工繊大の塚本です.

In article <bfd337d4-749c-4d18-850d-97387dfb08bb@z28g2000prd.googlegroups.com>
cchikakoo <cchikakoo@yahoo.co.jp> writes:
> 取り合えず,
> Rを単位的可換環としV,Wを自由左R加群とする。

 V, W が自由加群であることは余り役に立ちません.

> この時,span(V×W)が左R加群をなす事を下記のようにして示しました。

やはり勘違いされているようです.

> span(V×W)の基底はV×Wの元全体で
> ∀x,y,z∈span(V×W),α,β∈Rを採ると
> x=(Σ[i=1..h]a_iv_i,Σ[i=1..j]b_iw_i)
> y=(Σ[i=1..k]c_iv_i,Σ[i=1..l]d_iw_i)
> z=(Σ[i=1..m]e_iv_i,Σ[i=1..n]f_iw_i)
> (但し,v_i,w_iはそれぞれV,Wの元,a_i,b_i,c_i,d_i,e_i,f_iはRの元)
> という形をしている。

いえ, x = Σ_{i=1}^p a_i (x_i, y_i)  (a_i ∈ R, x_i ∈ V, y_i ∈ W)
としないといけません.

 y = Σ_{j=1}^q b_j (x'_j, y'_j)  (b_j ∈ R, x'_j ∈ V, y'_j ∈ W)
 z = Σ_{k=1}^s c_k (x''_k, y''_k)  (c_k ∈ R, x''_k ∈ V, y''_k ∈ W)

はそれぞれ別の有限個の V×W の元の一次結合になっているのですが,
 x, y, z の表示に現れる V×W の元を全部合わせても有限個ですから,
それぞれの表示に現れない V×W の元の係数は 0 としたものを使えば,
 
  x = Σ_{i=1}^p a_i (x_i, y_i)  (a_i ∈ R)
  y = Σ_{i=1}^p b_i (x_i, y_i)  (b_i ∈ R)
  z = Σ_{i=1}^p c_i (x_i, y_i)  (c_i ∈ R)

と (x_i, y_i)  (1≦i≦p) が共通になっているとしても構いません.

> 加法に関して群をなす事を示す。
> (i) 加法について閉じている事を示す。
> x+y=(Σ[i=1..h]a_iv_i,Σ[i=1..j]b_iw_i)+
> (Σ[i=1..k]c_iv_i,Σ[i=1..l]d_iw_i)
> =(Σ[i=1..h]a_iv_i+Σ[i=1..k]c_iv_i,Σ[i=1..j]b_iw_i+Σ[i=1..l]d_iw_i)
> と数ベクトルのように成分同士足してもいいのでしょうか?

駄目です. 上のように

  x = Σ_{i=1}^p a_i (x_i, y_i)  (a_i ∈ R)
  y = Σ_{i=1}^p b_i (x_i, y_i)  (b_i ∈ R)

としておけば,

  x + y = Σ_{i=1}^p (a_i + b_i) (x_i, y_i)

として加法が定義できます.

> ∈span(V×W)なので加法について閉じている。
> 
> (ii) 結合法則を満たす事を示す。
> (x+y)+z=((Σ[i=1..h]a_iv_i,Σ[i=1..j]b_iw_i)+
> (Σ[i=1..k]c_iv_i,Σ[i=1..l]d_iw_i))+(Σ[i=1..m]e_iv_i,Σ[i=1..n]f_iw_i)
> =(Σ[i=1..h]a_iv_i,Σ[i=1..j]b_iw_i)+((Σ[i=1..k]c_iv_i,Σ[i=1..l]d_iw_i)+
> (Σ[i=1..m]e_iv_i,Σ[i=1..n]f_iw_i))
> となる事は明らか。

これも, 上のように

  x = Σ_{i=1}^p a_i (x_i, y_i)  (a_i ∈ R)
  y = Σ_{i=1}^p b_i (x_i, y_i)  (b_i ∈ R)
  z = Σ_{i=1}^p c_i (x_i, y_i)  (c_i ∈ R)

としておけば,

  (x + y) + z = Σ_{i=1}^p ((a_i + b_i) + c_i) (x_i, y_i)
  x + (y + z) = Σ_{i=1}^p (a_i + (b_i + c_i)) (x_i, y_i)

から自明です.
 
> (iii) 零元が存在することを示す。
> 左R加群の定義よりVとWには零元0_v,0_wが存在する。
> よって span(V×W)の零元として(0_v,0_w)が採れる。

 (0_v, 0_w) は span(V×W) の零元 0 ではありません.
 0(0_v, 0_w) ならそうです. 上の表示での

  Σ_{i=1}^p 0(x_i, y_i)

も同じ元を表しますから,

  x + 0 = (Σ_{i=1}^p a_i (x_i, y_i)) + Σ_{i=1}^p 0(x_i, y_i)
        = Σ_{i=1}^p (a_i + 0) (x_i, y_i)
        = Σ_{i=1}^p a_i (x_i, y_i)
        = x

となります.

