Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
携帯@です。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
# ……と書きつつ、実質「カードキャプターさくら」妄想であったりします。
# subjectに大偽りあり。^^;;;;
^L
本来であれば、前回の続き、第174話を記述すべきところですが、今回は本編より少
し横に逸れて「神風怪盗ジャンヌ」と同時期に放映されていた「カードキャプターさくら」
との複合妄想です。
# …で、第174話はその後に続けて。^^;;;
それぞれの使命を帯びて、別々の場所で働いて来たさくらとまろん。
同じ日本で同じ時期に動いている二人がもしも出会ったら…という設定で、「神風・愛
の劇場」シリーズの中でも何度か二人が共演する話がありました。今回から5回(予定)
に分けて続く番外編は、「神風・愛の劇場」本編にさくらちゃん達が登場した、神風・愛
の劇場 第172話において、さくらちゃん達がどのように動いていたのかを描くもので
す。
# 実質主人公は知世ちゃんな気がしますが。
本来であれば、第172話終了後、即投稿する予定だったのですが、予定より長くなり
過ぎてしまい、漸く投稿出来る運びとなりました。
既に第172話のことを忘れてしまった方は、以下から参照して頂けると幸い。
(その1)は<bnvv4r$p9c$1@news01de.so-net.ne.jp>から
(その2)は<bol12s$5cr$1@news01cj.so-net.ne.jp>から
(その3)は<bpanfp$235$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
(その4)は<bpsnob$hnq$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
(その5)は<bretjg$k62$1@news01dj.so-net.ne.jp>から
(その6)は<budosi$mf3$1@news01dg.so-net.ne.jp>から
(その7)は<bvibt5$6bs$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
(その8)は<c05ag2$aqq$1@news01di.so-net.ne.jp>から
(その9)は<c12ghi$g3q$1@news01de.so-net.ne.jp>から
(その10)は<newscache$sfa7uh$klk$1@news01a.so-net.ne.jp>から
(その11)は<newscache$9pfavh$4kg$1@news01a.so-net.ne.jp>から
(その12)は<newscache$t8l1xh$f2h$1@news01d.so-net.ne.jp>から
(その13)は<newscache$d6j5yh$q4j$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その14)は<newscache$sjiiyh$nsj$1@news01d.so-net.ne.jp>から
(その15)は<newscache$vkkgzh$hqd$1@news01b.so-net.ne.jp>から
(その16)は <newscache$mxh60i$oqb$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その17)は<newscache$03mh0i$c1i$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その18)は<newscache$n8rc1i$7l8$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その19)は<newscache$bmku2i$ss9$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その20)は<newscache$utnv3i$3mc$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その21)は<newscache$xvgx3i$zjj$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その22)は<newscache$8c5l4i$42a$1@news01b.so-net.ne.jp>から
