Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
携帯@です。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
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(その1)は、Message-ID: <fdlb9p$5ob$1@ccsf.homeunix.org>から
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それぞれどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第176話「天使が見える乙女」(その6)
●桃栗学園
生徒指導室の前に到着したまろん達。
無警戒に扉に手をかけようとしたまろんを制し、稚空は「失礼します」と言いつつ、
慎重に扉を開けました。
生徒指導室の中、扉の正面にはテーブルがあり、その向こう側で紫界堂聖がにこや
かな笑顔を浮かべ、入り口の側に並べられた椅子に座るように促しています。
「どうしました? 早くお入り下さい」
入り口に立ったまま、稚空は油断なく生徒指導室内部を見回します。
「稚空、早く中に入ってよ。入れないじゃない」
背中からあまり空気を読んでいなさそうなまろんの声がして、渋々と稚空は部屋の
中に入ります。
すると、背中で扉がぴしゃりと閉まる音がしました。
「!」
「どうしたの?」
てっきり閉じこめられたのかと思ったら、実はまろんが扉を閉めただけ。
それも、稚空が感じた程に勢いよく閉めたのではないようでした。
少し気恥ずかしい思いを抱きつつ、稚空はまろんの分の椅子を引いてから、自分も
腰掛けました。
「さて、ここに呼ばれた理由ですが、判っていますね?」
会議用の長テーブルに両肘をついた格好で聖が訊ねると、稚空とまろんは肯きます。
しかし、続いて聖の口から出た言葉は予想とは異なりました。
「今日の授業を二人とも全く聞いていませんでしたね? このことを五十嵐先生に報
告しないといけません。その前に、何か弁明なり言いたいことがあればと思いまして。
五十嵐先生には、あなた達の言葉をそのまま伝えます」
聖の言葉を聞いて、まろんと稚空は顔を見合わせます。
彼の意図が良く判らなかったからです。
「それは、桃栗学園の教育実習生、紫界堂聖に対してなのか、それとも…」
「無論です」
稚空の言葉を途中で遮り、聖は即答します。
聖は手元の紙にペンでさらさらと何か書き、まろん達の方へ差し出します。
《私の話に合わせて下さい。ドアの外に人が》
何かのプリントの裏側に、ボールペンでそう書かれていました。
「最近部活の朝練で忙しくて疲れて寝てました。ごめんなさい」
「以下同文」
「ちょっと、稚空は部活には出ていないでしょ」
「まろんに合わせて早起きしているから寝不足なんだよ」
「名古屋君は夜更かしで寝てました……と」
「何勝手に決めてるんだよ」
手帳に何かを書いていた聖──ひょっとしたら、パッキャラマオ先生に報告すると
言うのは本当だったのかもしれません──は、すっと立ち上がり扉の前にまろん達の
感覚でほぼ一瞬で到達すると、扉を勢いよく開けました。
「わあっ」
悲鳴と共に、生徒指導室の中に転がり込んできた──つまりは、扉に耳をくっつけ
ていたらしい──のは、都と大和でした。
「立ち聞きは感心しませんね」
二人が態勢を立て直すのを待ってから、聖は言いました。
「あの、まろんはこれから大会に向けて新体操部練習なんです。だから…」
「知っています。だから早く終わらせます。東大寺さんは先に練習に行っていて下さ
い。水無月君までこんなことをするとは」
「その、僕は…」
「ああ、チェリー・ストーンさんでしたか? 彼女に校内を案内してくれていたんで
すね」
まろんが扉の外をみると、廊下の反対側の壁のところにぽつんとチェリーが立って
