工繊大の塚本です.

In article <1be0491a-dbc3-40fc-83c3-5baf94ea7e22@k38g2000yqh.googlegroups.com>
kyokoyoshida123 <kyokoyoshida123@gmail.com> writes:
> ZFC公理系は集合に関する公理だとするなら圏はどのような公理を使うのですか?
> それとも圏には公理というものは存在しないのでしょうか?

 category の公理も metacategory の公理も text に
書いてあるではありませんか. 箇条書きになっていない
から分かり難いですか.

> この範疇の事を"領域"そして領域に無矛盾な公理系が存在する時,
> "数学的体系"と呼ぶのですね。

何だか, 誤読・深読みですね. 忘れて下さい.
 category であれば, category としての公理を
満足しているものが, category という数学的体系です.

> あと,領域にも空領域はあるのでしょうか?

これは意味不明です.

> つまり,領域(何らかの集まり)が

まあ, 弁別可能な数学的対象が,

> 各分野(集合論や幾何学)にての公理系を満足するなら
> その領域は「何々公理系の数学的体系をなす」と言ったりするのでしょうか?

 A の公理系を満たしているなら, それを A という数学的体系だと
言うわけです.

> 例えば,或る領域がZFC公理系を満たす領域なら

 ZFC 公理系を満たす数学的対象というものは
直感的に了解可能ではないでしょうけれども,

> その領域は集合の数学的体系と呼ばれる。。みたいに表現するのでしょうか?

まあ, 集合論が展開できる数学的対象はある, と
考えないと始まりませんからねえ.
 
> メタグラフは数学的体系の一種なのですね。
> そしてメタ圏はメタグラフの一種なのですね。

幸いにして, metagraph になっている数学的対象とか
 metagraph であるばかりでなく metacategory に
なっている数学的対象とかには事欠きません.

> arrow(やmorphism)やdomainは集合での対応や始集合に相当する概念ですね。

 arrow というのは写像の抽象化ですし,
 domain は写像の始集合に対応するもので結構です.

> Mor(何々)と表記されたのを見かけた事があるのですが
> これは"何々"のarrow全体の数学的体系を表しているのですね。

ここでの数学的体系というのは category でして,
 arrows 全体は category を構成する要素ですね.

> ZFC公理系ではcodomainは終集合に相当するのですね。

 ZFC とは関係なく, codomain というのは写像の終集合に
対応するもので結構ですが,

> よって公理系が与えられた数学的体系をA,Bとすると

どうして, A, B の二つなのでしょう.

 objects の全体というのも, 一つの category を
構成する要素でして, その category における arrow f
に対しては, dom(f) という object と codom(f) という
 object が定まることが公理にありますから,
 A = dom(f), B = codom(f) とするなら分かりますが,

> A×Bの対象(a,b)=:fをarrowと呼び,

これは全く意味不明です. もう一度言いますが,
 arrow というのは写像 f: A → B の「抽象化」です.
 A を domain とし, B を codomain とする arrow は
一般に一杯あります.

> aをfのdomain,bをfのcodomainと呼び,a=domf,b=codfと表記するのですね。

一つの category については objects の全体というのは
一つ考えているだけで, domain の全体とか,
 codomain の全体とかを別々に考えているわけではありません.

> (ただここでA×Bは何かと言われると集合での直積に相当するものとしか
> 答えようが無いのですが)

だから, そんなものは考えていません.

> 難しいんですね。category,object,metagraph,metacategory,arrowらは
> 無矛盾な公理系が与えられてうるような集まりというのが定義(?)
> という事になりましょうか?

 object とか arrow とかいうのは
 metagraph や metacategory や category といった
数学的体系を構成する要素ですから,
同列に扱うのは間違いです.

公理系によって定められた metagrph や metacategory や
 category といった数学的体系のモデルは簡単なものが
いくらでもありますから, それらを定める公理系が
無矛盾であるのは当たり前で, 余り問題になりません.

> でも最初の外延性の公理は
> 「一方の集合の任意の元が他方の集合の元に含まれ,
> 他方の集合の任意の元がもとの集合に含まれる」
> というものですよね。

何ですか, それは. 誤解を恐れず, 通常の言語で言えば,
「集合 x と y が同じ集合であるとは, a が x の元である時,
 a は y の元であり, 又, a が y の元である時, a は x の元である,
ということである」です.

> ここで"集合"と"含まれる"の定義がなされていませんが
> どのように定義してあるのでしょうか?

「集合」とか「元である」という述語とかが「無定義語」です.
それは公理系を満たすものであるということで定義されている
のです.