(その23)は<newscache$mu7l4i$4d5$1@news01a.so-net.ne.jp>から
(その24)は<newscache$9kdl4i$164$1@news01e.so-net.ne.jp>からそれぞれどうぞ
それでは、早速始めます。「レリーズ!(封印解除)」(←実質、さくら妄想なので)
★神風・愛の劇場 番外編『さくらとまろんと遊園地』(その1)
●2月19日:知世の家
それは、桃矢が雪兎の正体を知っていると告白し、その力を雪兎──或いはユエ──に
渡した数日後。
カードキャプターの活動に大きな影響を与えることになったそんな状況とは関係無く、
知世は自室で趣味の活動に耽っていました。
知世の趣味──即ちそれは、愛しいさくらの美しい姿の撮影。
そのために、さくらに着せる衣装を作ること。
しかし、今知世が作っている服は普段とは少しばかり違っていたのです。
「まぁ。素敵ですわ」
「お嬢様…」
知世の母、大道寺園美の命により、何時も影で知世のことを守っている女性ボディガー
ド。その中の一人が、知世の前に立っていました。
滅多に感情を表に出さぬ彼女達。しかし、今は知世の言葉に頬を染めています。
それも当然、彼女の服装は普段身に纏っている黒いスーツでは無く、色こそ同じながら
下着姿だったのです。
「着心地は如何でした?」
「はい。最高です。ですが」
「何ですの?」
「その、どのような方がこれを着られるのでしょう?」
「高校生位の方を考えておりますわ」
「そうでしたら、もう少し学生らしいものにした方が良いと思うのですが」
「まぁ。そうですの?」
かつて知世は、さくらが魔法の力で大人になってしまった時のためのバトルコスチュー
ムと下着を試作したことがありました。
そして去年の春、それを偶々知り合った高校生位の女の子に実際に使って貰う機会があ
ったのですが……。
「(クマさんプリントパンツは、確かに子供っぽかったですわね)」
さくらにまで指摘されてしまった知世の下着とは。
可愛らしさと清楚さを重視して、白いブラとショーツ。
ショーツにはワンポイントとして、さくらの大好きなクマさんプリントをあしらったも
のでした。
作った時は可愛いとは思ったものの、確かにあの時の女の子──日下部まろん──がと
ても恥ずかしそうにしていたのが記憶に残っています。
その日以来、さくらのバトルコスチューム作りの合間に、仮にまろんが着ても恥ずかし
くないような下着のデザインを勉強して来た知世。
知世の現在の技術では、デザインした下着を自分で作ることが出来ず、結局は大道寺グ
ループの関連会社にデザインを示し試作して貰いました。
そして、知世のお屋敷の中で、まろんに似た体格だったボディガードの一人にお願いし
て、試着して貰ったのですが。
「(ちょっと、アダルト過ぎでしたかしら。失敗ですわ…)」
はぁ。とため息をついた知世。
その様子を見て、モデル役のボディガードは慌てます。
万が一、知世様を傷つけてしまったとあっては、クビにならずとも次のボーナスの査定
に響くことは間違いなく、それで無くとも自分が身も心も(?)お仕えする園美様の愛娘
を傷つけるつもりもありません。
「知世様。確かに学校にはつけては行けないでしょうけど、ハイティーンの女性は背伸び
したいお年頃。このデザインもありかもしれません」
ボディーガードが言うと、知世の顔がぱあっと輝きます。
それを見て嬉しくなったボディーガードは、調子に乗って言葉を続けました。
「例えばデートの時に着ると良いかもしれません。もう少し淡い色合いにすると、子供っ
ぽくも無く、それでいて清楚な感じで良いと思います。殿方は、清楚な感じを喜ばれる方
が多いですし」
「随分と、詳しいですのね」
「い、いえ。見るのは殿方だけとは限りませんし。例えばプールに出かけた時とか…」
