4日目その7 [主寝坂峠〜及位]

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走行日: 2009年8月4日(火)

[地図: 中田〜及位]

主寝坂峠(しゅねざか - ), この奇妙な名前の由来は, この地に伝わる伝説に因ります。

その昔, 矢島藩(秋田県由利郡, 現在の由利本荘市)の姫君が戦に逐われ, ただ一人の若武者を従としてこの地まで逃れて来た際, 嵐に見舞われた。やっとの思いで峠にあった朴(ホウノキ)の側の洞穴に転がり込んだが, その夜, 嵐の恐怖と心細さから二人は主従の一線を越えてしまった。

嵐が明けて我に返った若武者は自害して果て, 姫君は出家したという。

悲恋の物語として紹介される事が多いけど, これあくまでも『気の迷いとその末路』であって悲恋ではないと思うんだけどなあ。何にせよ, 矢島藩にこのような事件の記録は無く, また地理学に於いては峠北部の『塩根川』(真室川の上流部本流, こちらはアイヌ語由来)との関連から『塩根坂』の転訛という説が有力であると書き添えておきます。

執筆上の参考資料:

写真コメント
[写真: 外沢IC手前]
(15:11)

再び主寝坂道路との離合点が近付いて参りました。ここは外沢集落の近く, 外沢川支流の主寝坂沢川を左岸から右岸へ渡る場所です。

[写真: 外沢IC]
(15:13)

主寝坂道路の外沢ICです。大型車がバンバン通っています。対するに旧国道(今も国道ですが)は, 沿線住民と思しき車が時折通る程度で, 幹線国道とは呼べない長閑な様相を呈しています(旧国道から主寝坂道路の様子が見えるからなおさら)。もっちろん, 自転車天国。

[写真: 新主寝坂トンネル 1]
(15:18)

旧国道がゆっくりと高度を上げて行くその脇で, 主寝坂道路最大の構造物・新主寝坂トンネルが頂部を覗かせてきました。このバイパスを建設した最大の理由と言って間違いではない, 高規格隧道です。何しろ旧国道では……(後述)

[写真: 新主寝坂トンネル 2]
(15:20)

坑口の真横が, 坑口を一番良く眺められる場所だったりします。

[写真: 主寝坂隧道 中田側坑口]
(15:25)

これまでの峠道で一番の緩勾配だった道をゆるゆると登り, 主寝坂隧道にやってきました。この隧道の狭小さ及び迂回路の無さを克服するために造られたのが, 主寝坂道路の新主寝坂トンネルなのです。坑門の見応えではこちらの方がはるかに上ですがね。

[写真: 主寝坂峠 中田側入口 1]
(15:26)

隧道の手前で分岐する道が, 主寝坂峠への入口です。ここまで及びこの先が三島道。

……で, これまでの流れでいくなら, ここは峠へ向かうべきなのですが, そうはいきません。昨日今日越えて来た数々の峠道とは異なり, 主寝坂峠旧々道は, 特に及位側で完全な廃道になっていて, 通過困難なのです。整備されていないだけでなく, 新道(今通っている旧国道)建設によって路盤が破壊された箇所もあります。また今は夏ですから廃道の主役は人ではなく植物。徒歩ならともかく自転車, それも大荷物を抱えた状態では, 藪漕ぎなど到底不可能です。私のような『オブローダーではない』人間には, 突破は不可能でしょう。

[写真: 主寝坂峠 中田側入口 2]
(15:26)
[写真: 主寝坂隧道 1]
(15:28)

そんな訳で, 主寝坂隧道に入ります。……べ, 別に悔しい訳じゃないんだからね!? ここは峠越えできないって出発前から判っていたんだし, 隧道で越えるのも次善の策とはいえ峠越えに数えるって決めてたんだからっ!