> うーんとここはつまり,何らかの集まり(object)や集まりの直積(arrow)が
> 矛盾の無い公理系を持つならばこの集まりを数学的体系と呼びましょう
> という事ですね。

だから, objects が何か, arrows が何か, が定まっていて,
それらについて, category の公理が成立しているなら,
それを category という数学的体系として理解するわけです.

> ちなみにZFC公理系を持つ圏は集合のメタ圏と呼ぶのですね。

集合全体(sets)を objects とし, 任意の集合から任意の集合への
写像の全体を arrows とすると, sets は metacategory に
なります.

> 射や対象において,等号「=」や合成写像「○」という集合の記号が使われてますよね。

それは「集合論」におけるものと同じ意味を持つもの
であるとは限りません. 等号「=」は普通の「同値関係」の
公理を満足するものであると仮定されていますが,
集合として同じであるというわけではないかも知れません.
「○」も, ある条件を満足する arrow の組に対して
 arrow を対応させる, arrows のある部分における
二項演算であるというだけです. まあ, そういうものを
普通「合成写像」と呼ぶわけですが.

> 今,ここでの領域は何の公理を持っているか分からないので
> 等号は定義不可能なのですね。

むしろ, a と b が object のとき, a = b かどうかは決まっていて,
 f と g が arrow のとき, f = g かどうかは決まっています.
それは given であるとお考え下さい.

> a,bが集合なら対応はa×bの部分集合と考えられますよね。
> それで射を対応と捉えて対象a,bの直積a×bを射と言ってしまいました。

 arrow f が dom(f) = a で cod(f) = b のとき,
 f: a → b と書いて, 写像の如くに理解しても, 取り敢えずは
構いませんが, f は a×b の部分集合と同一視できるわけでは
ありません. 「写像とは a×b の部分集合で特定の性質を
満足するものである」といった具体的な構成から離れて,
写像の持つ, domain と codomain が決まっていて,
 domain と codomain が一致する写像は合成できる,
といった性質を取り上げて, 抽象化したものが
 category における arrow です.

それにしても a×b の部分集合と a×b を混同するのは
無茶苦茶です.

> すいません。公理から決まるとはどういう意味でしょうか?

 arrow f に対して, dom(f) という object と cod(f) という
 object が定まる, というのは category における公理の一つ
です.

> そういう記法とは「f:a→b」という風な記法の事でしょうか?

違います. a = dom(f), b = cod(f) となる arrows の全体を
 Mor(a, b) とは記していない, ということです.

> 本当はOb(P)は領域であって集合ではないので「∈」という記号は使えない
> のですよね。

それもありますが,  ∈ が集合論における記号ではないという
了解があれば, 別に使っても構いません.
 
> もしかして,a,b,c∈Ob(P)でなければならないのでしょうか?

そう, 一つの category では objects の全体というのは
一つだけ考えます. それが分かったなら, どうしてもう一度
初めから考え直さないのですか.

> ここでの○も本来は集合での記号ですが
> 分かりやすいように数学的体系でも使用されているのですね。

 category での意味で使われています.

> これが合成射の定義なのですね。これは写像と照らし合わせても上手くいってますね。

それの抽象化ですから.

> ここでも本来なら「∈」という記号は使えないのですね。
> Mor(a,b)はaからbへの射全体の数学的体系と言うのですね。

 category においての数学的体系というのは category そのものです.
 Mor(a, b) というのはその構成要素である arrow の集まり
というだけです. 「 arrow f について dom(f) = a, cod(f) = b である」
ということを表す為に, 「 f ∈ Mor(a, b) 」という記号を
使っても構いませんが, それはあくまでも上の言明の省略として
考えて下さい.

> この1_aはdom1_a=codom1_a=aなのですね。

はい.
 
> この時,1_aはaでの右恒等射とか言うのですかね。
> はい、この時,1_aはaでの左恒等射と言うのですかね。
> 1_aがaについて右恒等射でもあり,左恒等射でも或る時,
> 1_aはaでの恒等射というのですね。

ともあれ, 「恒等射」に相当するものがある, というが
公理の一つです.

> すいません。領域,数学的体系,圏とmeta圏とmetagraphが
> どんな位置関係にあるのかいまいち把握できずにいました。
> 対象の集まりで無矛盾な公理系を持つものをmetagraphと言い,

いいえ, objects と arrows が定まっていて,
「各 arrow f に対して object dom(f) と object cod(f) が
定まる」という公理を満足するものが metagraph.

> 恒等射と合成射を持つmetagraphをmeta圏。

その他にも「結合性」の公理と, 恒等射の性質についての
公理「単位元律」を満足している必要があります.

