他の方々と当面の目標がズレてきたようなので、Subject:を変えます。
私は「分配律が系をtrivialにしてしまう(なるべく緩い)条件」を探しています。

元々は「逆の分配律を持込むとtrivialになる」という話だったのですが、
これを通常の分配律を前提とした表現で言い換えると
「乗法に関して(全体が)群になっているとtrivialになる」となります。

そして、
In article <bb2a8h$uut$1@bluegill.lbm.go.jp> I write:
>    乗法加法の双方に単位元が存在
>    乗法には結合律が成立
>という、「環」の定義に較べるとかなりゆるい条件の元で
>    通常の分配律が成立
>    乗法の逆元が(零元=加法単位元まで含めて)存在
>とすると、系がtrivialになってしまうということですね。
つまり、
「零元(加法単位元)に乗法逆元が存在するとヤバい」
ということが判ってきました。

#というわけで、この先、加法単位元の存在は当然に仮定しますし、
#乗法逆元の有無を考えるということは、
#乗法単位元の存在も当然に仮定するということになります。

ここで「実数体」や「整数環」に関する“常識”を振り返ってみると、
「零元には乗法逆元が存在しない」ということは、
「零元に何を乗じても零元である」……(*)
ということと裏腹です。

一般論として、(*)が成立してかつ「零元に乗法逆元が存在」する場合、
乗法に結合律が成立するならば、加法と乗法の単位元が等しくなり、
その結果、系はtrivialになります。
        1 = 1 * 1
          = (0 * 1/0) * 1
          = 0 * (1/0 * 1)
          = 0 * 1/0
          = 0
このとき、任意のaについて
        a = a * 1 = a * 0 = 0

では、(*)が成立するのはどういう場合でしょうか?
例えば、
(A) 通常の分配律が成立して、乗法に結合律が成立する場合、
    乗法逆元が存在する元については(*)が成立する
        a * 0
         = 0 + a * 0
         = (1 * 0) + (a * 0)
         = ((a * 1/a) * 0) + (a * 0)
         = (a * (1/a * 0)) + (a * 0)
         = a * ((1/a * 0) + 0)
         = a * (1/a * 0)
         = (a * 1/a) * 0
         = 1 * 0
         = 0
(左右逆も同様:ただし要求される分配律の左右が逆となる)

#なお、体など「零元にのみ逆元が存在しない」系の場合、
#この方針だと零元同志の積については別証明が必要ですが、
#以下のように結合律を仮定せずに分配律のみで証明可能です。
        0 * 0
         = (0 * 0) + 0
         = (0 * 0) + (0 * 1)
         = 0 * (0 + 1)
         = 0 * 1
         = 0

あるいは、
(B) 通常の分配律が成立して、加法に結合律が成立し、
  加法逆元の存在も保証されている場合、(*)が成立する
        a * 0
         = (a * 0) + 0
         = (a * 0) + ((a * 0) - (a * 0))
         = ((a * 0) + (a * 0)) - (a * 0)
         = (a * (0 + 0)) - (a * 0)
         = (a * 0) - (a * 0)
         = 0
(左右逆も同様:ただし要求される分配律の左右が逆となる)

というわけで、
        (A)と「零元に乗法逆元が存在」
        (B)と「零元に乗法逆元が存在」と「乗法に結合律が成立」
の2通りの条件を発見したのですが、
もっと緩い条件ってあるでしょうか?

                                戸田 孝@滋賀県立琵琶湖博物館
                                 toda@lbm.go.jp