# 若干引用順が前後してます。

At Tue, 24 Feb 2004 21:09:24 +0900,
in the message, <c1fesl$35c$1@news.mirai.ad.jp>,
Fuhito Inagawa <fuhito@za.ztv.ne.jp> wrote
>でも、「法は最低限の道徳」であって、およそ社会に
>かかわりをもって生きている以上は、まさしく最低限
>にすぎないのであって*それ以上の道徳*が必要に
>なりますし、また自然と身に付けている筈です。

まあそれは法定犯には当てはまらないことも多いわけですが、そもそも罪刑法
定主義がなぜ生れたのかを考えれば、なぜその原則を維持しなければならない
のかは判る。
また、刑法理論の変遷を俯瞰すれば現在の刑法学説の主流が団藤先生の形式的
な構成要件判断から実質的な判断に移りつつあることも判るでしょう
(そしてなぜ団藤先生が形式的判断に拘ったのかも理解できます。)。

ちなみに参考として重箱の隅をつつきますが、

>ですから、専門家のように詳しく知っているわけでは
>無いからといって、ある日突然刑務所にブチ込まれる、
>という事は無いんじゃないでしょうか。

これは、実体法の問題とは別に手続上あり得ないです
(代用監獄にぶち込まれることは時としてありますが。)。

今時国民の権利保障が罪刑法定主義など実体法だけで実現できるなどとは誰も
思ってないわけで、手続保障はある意味実体法以上に重要とも言えるからこそ
日本国憲法は、手続保障に関して多くの規定をおいている。

>テレビのそのテの番組で「これって罪じゃ無いの?」
>なんてやってる様な事例は、法解釈上の構成要件の
>レベルの話としてはその通りなんだろうと思います。

テレビ番組はそもそも構成要件レベルで間違っている場合もあり。

どっかの番組(基本的には馬鹿馬鹿しいので見ていないのだが。)で以前、娘
のスリッパを勝手に使って水虫をうつしたら傷害罪だなんて寝言を言ってい
た。
普通は「故意が無い」だろ
(逆に言えばうつそうと思ってうつしたなら傷害罪でなんの不思議もな
 い。
 実行行為性は問題になりうるが。
 ……まさか主観的構成要件要素を否定して故意は責任の問題とすると
 か?(^^;)。
ぎりぎり言っても過失傷害までだ。

>刑事裁判では、全ての犯罪行為を必ず処罰しなければ
>ならない、というものではありません。軽微な犯罪は
>不起訴にすることもできます。
(中略)
>一方民事裁判では、争いがある以上何らかの判断が
>くだされる必要があります。しかも、当事者双方を
>納得させる判断を下さなければなりません。

必ずしもそうでもないですけど……。
って言うか敗訴当事者が納得しないのはよくある話
(判決に当事者が納得するなら上訴審は基本的に要らないもんな。)。
証拠の評価が自由心証である以上、当該評価について他人が納得しなくたって
不思議はないです
(役に立たない証拠を山と積み上げてこれで勝てるって思っている人、少な
 くないですよ。
 で、弁護士は役に立たないと知りつつ、負けたのはあの証拠を出さな
 かったせいだと言われるのが嫌で、無駄な証拠申請に労を割くと。)。

そもそも法律解釈からして勘違いではあるけど、fjにも納得しない実例がある
し……。:-P

それはともかく、比較するところが違ってますよ。

刑事訴訟だって「公訴提起があれば」裁判所は何らかの判断をしなければなり
ません。
刑事において「公訴提起する/しない」というのは、民事では原告が「訴え提
起する/しない」という当事者に関する問題であって裁判回避という裁判所に
関する問題ではないです
(って言うかむしろ民事では訴訟上の和解という手が使えるからある意味事実
 上の裁判回避ができることもある。)。

つまり、起訴便宜主義と比較すべきは処分権主義であってどちらも訴え提起及
びその範囲について原告となるべき者の裁量を認めているという点で全く同じ
です
(むろん、「公訴権濫用論」というのがあるとおり、起訴便宜主義は完全な自
 由裁量ではありませんが、判例上は相当広範囲な自由裁量。
 もっとも、公訴権濫用論に対置するものとして民法にも訴権の濫用という話
 がありますからその限りにおいて訴え提起は全く自由というものでもな
 い。)。

>そして、最も重要な事は、民事法の場合には、
>その規定が強行法規ではない、という点ですね。
>
>民法がどのように規定していても、それと異る
>ような契約や合意がある場合は、公序良俗に反し
>ない限りその契約に従わなければなりません。
>
>しかも、その「公序良俗」というものが、明文化
>されているわけではない、という点でしょうか。
>公序良俗とはなんぞや、という事も議論になる
>わけですね。

揚げ足を取ると、「公序良俗というもの」は民法90条に「明文化されて」ま
す。

内容が「具体的でない」と言いたかったのでしょうけど、それを言えば刑法に
おいても規範的構成要件という「内容が具体的でない」規定があります
(中立命令違反の罪は違うので念のため。
 あれは、構成要件の具体的内容はそもそも決っていない。
 そしてその具体的内容が法律ではなく政令で決る点が問題。)。
むろん、「公序良俗」では刑法では抽象的すぎて文面審査で違憲になります
が、どこまで具体的に規定しなければならないかというのは要は程度論。


さて、これ、ド素人相手だと誤解を招きそうだから念のため補足しておきます
けど、厳密に言えば、「民法(広義)の規定は'すべてが'強行規定ではない」
です。
公序良俗違反の民法90条などは代表的な「強行規定」であるし、それ以外にも
「強行規定」は色々あります。
「公序」に関して規定したものはすべて「強行規定」
(例えば物権法定主義を定める民法175条とか。
 ただしその違反に対する効果には違いがあることは注意。)。
と言うかそもそも民法91条を見れば、そういう強行規定があることが前提に
なっているのは明らかなわけですが
(「公の秩序に関せざる規定」だけが当事者の意思で排除できる。)。

そして、こういった「具体的な」強行規定だけでは必ずしもすべての状況に対
応できるわけではなく、「具体的に」規定していなくても法が助力すべきでな
い場合一般を否定するための一般的強行規定が民法90条。
これは「具体的な」個別規定で対応できない場合の「伝家の宝刀」
(もっとも信義則に比べれば頻繁に使うものだが。)
すべてを前もって法律で具体的に決めておくことなんて不可能だから。

-- 
SUZUKI Wataru
mailto:szk_wataru_2003@yahoo.co.jp