Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)<ckdgd5$206$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その2)<clfs1u$sq4$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その3)<cmkpa7$n9v$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その4)<cnpq23$uoi$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その5)<couhh3$6bl$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その6)<cq3l78$ci5$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その7)<crdmn4$ft7$3@zzr.yamada.gr.jp>、
(その8)<csvnro$s1b$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その9)<cu7vhd$j9o$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その10)<cvrqev$sj1$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その11)<d1lt0f$qn6$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その12)<d2o5ec$nph$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その13)<d4irob$l6$1@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。
^L
★神風・愛の劇場 第173話『水妖』(その14)
●桃栗町町境近く
両チームともに一歩も退かない熱戦を熱く熱く見守っているまろんは全く
気付いていませんでしたが、冷静に審判役を務める都はある事が気になり始めて
いました。それは試合を戦っている誰もが、それも殆どの打ち合いで主役を
演じているアンとエリス=ダイアナが全く汗をかいていない事でした。
時期は夏では無いとはいえ、遥か頭上を被う高い天井の大部分はガラス張りで
陽の光が溢れんばかりに射し込んでいる砂浜。しかも本来は砂蒸し風呂である為に、
足元からはもやもやと熱気が上がって来ています。各々1セットという短い試合
だったにも関わらず、まろんも都もちょっとした運動をこなした後より多くの汗を
かきました。そして確かにこれは蒸し風呂だなどと冗談を言った様な場所なのです。
もちろん、だからと言って自分の役目がおろそかになったりする都ではありません
でしたが、その考えがつい呟きとなって洩れたのは仕方の無い事だったでしょう。
「暑くないのかしら…」
たまたまボールを拾う為にネット近くに居たエリスが、その言葉を耳にして
顔を向けました。
「何か言いました?」
「え?あ、ゴメン。独り言よ」
「そうですか」
「ね、何かスポーツとかやってるでしょ」
「私ですか?全然やんないですよ」
「そうなの。全然汗かかないから凄いスタミナだなって思ったんだけど」
「はぁ、体質ですかね、違うとすれば」
「ふ〜ん」
ネットを離れてサービス位置へと向かいながら、エリスは内心では冷や汗を
かいていました。つい目の前の勝負に集中し過ぎてしまい、周囲に展開していた
誰もが細かい事を気にしなくなる雰囲気が薄れていた事に今更気付いたからでした。
ボールを構えて相手コートに打ち込む一連の動作はそのままに、エリスは
意識の半分を散らして施設全体の様子を探ります。薄くしかし満遍なく広がった
匂い物質は他の生物の呼吸によって吸収され再び排出される際に各個の身体
状況を反映した変化を起こします。その変化は微妙ながらも他の匂い物質に
よってリレーされ最終的にエリスの元へと戻って来るのでした。すっかり放って
置いてしまった状況を再走査し、人間達の情動に目立った変化が無いかを
確認していきます。やがて −− といっても人間の感覚では一瞬で −− 問題無し