慌てて弁解するボディーガード。
ですが、大体の事情は知世も分かっていたのです。
彼女の言う殿方は本当は同性であろうことに。
それよりも、彼女の助言には知世も頷ける部分がありました。
「ありがとうございます。早速、デザインを見直してみますわ」
「失礼なことを言って、申し訳ありません」
「いいえ。貴重な意見ですわ。そうだ! お礼にその下着、差し上げますわ」
「え!? 良いのですか?」
「もう一つありますから。どうぞ着ていって下さいな」
「あ…ありがとうございます!」
感激で声を震わせ、ボディーガードは頭を下げるのでした。
*
ボディーガードが退出して行った後、デザイン案を幾つか練り直すことにした知世。ま
ろんにサイズを合わせているとは言え、本当はさくらが大人になった時のために「着て頂
く」ための下着のつもりですから、
資料として集めた世界中のランジェリーメーカーのカタログ等が積み上がったテーブル
で、デザインの手直しをした知世。
時間が過ぎるのを忘れて没頭していたのですが、午後十時前には眠くなってしまう辺り、
やはりまだまだ子供です。
両手を上げ、伸びをした知世は、リモコンを手にしてテレビのスイッチを入れました。
知世は、小学生ながらニュース番組をきちんと見ているのです。
“それでは現場から中田記者の報告です”
“今、私は桃栗体育館前の広場に来ています! 昨日までは私の後ろには、ライトアップ
された県立桃栗体育館がありましたが、今はご覧の通り、瓦礫の山となっています。警察
の発表では、今のところ若干の怪我人が出てはいるものの、死者・行方不明の方はいない
そうです”
報告の途中で、桃栗体育館倒壊の瞬間の映像が映し出されました。
自分が下着デザインに没頭している間に、こんな大事件が起きていたことに軽い衝撃を
覚えた知世。
しかし、自分に何も知らせが無いことは、要するに大道寺グループにとってこの事件は
大して影響が無いという証。
故に知世の視聴態度は、大道寺グループをやがて背負って立つ少女としてのそれでは無
く、一市民としての興味本位のそれとなりました。
メイドにお願いして紅茶を入れて貰い、ニュース番組を見続けた知世。
その日のニュースは、怪盗ジャンヌの出現とそれに伴う桃栗体育館の倒壊のニュースが
大半を占めていました。
“怪盗ジャンヌは、これまで美術品といった類を盗む泥棒だと思われていましたが、最近
は建造物を破壊することが多いようですね”
“こちらをご覧下さい。これまでジャンヌが現れた場所と、それに伴う建造物の被害状況
です。今回の取材で桃栗警察は初めて、怪盗ジャンヌが過去に桃栗警察署の電子計算機室
を破壊していたことを明らかにしました”
“これは警察が怪盗ジャンヌに対する見方を改めたということでしょうか”
“はい。警察は怪盗ジャンヌをテロリストとして…”
どうやら、怪盗ジャンヌはテロリストだというトーンで、このニュース番組は報じてい
る様子でした。
ため息をついた知世は、別のチャンネルに切り替えます。
このニュースと同じ時間帯で放映されている別のニュース番組でもやはりこの事件の特
集が組まれていました。
こちらでは、怪盗ジャンヌが体育館の中にいた人達を助けるために体育館の中に残った
との情報をこちらも警察筋からの情報として伝えていました。
“怪盗ジャンヌがテロリストだという情報もありますが…”
“いえ、体育館の倒壊が怪盗ジャンヌの仕業であれば、観客達を外に出すために残ったり
はしないでしょう。これからも調査を進める必要があるでしょうね”
“ジャンヌはただの泥棒では無くて、何かと戦っている。そんな気がします。それではC
Mです”
こちらは、先程のテレビ局とは全く別の見解を示していました。
知世は事実に基づいているか疑わしい自分の推測をキャスターがCM寸前に言い抜ける
このニュース番組の姿勢が好きではありませんでしたが、今回の推測自体は深く頷けるも
のがありました。
「(さくらちゃんは、怪盗ジャンヌは何かを封印していると言っていましたもの)」
昨年の秋、知世はさくらから怪盗ジャンヌに出会ったという話を聞かされていました。
なので、ニュースから受ける怪盗ジャンヌとは別の印象を持っていたのです。CMが開け
るとスポーツのコーナーでした。
