Re: 「こんど」「つぎ」
戸田@帰省明け です。
太田さんと私が、明らかに双方とも疑問点の解決を目指して
用例を色々出しては分析を試みるという作業を進めているにも関わらず、
作業を進めれば進めるほど、どんどん解らなくなっていくという
不思議な現象が起こっているような気がします。
今回の、太田さんの記事を見て、益々その感を強くしました。
具体的にどういうことかというと、
太田さんと私が語感に関する同じ事実を前提として、
少なくとも表面的には同じように推論しているにも関わらず、
全く相容れない結論が出てくるという事例が少なくないということです。
今回、それが典型的に出てきたのが、
In article <bhtf2t$5dp$1@ns.src.ricoh.co.jp> ohta@src.ricoh.co.jp writes:
>「こんどの電車」といったら、現在とその電車とのあい
>だに自分にとって興味や選択の対象となるようなほかの
>電車が存在しないという強い意識があるのです。そうい
>う意味での「こんどの」は、未来を指すというより現在
>の延長といったほうがよいかもしれません。
という論述ですね。
実は、この5行に限って言えば、
太田さんと私の感覚は、少なくとも表面的には全く同一なんですよね。
ところが、それにも関わらず、その先が違うところへ行ってしまう。
どこに問題があるのかな、と考えてみたのですが、
もしかしたら、
現在とその電車とのあいだに
自分にとって興味や選択の対象となるような
ほかの電車が存在しない
という表現のニュアンスの問題なのかな、と思うのです。
この内容から、太田さんの感覚では、ストレートに、
「先発/次発」という語彙で表現できるような意味で
「ほかの電車が存在しない」という状況に結びつくようですが、
私の感覚では、そうはならないんですよね。
例えば「明日以降の次の機会までのことには興味が無い」状況だから、
(たとえ目前のホームから出る電車であっても)それ以前の電車は
興味の対象では無い(つまり意識の中では“存在しない”)、
という状況が、自然な可能性の1つとして想定されるのです。
あるいは、
>また、「こんどの電車はどれかな?」とか「こんどの電
>車に乗るからね」などの文脈では「自分の目的地に向け
>て発車する最初の電車」であることが明らかなので、上
>記のような混乱はふつう発生しません。この「明らか」
>であるという認識が共有されていない(関西ではそうな
>のかな?)のであれば混乱するだろうという点については
>同意します。
という論点について考えてみます。
この問題に関する太田さんと私の感覚の差異を、
「自分の目的地に向けて発車する最初の電車」
という表現の中の「最初」の意味の差異だと
解釈することも可能ではないかと、今、思いつきました。
そして、「最初」という言葉の意味の差異にさえ注意すれば、
「明らか」であるという認識自体は共有されていると言うこともできてしまう。
太田さんは、「最初」とは「客観的に最初」、
例えば目前のホームにおける発車順序が「最初」という意味に用いています。
しかし、これを「話者の意識の中の最初」と解するならば、
私の感覚にかなり近いものになって来るんですよね。
例えば「明日以降の次の機会までのことには興味が無い」状況だったら、
彼にとっての「最初」とは「明日以降の次の機会」のことです。
もちろん、聞く側もそれを前提に、話者の意識を感じながら理解します。
こういうふうに考えてくると、
結局のところ、太田さんの感覚と私の感覚の本質的な違いは
>> 私の感覚では「こんどの電車」という表現は
>> ちっとも「ダイレクト」ではないんですね。
>> ボヤかして曖昧に表現しているような雰囲気があります。
>そうですか。そこはだいぶ違う...。
というところなのではないか、
という気がしてくるのです。
>> 「こんどの電車(=いま入ってきた電車)は○○行きだ」だと、
>> 目前に居る「強烈に“現在”に属する」電車を話題にしているわけですから、
>> それ以外のものを「こんど」と呼ぶのには抵抗があるのです。
という感覚にしても、前提条件として
「こんど」というのは曖昧な表現だという感覚があるんだと思います。
だからこそ、話者が意識している「こんど」の基準たるべき、
話者の意識の中における“現在”を、
積極的に共有しようという意識が働くわけです。
そして、その共有意識を裏切るような用法には
抵抗を感じるということなのではないでしょうか。
そして、
In article <bhpa01$22a$1@bluegill.lbm.go.jp> I write:
>*先発電車が入線さえしていない状況で何の文脈も無く
> ・先発電車を「つぎの電車」「こんどの電車」の何れで呼ぶのが普通か?
> ……関西で「こんどの電車」とはあまり呼ばない
In article <bhs4fj$1pu$1@bluegill.lbm.go.jp> I write:
>「こんどの電車に乗るからね」だったら、
>文脈次第で、先発電車とも、数時間後の電車とも、翌日以降の電車とも
>解することができます。そしてもちろん、
>>> #例えば、目前の電車を見て、最近配備された、あるいは近日中に配備される
>>> #電車(いずれも半年程度以内の時間スケール)についての話題を連想し、
>>> #「こんどの電車はクロスシートだ」と発語するとか。
>というような使い方も想定可能です。
>ただ、次発電車を指すことは考えにくいですね。
>そういう明確な基準に対する厳密な順序を論ずる場合に
>「こんど」という表現は馴染まないという感覚です。
といったあたりの感覚も、
「こんど」というのは曖昧な表現だという意識が基本にあるような気がします。
戸田 孝@滋賀県立琵琶湖博物館
toda@lbm.go.jp
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