いいじまです。

すでに新城さんには久野案がどういうものかご理解いただけたと思いますけど、
一応、約束したことですから「私ならこうする」という例を出してみますね。
「同じ名前で憲章が違う」という対案を出されると面倒なので(こういうときに
新城版だと全体把握が困難になる…)、とりあえず名前だけで考えます。

> A, B, C とかすると、なんか気分が出ませんので、具体例で言って
> みましょう。
> 
> A: fj.sys.sun の削除
> B: fj.os.solaris の作成
> C: fj.os.sunos の作成
> 
> こういう改名を一発でやりたいという話です。たぶん、こういう話
> なら、結果が同じということは言えます。これだけなら、特に問題
> にはなりません。

ここで絶対に重要なこと。「B も C も可決されずに、A だけが可決される」と
いう事態は避けなければいけません。とすると、新城版では「B と C が両方と
も否決されたら、A は自動的に否決される」と規定しなければいけません。
「A の成立は {B,C} の少なくとも一方の成立に依存」という記述(依存先が複
数議案の OR である場合)を新城さんは想定されていましたか?

                                ☆

まず、最初の提案者が「fj.sys.sun→fj.os.solaris」の改名を提案したとします。
そうすると、議案群は {A,B} {} の 2 つです。

で、別の人が「いや、solaris という名前では SunOS 4.x を排除することになる
から、fj.os.solaris ではなく fj.os.sunos とすべきだ」と主張したとすると、
議案群は {A,B} {A,C} {} となります。

で、「fj.os.solaris と fj.os.sunos を両方作って、バージョンで住み分けるべ
きだ」という主張が出たら、{A,B} {A,C} {A,B,C} {} になります。

ここまでは、議案群が増えるといっても、提案者の数だけに収まっています。
これが重要な点です。

さらに、「fj.os.* 階層に移動するとハードウェアの話題が排除されるので、元
のfj.sys.sun も残すべきだ」という主張をする人が出たとします。爆発が起こ
りうるのはこのときで、最悪で {A,B} {A,C} {A,B,C} {B} {C} {B,C} {} となり
ますが、fj.sys.sun を残すべきだと主張した提案者が {B} のみしか希望しなけ
れば、{A,B} {A,C} {A,B,C} {B} {} となり、他の候補は他の提案者が主張しな
ければ排除されます。

> こういう時に、久野版で問題になるのは、これに関連して、次のよ
> うな案が出てきた時です。
> 
> E: fj.os.solaris.intel の作成
> F: fj.os.solaris.sparc の作成
> 
> 新城版だと、同時審議可能です。B に依存することにして。
> CFD は、同一です。

これだと、私なら B と C のどちらが成立するのか(あるいは、両方成立するの
か、どちらも成立しないのか)を先に見たいので、別 CFD にしちゃいます。
「2 つに分ける」というのは組合せ爆発対策の常道ですよね。

「fj.os.solaris.intel ならあってもいいけど、fj.os.solaris が否決されたら
fj.os.sunos.intel は要らない」という意見で全員が一致していれば、これはそ
のまま同一 CFD です。

しかし、もし「fj.os.sunos が成立して fj.os.solaris 否決されたならば、
E': fj.os.sunos.intel がほしい」という話が出たとしたら、この時点が CFD
分割と、fj.X.intel の審議中断の決断点です。

で、これを先に審議したいのであれば、現行の「依存する CFD の同時審議は不
可」という規定を改めて、「依存する CFD の同時審議は可能だが、CFA/CFV/CFS
は依存先の結果が出るまで出せない」とするのが得策と考えます。

久野式の議案群羅列方式は維持したままで、「条件つき CFD」の概念を導入し、
「上位カテゴリー未定のままでの可決」を認める、というのも考えられます。
つまり、「fj.X.intel(X は sys.sun、os.solaris、os.sunos のいずれか)を
作る」ということを可決してしまうわけです。

ただしこれだと、「fj.os.solaris.intel や fj.os.sunos.intel は認めるけど、
fj.sys.sun.intel は変だ」という人と、「fj.sys.sun.intel でもいいじゃない
か」という人とで意見が分かれたら、「fj.{sys.sun,os.solaris,os.sunos}.intel
vs fj.{os.solaris,os.sunos}.intel」という投票で決することになりますが、
これだけ案件が複雑になると、投票者も判断に迷います。結局は久野案の難点の
「組合せ爆発」と新城案の難点の「複雑になると全体把握が困難」の両方を抱え
込むような。

                                ☆

と書いてみると、「なんだ、これって CFD 分割で対応できるじゃん」というこ
となんですね。新城案は、どうも、是が非でも議論を高速化しようとして、複雑
なことを同時に扱おうとしているように思います。そこまでするメリットはある
の? というのが私の疑問点です。

急な事態に対応したいならむしろ、緊急動議の範囲を拡大して、特定のグループ
が特定の種類の記事で爆発したらその隔離のためのグループを作って後から CFX、
ということで対応できるように思います。

