Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)

佐々木＠横浜市在住です。

# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第４０話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう２次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。

（その１）<ckdgd5$206$2@zzr.yamada.gr.jp>、
（その２）<clfs1u$sq4$2@zzr.yamada.gr.jp>、
（その３）<cmkpa7$n9v$1@zzr.yamada.gr.jp>、
（その４）<cnpq23$uoi$1@zzr.yamada.gr.jp>、
（その５）<couhh3$6bl$1@zzr.yamada.gr.jp>、
（その６）<cq3l78$ci5$1@zzr.yamada.gr.jp>、
（その７）<crdmn4$ft7$3@zzr.yamada.gr.jp>、
（その８）<csvnro$s1b$1@zzr.yamada.gr.jp>、
（その９）<cu7vhd$j9o$1@zzr.yamada.gr.jp>、
（その１０）<cvrqev$sj1$1@zzr.yamada.gr.jp>、
（その１１）<d1lt0f$qn6$1@zzr.yamada.gr.jp>、
（その１２）<d2o5ec$nph$1@zzr.yamada.gr.jp>、
（その１３）<d4irob$l6$1@zzr.yamada.gr.jp>、
（その１４）<d6pe7d$6d1$1@zzr.yamada.gr.jp>、
（その１５）<d7ufrf$etd$1@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。

★神風・愛の劇場　第１７３話『水妖』（その１６）

●桃栗町町境近く

チェリーの口から飛び出したモノには気付かなかったまろん。ですが少し前から
周囲に怪しい気配が蠢いている事は感じていました。微かに漏れ漂ってくるその
気配は、何故か隠れているというよりは存在を誇示しようとしている様にまろん
には思えました。

「どうしたのよ」

ぼんやりしている様に見えたまろんに都が声を掛けます。

「なんでもないよ？」
「ならとっとと歩きなさいよ」
「うん」

咳き込みは収まったものの少々疲れた様子のチェリーを休ませる事にした二人。
彼女の手を引いて水から上がる為にプールサイドへと向かっている途中でした。
都に声をかけられ俯き加減の顔を上げかけた先、水底にゆらゆらと揺れる煙の
ごとき影がまろんの目にとまりました。半透明のそれは表面に二つの光る点が
あり、そして裂け目の様に細長くの黒い穴がひくひくと動いていました。
それは笑っていたのです。同時にその影からは一部がひもの様に伸びており、
その先が都の脚に巻きつこうとしていました。まろんは咄嗟にプールの底を蹴り、
間にチェリーをはさんだまま都を抱きしめました。もちろん二人を障壁の内側に
囲い入れる為に。即座に展開した障壁が怪しい影とともにプールの水までも押し
退けてしまった為、まろんは慌てて二人を抱きかかえてプールサイドに飛び
上がります。一瞬何が起こったのかが判らなかった都ですが、何時の間にか
プールサイドでまろんに抱きしめられている事に気付くともがき始めました。

「な、何してんのよコラ離せ」
「いいじゃん別にぃ」
「バカ、子供が見てる」

そう言われては仕方が無い、といった如何にも心残りがありそうな顔で身体を
離すまろん。実際にはその“子供”は女体に挟まれて目を硬く閉じたままで
失神寸前だったのですが。

「まったく何なのよいきなり」
「そろそろ身体も冷えてきたし早く上がろうかと」
「温水プールで冷えるわけ無いでしょ」
「逆だった、のぼせそうだし」
「何言ってんのよ、この娘のために上がるとこだったでしょ」
「うん。それもあり」
「だったら何で私まで抱え上げるわけ？」
「ついでに体力付けようかと」
「訳わかんないわ」
「いいじゃん別に」
「…ま、いいけどさ」

何とか都を煙に巻く事に成功し、まろんは安堵します。心の片隅では、今日の
都は何時に無くツッコミがゆるいなぁと感じながら。

そんな三人の様子を視野の片隅で捉えたユキ。即座に意識を現実へと向け、
状況を詳しく観察しようと試みます。一瞬だけ強さを増した悪魔の気配は既に
弱まり、今は元の様に輪郭のはっきりしない物に戻っていました。

「動きましたね」

３つ目のガラスの器の底から生クリームとアイスクリームとチョコレートの
混ざった塊をスプーンですくいながら呟くエリス。ユキは小さく頷き、アンは
小さく溜息を漏らします。

