先に、塚本さん writes:
> # 放置されている…….

そういうつもりはないのですが、ともかく時間がなくて。

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んでもって。
何でもそうですが、特に数学においては言葉の定義・意味を正確に理解し、
使用しないと何の話をしているのかわからなくなってしまいます。
これは単に意志疎通を阻害するというだけでなく、
その背後には往々にして何らかの思い違いや理解不足が隠れています。
残念ながら、小林さんの記事にはそのような点が多々見受けられます。

なだめ役は河野さんに任せるとして、問題と思われる箇所を以下に指摘します。

Kenji Kobayashi wrote:
> ...「複素平面全体に渡る」という表現が誤解を招いているようです。
> 「全ての複素平明 [sic]」とは区別しているつもりです。

「複素平面全体に渡る」と言われたら「複素平面のすべての点において」
としか受け取れませんし、少なくともそう解釈することに読者の側には
責任はありません。それを「誤解」というのは不適切です。

> 孤立しているゼロ点や特異点を除いた全ての複素平面のことを
> 「複素平面全体に渡る」と表現しているつもりです。

ここで「ゼロ点」とか「特異点」と言われているのは小林さんの言う
「解析関数」のそれのことと思いますが、そもそも何をもって「解析関数」
とされているのか、私には未だに判然としません。

普通に言う「解析関数(正則関数)」等々は次の意味です。
・f(z) が領域 D のすべての点で(複素)微分可能なとき、
 「D で正則(解析的)」と言う。
 このとき f(z) は(D において)「正則関数(解析関数)」である。
・f(z) が点 a で正則とは、a の近傍で正則なことを言う。
 # 単に a だけでなく、近傍(a を含む開集合)であることに注意。
・f(z) が a で正則でないとき(f(a) が定義されない場合も含む)、
 a を f(z) の特異点と言う。
・a が f(z) の特異点であり、a の近傍の a 以外の点では f(z) が
 正則なとき、a を f(z) の孤立特異点と言う。
 (孤立特異点でない特異点は「非孤立特異点」、「集積特異点」
  などと言う。)

すると「f(z) は特異点を除いては正則である」というのは、
単なる同語反復です。(=「正則でない点を除けば正則である」)

上の文では「孤立している」(つまり「孤立特異点である」)という
条件がついています。これは単に「特異点」と言った場合とは関数の
性質がガラッと変わります。

しかし小林さんの最初の記事を見ると「孤立している」というのが
前提なのか結論なのか、どういう話として言われているのかが
判然としません。

次に、全体を通じて「ゼロ点」へのこだわりが見られますが、
小林さんが問題とされている「逆関数」を考える場合、
(元の関数の)ゼロ点であることには格別の意味はありません。
逆数関数(というの?呼び名がわからない)、つまり f(z) に対する
g(z) = 1/f(z) を考える場合には、(f(z) のゼロ点が g(z) の特異点に
なりますから)意味はあります。
あくまで推測ですが、それが混同されているように感じられます。

>>f(z) = e^z は解析関数ですが、そのゼロ点はどこでしょう?
> 
> 左反平面 [sic]の無限遠点です。
> z->1/z と変換してやった e^(1/z) は 0+0i のみを特異点とする、
> 「複素平面全体に渡って」定義されている解析関数となります。
> その値域は複素平面全体に渡ります。

この点についてはすでに塚本さんとのやりとりがありますが、
それ以前の問題として、小林さん自身が対象を「複素平面」とされています。
しかし「無限遠点」は複素平面上の点ではありません!

複素平面はあくまで、...まあ、平面です。
それを、言うなれば、無限のかなたにある「ふち」を丸め集めて、
それでも1点空いている穴ぼこを「無限遠点」として塞いだのが
「リーマン球面」です。つまり無限遠点は複素平面の点ではありません。

そしてすでに塚本さんも述べているように、無限遠点に
「左半平面の」も「右半平面の」もありません。
そして無限遠点∞は e^z の真性特異点ですから、たとえこれを「複素平面」
に加えたところで、「複素平面全体に渡る」からは除外される点のはずです。
 # ちなみに真性特異点の近辺では、関数値は任意の値 a にいくらでも
 # 近づきえます(Weierstrauss? これ自体、驚異的なことですが)。
 # しかしこれは、実際に値 a をとる点が存在するという意味ではありません。

>>逆関数の y = x^(1/3) は x=0 で微分不能です。
> 
> 仰るとおりです。そして y=x^(1/3) は「複素平面全体に渡って」定義されている三価の
> 解析関数の一部です。y=z^3 の逆関数の値域は「複素平面全体に渡り」ます。

