Fumimaro wrote:

> 参議院は議院内閣制の枠から外れた存在という視点ですが、外れているところ
> がむしろ参議院の存在理由だと思いますね。参議院の見識ある判断を無視し
> て衆議院を解散したことに対して合法か非合法かという視点で見ることはいか
> がなものでしょうか。

やや時期遅れのフォローになりますが、何度でも私見を伝えないわけには行かな
い。それは、日本国民は政治を語るのであれば、この手の話についても「概略」
に止まらず詳細を知っていなければならないはずだ、とする考えがその後押しと
なっている。しかも、こういう政治制度は、日本人にとっては「書かれた制度」
であって自らが「作っていく制度」と観念されにくい。アメリカ人などは教養の
ある無しを問わずその逆である場合が多々ある。不思議である。

さて、安井氏は確かに「参議院は議院内閣制の枠から外れた存在」というふうに
受け取っておられる。氏がこのように断られる趣旨がわたくしには不明でありま
す。何を言いたいがためなのか?参議院の動向がどうあれ、内閣は対衆議院との
関係だけで、自己が国民の信を得ているかどうかに不安を覚えたときには自由に
衆議院を解散できる(7条解散説)ことを言いたいがためなのか。

ところで、議院内閣制は一般に内閣の存立基盤を衆議院の信任に置く考えで、し
たがって内閣が衆議院の信任を得られない状況が起きたときには早晩その地位を
失う運命にあるといわれる。この点で断っておかなければならないのは、「議院
内閣制」を細部に到ってどのように理解しようと、われわれが問題とすべき議院
内閣制は日本憲法条項で指示する議院内閣制であってそれ以上でも以下でも無い
。憲法がいわゆる「議院内閣制」を採用しているふしが伺えるからと言って、憲
法条項を解釈するのに「一般議院内閣制」と言う主観的な中間項を置いて、そこ
から憲法条項の意味を演繹する手法は日本国憲法の解釈とはいえない。そこで私見。

(1)内閣が国民の信を得ているかどうかを問えるのは、自己に対する国民の信
ではなく、現衆議院に対する「国民の信」である。このことは、前文に「日本国
民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」(前文)とあるこ
とから導かれる。すなわち、

    衆議院が内閣を過半数で信任しているということは、
    恰も国民が過半数の割合で内閣を信任していること
    を意味し、

    国民の信を問おうとするのであれば、まずは国民の
    代表者である衆議院の信を尋ねるべし、

とするのが、憲法の趣旨であるはず。にも拘らず、そのことを無視して直接解散
総選挙という形で国民の信を問おうとするのはそれだけで憲法の意図する代表民
主制に矛盾する。また、衆議院に自律解散権さえ認められないのに他の機関であ
る内閣が個々の衆議員の意に反する身分消滅を強行できるとするのは、それを許
容する明文の憲法規定がない限り不可ではありますまいか。もし、反対論者が、
「その明文の規定こそが7条なのだ」、と主張するとしたら、未決の疑問を理由
にしてその疑問に答えを与えんとする滑稽を演ずることになる。

(2)仮に、議院内閣制は、衆議院の信任を基盤に内閣の存立が認められ、内閣
が連帯して国会に責任を負うことをその本質とするにせよ、それを指し示す個々
の憲法条項が他の条項と骨がらみに結びついていることを否定することはできな
い。すなわち、その条項のひとつが「国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれ
を構成する」(憲法42条)であります。議院内閣制の根拠のひとつを内閣が衆
議院を解散することができる点に求めるにせよ、このことは、参議院が衆議院と
相対立する決議案を可決することを渋ることはできないのです。それが日本国憲
法の趣旨だからであります。このため、然るべき手続きをとることに成功し無い
限り、一時は内閣の政策の進行が頓挫することもありえる。それで一向に構わな
い。従来のままで我慢せざるを得ないのです。なぜか。両議院で可決されないよ
うな政策の実行には不安を覚えるとするのが憲法の趣旨に他ならないからです。

> 参議院の判断というものが、衆議院の解散権の乱用によって無視されるという
> のは、衆参両議院を有する日本の国会制度の持つ大きな利益を侵害しているわ
> けで、これは、間違った法律の適用だといえるのではないでしょうか。

そうですね。

> 法律には目的があるわけで、衆議院解散権の付与もそのための目的があるわけ
> で、参議院の否決を覆すという目的に用いるのは明らかに目的外の適用です。

そうですね。わたくしは衆議院の解散権の「目的」を代表民主制の例外事項とし
て、衆議院からの決定的事態を突きつけられた場合の最終的なカウンターパンチ
として、すなわち、衆議院での内閣不信任案が可決された場合にのみ解散が許さ
れる、とする点に求める。(69条説)この説の唯一の欠点は、

    「政党内閣制の下では多数党の支える内閣に対し不信任決議
     が成立する可能性は稀であるため、解散権を行使できる場
     合が著しく限定されてしまう」

ということであろう。この反論は、解散は自由に為された方がベターだ、とする
政治的価値判断に基づくものと思われる。が、しかし、政党内閣制の下では逆に
純粋に自由な解散となり得るかは疑わしい(結局は総理大臣や閣僚の所属する政
党の党利から逃れられない)だけでなく、4年の任期をまたねばならないこと
は、内閣の一方的な都合や党利党略で行われる解散よりは国民にとっての危険度
は遥かに小さい。

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太宰 真@URAWA