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At 06 Sep 2003 11:59:25 +0900,
in the message, <s84smnad3le.fsf@jaist.ac.jp>,
Yasushi Inoguchi <inoguchi@jaist.ac.jp> wrote
>という問題があるので,現行法ではできない,という

「現行法ではできない」と決っているわけではないというのは以前指摘したと
おり
(まあ時機に遅れた投稿だったから無視されてんのかも知れないけど。)。

訴因特定の問題は難しいところだけど、計測する二点間の距離いかんによって
は絶対に無理とは言い切れない。
例えば東名川崎インター秦野インター間とか言えば明らかに不特定だけど、こ
れが10キロポストから11キロポスト(ってのがあるのかどうか知らんけど。)
くらいだと120km/hでも30秒しかかからない程度の距離で果たして不特定と断
言できるかどうか。
もし仮にここを10/1日午後3時45分30秒から45秒までの15秒間で通過したとい
うのが公訴事実だとすると、必ずしも訴因不特定とは言えまい
(ただ現行ではそういう速度計測をしていないから起訴した事例がないのは
 確か。
 でも現行やってないのはすべてできないと考えるのは早計。
 今までやらなかったけど新たにやったという話はいくらでもある。
 ちなみにループコイル式の自動速度取締装置は二点間の移動時間で計測して
 るけど、その二点間をどこまで広げられるかって話だよね。
 もっとも端的に「平均速度違反」というのを作ればいい様な気もするけど。
 初めから行為の場所時間に一定の幅があることを前提にした構成要件にし
 ちゃえば、その訴因に幅があるのは当然。)。

立証は法律上の問題ではなく事実上の問題だから「現行法ではできない」とは
限らない。
本人がもし仮に全面的に自白したりすれば、立証は相当楽になろう。


ともかく、Nシステムがそれだけでは速度違反取締の証拠として使えない
(この「使えない」は、役に立たないあるいは都合が悪いという意味である
 が、役に立たないのであれば自然的関連を欠き法律上証拠能力がないという
 可能性もあろう。)
のは、装置の機能ないし警察の都合だというのは指摘したとおり。
と同時に、機能いかんによってはひょっとしたら使うことがあるかも知れない
ということも指摘したとおり。

拙稿、Message-ID: <3d4d14f8.5395%omegafactor@anet.ne.jp>を参照。

>もちろん,「時間,場所,人,違反の程度」を警察側で特定しないまま
>検挙できる,という法改正を考慮するなら可能でしょうけど,かなり
>根幹からの法改正が必要になる,という結論も出たように記憶しています.

# 多分それは不可能だな。

……「検挙」と言うか「起訴」と「裁判」の問題なんだけど。
起訴と裁判について言えば、そのような改正は、憲法31条違反で「できない」
んで、多分そういう結論は配信漏れがない限り出てないと思います
(読んだ記憶はない。)。

場所、時間、被疑事実といった内容を特定させる目的の一つは、被告人の防御
権の保障である。
それを保障できない程度に不特定な訴因を認める法律は、適正手続の保障を定
める憲法31条に反する。
とこういうこと
(ちなみに、一応保障できる程度に不特定な訴因は、少なくとも特定が困難な
 特殊事情がある場合に関しては今でも適法です。)。
まあ細かいことを言えば、特定困難な事情はないけど防御権が保障できる程度
に不特定でしかないから適法というのはどうなんだとも言えますが。
だけど、特定困難な事情がないんだから端的に特定すればいいので、そのため
にわざわざ法改正する意味があるの?と。

ちなみに「違反の程度」ってのが何を意味するかは多少疑問だけど、立証可能
な程度にすら特定できないのならそもそも犯罪の存在が立証できないってこと
だからいくら法改正したって無罪は無罪だよね。
無罪であることが明らかな起訴なんてしてもしようがあるまい。
これを有罪にするなら、証拠裁判主義と無罪の推定を止めないと
(推定無罪の実定法上の意味は、被告人の有罪の立証責任をすべて検察側に負
 わせること。
 裏を返せば、被告人の無罪の立証責任を被告人側に負わせるのは推定有罪と
 いうこと。)。

なお、「人」が不特定では「検挙」のしようがない。
法改正以前にそんなことは理屈上も現実的にも到底不可能。
これは法律以前の問題。
被疑者不詳でも書類送検はできるが、この場合の送検はただの捜査報告みたい
なものでおよそ「検挙」とは言わない
(というか書類送検というのは、事件の引継ぎであって結局は捜査報告と大し
 て変らないんだが。)。

# と、そういう意味では現行法でなくてもできない。

「憲法改正」を「根幹からの改正」って言ってもいいけど……。
でも憲法改正限界説から言えば、そんな改正はできないって可能性もある。
何しろ、訴因の特定、証拠裁判主義、無罪の推定といった適正手続保障を止め
ようってんだから。

そうすると、「新憲法を制定しよう」って話になるけど……。
すごいよね、不特定訴因オッケー、立証なしでも事実認定可、無罪推定などし
ない……
(具体的には立証責任を被告人側に転換する。
 つまり犯罪を犯したから罰せられるのではなくて犯罪を犯さなかったことを
 証明できなかったから罰せられる……。)。
……いやぁ、冤罪出まくりだろうな。

-- 
SUZUKI Wataru
mailto:szk_wataru_2003@yahoo.co.jp