Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)<ckdgd5$206$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その2)<clfs1u$sq4$2@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。
# すっかり隔週連載もーど。(ぉぃ)
^L
★神風・愛の劇場 第173話『水妖』(その3)
●桃栗町町境近く
ロッカールームから施設本来の主役であるドーム状の空間へは一旦地下へと
階段で下る構造になっていました。横幅はあるものの、天井の低さからやや
閉塞感を抱かせる通路を歩いていった先には再び上り階段があります。
その階段を上った先は突然に開ける広い空間、そして色々な形の浴槽が…。
「うわ…」
「どちらかと言うとこれは…」
この施設を設計した人物はスパやクアハウスといった類の物にあまり詳しくは
無く、単に広くて大勢が集まる屋内混浴大浴場という程度の知識しかありません
でした。そして彼は大浴場で誰もがついやりたくなるが普通は恥ずかしい事を
堂々と出来る風呂というコンセプトを思いつき、それを忠実に表現したのです。
幸いな事にそれは他とは違う物を、という発注元に受け入れられる事になった
のでした。そしてその結果として出来上がった大浴場が、今二人の目の前に
拡がっています。
「屋内プールにしか見えないわね」
「うん」
そこには誰が見ても競泳用プールにしか見えない幅およそ12メートル程で
長さはおそらく50メートルの長方形の浴槽 − でもやはりプール以外の何物
でも無い − があり、まろん達が階段を上がりきって出てきたのは正にその
プールサイドに当る場所でした。足下は滑り止めの濃い緑色のコンクリート
敷きで、所どころに熱帯産と思われる植物が繁る植え込みがありました。
それらの植え込みの陰には大抵はジャグジー形式の浴槽があり、夫々の
利用客の視線を適度に遮る様に工夫されているのでした。更にそれらを
ぐるりと取り囲む様にお湯が流れ続ける水路の様な浴槽もあり、上空から
見下して見ると島の中に大小の浴槽がある様に思える事でしょう。
「此でいったい私達にどうしろって言うのよ」
「とりあえず歩いてみよう」
「そうね」
閑散としたロッカールームの様子とは異なり、中にはちらほらと他の利用客の
姿がありました。特に小ぶりのジャグジーは大抵はカップルか少人数のグループで
既に占領されており、彼等彼女等だけの世界が築かれてしまっています。
「何となく隠れ家みたいで面白そう」
「確かに」
大規模施設でありながらわざと狭苦しい空間を多数用意する事で個人単位での
客の満足度を上げる事に成功した点が潰れなかった理由なのだろう。二人は
何となくそれを肌で感じるのでした。やがて全体の四分の一くらいを歩いた
ところで、良い具合に二人用のジャグジーを見つけました。
「泡出てないね。使えないのかな」
「何処かに蛇口とか付いてるでしょ、たぶん」
都が構わずざぶざぶと中へ入っていくと、彼女を追いかける様に周囲のノズル
から水流が湧き起こります。
「お、自動よ自動。まろんも早く来なさいよ」
「うん」
まろんが都の後について身を浸すとジャグジー内部はすっかり気泡に埋め
尽くされます。
「泡がくすぐったい」
「それが良いんでしょうが」
「それにちょっとぬるめな気も」
「熱かったらマッサージ効果を味わう前にのぼせちゃうわよ」
「おお、成程」
これは全身に刺激を与える為の仕掛けなのだと改めて理解したまろん。目を
閉じて泡がまとわりつく感触に身を委ねてみます。初めはこそばゆく感じた
気泡も段々に慣れてくると毛穴が開いて身体の中から色々なものが洗い
落とされて行くような気がしてきます。
「う〜ん、極楽ぅ〜」
「婆くさ」
「いいじゃん。都だって気持ちいいでしょ?」
暫く待っても返事はありません。まろんは目を開けて見回しますが、都の姿は
見当たりませんでした。
「都!」
まだ頭の中から抜け切らない嫌なイメージが瞬間よぎります。
水面に力なく浮かぶ都の姿が。
「み ひゃ!」
もう一度呼びかけようとしたその時、何かがまろんのお腹をむにゅっと掴み
ました。それが手の感触だと判ると、今度はまろんが水中に手を突っ込んで
やみくもにまさぐります。すぐに柔らかい手応えに行き当たり、ここぞと
ばかりに揉みしだくとそれは逃げる様に離れて行きました。直後、泡だらけの
水面を割って都が上半身をあらわにします。
「ひゃは。変なとこ掴むんじゃないわよ」
「もう、吃驚するでしょ〜急に居なくなって」
「泡にまみれて隠れられるか試したの」
「しょうがないな、も〜」
「こんなバカな事やってても周囲の目が気にならないのは良いわね」
「うん、そうだね」
二人はこんもりとジャグジーを囲む人工の茂みを見回しました。
「カップルにウケそう。隠れた穴場ってとこか」
「ねぇ」
「ん?」
まろんは都と自分を交互に指さしてから言いました。
「カップル?」
都は答えず、ただニマっと笑います。まろんも同じような笑みを浮かべ、
そして殆ど同時に二人は泡の下へと潜り込み手探りのおいかけっこを
