うーむ、手抜きをしようと思ったが結局自分で調べる羽目になった
か……。(^^;

Wed, 14 Dec 2005 18:20:24 +0900,
in the message, <20051214182024harmonic@lydian.club.ne.jp>,
harmonic@lydian.club.ne.jp (SASAKI Masato) wrote
>>各都道府県で見解が別れていたのは事実で、免許自体が別れてしまったのは、
>>いわば見解の統一をはかったというわけです。

本題ではありませんがこれは若干疑義があります。
と言うのは、それならばなぜ小型は別にしなかったのか?と。

建前論としては大型自動二輪は中型以下よりも高度な運転技能が必要だから別
の自動車と考えるべきだということのようですが
(実際にも限定解除するのはそれなりに腕が要ったのは事実だと思います。
 なお、この改正で教習所取得が可能になったので従来の試験場方式よりも取
 り易くなったと思います。
 それが良いか悪いかはともかく。)、
実用的な意味では、区分を分けることで全国一律に取得の要件を変えられる
(具体的には取得年齢制限を変えている)
という事情があるからだと思います。

>ちょっと検索かけたら1999年9月30日前後のfj.soc.lawで話題になっています。

差し当って読んでみましたが……長い。(^^;

>昭和42年8月26日大分家裁決定(家裁月報20巻4号p74)は

# 家月を読むために久し振りに大学に行っちゃったよ。

これは、眼鏡等の条件付きで普通自動車免許を受けた者が法定視力に矯正する
ことのできる眼鏡等を掛けずに免許を受けていない自動二輪を運転した事例
で、

仮に自動二輪という自動車の種類について免許を受けているのであれば、当該
免許の条件である眼鏡を掛けないのは条件違反になる。
しかし、そもそも普通自動車という自動車の種類についてしか免許を受けてお
らず自動二輪車については免許自体を受けていない。
普通自動車の免許にいかなる条件が付いていようとも、それは無免許の自動二
輪車の運転について付した条件ではない。
したがって、無免許運転となる自動二輪車の運転については、条件を問題にす
る余地がない。

一言で言えば、

免許に対して付した条件は無免許運転の場合には問題にならない。

と言っているだけでしょう。
ならば、自動車の種類を限定する免許の限定に反するのが条件違反かどうかと
いう問題とは全く関係が無いです。
そのような限定が付いていない免許の話なのですから。
付いているのは、「自動車の種類の限定とは関係無い条件」だけ。

もし仮に、当時の普通自動車免許が自動二輪も当然に運転できる免許であり、
そこに、「普通自動車は四輪及び三輪車に限る」という条件が付いていたとい
うのなら話は別ですが、判決からそのような事実は読み取れません。

# 例えば私は、平成7年改正前に普通自動車運転免許と自動二輪車運転免許
 (中型に限る)を有し、かつ眼鏡等という条件が付いていました。
 この場合、
 1.眼鏡を掛けずに普通自動車を運転すれば条件違反。
 2.眼鏡を掛けて大型自動車を運転すれば無免許。
 3.眼鏡を掛けずに大型自動車を運転したらやっぱり無免許で条件は問題に
   ならない。
 この3を述べたのが上記判例。
 だけど、
 4.眼鏡を掛けて大型自動二輪を運転した場合
 5.眼鏡を掛けずに大型自動二輪を運転した場合
 は上記判例からは判断不能。
 4が無免許なら5は当然無免許で条件は問題にならない。
 4が条件違反なら5も条件違反で二重の条件違反になる。

更に、別に挙がっていた判例(昭和42年3月30日東京高裁判決)につい
ては、附則により旧免許区分が新免許区分での見做し区分となるものと異なる
区分の車両を運転しているようです。
であれば、無免許となるのは明らかであり、これだけでは限定免許一般に敷衍
することはできません。

はたまた、広島地判昭和40年2月15日も挙っていますが、これは単に偽造公文
書行使罪の正否を論じているだけであって、限定違反が条件違反かどうかは全
く論じていません。
本件判決は、当該自動車等を運転できない運転免許証を(仮に)提示しても意
味が無い以上、「行使」したとは言えないと言っているだけです
(厳密には、更に携帯して運転していただけでは行使とは言えないというのも
 在るがそれはここでは傍論。)。
であれば、限定違反が条件違反であろうと無免許であろうと、限定外の車両は
運転できないということは同じ(単に罰則等が異なるだけ。)ですから、結論
には影響しません。
仮に、偽造免許証が失効した免許であったとしても同じ結論になるでしょう。
極言すれば、所持していたのが偽造「健康保険証」であっても変わらないと。

