Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)<ckdgd5$206$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その2)<clfs1u$sq4$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その3)<cmkpa7$n9v$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その4)<cnpq23$uoi$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その5)<couhh3$6bl$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その6)<cq3l78$ci5$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その7)<crdmn4$ft7$3@zzr.yamada.gr.jp>、
(その8)<csvnro$s1b$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その9)<cu7vhd$j9o$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その10)<cvrqev$sj1$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その11)<d1lt0f$qn6$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その12)<d2o5ec$nph$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その13)<d4irob$l6$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その14)<d6pe7d$6d1$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その15)<d7ufrf$etd$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その16)<d9lo0r$pcv$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その17)<daql5u$h5i$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その18)<dbvicg$5et$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その19)<dd7fq7$7jo$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その20)<ddiveq$o2q$1@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。
^L
★神風・愛の劇場 第173話『水妖』(その21)
●桃栗町町境近く
神の御子が行動を起こしたのは一度だけ。それから数分何の動きも見られない
中で、じっと固唾を飲んで見つめていたユキがふっと息を吐いた時でした。
「約20分経過」
「え?」
振り向いたユキの背後に何時の間にか腕組みをしてエリスが立っていました。
「神の御子が障壁に閉じ篭って20分です」
「えっと…」
エリスの言いたい事が良く判らない、という表情を隠そうともせずに首を傾げて
いるユキ。エリスはにんまり微笑んでから説明を加えます。
「最初に神の御子が覆った障壁の内側の空気の量は有限です。そこに含まれる
酸素の量から考えると、マトモに物が考えられるのは精々40分くらい。でも
さっき暴れた所為で無駄に浪費しましたから、そろそろ意識が朦朧としている
はずって事ですよ」
「成る程…」
実際、ユキが見る限り先ほどから神の御子に動きはありませんでした。
「意外とあっけないものね」
「そうですね」
放っておけばこのままでは済まないだろう、とは思っていたエリス。そして無論
放っておく気はサラサラありませんでした。ただしエリスが放っておかないのは
神の御子の方では無かったのですが。
「無駄になっちゃいましたねぇ」
「へ?何が?」
「ユキ様達がわざわざ人間界に出張って来た事が、ですよ」
「…そうかもね」
アンを保護する事が出来たという点を承知しているエリス、当然ながら本心から
遠征が無駄などとは思ってはいません。しかしその点は今のエリスの都合上は
触れない事柄として敢えて脇に置かれています。そしてエリスが“わざわざ”の
部分を強調して言った為、ユキも流石にちょっとムッとした顔をしています。
ですがエリスはそんな事は構わず畳み掛けます。
「ま、大失態って訳じゃ無いですし、これで帰還しても別に何にも言われない
でしょうけれど」
実際は何も言われないどころか、少なくとも同胞を救ったという点で竜族の
