Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その8)
●桃栗町の外れ・ノインの館近く
夫々の持ち場へと散っていった戦士達を見送り、最後に残ったオットーは
ユキにペンを返すと“ありがとよ”と一言。そしてノイン達には指二本だけを
こめかみに当ててからさっと振り下ろすという、略式の敬礼と言うよりは単なる
サインレベルの挨拶を残してすたすたと彼自身の持ち場へと行ってしまいました。
その様子、正確には彼の背中の荷物を見てノインは評しました。
「ベンケイみたいですね」
おや?という顔をしてミカサが応えます。
「弁慶をご存知とは驚きました」
「日本のサムライとかブショーとか、割と好きですよ。ブシドーには騎士道に
通じるものを感じますしね」
「ふむ。そういう物ですか」
「ええ、そうなんですよ」
純粋に興味の範囲だけに納まってくれれば良いが、とつい心配してしまうミカサ
なのでした。
●桃栗町の外れ・何処か
雑木林へ突入して直ぐには、稚空達はその変異に気付いてはいませんでした。
しかし少しずつ奥へと向かうにつれ、明らかに自然現象とは言い難い状況が
彼等を包んでいきました。
「ひとつ確認ですが」
「判ってる」
トキの問いかけに稚空は最後まで言わせずに応えます。
「この辺りの住宅地の裏山じゃ、普通は霧なんか出ない」
暗視ゴーグルを通していてさえ、幕の様にたなびく霧が稚空達の行く手に現れて
は消えていきます。そしてその度ごとに、一瞬身構えてしまい歩みを止める事に
なるのでした。
「霧それ自体には、今のところ強い気配はありません。むしろ周囲全体から薄く
均等に魔界の者の気を感じます」
情報を共有しようとしてか、トキは何時になく事細かに状況を声に出して稚空に
伝えていました。
「見張られているのか」
「いえ、印象としてはこちらに注意を向けている感じではありません」
「でもよ」
と、アクセス。
「あいつが入っていった場所にしては、気配がハッキリしないのが逆に怪しい」
「言えてるな」
こうして慎重過ぎる程に慎重な行動をとった為、かなりの時間が経った後でも
実際には然程雑木林の奥には到達していませんでした。もっとも、それでも
やがて彼等の − 真っ先に稚空の − 注意を引く物が姿を見せたのです。
「止まれ」
少し先の空間に浮かんでいたトキとアクセスがピタリと静止して振り向きます。
「どうした?」
「稚空さん、何か」
答えず手招きする稚空。トキとアクセスは顔を見合わせてから近寄って来ました。
そしてやってきた二人に、外した暗視ゴーグルの中を覗く様に仕草で伝えます。
小さな身体になっていたトキとアクセスは、ゴーグルの左右をそれぞれ覗き込み
夫々微かに呻きます。
「これは…」
「稚空、なんだコレ」
「こんな人間臭い手を使っているとは思わなかったけどな」
人間の通常の視力よりも赤外線寄りに強い感度を持つ暗視ゴーグルの視界の中、
彼等の少し先の木立の間で幾筋もの糸の様な物が行く手を横切っていました。
じっと見ていると、その糸は漂う霧を受けて時折輪郭をぼやけさせるのです。
「何で俺等、気付けなかったんだろ」
「魔術では無いから、ですね」
「ああ、そういう事だろうな。光の筋を遮るなよ。間を縫って飛ぶんだ」
黙って頷き前進を再会するトキとアクセス。一方で稚空は光の筋を迂回する事で
避け、場合によってはまたいだり潜ったりする事になり更に歩みが遅くなって
しまいます。とはいえ、これでその先に何かあるのは間違い無いと判断するには
十分な証拠でしたから、むしろ稚空のやる気は増していました。そして先に敵の
監視装置を見つけてやったという満足感から、もっと原始的な細工の存在には
気付かずに過ぎてしまうのでした。
*
ジッ。耳に掛けた小型のヘッドセットからノイズ混じりの接続音が囁き、やや
間を空けてから部下の一人の声が届きます。
「隊長、L1です。予想よりズレてます」
「赤外線センサー網に気付いて迂回したんだろう」
「案外バカじゃ無い様ですな」
「でもワイヤーは踏んだか」
「隊長のアレに気付く奴なんて居ません。普段でも悪魔族の歩哨は結界の外に
サボりに出る時には踏みまくりですし、天使が踏まないのは飛んでる所為ですよ」
「だがメイドの嬢ちゃんは踏んで出た事は無いんだよな」
「偶然でしょう」
「偶然で避けられるほど、俺の蜘蛛の巣は隙間は無いはずなんだがな」
「確かに」
オットーは先日試しに設置した超小型の監視カメラに向かって、手を振ったり
人族には良く意味の判らないポーズを取ったりしていたエリスの姿を思い出して
独りで苦笑します。それからしばし無音。再度の声は別の部下の物でした。