“本日のスポーツは、予定を変更してまずこちらからご覧下さい”
映し出された映像を見て、知世はほぅとため息をつきました。
大型テレビの中で、妖精が舞っていました。
そしてその妖精を知世は知っていたのです。
“ご覧頂いている映像は、本日倒壊した桃栗体育館の中で直前まで行われていた、「全国
高等学校新体操選抜大会」の地区大会の競技の模様です。これは、準優勝だった山茶花弥
白選手のリボンの演技です”
「(素晴らしいですわ。弥白お姉様…)」
両手を頬に添え、知世は頬を染めました。
大道寺グループと並んで日本を代表する山茶花グループ。
頂点に立つのが女性であるという点で共通するこの二つの企業グループは、家族ぐるみ
でのつきあいがあり、後継者となる筈の山茶花弥白と知世は小さい頃からの知り合いなの
でした。
“そして、こちらが今回地区大会個人の部で優勝した、日下部まろんさんの演技です”
その名前を聞いた瞬間、知世は緊張しました。
そして画面を見て、その緊張が正しかったことを知りました。
かつてさくらに人工呼吸を施し、その命を救った命の恩人。
日下部まろんがリボンを手にして、舞っていたのですから。
●数日後:知世の屋敷
普段は帰宅が遅く、滅多に顔を見ることの無い知世の母、園美。
その代わり、たまに一緒に過ごす時には、一杯知世に甘えさせてくれました。
しかし、久々に夕食を共にすることになった園美の表情は、いつものしまりの無い激甘
母の顔ではありませんでした。
こんな表情の時は、何か自分を怒ろうとしている時。
そしてその理由にも、知世は心当たりがあったのです。
「これをご覧なさい」
食後の紅茶の時間。後ろで給仕をしていたメイド達を下がらせて、二人きりになった時
に園美は本題を切り出しました。
向かい側に座っている園美が、テーブルの上を滑らせたものは、一冊のファイルでした。
それを開き、内容をぱらぱらと捲った知世。
中身は、知世の想像したとおりのものでした。
「うちの情報部門を勝手に使って、何をしていたのかしら?」
「個人情報の収集ですわ。お母様」
園美の問いに、即座に知世は答えます。
「やって出来ることと、やって良いことは違うのよ。判っていると思うけど」
「もちろんこれは、“やって良いこと”ですわ。お母様」
そう言い、にっこりと知世は微笑みました。
それを見て、園美はため息をつきます。
「別に、どこの誰かとか、経歴を調べる位なら怒るつもりは無いの。けど、クレジット
カードの使用履歴とか、購入した服のサイズまで調べるのはやり過ぎよ」
怒鳴るでも無く、園美は知世を諭します。
「判っています。判っていますわ、お母様。けれど」
「何?」
「この方、日下部まろん様は、私とさくらちゃんの命の恩人なんですの」
「命の恩人?」
「あれは、去年の3月頃、さくらちゃんと西伊豆にお出かけした時のことですわ。あの時、
大波が海岸に打ち寄せていて、さくらちゃんは波にさらわれてしまったんですの」
「そんな話、初耳よ」
目を見開く園美。知世はこの出来事を話してはいなかったのです。
愛しの撫子の娘であるさくらが死にかけたなんて、伝えたら園美は卒倒してしまいます。
「それで、私がさくらちゃんを助けようとしたけれど、私には無理で…。でも、そんな時
に私達を助けてくれたのが、日下部まろんさんですわ。水を飲まれたさくらちゃんの人工
呼吸までしてくれたんですけど、ろくにお礼もしないうちに、立ち去ってしまわれたもの
ですから、何時か機会があればと思っていましたの。そう思っていたら、この前のニュー
スでまろんさんが映っておられて、彼女のことを調べて改めてお礼をしようと思って…」
この知世の話を聞いて、園美は表情を緩めました。
「事情は判ったわ。でも、お礼をしたいだけなら、住所だけ調べれば」
「実は、その時に服がびしょ濡れになったまろんさんのために、私、自作の服と下着を差
し上げたんですの。けど、その時の私のデザインがちょっと子供っぽすぎて、大変恥ずか
しい思いをさせてしまいましたわ。それで、今度はもう少しはまともな服をお渡ししたい
と思って」
知世が衣装作りを趣味としていることは聞いてはいたものの、どんな服を作っているの
かについてまでは、良くは把握していなかった園美。
ですが、その思いは園美にもしっかりと伝わりました。