賞賛を受け、またその点を魔王やクィーンが見落とすはずも無いと知っては
います。ですがやはりそれは忘れて、今度は“何も言われない”の部分を
ゆっくりハッキリ聞かせます。
「勿体無かったですね、上手くすれば魔界軍での地位が上がったのに」
最後の方はわざと小声でぼそぼそ呟きます。しかしその小さな声は逆に要点が
増幅されてユキの奥深くにまで届いていました。
「(折角来たのに我が軍勢では無いハグレ者に決着をつけられて、これでは
ミカサ様の出世のチャンスが台無しだわ。もしかしたら左遷されちゃうかも。
そうしたらどうしよう…辺境に送られるミカサ様の後を付いて行って…あぁ〜
傷心のミカサ様に仕える私って一途?そういう女って、もしかしたら殿方受けが
良いかしら………って、何を考えているのよミカサ様の没落した姿なんて見たく
ないわ〜。そんなの駄目よ、神の御子を制するのはミカサ様でなくっちゃ絶対
駄目。じゃどうすの、どうしよう、考えなさいユキ、ちゃんと考えて)」
こっそり覗いているという状況を忘れたかの様に、バンッと勢い良く立ち上がる
ユキ。そして高らかに宣言します。
「魔界軍の威信にかけて、偶然に事が成りましたなんてのは駄目よ!」
「はぁ、そうですか」
「士気にも関わるし、そもそも軍の恥っ」
威勢は大変良かったものの、その瞳はエリスをすがる様に見つめています。
そしてその状態では、逆にエリスの瞳の奥によぎった“釣れたかな”という思い
を見抜く事は出来ませんでした。
「あ、あのねエリス」
「はい。何でしょうか」
「力、ちょっと使っちゃ駄目?」
「何故ですか?もう用は無いと思いますが」
「それがその、ホラ、やっぱり私達魔界軍の存在意義っていうか目的をね、
ちゃんと達するにはこういう展開は駄目だと思うの。だから」
「仰っている意味が良く判らないんですが」
判りすぎる程良く判っているエリスは、しかししれっと惚けて返します。
「だから神の御子を助けるのっ!」
「はぁ。何故?」
「私達の手で倒さないと意味が無いからよっ」
「それが威信とやら、ですか」
「その通り」
「そうですか。でもユキ様の力は駄目ですよ、さっき言ったでしょ」
「だって…」
「だってじゃ無いです。大体、ユキ様の力で助けたりしたら此処に他の悪魔族が
来ていたと神の御子に教えちゃう事になるじゃないですか。そうしたら魔界軍は
統制能力が無いのかと思われますよ。それこそ面目まるつぶれ」
「…そうよね…じゃぁ、神の御子の傍に付いてる天使を呼びつけましょう」
「連絡先、知ってますか?」
「…携帯電話、持って無いかしら」
「持ってるわけ無いでしょう」
「……エリス、何とかして」
「何とかって、どうして欲しいんですか」
「魔界軍の仕業と判らない様にコッソリ助けてあげて」
「そんな無茶な」
「無茶なのは判ってるからぁ」
顔の前で両手を合わせてエリスを拝んでいるユキをみて、流石にからかうのは
この辺りで止めておこうと思うエリスでした。
「仕方無いですね」
指を眉間に当てて、ちょっと考え込んでいたエリス。実は考えるフリでしか
無かったのは言うまでもありません。
「じゃ、まぁこんなもんで」
エリスは至極軽く言い放ち、同時にこれまた事も無げに左手を前に突き出して
手のひらを下方に見えるプールに向けました。その手のひらの前に一瞬で小さな
光の点が生まれ、それがす〜っと前に伸びて線になり、そして勢い良く飛んで
行きました。飛びながらその線は先端から急激に膨らんでいき、プールに届く時
には巨大な光球となっていました。そして盛り上がった水に食い込んだ途端に
一気に炸裂したのです。
「へ?」
あっけにとられたユキはエリスとプールを交互に、驚きの目で見比べていました。
何故ならそれは、間違い様も無く天界の者が使う技だったからなのです。
その光の発する気配に至るまで、寸分の違いも無く。と同時に、別の気配も一瞬
だけ感じた気がしてはいたのですが、それは流石に思い過ごしだろうと考える
ユキ。そんな思いがぐるぐる巡っていると知ってか知らずか、エリスは雑用を
ひとつ済ませたという様子でユキに言ったのです。
「帰りましょ。終わりましたよ」
そしてアンには目線で軽く促し、それから少し離れた所に居るチェリーの手を
引いてロッカールームのある下の階へと歩き出していったのでした。
*
限界が来て頭が廻らなくなってからでは遅い事は、まろんにも充分に判って
いました。何とか考えをまとめようとし、得た結論はきわどい一発勝負でした。
先ほどと同様に障壁で敵を押し広げ最大になったところで一旦障壁を解除、
当然敵は迫ってくるが極薄になった水の幕が元の圧力を回復するまでにわずかな
時間があるはず、そこでリバウンドボールを何処かに投げて強引に身体を引き
抜けば何とか…。そこまで考えて、何処か適当な場所が見えないかと顔を上に
向けて周囲を見回した刹那。まっすぐ自分に向かって飛んでくる光が見え、それ
が何を意味するのかを覚ったと同時に次に起こるであろう事に対して身構える
余裕は無い事も理解しました。
「!」
視界が閃光で覆われて一瞬何も見えなくなり、やがて目が元の明るさの世界に
慣れて行くにつれて周囲からは今度こそ完全に水の幕が失われた事が判りました。
無意識のうちに解除されている障壁も同じく周囲の状況が変わった事を示し、
そしてその事に気付いた頃にはまろんの呼吸も静まっていました。今、まろんの
