佐々木将人@函館 です。

>From:"Tani, K." <tanik_yomimasen@yahoo.co.jp>
>Date:2004/05/24 14:10:24 JST
>Message-ID:<20040524124047.6083.TANIK_YOMIMASEN@yahoo.co.jp>
>
> プライバシー権が認められ出したのはごく最近のことではないと思うので,こ
>の法律の作成の背景には「個人情報の流布が犯罪の温床になりうる」と政府が明
>確に認定したものだと理解しましたが間違いなのでしょうか?

間違いだとは言いませんが
荒っぽいというか若干正確さに欠けると思います。

まずプライバシー権が認められたのはごく最近のことではない
……というのは本当です。
しかし今プライバシー権という場合
「1人にしておいてほしい」という意味と
「自分の情報を自分で管理する」という意味とがあって
後者については前者ほど歴史は古くない
(プライバシー権は歴史的には前者のみと考えられていた)
点には留意する必要があるでしょう。

第2に
「個人情報の流布が犯罪の温床になりうる」
とは言えても
だからと言って
「全ての個人情報を秘匿する」
のが妥当かと言えば必ずしもそうではない訳です。

その例示ですが

> 例えばいいじまさんがあげられた所得税法や破産法,(あるかどうかわかりま
>せんが)その他の法律に基づいて開示された情報は,詐欺・恐喝などに十分使え
>るデータだと思うのですがねぇ.

所得税法の高額納税者一覧について言うと
巷間言われているのは
「国民による監視=脱税防止」
と言われています。
端的に言えば「あそこの家が入ってないのはおかしい」という通報を
期待しているってことなんですね。
当然これがいいのかどうかって議論はあり得ます。
ただ
「公開することによるデメリットとメリット」
の比較はやっているんだということをおさえておく必要があります。
(その比較だけで答を出していいかどうかは別論)

破産法について言うと
「官報は国民が全部読んだという擬制」に依拠しているという
フィクションはあるのですが
個人が破産する目的はほぼ100%免責を得ることにあるところ
免責が認められると一定の例外はありますが
普通の人・会社の債権は
強制執行不可能な状態におかれるという不利益を強いる訳です。
そういう不利益を
「債務者が債務として届け出た債権」
にだけかぶせるということでいいんでしょうか?という疑問がある訳です。
それを受けて現行破産法は
「この人を破産させるにあたって
 この人に対する債権は全部届け出なさい。
 債権額に応じて配当しますよ。」
「この人を免責するにあたって文句のある人はいますか?」
ことを全国民に知らせる建前をとっています。
その建前の実現のため官報というフィクションを使っているのです。
破産法のこの建前がいいのかどうかって議論はありますし
この建前を実現するための方法として官報がいいのかって議論もありますが
そういうシステム全体の得失を考えるべきでしょう。

もっと端的に言うと
個人情報を完全にその個人のものとすることは不当なのです。
例えば不当な行為をした相手に対して裁判で決着をつけたい、
その場合に相手を特定する情報が
「個人情報だから本人の同意がないと出せない」だと
そもそも裁判ができなくなってしまいます。

なもんで「出す出さない」ではなく
「どのようなものをどのような目的でどのように出す」
の問題にならざるを得ないのですし
それでも出てしまう情報の悪用を禁じたのが
件の法律だと理解するのが正解だと思います。

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ルフィミア「本当に本が出そうなんですか?」
まさと「なんか出そうな感じだよ。」