2ch ではこういうことは頻繁にあって、同時多発テロのとき、サッカーワールド
カップのとき、イラク戦争のときなどに、既存の板がその話題で占拠されるのを
防ぐために管理人の裁量で新しい板が作られ、結局そのまま利用され続けていま
す。

fj でいうなら、fj.os.ms-windows.server2003 新設案の CFD で河野さんがつぶ
やいていましたが、96 年ごろに fj.rec.animation.evangelion 新設の緊急動議
を出すこともできたでしょう。

もっとも、残念ながら、今の fj の人口でそこまでの必要性は感じません。

それに、fj 全体の再編のために多数の議案を出したければ、依存しないものど
うしの組合せを並行させるということもできます。依存しないものどうしを同時
に実行するのは並列計算のごく初歩的な方法ですよね。

                                ☆

> H: fj.os.solaris.solaris9 の作成
> I: fj.sys.sun.solaris9 の作成

これも、両方の意見が出た時点で CFD 分割です。7 件出てますから、人間の頭
の処理能力を超えていると判断せざるを得ないでしょう。7 件の間の相互関係図
を書くと、線の本数が 7 本を超えることも当然ありますよね。これだと、頭の
中だけではどうしても把握困難で、実際に羅列してみないと、「どういう結果が
予想されるのか」がピンとこないんですよね。

                                ☆

ちと話が逸れますが、次の話の前提なので聴いてください。

私の専門である「認知心理学」という分野でさんざん研究されていることなんで
すが、生身の人間が論理的思考をする場合には、言葉で書き下されたルールを順
番に適用して形式論理的に正しい結論を導き出すということは決して多くなく、
実際には、具体例を頭の中に描いてそれを頭の中で動かしてみたり、あるいはヒ
ューリスティクスで解いてそれでよしとしてしまったりする場合が大半です。

プログラミングでも、たとえば不正な入力を弾くコードが正しく動作しているか
どうかを検証する場合にプログラマが何をするかというと、コードを読んで可能
性の樹形図を書くことはまずありません。実際に不正な入力の具体例をひとつか
ふたつ考えて入力として与え、それで実際に意図した通りの手順で意図したとお
りの場所にたどりつくかを確認して、それでよしとします。
#だから、プログラマの想定外のの入力でハングアップしてバグ露呈、というこ
#とがよくあるわけです。

そういう頭の構造になっているのはなぜ、というのは今のところ神のみぞ知るこ
とですが、そのほうが、人間の頭のアーキテクチャでは、結論が出るまでの時間
が格段に短くなることは確かです。

このへんの人間の頭のヒューリスティクスについては、
  市川伸一著『考えることの科学』(1997、中公新書、ISBN4-12-101345-X)
にわかりやすい例が多数載っています。

残念ながら新城さん・久野さんの両方が所属しておられる筑波大には収蔵がない
ようですし、一般読者対象の書籍なので大学の図書館での収蔵は少ないのですが、
絶版にはなっていないので、お近くの書店で見つかると思います。ぜひ一読され
ることをお勧めします。

                                ☆

話を戻します。

とすると、「具体例を頭の中に描」くためには、考え得る結論の数が、組合せ爆
発しない程度の少数におさまっている必要があります。7 個程度までにおさめる
のが理想ですが、12 個くらいまでなら何とかなるでしょう。それ以上だとちょ
っと投票参加者の手に負えません。

新城案では、「結果的に組合せ爆発するような依存関係の記述」になった場合に、
その爆発を押さえ込むことができません。下位案が先に否決されれば爆発候補は
減っていきますが、下位案が可決されてしまったり、あるいは下位案が上院案の
様子見になって同時採決になったりした場合には、爆発の可能性が残されたまま
になります。そして、「具体例を頭の中に描」けない事態に陥ると、

        | 確率や統計に限らず、数学や科学を学んでいると、理論的には理解で
        | きても直観的には腑に落ちないということがいろいろ出てくる。理論
        | 的な結論を「御託宣」として鵜のみに…
        (前掲書 p126)

ということになります。

久野案は、先に小爆発をいくつか発生させてから、それを CFX の前に人為的に
削ったり、爆発しないサイズに小分けしたりすることで、結論の候補をあらかじ
め人間が把握可能な数に絞り込もうというものと理解しています。

新城案は組合せ爆発しないといいますが、結局、爆発が表面に出ないだけで、そ
れぞれの投票参加者が投票行動を選ぶ際に、その頭の中で「見えない大爆発」が
起きています。つまり、爆発しないのではなく、見えない場所に押し込んでいる
だけに過ぎません。

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飯嶋 浩光 / でるもんた・いいじま   http://www.ht.sakura.ne.jp/~delmonta/
IIJIMA Hiromitsu, aka Delmonta           mailto:delmonta@ht.sakura.ne.jp