Fuhito Inagawa wrote:
> 稲川です。

> うーん、私の個人的な感覚としては、一般人の法にたいする
> 認識というのは、刑法解釈などよりもかなり漠然としたもの
> なんじゃないかと思ったりします。
> 
> 「他人の物を盗ったら刑務所にいれられるぞ」とか、
> 「人を殺したら死刑になっちゃうぞ」というような
> 認識なんじゃないですかねぇ。
> 
> でも、「法は最低限の道徳」であって、およそ社会に
> かかわりをもって生きている以上は、まさしく最低限
> にすぎないのであって*それ以上の道徳*が必要に
> なりますし、また自然と身に付けている筈です。

わたくしもここまではあなたと同じ認識でいます。だからこそ、教科書にも語ら
れ、あなたも言っておられるところの「明確性の原理」から導かれる犯罪構成要
件の特殊性が、他の法分野の構成要件と刑法の構成要件とを異ならしめている、
とするのはいかがなものか、という疑問を申し上げたのでした。

なぜなら、「他人の物を盗ったら刑務所にいれられるぞ」とか、「人を殺したら
死刑になっちゃうぞ」というように、「一般人の法にたいする認識というのは、
刑法解釈などよりもかなり漠然としたもの」であるから、犯罪構成要件がなにか
特別に明確であってほしいか否かの問題に直面することがないまま犯罪行為に及
んでしまうのが殆どだと思う。つまり、犯罪構成要件が明確であるか不明確であ
るかなど気にせず行為に及んでしまうのがほとんどであって、そのような行為者
には「明確性」は猫に小判、こう思うわけです。尤も、抽象的には、行為者には
何が犯罪で何が犯罪ではないかを敢えて「知ろうと思えば」知れる形にはなって
いる程度には明確でなければならないとは言えるでしょうね。

つまり、刑法の構成要件=犯罪構成要件は、単に法的効果を導く理由あるいは原
因と言う役割を持つ一般的意味での要件というのとはそもそも質的に異なるので
はないか、言い換えますと、単に「明確性の原理」から導かれているから「特別
だ」というだけでは足りなく、「特殊な意味」が込められたものなのではない
か、と言うことなのです。もしそうでなかったなら、たとえばですが、裁判で行
為者が「明確であった」と言ってしまえば、犯罪成立要件である、構成要件該当
性、違法性、有責性判断を義務的に順序立ててやる必要はなくなり、民法その他
と同じように、前後バラバラにやってもやることさえやれば判断としては誤りで
はないということになりまよう。しかし、刑法ではそれは誤りだと思う。

そして、また、その特殊性が行為者の行為時に威力を発揮するというよりはむし
ろ、裁判所が裁判をする段に、裁判される側の行為者に不利にならないようにと
の配慮から出た概念ではないのか、内実は刑法内部での手続き規定の趣旨をも含
んでいるのではないか、と言うことなのです。つまり、法が裁判官を適切に誘導
するべく定めた「あるもの」、これが犯罪構成要件で、これは法文あるいは条文
上の文言そのものではなくて、解釈によって初めて摘出し確定される、そんな気
がするのです。

で、こう考えてみますと、刑法の構成要件は刑罰法規の明確性というよりは「罪
刑法定主義」そのものから導かれた刑法固有の要件と考えた方が良さそうな気が
します。

> 
> ですから、専門家のように詳しく知っているわけでは
> 無いからといって、ある日突然刑務所にブチ込まれる、
> という事は無いんじゃないでしょうか。

そうでしょうかね。

> 
>>それとも、この「恕せず」は行為時の不知に対するもので、いざ裁判になったり
>>あるいは処罰の問題が起こったときに改めて意識して法文を見たときには「明確
>>だ」と意識できるものでなければならない、との趣旨なのでありましょうか?そ
>>れなら理解できます。ただ、そうしますと、その「明確性は」裁判所の一方的な
>>判断に疑いをもつのに十分な材料を国民がもてるようにとの趣旨であるように思
>>います。
>>
>>そうだとすれば、その犯罪構成要件は裁判規範として作用するときの話ですか
>>ら、いよいよ他の法分野に於ける要件と何ら異ならない事になるのではないで
>>しょうか?
> 
> 
> 刑事裁判では、全ての犯罪行為を必ず処罰しなければ
> ならない、というものではありません。軽微な犯罪は
> 不起訴にすることもできます。
> 
> テレビのそのテの番組で「これって罪じゃ無いの?」
> なんてやってる様な事例は、法解釈上の構成要件の
> レベルの話としてはその通りなんだろうと思います。
> けれども多分、誰も「けしからん!」とか、「絶対に
> 罰してもらいたい」とか思わないでしょ?
> 
> 構成要件を厳密に解するからと言って、それらの全てを
> 必ず処罰する、という前提の議論ではない、という事も
> 結構重要。

わたくしが言いたかったのは民法が適用される場合にも適用条文中の要件は明確
になるまで解釈されなければならず、その点は同じだと思う、と申し上げたので
した。書き方が下手だったとすれば訂正させていただきます。

> 
> 一方民事裁判では、争いがある以上何らかの判断が
> くだされる必要があります。しかも、当事者双方を
> 納得させる判断を下さなければなりません。
> 
> そして、最も重要な事は、民事法の場合には、
> その規定が強行法規ではない、という点ですね。
> 
> 民法がどのように規定していても、それと異る
> ような契約や合意がある場合は、公序良俗に反し
> ない限りその契約に従わなければなりません。
> 
> しかも、その「公序良俗」というものが、明文化
> されているわけではない、という点でしょうか。
> 公序良俗とはなんぞや、という事も議論になる
> わけですね。
> 
> そうして、民法の規定は、そういう契約が存在
> しない場合に適用されるという性格があります。
> 
> これが、最も大きな違いではないでしょうか。

民法の性格と言うことでしたならば、あなたの見方は正しいと思います。ただこ
こでは民法全体の性質というのでも一つの丸ごと条文と言うことでもありません
で、ある条文に「〜がなされたら…ということが発生する」という趣旨が書いて
あったときの「〜がなされた(ならば)」に当たる所だけを取り上げて要件と
し、「…と言うことが発生する」を効果としているわけです。

この要件は、ある効果が発生するとされる場合には一つではなく幾つかがそろっ
ていなくてはならないことが多い。それをまとめて「構成要件」ということが有
るのです。

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one of the people in general