Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)<ckdgd5$206$2@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。
# 間が開いてしまって申し訳無いところです。
## 書いてる時間が無くて。^^;;;;;
^L
★神風・愛の劇場 第173話『水妖』(その2)
●オルレアン
「ただいま〜」
都と親密な一夜を過ごしたまろん。少しだけ寝不足ぎみでしたが、身体の芯に
残る疲れもどこか心地好く感じられます。そのままベッドに転がりこんで、
余韻に浸りながら寝直したい気分でした。そして履物を脱ぎ散らかして奥へと
行こうとしたまろんの耳を玄関の呼び鈴が連打しました。まろんはその場で
驚いて跳ね上がります。何事かとまろんが玄関を開くと都が先ほどまでとは違う、
しかも昨日程では無いにしろこざっぱりと整った服に着替えて立っていました。
「行くわよ」
「へ?」
「へ、じゃないの。さっさと仕度しなさいな」
情況が飲み込めず、ぐるぐると自らの記憶の中をかき回すまろん。
やっとの思いで、昨夜の寝物語の中でした約束を思い出します。
「行くって、今日の事だったの?」
「当然じゃ」
「別に来週とかでも」
都がぐいっと顔を近付けてきて囁きます。
「冷たいわね。余韻に浸りに行こうって言ってんのよ」
そう言ってから耳元にふっと息を吐きかけます。ぶるっと身を震わせ、
それからやや赤い顔で見つめるまろんに都は軽くウィンクをして見せました。
「冗談はおいといて、折角のタダ券なんだし。よもや若人のくせに週末の
残りの時間を寝て暮らそうとか思っていた訳ではあるまいな?」
「ま、まさか」
寝て暮らす気だったとも言えず、つい同意してしまうまろんなのでした。
そして都を待たせたまま、超速で着替えを済ませ必要な物をバッグに詰めます。
どうやら帰って来ては居ないらしいセルシア達の事、特に朝食や昼食の事が
気にはなりましたが用意をしている暇もありません。まろんは心の中で
ゴメンね、と呟きながら慌ただしく出かけていくのでした。
●桃栗町内
目的の場所が公共施設や特別有名な人物の家である場合を除き、いくら地元に
詳しい運転手であってもタクシーで個人の家まで道を言わずに辿り着くのは
困難な事です。あの日、無我夢中で逃げ回った末にやっかいになった家に
住人の名前と建物の外観を言っただけで行き着けるとは流石に思わないものの、
似たような場所を何ヶ所か巡ってもらえるのではないかという期待すら叶わず
彼女は途方にくれていました。うかつにも空港に降り立った時になって初めて、
連絡先すら満足に知らない事を思い出す始末。こうして町の中心部に来てはみた
ものの、この先どうすれば良いのかまったく考えがまとまりません。入国審査で
勇ましい言葉を吐いて係官を苦笑いさせた事が遠い昔の事の様に思えます。
やっぱり無茶だったのだろうか、と、そんな考えが浮かんでは消えてを何度も
繰り返した頃。ふと微かに感情を撫でる気配を背中に感じました。それは
忘れたい思い出と忘れがたい思い出が入り交じった出来事の記憶に通じるもの。
踏み出さないと何も変わらない。そう決心して来たのでは無かったか。この気配
を追わなければ、と自分に言い聞かせます。その身体には不釣り合いに大きな
バッグを持ち上げると、彼女は心を揺り動かす何かの方へと歩き出すのでした。
その先にあるのが、きっとあの日と同じ出会いであると信じて。
●桃栗町某所
薄暗い灯りの下、拾ってきた手鏡で身なりを確かめた後。彼は“はぁ…”と
何度目かの短い溜息をつきました。途端に周囲の暗闇から沸き上がる嗤い。
「相変わらず覇気が無ぇな〜」
「嫌なら止めちまえょ大将」
「そういう…何てんだっけ、俺らには柄じゃない行動っつうか」
「勤勉とか努力とか忍耐とか……うぇ、言っただけで吐きそうだぜ」
「そうそれだよ、そういうのは美徳に反するでしょ、アクマのさ」
彼は誰にとも無く、或は皆に向けて頭を掻きながら応えます。
「仕方ないんだよ、仕事だからね」
また起こる嗤い。
「臭ぇ〜」
「臭うぞ臭うぞ」
「人間みたいだぜ、ダセ〜」
「何処が一番臭ぇのかなぁ」
「ナニか?」
「ぎゃはは。臭う程御無沙汰かよ」
「おまけにデカいらしいぜぇ」