「それでサイズが必要だったのね…」
「そうですわ」
全ての事情が明らかとなったことで、安心した園美。
しかし、一言だけ注意しなければと感じます。
「判ったわ。でも知世ちゃん。何か調べたいことがあったら、私に頼んでね。部下への
手前もあるし」
「判りましたわ。お母様」
自分が直接母の会社の社員に命令することは、本来何の根拠も無い。
だから、最終的にすることは同じであるにせよ、必ず母を通すべきなのだ。
知世はまた一つ、大人になりました。
「で、この話はこれ位にして、別の話題に入りたいのだけど」
何時もの母の顔に戻り、園美は言いました。
「はい」
「実は、こんな物を貰ったのだけど、知世、お友達と一緒にどう?」
園美が差し出したのは、三枚のチケットと同じ数のリーフレットでした。
「水無月ギャラクシーワールド?」
チケットに書いてあった施設の名を知世は読み上げます。
チケットには加えて観覧車とジェットコースターの写真が印刷されています。
「3月3日。丁度ひな祭りの日にリニューアルオープンする遊園地よ」
「日本最大級の絶叫エリア…」
リーフレットの宣伝文句を知世は読み上げます。
それによると、ジェットコースター等の絶叫系の乗り物が充実しているのが売りの遊園
地であるようでした。
「私と知世、そしてさくらちゃんと一緒に行こうと思って貰ったんだけど。残念、私はど
うしても外せない仕事があるの。だから、さくらちゃんと一緒に行ってきたら? もう一
枚は、誰かお友達でも誘って」
そう言い、園美は片目を瞑りました。
「さくらちゃんと一緒に…」
その部分だけが、知世の頭の中で繰り返されました。
そして知世が何を考えているのかを見透かしているように、園美は囁きます。
「さくらちゃんと二人きりで、デートする?」
●更に数日後:知世の部屋
「こんにちわ」
「いらっしゃいませ。さくらちゃん!」
メイドに案内され、知世の私室へと招き入れられたさくら。
何時ものようににこやかに、知世はさくらを迎え入れ、私室に隣接する上映室へと招き
ました。
内心呆れつつも、親友の誘いを断り切れないさくら。
また何時ものように、自分の最近の活躍(?)振りを撮影したビデオの編集版を上映し
てくれるのに相違ありません。
さくらの想像は、概ね間違ってはいませんでした。
ただ一つ、上映した素材を除いては。
「ほぇ。このビデオって…」
「覚えていらっしゃいますか?」
「この後で、まろんさんに会ったんだっけ」
「そうですわ」
知世がビデオを早送りすると、まろんがさくらに「波(WAVE)」のカードを渡している
場面が映し出されます。
「不思議だよ。まろんさん、拾ったクロウカードを私にって、渡してくれたの。まるで観
月先生みたいに」
「そのまろんさんに、もう一度会いたいと思いませんか?」
「会えるの?」
「ええ」
知世は肯くと、私室にさくらを招きます。
そしてテーブルの上に一枚のポスターを置きました。
「『全国高等学校新体操選抜大会』…?」
そこに書かれた文字をさくらはつっかえつつも読み上げます。
「実は、日下部まろんさんは高校の新体操の世界では有名な方でしたの。それで、この大
会にまろんさんが出場なされるとか」
「それじゃあ、この大会に?」
「ええ。去年のお礼を改めてしたいと思うんですの。さくらちゃんも良かったら」
「うん! 行くよ!」
元気良くさくらは答えます。
さくらは、あの不思議なお姉さんのことをもっと詳しく知りたいと思っていたのでした。
「それでは決まりですわね。で、それとは別件なんですけど」
「ほぇ?」
ポスターをくるくると巻いて片づけた知世。
今度は机の引き出しの中からクリアファイルを取り出しました。
「実は、今度リニューアルオープンする遊園地のチケットが手に入ったんですの。さくら
ちゃん、二人で一緒に行きませんか?」
「面白そうだね。うん! 行く行く!!」
リーフレットを眺めていたさくらはもちろん、知世の誘いに肯きます。
もっとも心の片隅では、雪兎さんや小狼君も一緒ならと思っていたのですが。
●その日の夜:さくらの家
「ねぇお兄ちゃん。お願いがあるんだけど…」
さくらは、リビングでバイト情報誌を読んでいた桃矢に声をかけました。
「何だ。当番の交代なら無理だぞ」
「そんなぁ…」