これは2つの点でおかしな応答です。
1つには、私が問題にしているのは、f(z)=z^3 が f(0)=0 であり、
z=0 で正則(微分可能)であるにも関わらず、逆関数 g(z) = f^{-1}(z) = z^(1/3) は
z=0 では微分不能、したがって z=0 を含む領域では正則でないという点であって、
g(z) 自体の定義域や値域がどうこうではありません。

2つには、g(z) は(多価とはいえ)「複素平面のすべての点」が
定義域にも値域にも含まれます。
したがってわざわざ違いを強調された「複素平面全体に渡る」を
なぜここで用いるのか、わかりません。
何か含まれない点がある、ということなのでしょうか?

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次に別便の
  Message-ID: <dnk4nn$1f0c$1@news.jaipa.or.jp>
について。
まず第一に、ニュース記事に画像ファイル等の添付ファイルはつけないでください。
これは単にファイルが大きくてジャマとか、使っているニュースリーダーによっては
画像が全然見られないといったことだけでなく、セキュリティ上の理由からでしょう、
ニュースサイトによっては記事そのものが削除される場合もあるからです。

実際、私の大学のサイトではこの記事は読めますが、google のサイト
 http://groups.google.com/group/fj.sci.math?hl=ja
ではこの記事は現れていません。
あるいは塚本さんがこちらに触れられていないのもそういったせいかもしれません。
(念のため、テキスト部分を末尾に全文引用しておきます。)

その上で:
>>「自然境界」というのがあります. 有名なのは
>> ∞
>> Σ z^{n!}
>> n=0
>
> 特異線は存在しないが、孤立した特異点が半径 1 の円周上に稠密に
> 存在しているわけですね。

「稠密に存在している」なら「孤立特異点」ではありません。
上述の「孤立特異点」の定義を見直してください。

ちなみに「稠密に存在」については、|z|=1 であり、Arg z/2π が有理数であれば、
上の級数が +∞に発散することはすぐわかります。

少し余談ですが、実際にはこの級数は |z|=1 であるすべての点で発散します
(収束しません)。ただ、それからただちに、|z|=1 の点はすべて特異点である
ことにはなりません。これは:
 1/(1-z) = 1 + z + z^2 + ... + z^n + ...
の右辺は |z|=1 のすべての点で発散しますが、特異点は z=1 だけで、
他の点では解析接続可能であることからもわかります。

その上で、Arg z/2π が有理数である点が特異点であり、稠密であることから、
(無理数の場合も含めた) |z|=1 の点はすべて非正則、つまり特異点です。
(上述の「点 a で正則」の定義を見直してください。)

したがって「特異線は存在しない」のではなく、単位円 |z|=1 は「特異線」です。
 # もっとも解析接続できないことを言うためには、特異点が稠密にあることを
 # 言うだけで十分ではありますが。

(平賀@筑波大)

In Message-ID: <dnk4nn$1f0c$1@news.jaipa.or.jp>
Kenji Kobayashi wrote:
> 塚本さん、面白い反例を示してくださりありがとうございます。小林@那須です。
>
>>Picard の大定理や値分布論というものがあります.
>
> 多様体論も理解していない人間は、下手に近づかないほうがよさような分野に見えます。
>
>>「自然境界」というのがあります. 有名なのは
>> ∞
>> Σ z^{n!}
>> n=0
>
> 特異線は存在しないが、孤立した特異点が半径 1 の円周上に稠密に存在しているわけ
ですね。
>
> -1+i, 1-i の対角線で示される正方形領域での値分布を図示しててみました。下の gif フ
> ァイルを添付します。
>
> natBdry1_1_1_1.gif
> natBdry1_1_1_1R
>
> それを拡大した-1+0.1i, 0.8-0.1i の対角線で示される正方形領域の値分布も図示しま
した。
>
> natBdry1_08_01_m01
> natBdry1_08_01_m01R
>
> これらの複素数値分布を見ていると、確かに解析接続では半径 1 の領域を超えられない
> のが納得できます。
>
> また -0.95+0i の近辺にゼロ点があるのが分かります。どうも半径 1 の壁の近辺には無
> 数のゼロ点と無限大点が分布していそうです。これらがフラクタル構造をもっているよう
> です。
>
> 勉強になりました。ありがとうございました。
>
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> EMAIL kenji@nasuinfo.or.jp
>
>>http://www.nasuinfo.or.jp/FreeSpace/kenji/index.htm
>
> 小林憲次
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