Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第173話『水妖』(その1)
●桃栗町の外れ・ノインの館
誰にはばかる事も無い隔絶された場所ではありましたが、夜遅くである事もあり
エリスは静かに扉を開くとリビングへと足を踏み入れました。中ではミカサが
ただ一人で椅子に腰かけています。他にはキッチンから微かな物音がするだけで、
館は静まり返っていました。
「戻りました」
「ご苦労様。悪かったね、私の部下でもない君に色々と頼んでしまって」
「それは別に構いませんが」
「ノイン様は未だ戻られていない」
エリスが尋ねる前に答えるミカサ。
「多分、今夜は戻られないのでは無いかな。古い知人の方と語らって来るとか」
「それはきっと女性ですよ」
ニヤっと笑うエリスにミカサもやや苦笑混じりの笑顔を向けます。
「否定する材料は無いが、どうかな」
「ま、どっちでもいいんですけどね」
「確かに。それで皆の様子は」
「つつが無く。レイ様とミナ様を除いては特に被害も出ませんでしたし」
「二人は?」
「こちらに顔を出して報告を、と言い張られまして。ミカサ様が明日で良いと
仰有っていると言っても聞いてくださいませんでした。身体は大丈夫だからと。
それで」
「それで?」
エリスは小首を傾げて子供の様な笑顔を見せました。
「本当に大丈夫なのか確かめさせていただきました」
「どうだった?」
「今頃はぐっすりお休みです」
「それでいいよ、ありがとう」
「どういたしまして。それと私の術は狭い所で使うと多少周囲にも影響が
あるので、お二人の部屋の周辺の連中も一緒に寝てしまってますが」
「構わない。どうせ明日すぐに次の作戦という事は無いはずだから」
「そうですか」
軽く頭を下げキッチンの方へ向かおうとしたエリスは、逆にキッチンから出て
来たユキに行く手をふさがれる形で立ち止まります。
「お帰りなさい。お茶でも如何?」
「私がやります」
「いいの。もう用意は済んでるから」
エリスはちらっとミカサの方を見てから応えます。
「私は結構です。それでミカサ様」
改めて彼の方に向き直るエリス。
「他に何か御用はありますか?」
「いや、もう無いよ。私はもう暫くノイン様の帰りを待ってみるつもりだが」
「そうですか。もし宜しければお部屋を用意しますが」
「部屋?」
「この後で陣にわざわざお戻りになる用事は無いのでしょう?」
「まぁそうだが、しかしね」
「それにミカサ様がお帰りになられると、この家から殿方が居なくなって
不用心です」
君が居るだけで充分だろう、とミカサは言いかけましたがエリスが純粋に
休息を勧めてくれているらしいと気付いてその言葉は飲み込みました。
「ありがとう。ではお言葉に甘えよう。ノイン様が戻られなかった場合に備えて」
「では二部屋ご用意してまいります」
「ああ」
「え?」
ミカサとエリスのやりとりを黙って聞いていたユキが素っ頓狂な声を上げます。
「ついでと言っては何だが、ユキも休ませてもらうと良い」
「でも私は」
「嫌なのか?」
「そ、そんな事はありません」
微かに頬を染めて俯くユキにエリスがそっと耳打ちします。
「二人で一部屋にしましょうか?」
「!」
真っ赤になったユキが何か言い返そうと顔を上げた時には、もうエリスは
リビングを出ていってしまっていたのでした。
*
結局、日付が変わった頃になってもノインは戻りませんでした。そしてミカサと
ユキはエリスが用意した部屋にそれぞれ厄介になる事になったのです。隣合った
その二部屋は他の客間と違って間に直接行き来出来る扉が付いた部屋でした。
ユキはベッドに入った後も、その扉を見つめて悶々とした一夜を過ごしました。
扉の向こうではミカサが早々に眠りに落ちていた事なども知らずに。
*
何時もの様に会議なのか雑談なのか判然としないノインの館における朝食の時間。
ただしその日の朝に限っては本当にただの朝食の時間でしかありませんでした。
何故なら。
「通達は昨夜の内に出しておいてくれたのですね」
その問いにミカサは頷きながら答えます。
「今日一日は休息日という事で」
「何か遊んでばっかりですね」
声のする方へとちらりと目をやるノインとミカサ。テーブルの脇に立っている
エリスは少々呆れた様な表情でノインを見つめます。
「昨日の今日ですからね、皆も疲れた事でしょう」
「遊んでいて疲れますか」
「人聞きの悪い事を」
「それに昨日の作戦に参加していない者が多数残っていますよね」
「指揮官クラスの消耗が激しいのでね。運用出来なければ意味が無いでしょう」