「肝っ玉は小せぇが別の玉はデカいってか〜」
「ひゃっひゃっひゃっ」
ふぅ、とまた溜息を洩らしてから扉に手をかけ肩越しに振り向きます。
「とにかく出かけてくる」
「俺らも付き合ってやろうかぁ?」
「いや、今日は休息って事になっているからね。それに君らは作戦時以外は
外に出さない様にと言われているから」
「ぉぃぉぃそりゃ無いぜ」
「差別だ〜」
「人種差別反対〜」
「最初っから人ぢゃね〜」
「よ〜し隊長の真似して人になっちゃうぞぅ」
「隊長の真似だけは止めとけ」
「何でだ」
「臭っちゃうからだよ!」
「ギャハハハ」
温かい声援に背を向けて扉を閉じると、もっとも悪魔らしく無い悪魔との
誉れ高い彼 − シン − は呟くのです。
「みんな楽しそうでいいな…」
穴倉の様な宿営を出ると外は明るく、実に平和そうに見えます。そして
とろとろとした陽射しは、疲れた顔の悪魔にも平等に優しく降り注いでいました。
●桃栗町内
良い意味でも悪い意味でも目立たない様に気を使った服装のお陰で見事に全く
誰の視線を受ける事も無く、シンは町の中を歩き回る事が出来ました。
休めと言われて(言われなくても)休める部下達を羨ましいと思う一方、彼には
休んでいる間にする事がまるで思いつかないのでした。何もしない事が休む事と
いうあたりまえの部分にすら違和感を感じてしまう有り様。その様な訳で何かに
つけて自分から仕事を見つけ出してしまうシン。その日は予てより気になっていた
はぐれ悪魔を探し、部隊への合流を説得するつもりでした。痩せても枯れても
悪魔族の者である彼でしたから、同朋を見つけ出す事は難しくはありません。
大変なのは元々個の主張が強い彼らの中でも、とくにはぐれ者はその傾向が
強く普通なら力でねじ伏せなければ連れ戻す事は困難である点。どうも彼以外の
部隊上層部は彼等の存在を黙殺している様に思われるのですが、シンとしては
やがて来るであろう撤退の際には彼等も伴うべきだと考えていたのです。
とは言え、その日感じた最初の気配はこんな事は発案だけにして誰か他の者に
担ってもらうべきだったかも知れないと激しく後悔させる代物でした。
貪欲そうな思念を、しかし慎重に抑える知恵も備えたソレは地中の浅い所を
常に移動している様に思われます。その移動が人間の作った道にほぼ沿っていた
事が追跡には好都合だったのがせめてもの救い。人前で白昼壁抜けなどを披露して
しまう危険を犯さずに済むのですから。ですがシンはその日、自分もまた後を
つけられているという事に全く気付いてはいませんでした。
●桃栗町町境近く
元々何も無かった場所に大駐車場を伴った日帰り温泉施設が出来るという話を
周辺住民が初めて耳にした時の反応は、ほぼ一様にどうしてまたこんな所に?
というものでした。たとえオープンしたとしても物珍しさが冷める頃には潰れて
しまうだろうとの大方の予想に反し、実際には開園三年を経ても年間入場者数は
ほぼ横這いで大繁盛とは言わないまでも来期の黒字化は達成出来そうな情況。
それを支えているのは後から併設されたショッピングセンターと多数の小規模
映画館を合体させた複合施設にある事は素人でも想像出来る事。ですがそこには
それだけでは無い要素もあったのです。桃栗町と隣町との境目に近い、県道沿い
の場所にそれはありました。
「一年で潰れると思ったんだけど」
「私は二年くらい持つかなって思ってた」
「バスも車も降りた人はみんなショッピングセンターに行っちゃうけど」
「ま、空いてる方が良いでしょ」
「そうだね。貸切みたいに空いてるといいな」
などと好き勝手な事を言いつつ、まろんと都はタダ券持参という売り上げに全く
貢献しない客として近隣では最大級の入浴施設へと足を踏み入れました。
建物は一見すると二人にとっては馴染みのある屋内競技場の様なデザインで、
実際内部も建物と同じ高さをぶち抜いた空間と多層に区切った部分とに分かれて
います。入り口から入るとまず受け付けがある事と、競技場等とは比べ物に
ならないくらい更衣室が広くロッカーの数も多い事が目立った違いでしょうか。
普段の狭苦しいロッカールームと違って広々とした空間は、何処で着替えれば
良いのか迷ってしまいそうでした。実際のところ二人は着替える場所を探すという
よりは、単なる好奇心で歩き回っていたのですが。
