Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
携帯@です。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
この記事は、第174話(その7)です。
Message-ID: <newscache$j0vlqi$nc4$1@news01a.so-net.ne.jp>
にぶら下げる形となっています。
(その1)は、<newscache$7vxlqi$196$1@news01a.so-net.ne.jp>から
(その2)は、<newscache$vkqyqi$s7d$1@news01d.so-net.ne.jp>から
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(その6)は、<newscache$zrwrsi$s4k$1@news01d.so-net.ne.jp>から
それぞれどうぞ。
では、改ページ後にゲームスタート!!
^L
★神風・愛の劇場 第174話『盲目の愛故に』(その7)
●桃栗町・桃栗山山麓
薄暗い宿営地から外に出たレイ。そこは、火事で焼け落ちたと聞く、この地の人間達が
神を奉る社の敷地内でした。結界を通して微妙に弱まってはいるものの、春の日差しはレ
イの身体の聖気を増してくれるような気がします。
「外の光は良い…」
魔界の作り物の光に比べれば、人間界の光は素直に良いものだと思うレイ。いつものよ
うに、隣にミナがいれば最高なのですが。
「あれ? レイじゃないか」
レイの背中から、誰かが呼びかけました。
「シド…」
振り向いたレイは、彼女に呼びかけた龍族の男の名を口にします。
人間の姿をしたシド。その背後にはやはり人間の姿とこの地の身なりをした龍族の男達
が十数人、宿営地の出口から姿を現しており、入り口からは更に何人か出て来ようとして
いるのが判りました。
その男達の大半が、レイの姿を見て身構えているように見えます。
「もう出て来て大丈夫なのか? 神の御子との戦いで怪我したって聞いたけど」
身構える龍族の男達とは裏腹に、人間界に取り残されていた龍族の一人、シドの方は自
分からレイに歩み寄ってきました。
龍族と天使達の争い。人間達がオーストラリアと呼ぶ地で行われた、いわゆるアウスト
ラリス大戦を原因とした相互不信。大戦が起きた後の生まれであるレイ自身はあまり拘り
は無いものの、龍族の方ではそうでは無いであろうことも理解は出来ます。
そしてシドは、天使達に対してわだかまりを殆ど見せない者であることでレイに記憶さ
れていました。もちろん、若い龍族の間で指導的立場にあるらしいことも含めて。
「怪我をしたのはミナの方だ。私は大事ない」
「ミナの具合は?」
「肉体は問題ない。すぐに外にも出られるようになるだろう」
答えながら、嘘は言ってないなとレイは心の中で思います。
「それより、シド達は何をしに外に出て来たのだ? 補給なら、人間達が買い出しに出る
ように態勢を整えてくれたはずだが」
「今日、休養しろと命令が出ているから、この地に慣れてない連中に、外を見せてやろう
と思ってさ。来るべき戦いの時のために偵察行動も兼ねてね。言葉を話すことが出来る者
と一緒に行動させるから、人間達との意思疎通は問題ない」
「要するに、偵察と称して外に遊びに出る訳か」
「そんな怖い顔しないで欲しいな」
「そ、そうか?」
龍族に対して直接命令する権限は無く、また休養日である今日、何をしようと自由であ
ることも確かです。
レイは、シドに言われて表情を緩めようと努力します。
もっとも、龍族達から見ると引きつり笑いをしているようにしか見えないかもしれませ
んが。
「一般の人間達には正体を気付かれないようにしてくれ」
「もちろん、判っている。何なら、天使達も一緒に外に出て来たらどうだい? 君達は言
葉は出来るんだろ?」
「そうだな…。いや、止めておく。私達が側にいると、落ち着いて楽しめないだろう?」
レイが龍族の男達を見ると、慌てて目を逸らす者、逆ににらみ返して来る者。
どちらにしろ、普通にコミュニケーションを取れるようになるには時間がかかりそうで
した。
「それは残念。じゃ、僕たちは夕方には戻るから。トールン様に聞かれたら、買い出しに
出たことにしておいてくれないかな」
「承知した」
苦笑しつつ、レイは道を龍族の男達に譲るのでした。
そして、彼らの背中を見送りつつ思います。
「(私も、外に出てみようかな…)」
●桃栗町中心部
結局、自分も外に出ることにしたレイ。
もっともシド達とは異なり遊ぶためではなく、未だ眠り続けるミナが目を覚ました時の
ために、果物か何かを買おうと考えたのです。もちろん、街の偵察を兼ねて。
神の御子、すなわち日下部まろんと出会うことが気がかりでしたが、派遣軍内に配布さ
れた情報を読む限り、まろんはこの時間は学校に出かけている可能性が高い、ということ
でその点は全く心配していませんでした。
桃栗町のシンボルの一つ、街の中心部にある噴水広場にたどり着いたレイ。
広場の片隅でフランス国旗を掲げ外にまでテーブルを並べたカフェがこの前と同じよう
に営業しています。
折角ここまで来たのだし、寄ってみようか。そう一瞬考えたレイ。
「どうぞ、中も席空いてますよ」
店の様子を覗いていたので、店員に声をかけられてしまいました。
「いや、先を急いでいますので」
一人でカフェにいても面白くない。店員に声をかけられたことで逆に踏ん切りがつき、
そのままスーパーに向けて身を翻しかけました。
「あら、ひょっとして麗子さん?」
知った声が、レイの背中から届きました。振り向くと、イカロスを連れたツグミが自分
に向けて小さく手を振っていました。
「ツグミ…さん?」
まさか今の一言だけで自分と見抜いたのか?