機先を制されてしまい、さくらは嘆きの声を上げました。
「…何時の話だ」
「3月3日」
「金曜日だな。学校の後か?」
さくらは肯きます。
「何があるんだ?」
「遊園地のチケットを知世ちゃんが貰って、私も一緒にって」
「遊園地? それって確か今度出来る」
「知ってるの?」
「テレビで特集していたからな。水無月ギャラクシーワールドだろ?」
「うん!」
桃矢がこのような話し方をする時は大抵、渋々ながらも当番を代わってくれる時です。
なので、さくらも桃矢の色よい返事を期待していたのですが。
「その日はバイトだから無理だ」
「そんなぁ〜」
期待させておいて否定され、さくらは落胆しました。
「けど、その日は父さんは家にいる筈だから、頼んでみたらどうだ?」
「え!? そうなの?」
「大学は春休みだからな」
「うん。頼んでみる。ありがとう、お兄ちゃん! お父さ〜ん」
ソファから立ち上がると、藤隆の居る書斎へとさくらは走って行きました。
そのスリッパの足音を聞きながら、桃矢はバイト情報誌の読み飛ばした頁を再度開いて、
赤ペンで印をつけました。
「『アイスクリーム店販売スタッフ』か…。雪も誘った方が良いかな?」
●3月2日:友枝小学校
友枝小学校の休み時間。体育館の裏側に現れた小狼。
小狼が左右を見回すと、裏口のところで知世が手を小さく振っていました。
「手紙で呼び出して一体何の用だ」
知世の前に立つと、小狼は小声でそう尋ねました。
「その前に。さくらちゃんはご一緒ではありませんね?」
「ああ。手紙にそう書いてあったからな」
そう言うと、何故か顔を赤らめる小狼。
恐らく最初は、恋文か何かと勘違いしたのですね。
そう想像して、クスリと知世は微笑みます。
「本題はこれですわ」
念のため、自分でも左右を見回してから、知世はチケットを差し出しました。
「みず…なしつき? 遊園地なのか?」
漢字の日本語読みが得意で無い小狼は、水無月の文字を読むことが出来ません。
「水無月ギャラクシーワールド。明日リニューアルオープンする遊園地ですわ」
「俺は遊園地はあまり…」
「さくらちゃんと一緒でも?」
知世が言うと、小狼の表情が微妙に変化します。
「さくらが来るのか」
「ええ。もちろんですわ」
にっこりと、知世は微笑みました。
「明日、午後6時に水無月ギャラクシーワールドの正門前」
「え!?」
「明日の待ち合わせ場所ですわ。遊園地の場所はそのリーフレットにありますわ。そこま
で、行くことは出来ますか?」
リーフレットの遊園地の地図を知世は指し示しました。
「ここは…華僑の街の近くだ。遠縁がここで料理店を開いているから知ってる」
「そうだと思いましたわ」
「それで、明日なのか!?」
「何かご予定でも?」
ぶんぶんと小狼は首を振りました。
「それでは、決まりですわね」
「判った」
「それでこの話ですけど、さくらちゃんには内緒にして下さいね」
「どうしてだ?」
「さくらちゃんをびっくりさせてあげようと思って。協力して下さいます?」
そう言うと、知世は小狼を見つめます。
見つめられた小狼の顔がちょっと赤くなります。
そして小声で「わかった」と呟くのでした。
*
そんな二人のやりとりを体育館の屋根から見ていたエリオルと奈久留。
二人が去ってからエリオルは呟きます。
「遊園地ですか。遊ぶには、面白い場所ですね」
「それは、遊園地で遊ぶこと? それとも…」
「もちろん、どちらもですよ。奈久留」
そう微笑むエリオル。
そして次の瞬間には、二人の姿は何処かへと消えて無くなっていました。
●3月3日:友枝小学校
「それでは、今日はここまで」
寺田先生がホームルームの終了を告げると、生徒達はそれぞれ立ち上がり、ざわめき始
めました。
「さくらちゃん。参りましょう」
「うん!」
知世が誘うと、さくらも嬉しそうに立ち上がります。
二人並んで教室を出て行きながら、知世は小狼に目配せ。
小狼も小さく肯きます。
*
「お嬢様」
友枝小の校門前では、黒服を着た女性が知世達を待っていました。
「ご苦労様です」
「ほぇ?」
「ここから直接遊園地へ参りましょう。さくらちゃん」
「でも、着替え…」
「大丈夫ですわ。さくらちゃんの着替えなら、ちゃんと用意してありますから」
知世が指さした先には、黒いリムジン。