繰り広げたのでした。
*
ひとしきり暴れて汗をかいた二人。いくらぬるめでも流石にのぼせてしまう
という事でジャグジーを出る事にしました。何か冷たい物でも飲もうとの
結論に達した二人は施設内の一画にあるレストランに向かう事にしたのです。
レストランとは言っても、プールサイドにしか見えない区画に適当に配置
されたテーブル群の一部がロープで囲まれていて、そのロープの内側の
テーブルに座ると店員が注文を取りに来るといういたって大らかな仕組み
でした。更にテイクアウトして他の場所で食べる事も自由でしたので、
まだ昼食時では無い事も手伝ってレストランのテーブルは全て空いていました。
いくら施設内を貸切り気分で利用するのが気持ちよくとも、流石にこの情況は
落ち着かないものがありましたから、二人は飲み物だけを買い求めるとロープの
外側の区画に陣取る事にしたのでした。そこからは50メートルプールにしか
見えない浴槽の、同じく飛び込み台にしか見えない四角い盛り上がりが並んで
いる辺りが見渡せました。浴槽 − 或はプールの縁 − に打ち寄せる水の音が
時折ちゃぷんちゃぷんと聞こえています。
「ねぇ、一休みしたらこっちで泳ごう」
恐らく一番広くて深いそれは既にまろんの頭の中ではプールとして分類
されていました。
「そうね…」
都の気の無い返事に、まろんはプールの方を見ていた顔を正面に向けます。
「どうしたの?」
「ん…べつに何でもないわよ」
「ならいいけど。泳ぐの嫌?」
「ん〜嫌じゃ無いんだけど」
「じゃぁ泳ごうよぅ〜」
「そうね…」
「もう」
何時に無く反応の鈍い都に少し不貞腐れて見せる事にしたまろん。ぷいっと
顔を横に向けてプールの方を眺めます。相変わらず他の客を数える程にしか
見かけない施設内でしたが、プールサイドは特に人気が少ない様に思えます。
もしかして使用出来ないのだろうか。そう思ったまろんはその場で立ち上がり
一段低いプールの水面を見渡します。丁度真ん中の辺りに奥から手前に向けて
泳いでいる人影がひとつ、そしてその人影を眺めているらしいもうひとりが
同じコースの奥の飛び込み台の上にいました。まろんは視力は良い方でしたが、
仮に目が悪くてもその褐色の肌の二人は見間違えるはずもありません。
「見てみて、アンさんが泳いでいる」
「ふ〜ん…」
相変わらずのパっとしない反応に、他の女の子の事を話題にしたのでまた都が
へそを曲げたのかと少し不安になるまろん。しかしながら都の様子は怒っている
というよりは本当に興味が無いといった感じでした。とはいえ振った話題を
軽くあしらわれてしまった形である事には変わり無く、まろんは会話を如何に
続けようかと悩んでしまいます。そんなまろんの耳に楽しそうな声が聞こえて
来ました。
「遅っ〜い」
声につられて顔を上げると、まろん達からはほんの十数歩の所にある手前側の
飛び込み台の一つにダイアナが跨ってプールの方へ向かって話しかけています。
まろんはその姿を見て目を何度も瞬かせます。
「あれ?」
「…何よ」
さも面倒そうではありましたが、図らずも都が会話に乗って来ます。
「いや、その、さっきまでダイアナさんはプールの向こう側に居た様な」
「まろんがよそ見している間にこっちに来たんでしょ」
「それはそうなんだろうけど…だってほんのちょっと前なのに」
「プールサイドを走れば15秒も掛からんでしょうが」
「そうなのかな…」
何となく釈然としないまろん。ダイアナの髪の毛からぽたぽたと滴り落ち続ける
水は、どう見てもプールから上がった直後に見えました。でももしかしたら
最初に泳いでいたのが彼女の方だったのかも知れない。そう考えれば全く有り
得ない事でも無い気がします。そんな事を考えながら見つめている先では、
ダイアナが手を伸ばしてアンをプールから引っ張り上げている所でした。
その場で顔を寄せ合ってひそひそと話しては笑い合っている二人。やがて互いに
頷き合うと連れだって何処かへと行ってしまいました。
「まろん」
「へっ?」
「何を惚けてるのよ、さっさと飲んじゃいなさいな」
何時の間にか都のアイスコーヒーは無くなろうとしていました。慌てて
椅子に座りなおすとクリームソーダをつつき始めるまろん。その目の前で
既に残り少なかった都のグラスの中身は消えてしまい、ストローがズズっと
終りを告げる音を立てています。
「まだなの」
「そんなに急かさなくても」
「ひと泳ぎするんでしょ?」
「乗り気じゃ無いのかと思ったのに」
「何言ってんのよ、最初から泳ぐ気満々」
「ふ〜ん」
冷たい物を口に運ぶペースを早めた所為でジンジンする頭の奥の更に奥で、
やっぱり都は自分をアン達の傍に行かせたく無かったのだろうかと考える
まろんでした。
(第173話・つづく)
# 本当はもうちょっと「その3」で先まで話を進めたかった
# のですが、コンスタントに記事を出す方を優先しました。
## 休みグセが付くと回復が難しいので。^^;;;;;;
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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