ということでどの判例も運転できる自動車等の種類の限定違反が無免許、条件
違反いずれとなるかについては何の根拠にもなりません。


そこで、道交法を改めて眺めて見ると……。

91条(免許の条件)
公安委員会は、……
その者が運転することができる自動車等の種類を限定し、
                   ~~~~~~~~~~~~  
その他自動車等を運転するについて必要な条件を付し、
                   ~~~~~~~~~~
及びこれを変更することができる。
(罰則 第百十九条第一項第十五号) 

となっています。
更に、道交法施行時の附則については、

……限定又は……条件……は、……条件とみなす。

と限定と条件を一緒にしている部分がありますが、以後の附則は少なくとも確
認した限りすべて、

……限定又は条件……は、……限定又は条件とみなす

と、限定と条件をはっきり区別しています。
つまり、91条は「自動車等の種類を限定」と「運転するについて必要な条件を
付し」を区別していると考えるべきです。
つまり、「運転することができる自動車等の種類の限定」は「運転するについ
て必要な条件」の一種ではなく、別のものであるというになります。

# お代官様の「条件等の『等』」という話の証左とも言える。
 因みに、大型二輪免許ができた時の附則3条は、

 旧法第九十一条の規定により旧法二輪免許について付された自動車等の運転
 に係る限定又は条件……は、新法第九十一条の規定により大型自動二輪車免
 許又は普通自動二輪車免許について付された自動車等の運転に係る限定又は
 条件とみなす。 

