Re: [Q] 解析接続により、常に複素平面全体を定義域とできる?
Kenji Kobayashi wrote:
> 小林@那須と申します。
以下は何かひどく混乱しているようです。
> 解析関数の逆関数と Riemann 面の関連で遊んでいるうちに、f(z)=c の定値関数をのぞき、
> 任意の解析関数の値域は複素平面全体に渡るように思えてきました。
f(z) = e^z は解析関数ですが、そのゼロ点はどこでしょう?
> 逆関数 f^-1(z) も解析関数であることより、
すでに実数の範囲で考えても、y=x^3 は「解析関数」ですが、
逆関数の y = x^(1/3) は x=0 で微分不能です。
> f(z)=c の定値関数を除き、
>
> ・任意の解析関数の値域は複素平面全体に渡る
> ・任意の解析関数の定義域は複素平面全体に渡る
> ・任意の解析関数の特異点/ゼロ点は孤立する。特異線、特異面などは存在しない。
> ・任意の解析関数は、その一部分だけから解析接続によって複素平面全体に渡る値を決定できる
そもそも「解析関数」(正則関数でもいいですが)を言うには、
どのような領域でかを明示する必要があります。
関数 f が領域 D で解析的とは、D のすべての点で(複素)微分可能なことです。
D が複素平面 C 全体の場合には、特に「整関数」と言うようです。
ですからこの意味での「解析関数」には特異点は(定義により)ありません。
# 「解析関数の特異点」といった言い方があり、高木:『解析概論』にも
# そういった見出しがあるのは遺憾なことですが、
# よく読めばわかるように、「特異点以外では解析的」な関数のことです。
> これらが正しいならば、吃驚すべき解析関数の性質です。でも、こんな基本的で驚くべき
> 性質があるならば、定理として解析関数の教科書に書かれるはずです。
上の第1点は誤り、
第2点は「整関数」と読み替えれば定義の同語反復(整関数は C 全体で解析的な関数)、
第3点のうち「特異点」はナンセンス、ゼロ点については正しいですが、後述。
第4点も、特異点を回避しての解析接続なら意味はありますが、
特異点を回避して解析接続したところで特異点がなくなるわけではない。
逆に解析的である領域内では接続などする必要はありません。
第1点に関しては Liouville の定理:「(定数関数でない)整関数は有界ではない」
があります。
第3点の「ゼロ点は孤立点」は既知の事実で、例えば杉浦光夫:『解析入門 II』の
定理 3.7 をご覧ください。
後半の「特異線、特異面」を「f(z)=0 である曲線・面があるか」と読み替えれば、
「一致の定理」を参照。
(平賀@筑波大)
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