Re: 絶対収束する級数は収束する
平賀@筑波大です。
一応まとめておきます。
無限級数
Σa_k = a_1 + a_2 + ... + a_k + ...
Σ|a_k| = |a_1| + |a_2| + ... + |a_l| + ...
に対し、第 n 項までの部分和をそれぞれ S_n, T_n と書きます。
S_n = Σ{k=1 to n} a_k = a_1 + a_2 + ... + a_n
T_n = Σ{k=1 to n} |a_k| = |a_1| + |a_2| + ... + |a_n|
無限級数の収束・極限(=和)は部分和数列の収束・極限で定義されます。
本問では lim T_n が収束することが所与で、
その極限値(級数の和)を T とします。ここで
-T_n ≦ S_n ≦ T_n
は明らかであり、T_n は単調増加数列ですから:
-T ≦ -T_n ≦ S_n ≦ T_n ≦ T
したがって S_n は有界数列です。
しかしもちろん、これだけでは lim S_n が収束する保証にはなりません。
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数列の収束に関する基本事項(上限定理、単調定理、コーシーの判定法等々)
は所与とします。
本問の「標準解法」はコーシー列に帰するもの(コーシーの判定法)です。
数列 { c_n } がコーシー列であるとは、
∀ε>0: ∃N > 0: ∀m, n > N なら | c_m - c_n | < ε
であることを言います。このとき
{ c_n } は収束列 <=> { c_n } はコーシー列
が成り立ちます。=> の証明は簡単ですが、<= のほうは実は
実数の連続性の1つの表現になっています。
さて、{ T_n } は収束列ですからコーシー列であり、
任意のεに対し、m > n > N なら
|T_m - T_n| = |a_{n+1}| + |a_{n+2}| + ... + |a_m| < ε
が成り立つような N が存在します。
一方同じ N, m, n に対し、三角不等式を使って:
|S_m - S_n| = |a_{n+1} + a_{n+2} + ... + a_m|
≦ |a_{n+1}| + |a_{n+2}| + ... + |a_m| < ε
ですから { S_n } もコーシー列であり、したがって収束列だから
Σa_n は収束します。
いくつかの本をパラパラと見ているとだいたいこういった証明が
数行程度で書かれています。
# 例えば『解析概論』だとここらで書いているような話は皆、
# pp.143-148 あたりに出ています。
しかし別解はあるし(現実に答案に出てきた)、発想としてはむしろ
そちらのほうがわかりやすいのかもしれない(コーシー列はとっつきにくい)、
というのが話の発端です。
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先に小林さんのほうに触れておきます。
m>n に対し:
RS(n,m) = S_m - S_n
RT(n,m) = T_m - T_n
とし、形式的に:
RS_n = lim{m→∞} RS(n,m) = a_{n+1} + a_{n+2} + ...
RT_n = lim{m→∞} RT(n,m) = |a_{n+1}| + |a_{n+2}| + ...
とします。
これらはΣa_k, Σ|a_k| の第 n+1 項以降の部分級数にあたります。
ここで lim S_n が収束するなら(値として)RS_n→0 が成り立ちます。
逆はどうかと言えば、一応成り立つことは成り立つのですが、それには
RS_n が(形式和ではなく、値として)存在することが前提です。
というか、RS_n が存在すれば自動的に lim RS_n = 0 であり、
lim S_n は収束します。
本問で Σ|a_k| = lim T_n は収束しますから lim RT_n = 0 です。
ここで |RS_n| ≦ RT_n が成り立つなら確かに Σa_n = lim S_n は
収束します。
これは実質的には有限和について成り立つ三角不等式が無限和についても
無条件に成り立つかという話ですが、自明とは言えないでしょう。
証明しようとすると、有限の |RS(n,m)|≦RT(n,m) に引き戻してから
m→∞ を考える(さらにその上で n→∞をとる)という手順になるのでしょうが、
コーシーの判定法では(十分大きな n, m に対して)|RS(n,m)|≦RT(n,m)
だけで片付いてしまうことを考えると分が悪い。
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鴻池さんの方針は、(細かいところのヴァリエーションは別として)
答案にも見られたものです。
{ a_k } の第 n 項までの正項の和を P_n、負項の絶対値の和を M_n とします。
(鴻池さんの S+_n, S-_n です。)
あえて書くなら:
P_n = Σ_{k=1 to n} (|a_k|+a_k)/2
M_n = Σ_{k=1 to n} (|a_k|-a_k)/2
このとき
S_n = P_n - M_n
T_n = P_n + M_n
は明らか。P_n, M_n は非負の単調増加数列で、
P_n ≦ T_n ≦ T
M_n ≦ T_n ≦ T
つまり上に有界です。したがってどちらも収束します。
その極限を P, M とすれば:
lim S_n = lim P_n - lim M_n = P-M
で lim S_n も収束します。
どうもこちらのほうがとっつきやすいようです。
ただ、「標準解法」の利点は、そのままで点列のベクトル和
(ベクトル級数とでも言うのだろーか?)に拡張できる点です。
その場合には絶対値記号はノルムに読み替えます。
こちらの解法だとそのままでは多次元化できない。
> なおちょっと注意が必要な点として、次の解答は似て非なるものです:
> 「Σ|a_n| は収束するから、S+_n, S-_n は収束する。
> そこで lim S+_n = P, lim S-_n = M とすれば、
> Σ|a_n| = P+M であり、一方 Σa_n = P-M だから Σa_n も収束する。」
これはこちらの書き方も悪くて申し訳ありませんでした。
言いたかったのは、a_n の正項・負項を別々に分けて:
正項: p_1, p_2, ...
負項: m_1, m_2, ...
としたとき、Σa_k と Σp_k + Σm_k とでは和をとる順序を変えて
しまっていますね、という点です。
鴻池さん writes:
> 上の場合でもS+_n, S-_nを使うなら単に途中の
> Σ{k=1 to n} a_k = S+_n - S-_n
> が無いだけのようにも思えるのですが。
そこがいわばポイントで、n で「輪切り」にすることにより、
問題が生じないようにしているわけです。
もちろん本問の場合、結果オーライで和をとる順序を変えても
かまわないのですが(絶対収束する級数は和をとる順序を変えても
結果には影響しない)、それ自体が証明すべき対象に他ならないでしょう。
実際、条件収束の場合には和をとる順序がモロに影響する、
というのが蛇足問題でした。
これなんか、ノーヒントだとかなりの難問じゃないかな。
どこから手をつけていいのかさえわかりにくい。
(答えは『解析概論』にそのまま書いてあります。)
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あと、河野さんのおっしゃっているのはこういうことかな?
S_n は有界ですから集積点を持ちます。
それが唯一であることを言えば収束が示せますから、
複数存在するとして矛盾を導けばいいわけです。
もちろん「有界」というだけでは条件が弱すぎるので、
そこで Σ|a_k| も有界であることが効いてきます。
(平賀@筑波大)
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