「目標を視認。ノクト使ってます」
「赤外線投光かい?」
「倍増管の様ですが、型は古いです。どこぞの軍からの流出品かもしれません」
「おぉ、良い趣味してやがるな」
「開けてやりますか?」
「放っておけ。せめて結界を自力で破るくらいの実力は見せてもらわんと」
「了解」
更に数分後。
「侵入されました。L2からM2へ移動」
「第二層の結界が破られるのを待って第一層塞げ」
「第二層突破を確認、手際が良くなってます」
「第一層修復完了」
「よし。P2攻撃開始。真っ直ぐ歩かせるな」
「了解」
そして霧の奥から、オットーの陣取る位置にまでリズミカルなタタタンという
音が響き始めました。
「(これだよ、これ。この感覚)」
オットーは内心でひとりごちるのでした。
*
稚空の頭上をヒュんと空気を切り裂く音がかすめ飛んだ瞬間、彼は咄嗟に手近な
草むらに身を伏せていました。その直後にはそれが連続してヒュンヒュンという
一つの旋律へと変わっています。普通の人間ならば出来ない、そんな対応が
速やかに出来たのは撃たれた事が初めてでは無いという皮肉の産物です。そして
殆ど直後にはアクセスが間に入り障壁を展開した為、稚空はそっとではあります
が攻撃の最中にも立ち上がる事が可能となっていました。
「またかよ。こういうの魔界軍の人族の連中だよな」
「多分。だが閃光だけで姿が見えない、結構距離置いてるな」
「先を急ぎましょう。流石に結界を破った事で気付かれた様です」
「奴ら、俺がちょっと行って黙らせて来ようか?」
「必要ありません。稚空さん、私達の間に」
「ああ、すまねぇ」
「易い用です。それに、これで行く先が判りやすくなりました」
「敵が居る方が本陣に近いほう」
「だな」
アクセスとトキが障壁を展開したまま稚空を挟む状態で前進、と言っても相手が
攻撃して来る方へ真っ直ぐ向かう訳ではなく攻撃をやや斜め前に見ながらの前進
再開となりました。やがて距離が近づくと、ぱったり銃撃のリズムが止みます。
直後、今度は逆方向からトキの障壁を叩く物が飛来していました。
ピシッピシッ ピシッ
先ほどの様な間髪入れない連続攻撃ではありませんでした。しかし今度は周囲の
草木に当る事なく、正確にトキの障壁に命中しています。全く影響が無いとは言え
その攻撃は何処か警戒心を呼び起こす様に思えたトキ。そしてじっくりと攻撃を
見据えていた彼は脅威と感嘆の念を抱きます。その彼の様子にアクセスと稚空も
何事かと遠くを見る目つきになります。
「どした?」
「判りませんか。稚空さんは?」
「狙撃銃かな。だが障壁は通さないだろ」
「ええ。ですが」
トキは狙撃者が居ると思しき方角を真っ直ぐ指差します。間にある障壁が、銃弾
を弾く度に微かに光を放っていました。繰り返し繰り返し、全く同じ障壁の一点
のみが。今度はアクセスが唸ります。
「まさか、障壁の一点狙いで打ち抜こうとしてんのか」
「その様で」
「おい、大丈夫なんだろうな」
「障壁は別に物理的な板ではありませんから、何度繰り返してもその部分だけが
損傷する事はありません」
「そうか」
ほっとする稚空でしたが、しかし一方で本当に大丈夫なのかは確かめようが無い
のではとも思います。駄目だと判った時点で既に遅いのですから。
「急ごう、黙って食らってやってる理由も無いしな」
「賛成です」
こうして、行く先々で少しずつ系統の違う攻撃を受けながらも稚空達は特に
ダメージを受ける事無く前進を続けたのでした。
*
各所から入る報告を元に手元の地図に走り書きを加えるオットー。今は単なる
ペンを使っていましたから、それは彼だけが目にするメモでした。彼にとって
心地よいノイズが、思考を中断させます。
「隊長、第三層通過」
「よし、そろそろ本気出していくか」
「それじゃアレ、使って良いんですね」
「当然だ。その為に了解も取ったのだしな。それに魔界では試射しか出来ない
からなぁ、折角の本番は有効に活用させてもらおうじゃないか」
この時、別々の場所に散っている戦士ほぼ全員がニヤリと笑った事を稚空達が
知る事は勿論ありませんでした。
(第175話・つづく)
# 予定では後少しで終わるはずですが…無理っぽい。^^;;;;
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■ 可愛いんだから
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■ いいじゃないか
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