情報通り、侮れない人間だと舌を巻くレイなのでした。
*
レイが買い物に出かける途中だと知り、一緒に行くことを提案したツグミ。
現地の物産に詳しくないレイとしては願ったり叶ったりという状況です。
「昨日は大変だったわね」
スーパーへ向けての道を歩きつつ、ツグミは話しかけました。
「昨日?」
もちろん昨日は大変な一日であったことに異論はありません。
しかし、どうしてそれを…と思い、昨日ツグミと会っていた事実をレイは記憶の底から
拾い出します。
「怪盗ジャンヌが現れて、大変だったそうだな。あの時は何処に?」
「大観覧車の中。30分位閉じ込められちゃった」
「そうか。良かった」
「え!?」
「いや、災難だったな」
ジェットコースターに乗り合わせ、巻き添えで犠牲になりかかった東大寺都のように、
危険な目には遭っていなかったことをレイは安堵したのですが、もちろんそのようなこと
をツグミに話す訳には行きません。
「レイさんは何処にいたの?」
「あ、ああ。ジェットコースターの中だ。止まってしまって、結局コースを歩いて戻るこ
とになって大変だった」
「まぁ。それは大変ね。でも良かった」
「え?」
「ネプトゥヌスには乗っていなかったんでしょ? あの壊れた奴。壊れる前に、一緒に乗
ったじゃない」
「あ…。うん」
レイは口ごもってしまいます。
「そう言えば、今日は奈美さんと一緒じゃないのね?」
「実は、昨日の騒動で怪我をして静養している」
本当は怪我の上には「大」の字が付くのですが、心配させるつもりは無いのでそれは伏
せておきます。
「それは大変ね。じゃあ、お見舞いの品か何かを買いに行くのかしら?」
「お見舞いという程大げさなものでは無いが…。そう思って貰って構わない」
「どんな物を買いたいの?」
「果物などが良いのではと考えている」
「なら、こちらの店が良いかしら」
ツグミが予定を変更してレイを連れて行ったのは、スーパーP&Mを中心とした商店街
の中にある果物屋。
「へいらっしゃい」
「色々あるのだな」
「何か、お好みは?」
「柑橘類…オレンジの類がミナは好きだ。この土地で取れるものは無いのか?」
「この辺りは蜜柑の北限に近いので、あまり無いのよね…。それに、蜜柑の季節は殆ど終
わっているから。そうね、晩柑で何か良いのがあるかしら」
「なら、これなんかどうだい。今日入荷したものだ」
店員に勧められたのは、果実の上が妙な形に尖っている柑橘でした。
「あら、デコポンね。今の時期だと露地もの?」
「ああ。丁度今頃が旬だよ」
形が特徴的な柑橘なので、ツグミは触れただけで判りました。
「形が面白いな」
「滅多に食べることは無いけど、味も中々の物のはずよ」
「値段が高くて申し訳ない」
そう店員が言うのでみると、周辺にある柑橘類の何個かでつけている値段と、デコポン
1個分の値段が同じ位でした。
「いや、構わない。それを5つ下さい」
「へい、毎度! 包装はどうしますか?」
「お見舞いの品なので」
「そうかい。これの食べ方、知ってる?」
レイが首を振ると、店員はナイフで切り分け、袋毎食べるのが良いと教えてくれるので
した。
*
目的の買い物を済ませた後で、今度はツグミ自身の買い物のためスーパーへと向かう二
人。時刻はお昼近く。未だ人通りも多くない商店街でした。
「ツグミさん!」
「あら、名古屋君」
ツグミの姿を見かけ、前方から声をかけて来た名古屋稚空の姿を見て、レイは心の中で
げげ、と思います。
彼の周囲を見回した所幸いなことに、アクセスの気配はありませんでした。
「この人は?」
「麗子さん。お友達なの」
「はぁ…。あ、そうだ。まろんの姿を見かけませんでしたか?」
レイのことを訝しげに眺めつつ、稚空は尋ねます。
「日下部さん? 見てないわ。東大寺さんと出かけたらしいわね? 実は、日下部さんの
家を訪ねたんだけど留守で、東大寺さんのお母様に教えて貰ったわ」
「そうですか…。都と一緒なのか…。一体何してるんだ」
そう呟いているということは、学校にはもう行ったのでしょう。
「何かあったの?」
「いえ…」
稚空は、改めてレイの方を見やります。
「何でもありません。もし、まろんを見かけたら、俺が探していたと伝えてくれません
か?」
「判ったわ」
ツグミが言うと、稚空はツグミ達が来た方角へと走り去って行くのでした。
「(神の御子は学校では無いのか…。まさか、鉢合わせたりしないだろうな)」
稚空の話を聞き、そのような懸念を抱いたレイ。しかし、スーパーでも、その後で噴水
広場に戻る時にも、まろんに出会うことはありませんでした。
*
スーパーで買い物を済ませた後、噴水広場に戻って来たツグミ達は、先程の広場の片隅
のカフェに腰を落ち着けます。
「麗子さんと奈美さんって、どういう関係なんですか? お仕事の同僚? それとも」
食事を終え、食後のドリンクが運ばれて来た頃合いで、レイに尋ねて来たツグミ。
「仕事の同僚。そして私の大切な人だ」
「大切な人って?」
「恋人と思って貰って良い」
「え…」
あっさりとレイが言ったので、ツグミは驚いたように見えました。
「で、ツグミは大切な人とか、いないの?」
情報によりツグミが神の御子──まろん──との関係を知っていたレイですが、敢えて
聞きました。
「え、私…? そうね…。いる…かも」
「やっぱり」
「え!?」
「洗面所の歯ブラシとコップ、二人分あったから」
「あ…」
表情をやや赤らめたツグミが想っているのは、やはりまろんのことなんだろうかとレイ
は思います。
「(その大切な人を我々は奪おうとしているのだが…)」
*
「恋人と思って貰って良い」
そう、麗子──多分、アクセスがいうところのレイ──は言いました。
アクセスからレイと奈美──ミナ──の関係は聞いており、自宅に泊めた時にそれを確
認したとはいえ、こうも堂々と言われると恥ずかしくも羨ましくもありました。
「で、ツグミは大切な人とか、いないの?」
そう言われた時、真っ先に浮かんだのは勿論まろんの姿。
しかし、レイのように素直に自分のことを話すことが出来なかったツグミなのでした。
●桃栗町西部郊外・ツグミの家
「ただいま」
家には誰も居ないので、つい3ヶ月前まではあまり言ったことの無い言葉。
同居人がいたり、思わぬ客人が待っていたりすることがあるかもしれない関係で、今で
は口に出してしまいます。
しかし、今日はそのどちらも居なかったので、返事はありませんでしたが。
レイを家まで午後のお茶にと誘ったツグミ。
しかし、奈美──ミナ──のことが心配だからと、真っ直ぐ帰ろうとするレイの家の近
くまで回り道したお陰で、レイの家はどうやら桃栗山の近くにあるマンションか何かであ
るらしいと知れました。
ただ、家まで行くと結構な時間がかかるらしくバス路線からも離れていることから、ま
た今度の機会にと街外れで彼女とは別れました。
そうして家に戻って来た頃には既に夕方に近い時刻でした。
「大切な人、か……」
ソファに身体を投げ出してそのままでいるので、ハーネスを外して貰っていないイカロ
スもソファの側でじっとしているのでした。
(つづく)
大体次回位で折り返し点…のはず。
では、また。
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