[写真: 主寝坂隧道 2]
(15:29)

主寝坂隧道内部です。道は及位側へ向かってやや登りですけど(中田側坑口は標高297.7m, 及位側坑口は312.7m), 隧道までの道よりもっと緩い勾配で, ほとんど気になりません。路肩は狭く外側線は凹凸があり路面は濡れている, という悪条件が重なっているものの, 苔が生えていたり泥が溜っていたりはせず, 何より交通量がほとんど無いため走ろうとすれば車道のド真ん中だって走れるのですから全く問題無しです。主寝坂道路開通前であれば地獄だったでしょうが……今は自転車天国〜。

[写真: 主寝坂隧道 及位側坑口]
(15:33)

及位側坑口も中田側とほとんど変わらない構造です。しかしこれ, 直線で対向車の様子が良く見える構造で良かったんですよね。見通しが利かず大型車が洞内で鉢合わせする事態が起こり得るようなら(例: 釜トンネル), 渋滞の発生頻度と回復困難度は現役時の比では無かったでしょうから。

[写真: 慰霊碑]
(15:34)

恐らくは隧道工事時のものであろう, 慰霊碑がありました。今でも詣でる人が居るんですね。

[写真: 主寝坂峠遠景]
(15:35)

ちょっと降り始めたところで振り返り撮影。あの鞍部が主寝坂峠ですね。……道の脇に平場があるように見えますが, これは峠道ではなく……いや, 峠道なのかな? 但し旧々道ではなく旧々々道, 即ち藩政期の道。峠から隧道坑口付近に降りて, 更に旧及位へ直接降りていた筈ですから。

[写真: 擁壁上の道? 1]
(15:37)

確かヨッキれんさんのレポートによると, 旧道によって破壊された旧々道が擁壁上で法面と落石防止フェンスの間の極狭い隙間に押し込められている箇所がある, という事でしたが……この2箇所かな。下からではとてもそこに道があるようには思えませんね。

[写真: 擁壁上の道? 2]
(15:38)
[写真: 主寝坂峠 及位側入口]
(15:39)

で, ここが多分, 及位側の峠道入口。知らなきゃ道だと思いませんよね(^^;;;

[写真: 新及位]
(15:41)

羽州街道第20の宿場・及位宿にやって来ました。ちなみに『及位』は『のぞき』と読みます。正確にはこの集落は『新及位』といい, 旧々道(三島道)が整備された時に本来の宿場であった旧及位から移された町です。一旦国道を離れ, 集落内に入りましょう。

[写真: 明治天皇御小憩所碑]
(15:45)

明治天皇御小憩所碑がありました。これは『羽州街道をゆく』に掲載されていなかったので完全に不意討ち(地形図には石碑の記号がありましたが)。私は明治天皇の通った道を辿ってもいるのですね。

で, 天皇に倣った訳ではありませんが, 水分が不足してきたので休憩。コンビニ無かったので, 佐藤商店なる所の自販機でペットボトルを……140円, また微妙な値段だこと。

[写真: 真室川IC]
(15:50)

新及位の集落を抜け, 再び国道と合流する点……ですが, 右から別の車道が同時に合流して来ました。大きな道なのに地図に無いから何だと一瞬混乱しましたけど, ああ主寝坂道路の真室川ICですね。金山ICから始まった自動車専用道路の終点(起点)です。つまりここから交通量が増える訳です。自転車天国, おしまい。

[写真: 及位隧道 遠景]
(15:50)

……そして, ICを挟んだ向こうに, 隧道が見えています。

[写真: 及位隧道]
(15:52)

それは及位隧道。新及位集落と朴木沢集落の間を繋ぐ道です。改修済み(上り線には歩道もある)でも『隧道』と名乗り続けているのって, 好感が持てますね。しかし, 長さも83mしか無いんですが, 交通量が増えたところで隧道ってのは嫌ですねえ。

[写真: 及位隧道旧道]
(15:52)

でも大丈夫。ここには旧道があるのです。……道の反対側なので渡るのに結局苦労するんですけど。

[写真: 朴木沢川]
(15:53)

隧道は朴木沢川(最上川水系最後の川です!)を蛇行させている張り出しを貫き, 旧道は崖を捲いています。うーん, 川岸がガチガチに固められているのは美しくない……でもここを自然のままにすると, この旧道なんかあっさり崩れてしまいそう……

この旧道を走りながら動画を撮影してみました。 → dscf8949.avi (33.0秒, 38,572,022Bytes)

[写真: 及位隧道旧道出口]
(16:00)

ど, どうにかゲートを突破……。いや破壊的な事はしていませんよ!? はーっ, こんな罠が待ち構えているとは思いませんでした。中央部分で封鎖されていたならともかく, 現道との分岐直後に片側だけあるなんて。

実はこの旧道, 及位隧道改修工事(平成10年頃?)が行われていた際に迂回路として使われたらしいのです。舗装が比較的綺麗なのもそのためなんでしょうね。

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水野夢絵 <mwe@ccsf.jp>
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