少し整理してみましょう。

まず、「大辞林 第二版」によると、正当と不当の、この議論に関係ありそう
な意味は、

正当: 道理にあっている・こと(さま)
不当: 道理に合わないこと。適当でないこと。また、そのさま。

というものです。

この意味からいうと、「呼吸をすること」というのは、道理に合わないことで
はないので、正当です。

さて、「道理に合わないけど適当であること」とか「道理に合うけど適当でな
いこと」とかという事例は特殊な例外でしょうから、単純に扱うなら、

正当: 道理に合っていること(さま)
不当: 道理に合わないこと(さま)

という定義で充分でしょう。ごく普通の言語感覚にもマッチします。

この定義だと、「not 正当 == 不当」ということが言えます。

さて、行為全体の集合 Z を考え、その部分集合として、不当な行為全体の集
合 X と、正当な行為全体の集合 Y を考えましょう。
定義より、Y は X の補集合です。

ここで、X のある要素 A と、Y のある要素 B を考えます。
定義より直ちに、

・A をすることは不当
・B をすることは正当

というのが言えます。正当とか不当とかいうのは、評価ですから、これを関数
的に、
・評価(A) = 不当、評価(B) = 正当
と書くこともできます。

では、「A をしないこと」や「B をしないこと」はどうでしょう?
この段階では、Z の要素 C に対して、not C がどういうものになるかを定義
していないので、これだけの前提からは、論理的に導くことができません。
評価(not C) = not 評価(C) が言えれば話は楽なのですが、どうやらそうはい
かないようです。

そこで、常識的な考察にうつります。
行為 C をしないことが不当になるのは、どのような場合でしょう?
行為 C を行なうことを何らかの意味で要請されている場合のみですね。
通常、それを、義務と呼びます。
責任を含めてもかまわないんですが、意味的に変わるわけではないので、義務
という言葉で代表させましょう。
義務であるかどうかを属性()という関数でチェックできるとすると、

if 属性(C) == 義務
then 評価(not C) = 不当
else 評価(not C) = 正当

と表現できます。

もうひとつ、常識的な考察をすると、不当な行為をすることが義務になること
は普通ありえませんので、属性(A) == not 義務 はいつでも言えます。
正当な行為が常に義務になるわけではないので、属性(B) == 義務 は言えると
は限りません。

よって、行為をしないことの評価は、

評価(not A) = 正当

if 属性(B) == 義務
then 評価(not B) = 不当
else 評価(not B) = 正当

ということになります。


ちなみに、wacky氏は、「正当/不当」とほとんど重なる「迷惑をかける/かけ
ない」という区分をもちこんで、話をややこしくしていますが、その必要は全
くありません。

あと、以前、どの行為に対しても「行為をしないこと」は同じものを指すよう
なことを言ったかもしれませんが、それは撤回します。
上でみたように、「行為をしないこと」でも評価が分かれるので。
で、撤回したことに関することは、反論を省略します。どっちが間違ってよう
が本論には関係ないので。

あとは、個別の反応。

! "<4075ddd3$1$19833$44c9b20d@news2.asahi-net.or.jp>" という記事で
!     Fri, 09 Apr 2004 08:18:43 +0900 頃に wacky  さん は言ったとさ:

> KGK == Keiji KOSAKAさんの<c538bl$or8$1@film.rlss.okayama-u.ac.jp>から
>>>> 義務以外に「しないのが不当」であるような行為が何かあるんですか?
>> 
>>> 「義務以外にあるか否か」は本論でないので置くとして、
>> 
>> そこが本論でしょ? 義務以外にないのだったら、

> そんなのKGK氏が身勝手に言い立てているだけじゃん。本論なわけがない。

そこが本論じゃないんだったら、
> Subject: Re: 「それが義務でない限り」理論への反駁 (Re:  グレーゾーン
なんてサブジェクトになってないよね。

> おまけに同語反復だし。根拠レスだよね。

だから、

>>>> 義務以外に「しないのが不当」であるような行為が何かあるんですか?

の回答が根拠になるわけ。
で、あるんですか?

>>>>> B1: 迷惑をかけないような行為をするのは不当でない
>>>>> B2: 迷惑をかけないような行為をしないのは不当でなくない
>>>> 
>>>> ここは、「X ならば Y」から裏命題「not X ならば not Y」を導こうとしてる
>>>> わけですが、それは、論理的に妥当な導出ではありません。

>>> ここでは「○○という行為の評価は××である」と述べているのだから、要す
>>> るに「X は Y」つまり等価であることを指摘しているのさ。
>> 
>> 一体、何と何が等価だと言ってるんでしょう?
>> もちろん、「行為」と「行為の評価」は等価じゃないですよね?

