Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
少し間が空いてしまいましたが、
新エピソード(というか実質は174話後編 ^^;)開始します。
多分、全10回程度になる予定。(この手の宣言通りになった試しは無いですが)
# ネット版と紙版でオチが違ったりすると「あのね」商法?(笑)
^L
★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その1)
●桃栗町の外れ・ノインの館
暫く難しい顔をしていたノインでしたが、ゆっくりと席を立つとシルクに何やら
耳打ちします。シルクはコクコクと頷くと部屋を出て行きました。それから
ノインはエリスとアンを手招きします。
「良い案も浮かばないので気分を変える為にお客様の顔でも見てきましょう」
「はいはい。お付き合いしますよ」
「やけに協力的ですね。ありがたい事ですが」
「まさかノイン様を女性二人が寝入っている部屋に一人だけで行かせる訳には
いきませんからね」
「あぁ、そうですか…」
二階に上がったノインが先を行く二人に案内されたのは、幾つかある客間の中で、
最もベッドが大きな部屋でした。そのベッドの上に並んで寝かされているまろん
とツグミ。別々に寝かせる事も余裕で出来る程度には空いた部屋が他にもあった
のですが、様子を見るなら二人が同じ所に居た方が良いだろうと考えたエリスが
選んだ部屋なのでした。それと心得てか、ノインは特にその点についてはエリス
やアンに聞く事もせず、手早く横たえられた二人の脈をとり、そして目蓋を
そっと動かして瞳を覗き込んでいます。
「ん〜…」
「どうですノイン様?」
「やはり眠りが深すぎる様ですね。睡眠というよりは昏睡です」
「大丈夫でしょうか」
「呼吸の乱れや体温の急激な変動は無い様子ですが、やはり解毒剤を与えた
方が良さそうですね」
そこへ絶妙のタイミングで、開きっぱなしの扉からシルクが入ってきます。
彼が両手で抱えている籠の中には大小様々なビンと、幾つかの器具が入って
いました。予め必要になりそうな薬を予想して、ノインが持って来させた物が
その中には入っています。
「持ってきましたぁ」
「はいご苦労様」
部屋にある小さめのテーブルの上に籠の中の品を並べ、ビンの中身の幾つかを
容器に移したノイン。それらを手早く砕き混ぜ合わせていきます。それを興味
深げに眺めていたエリスとアン。ノインの手がふと止まった頃合を見て、
エリスが口をはさみます。
「なんか、見たことのある物と無い物が混ざってますが」
「半分は魔界から何かの用があるかと持ち込んだ物ですから」
「じゃ半分はコッチの世界の薬ですか」
「ええ。こういう薬の研究が盛んな国に居た事がありましてね」
そう言ってノインが取り上げて見せたビンの中には何かの木の実らしい粒が
入っていて、振るとカラカラと乾いた音を立てました。
「で、どうやって飲ませるんですか」
混ぜ合わせる為に使った白い磁器の中の茶色の粉に注がれる皆の視線。
やがてノインはにこやかに答えました。
「どうしましょうかね」
「考えてなかったんですか」
「このままでは、やはり駄目でしょうか」
「眠り込んでいる二人が粉薬を飲みますか」
「飲まないでしょうね」
「…まったく」
「あの、煎じて来ましょうか」
差し出されたアンの助け舟、しかしノインは首を横に振ります。
「駄目なんですよ、熱に弱いので」
「それじゃ水か酒に溶かしますか」
「有効成分が解け出る前に薬が要らなくなってしまいますね」
「それじゃ脂か何かで練って丸薬にするとか」
「薬効の邪魔をしないで済む、そういう品が生憎と手許に」
エリスの歯軋りが聞こえた気がしたノインが慌てて付け足します。
「まぁ、大丈夫ですよ。薬と水を一緒に口に含んで飲ませる手が」
冷ややかなエリスの視線と、少し苦笑気味のアンの視線が集まります。
やがて少しの間の後、視線と同じくらい冷たい口調でエリスが訊ねます。
「誰がやるんですか。いえ、答えなくていいです」
「私がやるのでは何かマズイ事でも?」
「最初からそれが目当てで粉薬にしましたね」
「まさか。不幸な偶然です」
「何でもいいです。私がやりますから、ノイン様は出て行ってください」
「何故ですか」
「後でノイン様にからかわれるネタを提供する気はありません。兎に角、
ああそうだ薬の分量だけ教えていってください。後は結構です」
「分量は調合した薬を二人に四分の一ずつでいいでしょう、とりあえず。
三時間くらい後に容態が変わって無いなら、更にもう四分の一を」
「わかりました」
「やはり心配ですね、私も見届けま…」
「いいから出てけ」
エリスに睨まれて渋々ながら部屋を出て行くノインでした。そしてアンが扉を
締めてから小さく頷くのを確認した後、先ずはまろんに、それからツグミにと
口移しで薬を飲ませたエリス。二人とも意識が無い状態でしたので、一気に
飲ませる事は出来ません。少しづつ染み込ませる様に喉へと送り込む為、自然と
唇を合わせている時間は長いものとなっていました。飲ませ終え、屈みこんで
いたベッドの脇で腰を伸ばすエリス。振り向くと赤い顔をしたアンがもじもじ
しながら、軽く握り締めた両手を口元に当てていました。
「な、なんだよ」
「…だって」
「変な想像すんなよ、恥ずかしくなるじゃないか」