「休養が必要なのはレイ様とミナ様だけでしょうに」
「私も休養したいのですが」
「それが本音なんですね」
「あなたも休養した方が良いのでは?昨日の様子では」
ノインの口元に微かに浮かんだ笑みにエリスは片方の頬をひくつかせて応えます。
「女の子の術者の飛び入りなんて聞いてませんよ」
「あなたなら何とかしてくれると期待していたんですけどね」
さらに渋い顔をするエリス。しかし直後に目を見開いてノインを睨みます。
「その言い草、飛び入りの事を知ってたんですね」
「いいえ。ただ想定外の要素の気配は感じましたが」
「くそったれ」
「何をそんなに苛々しているの?」
トレイに湯気の立つ椀を載せて、アンがキッチンの方から姿を見せます。
「苛々なんてしてない。腹が立つだけ」
「自分に?」
エリスは口をへの字に曲げて、しかし無言で肯定します。
「エリスは良くやったと思うの。それにあの時点で、既に役目はほとんど
終わってたんだし」
「図らずも東大寺都を危機的状況から救えましたしね。飛び入りを
防げなかったお陰で」
「エリス、気にする事は無い」
エリスがノインに食ってかかる前にミカサが声を掛けました。
「役立たずという意味でなら、私こそ肝心な時に何もしていない」
「ミカサ様のお仕事は遠くから見ている事です。ちゃんと役目は果たされた」
「そうそう自分を卑下したものではないよ。君がそんな調子だと、小さな功績を
積み重ねている者たちの立場が無くなる。違うかい?」
暫く無言でいたエリスでしたが、がしがしと乱暴に頭をかくと小さく呟きます。
「判りました」
そしてアンを手伝う為にキッチンへと向かう彼女の背中にノインの暖かい言葉が。
「負けて勝つという事ですね」
「やっぱムカつく」
エリスは振り向きもせずにキッチンの奥に姿を消しました。
「ノイン様…」
ミカサは折角の苦労を台無しにしたノインをじっと見つめます。
「いいんですよ。エリスはぶつぶつ文句を言っているうちはそれほど気にしては
いません。彼女の苛々の本当の理由は単に戦い足りなかったとかそんな所でしょう」
「そうでしょうか」
「ええ。ノイン様の言う通り」
彼の前に味噌汁の入った椀を置きながら、アンが付けたします。
「こんな事を言っては良くないのかもしれませんが、エリスは作戦の成否は
多分…全然気にしてないかも。ただ自分の戦いという部分にだけ納得してない」
「それはそれで、あまり好ましい事では」
「仕方ありません。何せ、王宮の侍女なので」
「はぁ」
毎度の事ながら話が見えないという顔のミカサにノインは簡単に説明します。
「侍女たちは基本的に個々の戦闘力だけで選ばれた様なものですから。
それと顔の美醜は当然として」
「戦闘力だけとは…では他の侍女達もエリスの様な性格なのですか?」
「まぁ色々ですが概ね個人プレー好きが多いと思いますね。流石にリーダー格の
者はそうではありませんが」
「しかし何故侍女職の選抜に戦闘力が関係するのでしょうか」
「あぁ、成る程。ここ最近は魔界の中は静かなのでミカサにはピンと来ない
のですね。王宮の侍女には魔王様の警護という役目があるのです。近衛兵、
という表現が近いでしょうか」
「魔界軍に王宮直衛の部隊が無い様に見える理由はそれですか」
「そういう事になりますね」
「では侍女達は相当の数が?」
「正確には私も知りませんが数十人というところかと」
「随分と少ない様な印象を受けますが」
「前線に出て大部隊を相手にする訳では無いので足りるのでしょう」
「そういうものですか」
「そういうものです」
二人の会話はそこでトタトタと慌ただしく階段を降りてくる足音に遮られます。
「おはようございます!」
リビングの扉の所には皺だらけの寝巻姿のユキが立っていました。髪の毛の束が
いくつか斜め上に向かって飛び出ています。
「おはよう」
「遅くなってしまい申し訳ありません!」
「よく眠れた様だね」
「いえ、その…」
ノインとミカサの前にご飯を盛った茶碗を並べていたエリスが口をはさみます。
「本当は良く眠れなかったんでしょ」
「そうなのかい?」
「あ、えっと、そんな」
「とりあえず」
ノインは茶碗を手に取りながら、わざとらしく顔を横に向けて言いました。
「着替えたらどうですか」
ユキは顔だけでなく首筋まで真っ赤になったかと思うと両手で自分の胸元を
抱きしめる様にしてリビングから退散しました。来た時と同じく派手に足音を
響かせながら。
*
朝食の後片付けを済ませ、とりあえず昼前まではする事が無くなったエリス。
彼女がこちらに来るまでは雑草だらけだった芝生に大の字になって寝ころび、
