぉぃ)
では、また。
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■■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■■ 可愛いんだから
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