> 実際, x+(0_v,0_w)=(Σ[i=1..h]a_iv_i,Σ[i=1..j]b_iw_i)+(0_v,0_w)
> =(Σ[i=1..h]a_iv_i+0_v,Σ[i=1..j]b_iw_i+0_w)
> =(Σ[i=1..h]a_iv_i,Σ[i=1..j]b_iw_i)
 
 span(V×W) ではこのような等式は成立しません.
 
> (iii) 逆元が存在することを示す。
> xの逆元として(-Σ[i=1..h]a_iv_i,-Σ[i=1..j]b_iw_i)が採れる。

これも駄目です.

> 実際,
> (Σ[i=1..h]a_iv_i,Σ[i=1..j]b_iw_i)+(-Σ[i=1..h]a_iv_i,-Σ[i=1..j]b_iw_i)
> =(Σ[i=1..h]a_iv_i-Σ[i=1..h]a_iv_i,Σ[i=1..j]b_iw_i-Σ[i=1..j]b_iw_i)
> =(0_v,0_w).

これは span(V×W) では成立しません.

  x = Σ_{i=1}^p a_i (x_i, y_i)

に対しては,

  -x = Σ_{i=1}^p (-a_i) (x_i, y_i)

です.

> (iv) 加法に関して可換である事を示す。
> x+y=y+xは明らか。
> 
> (v) 乗法に関して閉じている事を示す。

必要なのは, 乗法ではなくて, R の作用 (スカラー倍) ですね.

> xy=(Σ[i=1..h]a_iv_i,Σ[i=1..j]b_iw_i)(Σ[i=1..k]c_iv_i,Σ[i=1..l]d_iw_i)
> =(Σ[i=1..h]a_iv_iΣ[i=1..j]c_iv_i,Σ[i=1..j]b_iw_iΣ[i=1..l]d_iw_i))
> 両成分ともV,Wの元の一次結合として表されているので
> xy∈span(V×W)

これは無意味です.

  x = Σ_{i=1}^p a_i (x_i, y_i)

と r ∈ R について,

  r x = Σ_{i=1}^p (r a_i) (x_i, y_i)

です.

> (vi) 乗法に関して結合法則を示す。
> (xy)z=x(yz)も(ii)と同様にして示される。

  x = Σ_{i=1}^p a_i (x_i, y_i)

と r, s ∈ R について,

  r (s x) = Σ_{i=1}^p (r (s a_i)) (x_i, y_i)

と

  (r s) x = Σ_{i=1}^p ((r s) a_i) (x_i, y_i)

が一致することが求められていて, これも自明です.

> (vii) 分配法則, (α+β)x=αx+βy,α(x+y)=αx+αyも同様にして示される。
> 
> (viii) (αβ)x=α(βx)も同様にして示される。

こういう「スカラー倍」についての話ですね.
 
> Rの単位元を1とすると
> (vix) 1x=xも明らか。
> 
> よってspan(V×W)は左R加群をなす。

それは良いとして,
 
> したがって,
> 
> > これが零元であることを確かめてみると
> > (0,0)modT+(x,y)modT=((0,0)+(x,y))modT(∵テンソル積の和の定義)
> > =(x,y)modT (∵(0,0)はspan(V×W)での零元?)
> > うーん,(0,0)がspan(V×W)の零元であることはどうやって言えますでしょうか?
> 
> 上記より(0,0)がspan(V×W)の零元である事が分かりましたので
> (0,0)modTがV(×)Wの零元になっているのですね。

これと

> 続いて
> 
> > これが逆元である事を確かめてみると
> > (x,y)modT+(-x,y)modT=((x,y)+(-x,y))modT
> > うーん,これもこれら=(0,y)modTに持っていけません。
> 
> ((x,y)+(-x,y))≡(0,y) modTである事を示せばいいので
> (x+(-x),y)-(x,y)-(-x,y)∈Tだから(∵Tの定義)
> 即ち,(0,y)-(x,y)-(-x,y)∈T
> 即ち,((x,y)+(-x,y))≡(0,y) modT
> 
> よって(-x,y)modTは確かに(x,y)modTの逆元になってますよね。

これについては <081110044515.M0124137@cs1.kit.ac.jp>
の記事を御覧下さい.
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塚本千秋@応用数学.基盤科学部門.京都工芸繊維大学
Tsukamoto, C. : chiaki@kit.ac.jp