安井@東大です。

>> In article <3FCAC9F4.4040406@bun.kyoto-u.ac.jp>, NAGAI Kazu wrote:
>>> 「皆殺し」に該当しそうなのは、中米のカリブ海地域でしょうが、しかし最初
>>>から「皆殺し」にしたわけではない。労働力として酷使する必要がありましたか
>>>ら、最初に「皆殺し」にしてしまっては元も子もない。それにインフルエンザの
>>>流行とかもありましたし。

> 頼光さん in <bqqbl8$at7$3@bgsv5647.tk.mesh.ad.jp>,
>>  最後に、インフルエンザなどという話は、数字が出てこなけれ
>> ば意味のある話ではありません。なぜなら、病気は人を選びませ
>> んが、皆殺しは人を選ぶからです。このことは、今の具体的な論
>> 点が何であるか考えれば、単純に持ち出せる話ではないことが分
>> かるでしょう。

永井さん in <br1mot$2j4$1@caraway.media.kyoto-u.ac.jp>,
>  生憎、数字データはもっていません。申し訳ありません。まだまだ修行が足り
> ないようです。
>  ただ、ラテンアメリカの歴史の概説書では次のように書かれています。
> 「この制度(エンコミエンダのこと―永井)が現実に適用された場合、保護の責
> 任よりも使役の権利が強調され、住民の生活に破壊的な影響をおよぼした。住民
> たちは、不衛生な環境で苛酷な条件のもとに働かされて、栄養不良に陥り、また
> 旧世界からもたらされた細菌やウィルスにおかされて死亡したためん、人口の激
> 減が起こった。」(増田義郎・山田睦男編『ラテン・アメリカ史I』山川出版
> 社、1999年、p.61)

同じ概説書の別の箇所には「数字データ」が出てきています。
 「ヨーロッパ人との接触がメキシコならびに中米地域にもたらした疫病
  には、百日咳、インフルエンザ、はしか、天然痘などがあった。メキ
  シコ中央高原では、スペイン人と接触した直後の一五二〇年に天然痘
  が発生しており、一五四五〜四八年の疫禍では先住民人口の三分の一
  が失われた。しかし、一五七六年の疫病の被害はなお甚大で、一五一
  九年に最大推測で二五〇〇万人を数えた人口が一六〇五年までに一〇
  七万五〇〇〇人に落ち込んだ。先住民人口の変動には地域差があるが、
  一六世紀末までに九五%も減少したところもあった。」(104-105頁)
また、『ラテン・アメリカを知る事典』新訂増補版(平凡社, 1999年)の
「インディオ」の項目には「人口の減少」という小項目が設けられており、
そこでは、
 「戦闘よりも旧大陸から征服者や入植者が持ちこんだ天然痘、チフス、
  はしか、インフルエンザ、梅毒がおもな原因で人口が激減した。特に
  政治的統合レベルの低い社会のうけた衝撃は大きく、カリブ海では土
  着人口は消滅に近くなり、南チリの狩猟漁労民のチョノ、アラカルフ、
  ヤガン、フエゴ島のオナはほとんど絶滅した。{中略}インディオ人
  口が生存しつづけ、現在まで大規模に残存しえたのはメソアメリカと
  アンデスであったが、これらの地域でも人口の減少は激しかった。た
  とえば、中央メキシコの場合、2520万(1519)、630万(1548)、107万
  5000(1605)となっている(ボラーの算定による)。」(70頁)
と説明されています。
永井さんは記事<br1mot$2j4$1@caraway.media.kyoto-u.ac.jp>において
> 上記では「細菌やウイルス」であって、病名は特定されていませんが、前文で、
> インフルエンザとしたのは、私の責任です。ラテンアメリカには、ある種の流
> 行性感冒ウイルスに対する免疫がなかったと、昔小耳にはさんだことがあったか
> らです。
> きちんと調べると、「インフルエンザ」の部分は訂正を要するかもしれません。
とされておいでですが、これら概説書・事典の記述に鑑みますと、特段の
訂正を要するものとは思えません。
 # 記事<3FCAC9F4.4040406@bun.kyoto-u.ac.jp>での元々の表現は、「そ
 # れにインフルエンザの流行とかもありましたし」でしたし。


>  でも、免疫ということがありますから、必ずしも「病気は人を選ばない」が真
> 理と言えないのは、疫学的に見て明らかではないでしょうか。種痘や予防注射は
> 何のためにやるんですかね。

今手元にはないのですが、ジャレド・ダイアモンド(倉骨彰[訳])『銃・
病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』(草思社, 2000年)が、
免疫の有無という点から先住民人口の一方的な激減という現象を説明して
いたように記憶しています。
なお、Amazon.co.jpのレビューは、この本の内容を
 「他文明を征服できるような技術が発達する条件は定住生活にあるのだ。
  植物栽培や家畜の飼育で人口は増加し、余剰生産物が生まれる。その
  結果、役人や軍人、技術者といった専門職が発生し、情報を伝達する
  ための文字も発達していく。つまり、ユーラシア大陸は栽培可能な植
  物、家畜化できる動物にもともと恵まれ、さらに、地形的にも、他文
  明の技術を取り入れて利用できる交易路も確保されていたというわけ
  だ。また、家畜と接することで動物がもたらす伝染病に対する免疫力
  も発達していた。南北アメリカ、オーストラリア、アフリカと決定的
  に違っていたのは、まさにこれらの要因だった。本書のタイトルは、
  ヨーロッパ人が他民族と接触したときに「武器」になったものを表し
  ている。 」
(http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4794210051/250-1639147-1934626)
という形で紹介しています。御参考までに。
-- 
*  Freiheit  | 安井宏樹(YASUI Hiroki), jyasui@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp     *
*  Recht     | 東京大学大学院法学政治学研究科・比較法政国際センター      *
*  Einigkeit | (現代ドイツ政治,ヨーロッパ政治史)                        *