「で、どうするんですか」
「え？」
「アレをどうするのかって事ですよ。決めておいた方がいいですよね」
「あ、ああ、そうよね。どうしたものかしら」
「ノイン様はユキ様が何とかするから、という口ぶりでしたけど」
「ええっ？私はただシン隊長付きの彼女を送っていくだけって」
「でも最初からもう１匹オマケが付いていたんでしょ」
「ええ、それはシン隊長の話から大体は」
「そっちについて何か指示は無かったんですか」
「別に何も。そもそも飛び出て来るとは思わなかったし」
「シン隊長が抑えておくだろうから、ですか」
「…ええ、まぁ・・・」

二人とも内心で“それは無理”と同時に呟いていました。そしてユキは何故
最初からその点をノインに確認しておかなかったのかと悔やみます。

「とはいえ出ちゃったものは仕方無いですね」
「…遊ばれてるのかしら」
「は？」
「あ、何でもないの」
「そうですか。で、話を戻してユキ様の判断は？」
「えっと、私が決めるの？」
「そりゃそうでしょ。私はフィン様の正式な軍勢じゃありませんし、アンは
民間人です」
「私も、まだ正式には解任されてないから軍属のままなんだけど」

エリスはアンの言葉は完全に無視します。アンの方も自分の話がこの流れで
考慮されるとは思ってはいませんでしたが。

「作戦行動中ではなくても此処は一応戦地なわけで、であれば居合わせた軍人の
中で階級が上の者が判断するのが筋、ですよね」

魔界軍内の序列という意味では王宮直援で実質近衛軍相当、しかも魔王から
見た指揮命令系統という面では間に二人しか挟まらないエリスの方がずっと
上の階級に相当しています。しかしながら組織の一部に属しているとは本人が
これっぽっちも思っていない上に、本来の姿のアンを抑えたという１点において
エリスはユキの実力を高く評価していました。少々からかっている様な口ぶり
ではあっても、エリスがユキの判断を重視しているのは本心からなのです。

「ええと、それだったらシン隊長にうかがうのが本当の筋なんじゃ」
「どうやって聞きますか」
「どうって…」

判断を仰ぐべき隊長その人は今もまだ神の御子の、文字通り手中にありました。

「ちょっと行って聞いて来ますか。すいません悪魔出ちゃいましたけどって」

ぷるぷる首を横に振るユキ。

「何とかシン隊長とまろんさんを引き離せないかしら」
「無理でしょう。そもそもくっつけようと思って連れてきたのでは」
「それはそうなんだけど…」
「じゃぁやっぱりユキ様が判断すべきでしょうね」
「わかったわ。それじゃ…」

判ったとは言いつつ、ユキはやはり決めあぐねている様子でした。そこで
エリスは助け舟を出す事にします。

「ではこういうのはどうですか」
「こういうって」
「我々は何もしないんです」
「だってそれじゃ、あの悪魔が好き勝手に」
「好き勝手にやらせましょう。そうすれば神の御子が何とかするでしょう」
「まろんさんにって、封印してもらうの？」
「そういう事です。神の御子に後始末を押し付けるのが一番簡単です」
「それはそうかもしれないけど」
「それともユキ様が御自分で始末しますか？コッソリやるのは今更難しい気が
しますし、神の御子にはまだ正体を知られない方が良いと思うんですけど。
私達を含めて」
「…そうね、それが一番良いのかも。でも神の御子だって、私達の前では
表立っては行動しないんじゃないかしら」
「ですからそこはさり気なく戦える状況を用意して差し上げるんです」
「なるほど」

ユキはほんのわずかな時間だけ目を閉じて何事か思案している様子を見せ、
それからきっぱりエリスの方を見つめます。

「それじゃついでと言ってはなんだけど、頼みたい事があるの」
「もうやってますよ」
「え？」
「普通の人間の皆様は続々と退場中です。間も無くこの施設の中に居るのは
私達と神の御子御一行と一部のバカだけになります。奴らに効かせるには
もう少し時間がかかるのですが、まぁ邪魔にはならないかと」
「…悪魔の心を読むなんて酷いわ」
「ハハハ。本当に読めれば便利ですか？」
「さぁ、どうかしら。ん？何だか都さんの様子は変わらないみたい」
「神の御子に近すぎるからかも。神の御子が警戒していると御友人も障壁の
内側に入っている可能性がありますね」
「どうしよう。まろんさんとあの悪魔だけにならないと困るわよね」
「そこはそれ、ユキ様がうまく丸め込んで連れ出してください」
「私がやるの？」
「私は一仕事しましたよ」
「…わかりました」