いました。
「引き続き、案内を宜しくお願いしますよ」
「は、はいっ」
こうして、二人を聖は追い払うのでした。
*
「だから止めようって言ったんです」
廊下を歩きながら、大和は都に言いました。
「中々鋭いわね、あの先生」
「結局のところ、普通に授業中の態度を注意しているだけでしたし」
「どうかしら、ね」
「え!? どういうことですか?」
「別に…。大したことじゃ無いわよ」
都は生徒指導室がある方角を一度だけ振り返ると、そのまま着替えのため、部室へ
と歩いて行くのでした。
*
聖は、二人が廊下の角を曲がりきるのを確認してから扉を閉めました。
「さて。紫界堂聖としての用件は済みました。次は、こちらの本題に」
ほぼ一瞬で、聖の髪の色が変わりました。
「ノイン」
「本題って何だよ」
「日下部さんの身体の調子が気になりましてね。どこか、具合の悪いところはありま
せんか?」
「え!? 特に具合の悪い所はないけど」
「そうですか。それは良かった」
ノインは、心からほっとしたような──そのようにまろんには見えた──表情を浮
かべると、手帳に何かを書きつけ、それを破いてまろんの方に差し出しました。
「もしも、どこかおかしいところがあれば、ここに連絡を下さい」
それは、携帯電話の電話番号のようでした。
「何でノインが私の身体の具合を気にするの?」
メモを受け取りつつ、まろんは訊ねました。
「昨日あなた方が飲んだ薬は、本来は魔族の為の薬で、人間には劇薬に等しい代物で
す。一応、解毒剤の処方はしましたが、その後の経過が気になりましたので。死なれ
てはこちらも困ります」
どうやって解毒剤を飲ませたんだろうと考えたまろん。
怖い考えになってしまったので、その想像を振り払います。
もっとも、真実はまろんが喜ぶようなものであったのですが。
「敵の心配するなんて、変なの」
クスクスとまろんは笑い、それを見て稚空は不機嫌そうな表情を浮かべます。
「日下部さんに何かあっては、クイーン……フィンに殺されてしまいます」
「そう言えば、フィンはまだ魔界に行っているのよね? いつ帰って来るの?」
彼女が帰って来たら、答えなければいけないことがあった。
そのことについて、まろんは片時も忘れたことはありません。
「現地、つまりこの街のことですが、こちらの準備が整っていないので、クイーンに
おかれては今しばらく魔界での休暇をお楽しみ下さいと、魔王様に手紙を出しておき
ました。なので、今日明日ということはありません」
その答えを聞いて、少し安心したまろん。
もっとも、それは結論が先延ばしになったということでしかないのは、まろん自身
が良く判っています。
「ちょい待て。準備って何だよ」
「決まっているでしょう。総攻撃の準備です」
突っ込みを入れた稚空にノインは即答しました。
「総攻撃?」
「そうです。天界からの増援の動きは我々も掴んでいます。お陰で、我々としても手
段を選べなくなりました」
これまで手段を選んでいたのかよと、稚空は内心突っ込みを入れましたが、口には
しません。そう感じる節が無いでも無かったからです。
「この街を戦場にするつもりなの?」
「あなた達の出方次第ではありますが、最悪そうなるでしょう。その結果、どうなる
のかは判っていますね」
「誰も、いなくなる……」
「まろん!」
「あ…」
嫌な想像がぐるぐると渦巻き始めたまろん。
それを察した稚空は、声をかけて現実世界に呼び戻します。
「フィンの提案について、真剣に考えて頂きたい。そう、我々は考えています」
「まろんは魔界なんか行かないからな」
「それを決めるのは、日下部さん自身です。もしも、一人がお嫌なら、恋人もお友達
も一緒でも我々は構いませんが」
*
「人間界というところは余程嘘つきばかりなのでしょうか。それほど他者を信用出来
ない世界なのに、それでも貴方達は執着するのですか」
「大きなお世話だっての。たとえどんな世界でも好きな奴が居る、それだけで充分
だ」