> なるほど。対象が集合のmeta圏を圏というのですね。

誤解がなければそうです.

> つまり,CをZFCで定義されたmeta圏とするのですね。

「 ZFC で定義された」という言葉をどういう意味で
使われているのか, 良く分かりませんが, まあそうです.

> A:=Mor(a,b) (但し,a,b∈O)となっているのですね。

 A は全ての arrows の全体です. A = ∪_{a ∈ O, b ∈ O} Mor(a, b).

> domA={a}⊂O, codA={b}⊂Oという風にdomとcodの像がOに含まれるので

だから A = Mor(a, b) ではありません.

> dom: A → O と cod: A → Oになっていますね。

分かっていますか.

> これは∀x∈Oに対して,id(x):=i_x∈A:=Mor(a,b)となっているのですよね。

 id(x) ∈ Mor(x, x) です.

> i_xは具体的にどんな恒等写像なのでしょうか?

 id(x) は dom(f) = x となる arrow f について, f○id(x) = f,
 cod(g) = x となる arrow g について id(x)○g = g,
という公理から, その性質が定められます.

> もしa∩b=φならMor(a,b)は恒等写像を持ちませんね。

 id(x) はそんなところには入っていません.

> これは分かります。

分かっていませんね.

> もしA:=Mor(a,b) (但し,a,b∈Oでa∩b=φ)ならA×_O A=φですよね。

これは前提が成り立たない命題だから, 取り上げるまでもない.

> > a ∈ O について dom(id(a)) = a, cod(id(a)) = a であり,
> 
> ここでのidはid∈Mor(x,y) (但し,a⊂x⊂y,x,y∈O)となっていないといけませんよね。

 id: O → A だと言ったでしょう. id は category における
 arrow ではありません.

> これは当たり前ですね。

「当たり前」ではなく, 「公理」です.

> f=(a,b)に於いて,a⊂bならそのように言えますね
> (∵a⊂bでないならid(dom(f))が存在しない)。

全く分かっていませんね.

> CはZFC公理系のmeta圏(つまり,Cは圏)ですから,object aは集合を表すのですね。

 C は category を表すと同時に, objects の全体 O も表しています.
 C (つまり O) は set であり, 集合論的な意味で a ∈ C です.
その意味で, a も当然 set です.

> そしてmeta圏Cが圏の時,Mor(a,b)はhom(a,b)と表記すると書いてありますね。

 Mor(a, b) と書くことも, hom(a, b) と書くこともあります.
それは text の著者の好みによることで, 特に区別があるわけ
ではありません.

> 圏Cに於いてはc∈Cではcは集合を表し,

 c は object で, category の場合は set です.

> f in Cはf∈hom(a,b) (但し,a,b∈C)を表すのですね。

 f は arrow で, category の場合は a = dom(f), b = cod(f) について
 f ∈ hom(a, b) (でも Mor(a, b) でも良い) になります.

> "落とす"とはどういう意味でしょうか?

 set であることは metacategory では要求しない,
それでも議論は, 差し当たり, 同じに進められます.

# 勿論, 違いが出てくる局面もありますが.

> 纏めるとcategory(又はsmall category)の定義は
> 「metacategory Oはcategory(又はsmall category)
> ⇔(def)
> OはZFC公理系で定義された数学的体系で
> 合成写像を2項演算子として半群をなし,

合成 ○ は A ×_O A 上で定義されているので,
 O が半群をなすわけではありません.

> 左単位元(左恒等写像)と右単位元(右恒等写像)を持つ」

 O の各元に対して, 恒等射が存在する, です.

> ですね。
> ZFC公理系が保障されているのなら,
> A×_O Aや左恒等写像や右恒等写像は自動的に存在すると思うのですが…。

勝手な a から b への写像が hom(a, b) の元であるわけでは
ありません. id(x) ∈ hom(x, x) は一つの要請です.

> なので
> 「metacategory Oはcategory(又はsmall category)
> ⇔(def)
> OはZFC公理系で定義された数学的体系である」
> という定義でもいいような気がするのですが勘違いしてますでしょうか?

もう一度言います. hom(a, b) は a から b への写像全体
ではありません. その一部かも知れませんし, 写像自体では
なくて, 写像の何らかの同値類の全体, 或いはその一部かも
知れません.

 O だけで category が決まるように思うのは全くの誤解です.
むしろ, arrows の集合 A の方が大事です.
-- 
塚本千秋@応用数学.基盤科学部門.京都工芸繊維大学
Tsukamoto, C. : chiaki@kit.ac.jp