何となく引っ掛けられた様な気がしたユキ。ですが結局はエリスの提案に
乗った以上はと行動を起こす事にしました。もっとも、彼女がそれを実行に
移す事は無かったのですが。ユキが席を立とうと腰を浮かせかけた時、アンが
ぽつりと呟きます。

「それどころじゃ無くなっちゃったみたいです」

アンの台詞は途中からユキの耳には届いていませんでした。椅子を後ろに
倒しながら飛び退いたユキ。エリスはアンの、自分から見て遠い方の腋に手を
突っ込んで抱きかかえながらテーブル脇の植え込みを飛び越えています。直後、
或は殆ど同時にテーブルは中央から縦に真っ二つに割れ、ややプールに寄った
方へ向けてゆっくりと倒れていました。テーブルが割れた線に沿って、地面の
コンクリートにも細い亀裂が走り、その裂け目の周囲だけが今は濡れて
いました。ユキがさっと視線を向けた先では、嵐の海の様にプールサイドに
波が打ちつけています。

「あらあら…」

ユキは手のひらを頬に当てて首を傾げ、心底困った表情を浮かべていました。

●桃栗町の外れ・ノインの館

昼食の片付けをした後、部屋へ行ったきり全は戻っては来なかったリビング。
二人の男が見つめる画面の中では特に変わった事は無い、極く普通のプール
サイドの光景が広がっていました。そしてその光景の中で、見慣れた人物が
見慣れない格好で動き回っています。

「いや、馬子にも衣装とかいいますが彼女らは良いですね」
「妙な喩えを御存知ですね、と感心すべきところでしょうが」
「が、何でしょうか。私が何か妙な事を言いましたか」
「仰った訳ではありません。我々の行為その物についての疑問です」
「はて、壮大なる実験の経過を見守る事が何か問題でも引き起こしていますか」
「部下や同僚や敵の女性達のあられも無い姿を覗き見る事の全部が問題です」
「あられもないとは、別に裸という訳ではなくちゃんと服を着ていますよ」
「水着です。殆ど裸と同じ様なものです」
「殆どと完全は別でしょう。あ、完全に裸という訳では無いという点は
同意していただけているのですね」
「それは、まぁ…」
「良かった。やはり完全な裸は見飽きますからね。あと一歩の所が良い」

ミカサは表情を変えず、しかし内面では頭をかかえて沈黙します。やがて。

「ノイン様、そろそろ私は失礼します。折角の機会ですので今後の事などを
自室にてじっくりと考えたいと思いますので」
「そうですか。残念ですね、面白くなって来たのに」
「まさかまた着替えなどでは」

顔を背けていた画面に再び視線を戻したミカサ。最後に彼が見た時にはユキの
白い脚が映っていた画面に、今は明るく開けた光景の奥で津波の様子を逆向きに
再生した様に盛り上がった水が縮んで行く様子が映されていました。

「！」

流石に部屋を飛び出していく事は無かったものの、テーブルの上に置かれた
ミカサの手に力が込められたのは確かでした。ですがすぐに緊張は解かれ、
そして画面から目を離すと同時にノインの笑顔に気付きます。

「心配ですか」
「何の事でしょう」
「ユキの事ですが」
「あのくらい何とかするはずです。心配などしてはおりません」
「そうですか。私は心配しています」

全然心配などという言葉とは無縁と思える、微笑が浮かぶノインの顔を見て
ミカサが尋ねます。

「何がご心配なのです」
「ユキやエリスがあっさり解決してしまう事が、です」
「それは結構な事ではありませんか」
「それではつまらないじゃないですか」

ミカサは聞かなかった事にして、再び画面へと視線を戻すのでした。

（第１７３話・つづく）

# あと２〜３回で終わる…はず。^^;;;
## 冬明け交替のはずが夏コミ明けと。（ぉぃ）

では、また。

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■■■■■■　佐々木　英朗　■■■■■■■
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