「では、こちらの……まろん様とご一緒なら何処でもよろしいのですね?」
*
稚空は、枇杷高校の体育館で前にエリスに言われたことを思い出しました。
「気に入らないな。誰がどこに住もうと自由だろう。魔界とか天界とか、俺達には関
係のない話だ。お前達こそ、俺達の前から姿を消せば良いんだ。そうしたら、俺もま
ろんも追いかけて行ったりはしないから。後は天界と魔界で勝手にやってくれ。これ
は俺の想像だが、本当は魔界の連中は、この人間界をどうこうしようなんて、考えて
いないんだろ? だったら、俺達が争いに関わる理由もない」
話を聞いたら、トキとアクセスは怒るだろうなと稚空は思います。
ノインは一瞬目を見開き、すぐに元の表情に戻って言いました。
「フ…フフフフフ…。それはどうでしょうかね」
と、はぐらかすノイン。
それが真実だからはぐらかしたのか、それとも見当違いのことを言っているのかと
稚空は訝しみます。
「昨日、俺達と戦った連中、人間だよな?」
「オットー隊のことですか? そうです。魔界には、私だけでなく、かつて人間界で
生活していた者が大勢移住して暮らしています。我々が持ち込んだ技術、文化、思想
は、魔界に大きな影響を与えていましてね、実のところ、私達人族の地位は魔界では
高いのですよ。人族だけで無く、天使達も同様です。フィンだけで無く、少なからぬ
天使達が魔界で幸せに暮らしていますよ」
レイとミナのことをまろん達は思い出します。
同時に稚空は思うのです。本当に、昨日訪れて来たミナは現状を幸せだと感じてい
るのかと。
「ノインの言うことなど信用出来るかよ。なぁ、まろん」
「そうだねぇ…」
「迷うことなんか無いだろ」
「いやまぁ、それはそうなんだけど」
天井を見ながら、まろんは今一はっきりとしない態度を見せます。
その理由についても稚空は判りますが、もちろん口には出来ません。
「まだ、お悩みのようですね。良いでしょう。この場で回答を求める気もありません
でしたから。しかし一つ、忠告させて欲しいのですが」
「忠告?」
「はい。どうやら、怪盗ジャンヌは人間達の敵となりつつあるようです」
「どういう意味?」
「テレビを観ていませんか? 最近の戦いの結果が、全て怪盗ジャンヌの責任という
世論になりつつある、ということです」
最近のテレビはあまり観ていなかったまろん。
ですが、そのように報道されていることは知っています。
*
「待って! シンドバット。写真には、悪魔はいなかったのよ。三枝先生の心のより
どころだった娘さんの写真を、あなたは燃やしてしまったのよ!」
「例えどんな手段を使っても悪魔を回収する。それが俺の仕事だ。ジャンヌは違うの
か!」
「許せない。目的の為なら、何をしてもいいって言うの? シンドバットのやり方は、
絶対に許せない!
*
「例え怪盗と呼ばれても、魔女と言われても、正しい事を信念を持って!」
「ごめんね…都…」
*
まろんは、これまでの怪盗稼業で感じたこと、正義のためならば手段は正当化され
るのか、否かについて改めて思い出しました。そして、場面場面で都合良く、それら
を使い分けていたことも。
「悪いのは事件を起こしたお前達の方だろう!」
俯いてしまったまろんの代わりに、稚空が反論しました。
「しかし、戦うことを決めたのは、そもそもはあなた方の選択でもあります」
「それはお前達が…」
即座に反論しようとした稚空をノインは手で制します。
「まぁ、今のあなたは戦いたくても戦えないのでしょうが」
「どういうことだ」
「その理由は、日下部さん自身が良く知っているはずです」
「まろんが? どういう事だまろん」
稚空の声で再び我に返ったまろんは、改めて稚空に聞き返して、そして思い出した
ように言いました。
「ノインが持っているのね?」
稚空の問いに直接答えず、まろんは主語を抜きでノインに訊ねます。
その問いにノインは黙って肯きました。
訳がわからず、稚空は二人の間を視線を行き来させます。
「何だよ、俺に判るように教えてくれ」