 となっていて、「小型に限る」等が少なくとも現行法上「条件」ではないの
 は条文を見れば明らかです。

その上で罰則を見ると、

119条
次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に
処する。
……
15 第九十一条(免許の条件)の規定により公安委員会が付し、若しくは変更
した条件に違反し、……自動車又は原動機付自転車を運転した者
  ~~~~~~~~~~~~
となっています。
ここには「条件に違反」としか書いてありません。
「限定又は条件に違反し」ではありません。

とすれば、91条の規定により公安委員会は、
1.運転することができる自動車の種類を限定する。
2.限定以外に、運転するについて必要な条件を付す。
という二つの権限を有するところ、
119条1項が適用になるのは、「必要な条件」に違反した場合のみ
であり、
「限定」に違反した場合は119条1項は適用にならない
ということになります。

即ち、
条文上、運転できる自動車の種類の限定に違反するのは条件違反ではない
ということです。


因みに、この様に解した上で、「限定」に違反するとどうなるのかと考える
と、

運転できる自動車の種類を限定した免許もまた公安委員会が84条1項に基づい
て付与する免許であるのは言うまでもない。
84条1項に定める「公安委員会の運転免許」には同条2項以下の区分があるが、
これら以外の免許区分は法律上一切存在しないわけではない。
即ち、公安委員会は91条によって、この区分に従った上で更に運転できる自動
車の種類の限定をして免許を付与できる。
その上で、運転できる自動車の種類を限定して免許を付与するということの意
味を考えれば、それは、当該限定に掛る自動車の種類についてのみ免許を与え
るということに他ならない。
であれば、限定外の種類(例えば小型限定普通自動二輪ならば小型でない普通
自動二輪)については
「公安委員会は免許を与えていない」
ということは明らかである。
よって、限定免許で限定外の自動車等を運転することは、64条に言う「公安委
員会の運転免許を受けないで……運転」に該当し、無免許運転となる。

ということになります。

# まさか、限定違反についての規定が無いから不可罰とはなるまい……
 (理屈の上ではともかく。)。

>間の悪いことに条件違反説で書いている文献が2つあったし。

当該文献を確認はしていませんが、条文に反するのは明らかと言わざるを得ま
せん。
条文を見れば「運転することができる自動車等の種類を限定」するのは「公安
委員会が付した条件」ではないというのは明らかと言うべきです。


と言いつつ例えば青林書院「注解特別刑法I」平野他などを見ると、分けてる
のか分けてないのか判らない書き方をしていたりします。
一応、条件と限定とを別々に例を挙げているのですが、その区別をどうやって
しているのかさっぱり判らないと。

AT限定免許とか適性審査を受けずに失効した旧360cc限定の軽自動車免許所持
者に対して付与する360cc限定免許とかは「運転技能に応じた条件」だと言い
つつ、軽自動車(660cc)限定免許とか(下肢障害者向けの)手動操作式のス
ロットル、ブレーキ等の装備車限定の免許は「運転技能に応じた限定」として
いたりして、区別基準が全く不明。
と言うか、区別してないかも。
しかし、明文を見れば明らかに区別しているので、これを区別しない解釈は仮
令相手が刑法学の権威と言えども、「何か勘違いしている」と言わざるを得な
い。

そもそも「条件」は「運転するについて必要な条件」であって、「限定」は
「運転するについて」ではなくその前提としての「運転することができる自動
車等の種類の限定」の話。
AT限定普通自動車運転免許所持者がMT普通自動車を運転しようとする場合を考
えれば、「MT普通自動車を運転するについて必要な条件」が「ATに限る」とい
うのは論理的には破綻している。


なお、参考。
例えば昭和40年6月1日改正附則2条3項および4項には、

3 第一条の規定の施行の際(以下「改正法の施行の際」という。)現に旧法
の規定による自動三輪車免許、自動三輪車第二種免許若しくは自動三輪車に係
る仮運転免許を受けている者……が運転することができる普通自動車は、……
旧法の規定による自動三輪車に限るものとする。……
4 前項に規定する者が同項の規定により運転することができる普通自動車以
外の普通自動車を運転したときは、その行為は、新法の規定(罰則を含む。)
の適用については、新法第六十四条の規定に違反する行為とみなす。 

とあります。
これは、自動車の種類を限定した場合に当該限定に違反することは原則として
64条違反(無免許運転)とすべきだという立法者の意思の表明と読むべきで
す。
であるならば、その後の改正法あるいは附則においても原則的な考え方とし
て、運転することができる自動車の種類について公安委員会の付した限定に違
反するのは無免許運転となる、と考えるべきということになります。

# 因みにこの限定は、法定の限定であって91条による限定ではない。
 したがって、91条の限定にそのまま当てはまるとは限らない事は否定しな
 い。
 しかし、法定の限定と91条の限定とを殊更に区別する必要も理由もない。
 91条の限定だって突き詰めれば「法定」の限定だし。

>厨子さんも当時警察に確認とったら
>「無免許運転説」と言っていたってレポートしているし……。

これは後日暇があったら問合せて見ることにします。

質問は二つ。
1.AT限定普通自動車免許でMT普通自動車を運転するのは無免許か条件違反
か。
2.小型(125cc以下)限定普通自動二輪免許で125cc〜400ccまでのいわゆる
中型自動二輪を運転するのは無免許か条件違反か。

加えて、無免許となる場合の法的根拠(警察官相手では期待薄だが。)。



で、問題の事件なんですが、別のソース(時事通信)の記事では、

 軽自動車限定の免許で普通自動車に乗ったとして、道交法違反(無免許運
転)罪で罰金刑を受けた三重県の男性(65)について、「法令の適用に誤りが
あった」として検事総長が行った非常上告に対し、最高裁第1小法廷(才口千
晴裁判長)は13日までに、罰金刑を破棄し、公訴を棄却する判決を言い渡し
た。
(中略)
 判決によると、男性は今年2月、軽自動車限定の免許で普通自動車を運転し
たとして、3月に松阪区検に略式起訴され、松阪簡裁は罰金20万円を言い渡
し、確定した。
 同区検は、男性の免許が1965年当時の道交法に基づくものとして、当時の道
交法の罰則規定を適用したが、その後、男性の免許は現行の道交法に基づくも
ので、現行の規定では無免許運転ではなく免許条件違反に当たり、反則金処理
で済むことが分かった。
(以下略)

となっています。
結局、この人の免許の種類と適用条文が解らんことにはどうしようもありませ
んな。

-- 
SUZUKI Wataru
mailto:szk_wataru_2003@yahoo.co.jp