「判ってるけど…お世話してるだけなんだって事は…ただね」
「なにさ」
「…熱いなって」
「妙な表現すんな」
そう言いながら、手にしたハンカチで再び唇を拭っているエリスなのでした。
*
二人の様子を見ている役をアンに任せ、階下に降りたエリス。リビングでの
ノインは彼女の予想に反して再び真面目な顔で何事かを考えている様子でした。
エリスはそのままリビングを素通りし、数分後には煎れ立ての紅茶をノインの
前に静かに差し出します。そして同じく、ミカサの前にも。それからエリスは
ユキにも茶を勧めるべく、軽く首を傾げながら目線で座る様に促します。
ユキは少し迷ってからノインとミカサの間にある椅子の背を引きました。
エリスはその椅子を彼女が座る前にミカサに近い方へとずらします。
「副官が離れた所に座って役目が果たせますか」
小声で囁くエリス。ユキが見返すと、今度はウィンクが返ってきました。
それを見たユキは何か言いかけ、しかし結局は何も言わずに少しだけミカサに
寄せられた椅子に大人しく腰を落ち着けるのでした。
脇でのそんなささやかなやりとりには気づかず、無意識にティーカップの縁を
指でとんとんと叩きながらノインの方をじっと見つめていたミカサ。流石の彼も
こんな時には悪ふざけの余裕は無いのだろうな、と少し意地悪な思いを抱いても
いました。そんなミカサの耳元に、おずおずと囁きかける声。
「あの、ミカサ様」
「ん、なんだい?」
椅子に座ったまま、顔だけを横に向けたミカサの目の前にユキの顔がありました。
何時の間に椅子を寄せていたのか、その距離の近さに少し身を引いたミカサ。
ユキもまた慌てて背筋を伸ばし、上半身を遠ざけます。少し頬を桜色にしながら。
「す、すみません」
「いや、驚かせてしまった様だ。こちらこそすまない。で?」
「は?」
「いや、何か言いたい事があったのだろう?」
「あ、はいそうでした。実は一つ提案が」
「今我々を悩ます問題に対してかな」
「はい」
ミカサは小さく頷くと、正面を向いてノインに向かって宣言しました。
「ユキから何か提案があるそうです」
「はへっ?」
先ずミカサに耳打ちして意見を聞こうと思っていたユキ。いきなり皆に向かって
話す事になってしまい、目に見えて動揺してしまっていました。当然ながら、
そんな態度はノインに目ざとく食いつかれてしまうのです。
「そんなにおどおどしなくても良いでしょう。それとも何かとてつもなく愉快な
提案なのでしょうか。是非聞いてみたいですね」
「は、はぁ…」
「構わないよ、君は既に私の副官補だ。何時でも堂々と意見を言えばいい」
そう促しながら優しげな表情を見せる彼に向けて頷き、それからユキはノインの
方を真っ直ぐ見つめて話し始めました。
「このまま神の御子を魔界へと御連れするのは避けたい、でも事を無かった事に
する訳にもいかない。であれば、選択肢はおのずと限られてくると思います」
「選択肢というからには、ユキには腹案があるのでしょうね?」
「はい。一応…」
「聞かせてください。今は藁にもすがりたいところです」
折角のユキの提案に藁は無いだろうと、少しばかりの抗議の意味を込めて
不愉快そうな視線をノインに向けるミカサ。勿論、悪気は殆ど無いのだろう
とも判ってはいるのですが。そして当のノインは、こういう時の何時もの彼
らしくニコニコとした笑顔で受け流しています。そしてその笑顔はユキの話を
聞くにつれ、更に輝きを増していくのでした。
「興味深いですね。それで行きましょう」
「あ、あの、でも単なる思い付きですし、もう少し細部をつめるとか」
「構いませんよ、良い作戦だと思います。細かい事は臨機応変に」
つまり行き当たりばったりって事か、とはエリスの思い。
「しかし他にも部隊への影響評価とか」
「大丈夫でしょう。善は急げとも言いますしね」
我々が善とは知りませんでした、とはミカサ。
もちろん、今更声に出して突っ込む事に意義を見出す者は此には居ませんが。
「はぁ」
「ただし一つだけ。この話はこの場に居る者だけの秘密という事でお願いします。
あくまでも、これから起こる事は偶然の出来事。予想外のアクシデントです」
部屋をぐるりと見回すノイン。それは確かにそうだろうと誰もが思う事でしたから、
ミカサを始め居合わせた者には異存はありませんでした。ですから全員が返事を
する代わりに黙って頷きます。
「では合意が得られたところで。エリス、お使いに出てください」
「はい」
ユキの話を聞いた時から、その役目が振られるだろうと思っていたエリスは
二つ返事を返すと一礼して部屋を出て行きました。
(第175話・つづく)
# 最低2週に1回くらいのペースを維持したいなぁ。
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■ 可愛いんだから
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■ いいじゃないか
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Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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