「実は寝ている間にロザリオを取られちゃったみたい」
「何だと!」
「そのような訳で、今の日下部さんはジャンヌに変身出来ません」
「返せよ!」
そう言われて返す訳は無いだろうと思いつつ、稚空は言いました。
「良いですよ」
「え!?」
「ただし、ロザリオは私の家にありますので取りに来て下さい」
「それって、返して欲しければ力ずくでってことなんじゃ…」
そうしたら、きっとあのメイドさんと戦うことになる。
正直、変身しないで勝てる自信はまろんにはありませんでした。
「まぁ、魔族達が黙って通してくれればその必要はありませんが」
「でも、それは無いんだろ?」
「肯定です。つけ加えれば、正直な所ロザリオは返したくありませんね。そうすれば、
我々も少しは枕を高くして眠ることが出来ますから」
ノインの言葉のどこまでが冗談でどこまでが本気なのか、ひょっとしたら全て本気
で言っているのかもしれません。
「さて…。今日はこれ位にしましょうか。あまり時間をかけると、あなたの彼女に怒
られてしまう」
“彼女”の部分に少し力を込めて、ノインは言いました。
その言い方に、稚空は少し腹が立ちました。
「繰り返しのようですが、最後に一つ。もしも、我々との戦いのために、あなた達が
この世界に居づらくなることがあったなら、私達は代わりの世界を提供出来ます。そ
のことを心の片隅で覚えていて下さい。私は、本当に貴方のことを心配しているので
すから。日下部まろん──我が最愛の者の魂を受け継ぐ者よ──」
話の途中でノインの身体は薄くなって行き、まろんと稚空は警戒して椅子から立ち
上がります。最後の方では最早ノインの姿は指導室の中には存在せず、ただ声だけが
響いていました。
稚空とまろんは、その様子を呆然と見てはおらず、直ちに生徒指導室の扉を開け放
ち、廊下へと脱出しました。これがノインの罠であった場合に備えて。
「何が最愛の者だ。ジャンヌとまろんは別々の人格だってーの!」
少しして、ノインが姿を消したのが何かの罠では無いと知ると、稚空はノインの言
葉に腹を立てたのか、罵り声を上げました。
「声を上げても誰も聞いてないわよ」
「判っている。けどな」
「稚空の言う通り、私は私。稚空がそれを信じてくれていればそれで良い」
「しかしノインはだな」
「そう思いたければ、思わせておけば良いでしょ」
まろんに微笑みかけられた稚空の顔は少し赤くなりました。
「まろん」
稚空は勢いに任せて、まろんの肩に手をかけました。
「きゃっ」
力が入りすぎ、まろんの背中を壁に押しつけることになってしまった稚空。
そのままどうしたものかと考えていた稚空。
しかし、幸か不幸か邪魔が程なく現れました。
「まろ〜ん!」
「都?」
「パッキャラマオ先生がもう部活に来てるよ! まろんはどこかって」
練習用のレオタードの上にジャージの上下を着込んだ姿で、都はぱたぱたと競歩で
──廊下は駆けないという校則を遵守するつもりらしい──やって来ました。
「ごめーん。もう、終わったから。あれ? チェリーちゃんは?」
「委員長と校内見学してるわ。あれ? 紫界堂先生は?」
都は開け放しになっていた生徒指導室の中を覗き込んで言いました。
「先生は先に出て行ったの」
「するとこの部屋の鍵はどうするの?」
まろんの記憶では、この部屋は普段は施錠されている筈でした。
「あ、あった。鍵」
指導室の中に入り込んだ都は、テーブルの上で発見したらしい鍵を手に持って見せ
ました。
「じゃあさ、あたしが鍵を返しておくから、まろんは先に行って着替えて来な」
「はいはい。都様」
「稚空、まろんをよろしくね」
「おう」
都が戸締まりを任せ、まずは着替えるために、部室へと稚空と二人で向かうまろん
は途中で考えます。ひょっとして、都はわざと自分と稚空を二人きりにしようとして
いるのだろうかと
(つづく)
では、また。
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