との結論に達したエリス。意識のもう半分が既に相手側に打ち込んでいたボールを
アンがネット際で直接打ち返そうとジャンプした事に注意を向けたその途端、
戻しかけた意識の端に小さな反応が返って来たのです。印象の操作をかいくぐろう
とする試みが。
「!」
戻しかけた意識だけでなく、残していた注意を全てその反応へと向けるエリス。
その方が素早く状況が理解出来、即座に試合の方に意識を戻せるという判断から
でした。一方、まさに全力でアタックを打ち込むところだったアンはエリスの
注意が逸れた事を自分の事の様に見抜いていました。そのまま打ってしまえば
楽に勝てるという考えは全く浮かばず、逆に打ち込んではならないと思ったの
でした。しかしながら空中で出来る事は限られていて、アンは振り下ろす手を
途中で止めてしまったのです。ボールはアンの手のひらに当り、元々あった
勢いを少しだけ削がれたものの通常のブロックの様には落ちずネットの遥か上
へと舞い上がっていました。エリスの方は全集中力を向けた結果、一瞬で
何者かの正体を理解し再び試合へと目を向けていました。ですがその一瞬の間に
ボールは完全に視界から消えていたのです。咄嗟に思った事は、アンの猛打が
既に足元に飛び込んでいるのではという当然の予測。顔を下に向け素早く左右に
視線を走らせました。しかしそこには何も無く、そして俯いたが故にもう一つの
視野が上空に浮かぶ白い何かを捉えたのでした。遠近感の無いそれを正確に
捉えなおす為に慌てて上を向いたエリスの、文字通り目の前にそれは有った
のでした。そして彼女の身体は思うよりも速く、その身に刻み込まれた動作を
発動していました。
ぽしゅっ
その場にいた者たち全ての視線が一箇所に集まります。当のエリスですら何が
起こったのか理解するまで一瞬の間があり、やがて既にボールが試合には
耐えない状態である事が判りました。眼前に迫った異物を排除する為に瞬時に
出た手刀の突きがボールを貫いてしまっており、そのままエリスの手の先に
刺さっていました。空いた片手でそれを抜き取ってはみたものの、エリスは
それを誰にとも無く差し出して苦笑するしかありませんでした。
「穴、開いちゃった…」
「…そうみたいね」
やや間を置いて都だけが何とか呟き返したものの、その状況をどう判断すべき
かに関して迷っている様子は明白でした。ネットを挟んで反対側のポール際に
居た、もう一人の判断を下すべき者であるはずのまろんは単にその珍しい
出来事に興味深いといった視線を向けているのみ。まろんの目はエリスの
人並みからは大きく外れた素早い手の動きを辛うじて捉えてはいたのですが、
それを単に咄嗟にトスを上げようとした動作としか思いませんでした。エリスが
同じチームとはいえ男にボールを渡そうとする事など絶対に無い性格である
という点を知らない以上、まろんがビーチバレーの試合中にボールに向かって
手が突き出される動きを他の行動と結びつける理由も無かったのです。やがて
都の声がはっきりと目的を持って自分の耳に届いた事で、彼女の意識はその
出来事から離れていったのです。
「どう解釈したものかしらね」
「え?何が?」
「副審の務めを果たしなさいよ」
「ええっ?」
「こういう場合のルールなんて知らないから合議しましょうって言ってんの」
「え〜と…」
そんなやりとりをしている二人の傍に近寄り、エリスはボールを両手で挟む
様にして持ち両側から軽く力を入れました。ふしゅぅ〜、と音を立てて潰れて
いくボールに目を向けた二人にエリスはこんな事を言いました。
「ついボールを持っちゃった、って事にしかなんないでしょ。やっぱり」
「それでいいの?」
同意の印に黙って頷くエリス。都はそれを確認してから宣言します。
「ゲームセット。セットポイント64−62、勝者アン組」
意外な結末にシドを含めて男達は肩を軽くすくめただけでした。それはまろんと
都も同様でしたが、ただ一人アンだけはかなり困惑した表情を見せています。
彼女の思惑としては、勝てはせずとも全力をもって戦う事でエリスを満足させ
後に余計な遺恨を残させない様にするつもりだったのですから。しかしながら
当のエリスはアンの困惑をよそに、突然の幕切れを何という事も無く受け入れて
いる様子でした。潰れて椀の様になったボールを指先でくるくると回しながら、
エリスはシドに歩み寄ると勝負に区切りをつけていました。
『ラウダービリテル』
『ラウダービリテレスト』
潰れたボールをシドに渡すエリス。彼はそれに応えて、再びボールをエリスに
渡しました。
「ちょっと不本意だけど終わった。何か言う事あるか」