そしてその後ろには、ピンク色のワゴン車がありました。
「ですから、このまま遊園地に参りましょう。さくらちゃん」
「ちょっと待って知世ちゃん」
そう言うと、知世は後ろからぐいぐいとさくらを押して行きます。
こうなると、知世はさくらが嫌と言っても止めません。
それを知るさくらは、大人しくされるがまま。
そして心の中で呟きます。
知世が作ったのであろう着替えとは、今日はどんなものなんだろうと。
●濱坂市:水無月ギャラクシーワールド
さくら達を乗せたリムジンと、ボディーガード達が乗ったリムジン、そしてバトルコス
チュームと着替えを積んだワゴン車の都合三台の車は、友枝町から高速道路を経由して、
隣接県の湾岸沿いにある濱坂市へとやって来ました。
人口約200万。古くからの港町である濱坂市は、最近は湾岸地区の再開発が盛んです。
その最中、水無月グループの造船所の跡地に建設された遊園地が、地下鉄工事の関係で一
時休園。その間にアトラクションを色々追加し、敷地も増加させてリニューアルオープン
した遊園地。
「それが、今日行く『水無月ギャラクシーワールド』なのですわ」
と、遊園地についての解説を道すがら聞かされたさくら。
吊り橋と海沿いの高速道路を抜け、目的のインターチェンジに向かった車列。
車窓から、目的の遊園地が見えて来ました。
「うわぁぁぁ」
「中々の遊園地やないか」
「わっ」
窓に張りつき遊園地の様子を眺めていたさくらは、肩で急にケロちゃんの声がしたため
驚きます。
「(ケロちゃん。大人しくしてて)」
「(でも、運転手との間には間仕切りがしてあるさかい、声は聞こえんやろ)」
そう反論しつつ、元のぬいぐるみにケロちゃんは戻ります。
本当なら、さくらが家に戻りそこからケロちゃんを連れて来るはずでした。
しかしさくらを校門から拉致する予定でいた知世は手回し良く、ケロちゃんを携帯電話
で呼び出し、コンビニでお茶を購入すると称して車を止め、そこでケロちゃんと合流した
のでした。
*
遊園地の正門前に停車したリムジン。
先に降りた運転手役のボディガードがドアを開けてくれ、知世が最初に降りました。続
いて、車の外に出たさくら。
その様子を既に知世がビデオカメラで撮影していて、さくらは苦笑い。
早速、さくらをワゴン車で着替えさせようとした知世。
しかしその前に、ボディガードの一人が知世に囁きました。
「(ここは、一時でも駐車禁止だそうです。そして駐車場も、ここから10分程歩いた場所
しか空いていないそうですが、如何致しましょう)」
駐車場まで移動し、さくらちゃんを着替えさせてから移動するか。
さもなくば、着替えを届けて貰うか。
知世が腕時計を見ると、既に小狼との約束まで1時間と少ししかありません。
「仕方ありませんわね。着替えは、届けて下さい。連絡は携帯に」
「判りました」
ボディガード達は知世に一礼して、駐車場へと車を走らせて行きました。
「ほぇ? 着替えは?」
「ここは駐車禁止ですの。だから、後で届けて貰いますわ」
「そうなんだ」
「取りあえず、遊園地に到着記念ということで」
知世はビデオカメラを構えます。
「待て待て〜。わいもちゃんと撮らんかい!」
「はいはい。わかりましたわ」
知世はビデオを操作して、ケロちゃんに焦点を合わせます。
「ケロちゃん。大人しくしてるって約束でしょう」
「こんな五月蝿い場所で、誰も聞いてないやろ」
「でも…あ、誰かこっちに来るよ。隠れて」
さくらが言うと、ケロちゃんは再びぬいぐるみに戻ります。
知世が振り向くと、少年が一人、こちらに歩いて来ていました。
「(あれは水無月グループの御曹司…)」
パーティーの場で、知世は彼の姿を見たことがありました。
「(案内するつもりなのかしら。聞いてませんわ! 折角のさくらちゃんと二人きり(ケ
ロちゃんが邪魔ですが)のデートの邪魔はさせませんわ!)」
そう決意すると、知世の行動は普段とは異なり迅速でした。
「参りましょう、さくらちゃん」
「うん!」
さくらの手を引き、ダッシュで少年の横を知世は通り過ぎ、遊園地の中へと入って行く
のでした。
(つづく)
(その2)は、来週日曜日に投稿予定です。
では、また。
−−−−
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