安井@東大です。

> Lionsboyさんの<u1vCb.1648$vR3.101824@news1.rdc1.ky.home.ne.jp>から
>>近代民主政治のベースをなす基本理念に「法の支配」というのがあり、どういう
>>ことかというと、王権のように権力を持つものであっても法には従わなければな
>>らない、ということで、権力の恣意的な行使を制限しようとするものです。
>>谷村さんのおっしゃるように、権力の必要に応じて白を黒と解釈することも正し
>>い、というようなことになると、「法の支配」などという民主主義の基本理念は
>>ふっとんでしまうことになりますね。

〔“〆”〕さん in <3fe42990$1_1@news.premium-news.net>,
> 「法の支配」という言葉が出てきましたね。
> 王権といえども従うべきものと「法の支配」の目的が語られたと思いますが、
> 「法の支配」はコモン・ローの認識であり、大陸法からすれば「法の自治」。
> 英国的伝統の、判例法としてのコモン・ローを前提とした「法の支配」に対し
> てわが国は、大陸的背景のもとで議会立法の国政優位を含意させた「法の自
> 治」に立つと認識している。「法の自治」と「法の支配」は共通的発想だが、
> わが国の憲法は英米法への戦後の接近にもかかわらず、大陸法型に属する。

不勉強で「法の自治」という言葉を知らないのですが、フランス語やドイ
ツ語では何と表現されている言葉なのでしょうか。
 # Googleで「法の自治」を検索してみましたが、14件しかヒットせず、
 # しかも、いずれも的外れのものばかりでした。
 ### 「周辺事態措置 *法の自治* 体への戦争協力要請項目」とか…。

また、〔“〆”〕さんの御説明によると、
 “「法の自治」とは大陸法の伝統に連なるものであり、「議会立法の国
  政優位を含意」するものである”
とのことですが、そうした内容を意味する言葉としては「法治国家(Etat 
de droit, Rechtsstaat)」の方がよく知られているように思います。私
には両者の違いがよく分かりませんので、「法の自治」と「法治国家」
(あるいは「法治主義」)との異同につき、御教示いただければ幸いです。


> その意味では19世紀のフランスに代表される市民国家とその法を念頭にすべき
> だろう。いうまでもなく、フランス民法典はヨーロッパ各国の指導的役割を果
> たした。この種の市民法典の特徴は、イギリスで行われていた制度を参考とし
> て、モンテスキューその他の啓蒙思想家が考案したものだった。

恣意的な権力行使を法律によって制限するという話であれば、私人間の関
係を規律することを主目的とする民法よりも、まず憲法を論ずるのが筋で
あるように思うのですが、どうでしょうか。

また、1804年のフランス民法典(Code civil)が英国の制度の影響を受けて
作られたというのも初耳でしたので、もう少し敷衍して御説明いただけれ
ば幸いです。
 # モンテスキューが英国の政体に触発されて三権分立論を提示したとい
 # うことはよく知られていますが、これはどちらかと言えば公法の世界
 # に属する話であって、民法を初めとする私法の議論とは別のものであ
 # るように思われます。


> 啓蒙思想とは、いかなる要点をもったものであったのか、この大陸法成立の過
> 程を学び、啓蒙思想なきわが国の知識階級、政治、行政、国民、マスコミが、
> いかに俗物な危険なものかを、誰も国民に敷衍しようとしない。

何にせよ、学ぶことは大切だと私も思います。
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*  Freiheit  | 安井宏樹(YASUI Hiroki), jyasui@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp     *
*  Recht     | 東京大学大学院法学政治学研究科・比較法政国際センター      *
*  Einigkeit | (現代ドイツ政治,ヨーロッパ政治史)                        *