「無いよ。一応引き分けたけど、俺としては君に勝てた気はしないしね」
「つまらん事を言うな。次は“気がしない”じゃなくハッキリ判らせてやる」
「判った。楽しみにしてるよ」
シドはそう言って太陽の様に明るい笑顔を見せました。エリスは笑い返しは
しなかったものの、特に怒りもせずただ軽く片方の眉を動かしただけでした。
それから所在なげに立っていたまろんと都の方へ戻ります。
「付き合わせちゃって悪かったですね。話は済みました。ありがとう」
「いいの?」
「ええ、いいんです」
「ならいいけど」
まろんと都は当事者では無いにも関わらず何処か結末に釈然としないものを
感じていたのです。しかし当のエリスが終わったと言うのですから、それ以上は
何も言うべき事もありませんでした。妙な終り方の割にはエリスの顔にはスッキリ
とは言わないまでもサッパリとした表情が浮かんでいた様に二人には思え、
その事もこれで良いらしいという結論を後押ししたのです。その様な訳で、
まろんと都は仲間を連れて立ち去って行くシド達をぼんやりと見送ったのです。
その一方で、当事者の方は少し離れた場所でヒソヒソと話を続けていました。
「…怒ってるでしょ」
「何を?」
「いろいろ」
「な〜んにも」
「嘘」
「嘘なんかつかないよ。ほんとになんにも怒ってないって」
「だって、変な決着になっちゃったし…」
「別に変じゃないさ、当然の結末だよ」
「え?」
「私が男ごときを相手に本気で戦うわけ無いだろ」
「なんだ…変に気を使って損しちゃった」
「私に気を使うなんて千年早いね」
「もう何にも心配してあげないから」
顔をゆがめて舌を突き出すアンの顔を見て、エリスはニヤニヤ笑っているのでした。
*
確かに予定外の出来事に巻き込まれた形ではあった、まろんと都。ですが
そもそも何か予定通りの行動をしていた最中という訳でも無かった為、
エリス達の勝負が終わったからといってすぐには次にする事を思いつかずに
居ました。そんなわけで四人は思い思いの格好で砂の上でくつろぎながら、
とりとめも無い雑談を繰り広げていました。やがてそんな四人に、何時の間にか
近寄っていた人影がそっと声を掛けたのです。
「お邪魔かしら」
三人が顔を上げ、エリスだけは内心で「来たか」と呟いてからゆっくりと顔を
向けた先。熱帯の草花が濃紺の地に原色で描かれたワンピースの水着、そこから
伸びる病的なまでに白い手足の織り成すコントラストが見つめるものの目を
眩ませます。白いワンピースだったら裸に見えたかなぁ何とま凄いわね素敵です
流石です、と夫々が心の中で呟いていました。そしてそんなユキの見事な肢体に
隠れる様に、その背後でもじもじ動く小さな姿に三人は気付きます。
「あれ、あんた何処かで…」
都が呟きを漏らしながら記憶の奥底を掘り返し始めるよりも早く、まろんは
猛然と身体を起こしてその人影を抱きしめました。間にユキを挟んだままで。
「チェリーちゃん、何時来たの?!」
「あ、えっと、その…今朝こっちに着きました」
「そうなんだ。それにしても………柔らかいね」
まろんは頬をすりすりしながら、そんな事を言っているのですが当然ながら
それは話相手とは別の身体でありました。膝立ち姿勢のまろんの頬の感触を
腹部に受けながら、何とか声を振り絞るユキ。
「あの…」
「あ、ユキさんこんにちは」
「どうも、こんにちはです。それでその」
「はい?」
「くすぐったいのですが…」
ユキは頬を薄く染めて先ほどのチェリーの様にもじもじしていました。
内心“ミカサ様もこのくらい大胆な方だったら…”“私の方は何時でもお相手
させて頂きます”などなどと考えながら。
「ごめんなさい。ついうっかり」
まろんが片方の腕を広げる様にするとユキは出来た隙間からするりと脇に抜け
出ました。まるで逃げるがごとき速やかさで。そして出来た隙間を嫌うかの様に、
まろんは即座にチェリーを抱き直しました。その細い身体を改めて抱きしめながら、
“やっぱりもうちょっとしないとふっくらし始めないのかなぁ”とか思っている
まろんなのでした。
(第173話・つづく)
# やっと前フリが終わった。^^;
## 本題はさくさく終わるはず。
では、また。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
GnuPG Key ID = ECC8A735
GnuPG Key fingerprint = 9BE6 B9E9 55A5 A499 CD51 946E 9BDC 7870 ECC8 A735