「あ、見て見てシャワー室だって。何だか妙に沢山あるけど」
「温泉って言っても中は水着着用なんだから、入る前の理屈はプールと
同じなのよ。綺麗にしてから中に入れって事でしょ」
「成る程。上がり湯みたいなもんか」
「逆じゃボケ」
恐らく半分くらい奥まで行った辺りでのこと。ロッカーが立ち並ぶ間からふっと
人影が現れ、二人に気付いたのかこちらを向いて立ち止まりました。片手を
腰に当ててすっと立った姿を思わず上から下まで見つめる二人。短めの髪は
まだ濡れていない事から、相手も来たばかりという事なのでしょう。視線を
下げていくと巨大とは言わないまでも充分な膨らみがあり、筋肉が浮き出る程に
極端では無く適度に引き締まった腹部はほっそりしていて、更にその下には絵筆で
さっと撫でた様な控えめな陰り。その下からは力強さをも感じる下腿が延び、
全体としては細身ながらメリハリのある曲線を描いていました。そして、まろん
だけでは無く都までもが無言で視線を彷徨わせてしまう事になったその姿の主。
何ひとつ身に付けていない姿のままで相手は何度かまばたきした後に微笑みます。
「こんちは」
「あ、えっとアンさんのお姉さん」
「ダイアナさんでしょ、もう忘れたの?」
「気にしないでいいよ。私もそんな名前忘れてたから」
笑うべきところなのか、それ以前に彼女の姿に関して何か言うべきなのかと
二人が悩みかけた瞬間。まろんと都の視界を白いものが遮りました。
「ちょっと何やってるのよっ!」
全裸の娘の背後から大きなタオルを巻き付けたもう一人の娘にもまた、二人は
見覚えがありました。
「あ、アンさん?」
「あらあら、まろんさんに都さんまで。奇遇ですね」
「う、うん、そうだね」
そう応えつつ、まろんはさっと視線をアンの全身に走らせます。残念無念な
事に、アンはちゃんと水着を身に付けていました。コーラルピンクのビキニを。
腕の上からタオルでぐるぐる巻きにされたエリス − 或はダイアナ − が
抗議します。
「離せよっ」
「裸でうろうろしない!」
「何で、ここは風呂だろが」
「こういう所では水着を着るのよ」
「そんな風呂があるもんか」
「に…こっちには有るの」
「判ったから離せよ」
「駄目」
アンはそう言うと姉を抱えてロッカーの立ち並ぶ一画へと姿を消しました。
「あ〜、吃驚した」
都がジロりとまろんを睨みます。
「どうせ眼福とか思ってるんでしょ」
「え?まだ満腹じゃ無いよ?」
「アホ」
都はまろんの腕を掴み、二人が消えたのとは反対の方へと彼女を引き連れて
行くのでした。その様子をロッカーの陰からそっと見送ったアン。背後では
しぶしぶといった緩慢な動作でエリスが水着を身に付けていました。アンと
同じデザインで色違い、レモンイエローのビキニです。
「ちょっと吃驚しちゃった」
「ま、考えてみれば不思議じゃ無いけどね。まろん様達の方こそ、昨日は
普通の客として来ていたんだし」
「でも昨日の今日で遊び歩いているなんて思わないじゃない」
「そうかな。報告書から受ける印象だと“らしい”って気がする」
「そうなのかな」
「さ、行こう」
「でも、まろんさん達と一緒になっちゃったし」
「何だよ、帰るっての?」
「だって…」
「別に構わないじゃん。なにしろ休息日だし」
「不要な接触は避けろって」
「このまま帰ったら逆に怪しいよ。それにこんな時の為にわざわざ」
エリスは自分の前髪をつまんで玩んで見せます。
「色着けて来たのに」
「それは町中で見られたりした場合の為よ」
「同じさ。ばったりでもべったりでも」
思案顔のアンに向かってエリスは首をかしげたり眉を上げ下げしたりして結論を
促します。
「まだ何か言いたい事、ある?」
「ま、いっか。普通にしていれば良いんだもんね」
「よし、行こう」
そうして二人はひたひたと駆け足でロッカールームを飛び出して行きました。
(第173話・つづく)
# 後日談ネタにするかどうかずっと迷っていたのですが、
# 本編決着前に呼んでおこうかと思い直しました。
# 振っておきながら未回収のネタの一番の大物/大者なので。(笑)
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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