見るともなく空を見ていました。サクサクと芝を踏む音が近づき、まだ低い
陽を遮る影が彼女の顔を日陰にします。やがて彼女の頭上に立ったのはアン。
もっとも足音が聞こえるよりも前からエリスにはアンが来た事は判って
いましたが。
「見えちゃうよ」
「相手が男性なら気をつけるわ」
そう言いつつも、アンはスカートの裾を脛と腿の間にはさむ様にして
しゃがみこみました。
「退屈そうね」
「休息って言われちゃうとする事が無いんだよ。王宮と違って、ノイン様の
家はせまいから全部掃除してもすぐ終わっちゃうし」
「それなら私に付き合ってくれても良いわよね」
「良いけど、何?」
アンはニコニコしながら細長い紙切れを両手で広げてエリスの顔の前に
かざして見せました。
「じゃ〜ん」
「何だそりゃ」
「昨日ね、遊園地を出る時にもらったの。入園者全員に配っていたのよ、
お騒がせしましたって言って。変よね、騒がせたのは私たちなのに」
「私はなんにももらってない」
「だって出口から出なかったでしょ?」
「まぁね」
『温泉スパ桃栗優待券』と書かれた表面と裏に書かれた地図が透けて重なり、
その所為でまだら模様になって見える紙を端から端まで眺めるエリス。
「温泉と遊園地に何の関係があるんだろ」
「同じところが経営しているんじゃない?」
「ふ〜ん」
「ねぇ、行ってみようよ」
「何で」
「私が行きたいから」
「一枚しか無いじゃん」
「ちゃんともう一枚あるわよ」
アンが手をすこし滑らせると、一枚の優待券がずれて二枚になり透けた部分に
何が書いてあるのかがまるで判らなくなりました。
「面倒臭いなぁ」
「じゃ一人で行っちゃおうかな」
「それは駄目」
「じゃ、来て。護衛のつもりでもいいから」
「わかったよ」
もっさり立ち上がるとそのまま館から離れた方へと歩き出すエリス。
「待ってよ」
「ん?今から行くんじゃ無いの?」
「行くけど、そんな格好じゃ駄目」
「いいじゃん別に。温泉って事は風呂だよね要するに。どうせ服は脱ぐんだし、
なら何着ていっても同じ」
「駄目よ、行く途中で目立っちゃうし何より私が嫌」
「なんだよ〜私の仕事着に文句あんのか」
「そうじゃ無いけど、それは普通にお出かけする時に着る服じゃ無いわ」
「判ったよ。で、何着ろって?」
微笑みながら手招きするアンを見て少し不安になるエリス。黙って付いていった
アンの部屋で着せられた服は、しかしそれほど変なものでは無くブラウスに
スカートにボレロという組み合わせでした。ただ一点の引っかかりを除いて。
「何でおんなじ服が二着あるんだよ」
「買ったからよ。でも同じじゃないわ、よく見て」
「ほとんど同じじゃん」
「全然違っていたらお揃いにならないでしょ?」
そう言いながら鏡の前で腕を絡めてくるアン。わざと仏頂面を作ろうとする
エリスも何となく表情が弛んでしまうのでした。
*
階下に降りるとリビングには何やら小さい字がびっしり書かれた厚い本を
テーブルの上に広げ熱心にページをめくっているノインだけしか居ませんでした。
扉が開くと彼は顔を上げ、ついで屈託の無い爽やかな微笑みを見せました。
その顔を見て即座にエリスが言います。
「何も言わないでください」
「良く似合っていますよ」
「本当は逆の事を思っているくせに」
「これまた心外な事を。私は心から讃めていますよ」
「ノイン様」
「はい」
「次は悪魔族に生まれ変わった方が良さそうですね」
「実は私もそんな気がしています」
二人の会話を苦笑まじりに聞いていたアンでしたが、リビングをぐるりと
見回してつぶやきます。
「シルクは?」
「どうも疲れている様で、朝食の後で寝てしまいました」
「昨日は頑張ってたからね。連れていってやる気だったの?」
「そう思っていたんだけど、寝かせておいてあげましょう」
「それがいい。という事ですんで、出かけますから留守番お願いします。
朝帰りのノイン様」
「はいはい」
「…それと私達の事は」
おずおずと付け足したアンにノインは応えます。
「判っています。トールン殿達には買物に行ったとでも伝えますよ。
行く先を聞かれた場合にのみ、ね」
それを聞いて安心した二人、ぺこりと頭を下げて二人だけの息抜きに
出かけていったのでした。
(第173話・つづく)
# つまり温泉話になりました。
## 湯気は最初からスッキリ。(笑)
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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