周囲には所々に水溜りがある他は何も無く。掃除の為に水を抜いたプールの底に
居る、としか思えない状態でした。敵の気配は限りなく弱く、しかし水中で周囲
に感じた様な焦点の定まらない弱さではなく確実に一つの指向を持っていました。
慎重にその気配を追い、そして水溜りに紛れた水溜りでは無い別の何かを見出し
ます。砂浜に打ち上げられたクラゲの様に、溶けて消えそうなゼリーの様なモノ
がそこにはありました。近づき過ぎず、しかしある程度までは距離を詰めた上で
まろんは封印の為のピンを手にします。そして改めて気配の主がそれであり、
そしてそれは魔界の者の気配である事を確認した上でピンを放ちます。それは
避けようともせず −− 或は最期の瞬間に見せた微かな蠕動が避けようとする
意思だったのかも知れませんが −− 打ち込まれたピンに吸い込まれる様に一体
となり、そして後には何時もの駒が残されたのでした。
まろんはそれを拾い上げ、そして何時までも姿を見せない照れ屋の仲間に大声
では無い程度に通る声を掛けるのでした。
「セルシア〜、助けに来てくれてありがと〜」
返事はありませんでした。
「誰も居ないから出てきても平気だよ〜」
それでも応える者は無く、それどころか悪魔を封印してしまった今ではそこに
気配と呼べるものは何一つ感じる事は出来なかったのです。
「あれ?」
封印が完了したので先に帰ったのだろうか、それならそれで何か言ってからでも
遅くないのに…。そんな事を思いつつ、まろんはリボンを解くとプールの底から
這い出て歩きづらいプールサイドを通って何とかロッカールームへ抜ける通路の
入り口へと向かいました。足でコンクリートの破片を踏む度に、通路に入ってから
元の姿に戻れば良かったと後悔しながら。
*
ロッカールームに戻ったまろんを、寝起きの様な顔をした都が一人で迎えました。
実際、少し前に起きたところだったのですが。
「あ、まろん…」
「あ、は無いんじゃないかなぁ」
「…えっと、そういえば何処に行ってたのよ」
「ちょっとプールじゃなくてお風呂の様子を」
「…何だっけ、なんかあって戻ってきた気が…おかしいわねボンヤリしてるわ」
「のぼせたんじゃ無い?」
「かもね。シャワーでも浴びて帰ろうか」
「うん」
そこまで話してから、まろんは都だけしか居ない事にふいに気付きます。
「あれっ、チェリーちゃんは?」
「誰だっけ…」
「もうっ、何言ってるのよ、此処で一緒になったじゃない」
「…ん〜、あぁ居たわね」
「何処に行っちゃったか知らない?」
「自分のロッカーでしょ」
「それ何処かな。ユキさんと一緒かな」
「さぁ」
都が気の無い返事をした直後、当のチェリーがまろんを呼びました。叫び声
という形で。
「きゃ〜っ」
まろんは即座に声のした方へと走っており、都もまた今までの眠そうな様子が
嘘の様に素早く反応して同じく声のした方へと駆けていました。そして立ち並ぶ
ロッカーの間から通路側へ出た所で、通路の奥から走ってくる人影を目にします。
その人影もまたまろんと都を目に止め、そしてその途端に慌ててロッカーの列の
一つへと走りこんでいきました。
「ちょっとアンタ、待ちなさい!」
「誤解だぁ〜」
「何が誤解だ!」
都は猛然とダッシュしてその人影、女性用ロッカールームにあるまじき男の姿を
追っていきました。まろんは逆に男の現れた方へと走って行き、その先にあった
シャワー室へと入ります。まろんはそこで、ユキの身体にしがみついている
チェリーの姿を認めました。ユキがバスタオルを身体に巻いていて、チェリーは
まだ水着姿のままだった事を少し残念に思うまろん。しかし即座にそんな事を
考えている場合では無いと打ち消します。他方、まろんの姿に気付くとユキは
何事かをチェリーに囁き、チェリーはおずおずと振り向くとまろんの方へと
歩いて来ました。
「どうしたの?何があったの?」
「しゃ、シャワーを、浴びようとしてお湯を…」
「そうしたら?」
「頭からお湯を掛けて、それから水着を脱ごうかと思って、そうしたら何時の
間にか後ろに男の人が…」
「何ですって!」
「それで吃驚して」
まだ動悸が治まらない様子でチェリーは薄い胸に小さな手を当てていました。
「まだ水着を脱ぐ前だったのよね」
「うん」
「良かった」
まろんはそう言ってからチェリーの小さな身体をあらためてぎゅっと抱きしめ
ました。そんな二人の会話がひと区切りついたところで、二人の傍に寄り添って
いたユキが言います。
「ごめんなさい。一緒に居たのに気付いてあげられなくて」
「あ、気にしないで。ユキさんの所為じゃないもん」
「あの、さっきはありがとうございました。抱きついてごめんなさい」
「いいえ。いいのよ」
そんな三人の様子を、立ち並ぶシャワーボックスの一つから顔を覗かせて見て
いたエリスがぽつんと呟きます。
「本当に間の悪い人ですね、シン隊長」
よりにもよってこんな場所でチェリーへの憑依が解けてしまった彼の事を
エリスは呆れつつも同情してしまうのでした。
(第173話・つづく)
# 第173話は次で終ります。
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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