> 勿論、「行為の評価」とその評価値ですね。

「行為の評価」と「評価値」ってのは、何か違うものを指してるんですか?

> ここで評価値は正当かでなければ不当かしかありません。「PならばQ」とした
> ところで、P,Qが2値であれば裏も逆も成り立ちます。

そんな無茶な。

> たとえば、
> ・Y染色体を持つなら男である

というのから、裏の、

> ・Y染色体を持たなければ男ではない

を導くことはできません。
第一の命題には、Y染色体を持たない男が存在しないことは含まれていません。

例えば、ある箱の中に、赤い球、青い球、青いサイコロがあったとします。
色は、赤と青の二値、形も球とサイコロの二値で、「P,Qが2値であれば」と
いう条件を満します。

しかし、
・色が赤であれば形は球である。
という命題は正しいですが、その裏の、
・色が赤でなければ形は球でない、
という命題は、青い球の存在のため、間違いになります。

よって、「P,Qが2値であれば」という条件を満すだけでは、裏が成り立つと
は限りません。

> 常識的に考えて、「ある行為を行う責任がある場合にその行為をしないことは
> 不当である」と考えられるのではありませんか?ってことよ。

「行為にかかるのは義務である」と言ってた人のセリフとは思えませんね。

>> 私の主張によれば、「××をするのは正当」
>> から「××をしないのは不当」を導くことができません。

> なんでだ?
> 「迷惑をかけるような行為をする」のは不当で「迷惑をかけるような行為をし
> ない」のは正当なんでしょ。

上で見たように、その二つの片方からもう一方を導いたのではなく、別々の導
出を行なったわけ。

実際、「迷惑をかけないような行為をする」のは正当だけど、「迷惑をかけな
いような行為をしない」ってのは不当とは限りませんから。

>> 一方、wacky氏の主張によれば、「××をしない」というのを「行為をしない」
>> と捉えること自体が詭弁になるようです。

> 「××」をある具体的な行為とするのであれば「する・しない」は2値ですの
> で詭弁にはなりません。しかし、「迷惑になるような行為」「迷惑にならない
> ような行為」のように2値でない(ある具体的な行為をしないとしても別な行
> 為を選択できる)場合に「行為を行わない」と限定することは詭弁です。この
> 違いは是非とも理解してほしいところですね。

ごく普通に考えて、「迷惑になるような行為をする」ってのは、「迷惑になる
ような行為」の集合の中の一要素である行為をすることです。
そもそも、

<buo39t$eel$1@film.rlss.okayama-u.ac.jp>:
: Date: 22 Jan 2004 17:57:31 +0900
: 行為 A が不当な行為である場合は、

といった類のことに対して、

<4011dc2c$0$19831$44c9b20d@news2.asahi-net.or.jp>:
| 具体的に、
| A→「迷惑をかける」としてみると、

とかやったんだよね。
# もちろん、「迷惑をかける行為」のこと。

ある具体的な行為のことやん。

# そもそも「行為の集合をする」ってのはわけわからんし。

>> しかし、「呼吸をしない」ってのは、普通、「呼吸以外の何かをする」という
>> ことではなく、「呼吸という行為をしない」ということですから、結局のとこ
>> ろ、私の主張に従っても、wacky氏の主張に従っても、「呼吸をすることは正
>> 当」から「呼吸をしないことは不当」を導くことができないようです。

> 呼吸という具体的行為について考えれば「する・しない」の2値であって中間
> 値が存在しないことは明らかです。

ということは、<4011dc2c$0$19831$44c9b20d@news2.asahi-net.or.jp> 以降は
全然関係ない話をしているつもりだったんですね。
しかし、関係ない話にはなってなかったようですよ。

> 従って、仮に「呼吸をすることは正当」を
> 真とするのであれば「呼吸をしないことは不当」も真でしょう。

となるとは限らないのは、冒頭の説明から明らか。

> #でなきゃ、最初の命題に対する仮定が誤りだったってこと。

単に、wacky氏が、「評価(not 呼吸) == not 評価(呼吸)」を無批判に取り入
れただけの話。
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KGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGK
KG  KGK (life name: Keiji KOSAKA), Dept. of Phys., Okayama Univ.        K
KG kgk@film.rlss.okayama-u.ac.jp http://film.rlss.okayama-u.ac.jp/~kgk/ K
KGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGKGK