ども、みやこしです。

第五章に引き続き、第十章演出の金澤洪充氏のブログで、第十章の「書けるだ
け書ける裏話」が掲載されています。
↓
http://millions.xrea.jp/kimcgi/brog/index.php

どういう事を考えながら作っているのかが窺えて面白いのですが、「エマ」の
ような作画上の細かいルールが多い作品は、「割に合わない」という理由で断
る方も多い、などという話を読むと、やはり現場は大変なままなんだなぁ、と
こんな記事を思い出したりしてしまうのです。
↓
「萌えアニメ、増えても暮らし楽にならず、じっと手を見る」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0505/23/news062.html

「英國戀物語エマ」第十章「すれ違い」

■インド人は千里眼か
 またもや、ジョーンズ邸の玄関の庇の上で寛いでいるハキム。わざわざ梯子
をかけて上ってきたヴィヴィーが、テニスの相手をねだるのにはつれない態度
のクセに、遥か彼方の門にやってきたエマを目ざとく見つけ、スティーブンス
に「ウィリアムの客」として部屋に通しておくように言いつけます。忠実な執
事スティーブンス、門番が難色を示すのを抑えて、エマを客間に通します。

 ハキムが「昼寝」をしているのは、第六章でも出てきた、玄関の庇の上です。
ヴィヴィーに「屋根の上で?」と聞かれて、「家の中は狭い」とか言ってます
が、象を馬の代わりに使っているような人からすれば、このジョーンズ邸でも
まだ狭いのでしょう(^_^;
ちなみに、原作では庇ではなく、本当に屋根の上で「昼寝」をしてます。ヴィ
ヴィーが、窓から出入りすれば良さそうな所を、わざわざ梯子をかけて上って
くるのも、原作の場面を意識しての事でしょう。ヴィヴィーが窓を通らなかっ
たのは、一応、メイドさん達が掃除をしていて塞がっていたから、という事に
なっているようですが、やや無理矢理っぽいかも(^_^;

 スティーブンスが、エマを客間に通すのは原作通り。ただし、原作では、エ
マが門の前で裏口に回ろうと躊躇している所に、スティーブンスがいきなりや
って来るのですが、ハキムがスティーブンスに言いつけて出迎えに行かせると
いう、より自然な流れになるように段取りが追加されてます。
また、門番がエマを見て胡散臭そうに詰問したり、すれ違うメイドさん達がエ
マを「何この女」みたいな目で見てたりと、エマが場違いな所に来てしまった
感じがより強調されているように思えます。父リチャードがエマを目撃するの
もオリジナルです。
それと、今回も、エマは帽子に黒い帯を付けて、喪に服していることを表わし
ています。

 客間に通されたエマを、グレイス以下妹弟達が「品定め」しているのも原作
通り。以前の立ち聞きの時といい、こーゆー場面では行動が皆そっくりなのが
可笑しい。今回は、コリンも出遅れていません(^_^;
 ちなみに、エマに対する印象は、
グ「美人ね」
ア「メイドにしてはね」
ヴ「全然地味じゃない。眼鏡なんかかけちゃって」
コ「…」
 とりあえず、ヴィヴィーには、眼鏡っ娘属性は無さそうです(^_^;

 で、その頃の坊っちゃまはというと、例のごとく、サラさんの店でエマを待
っているのでした。そこで骨董屋のオヤジとサラさんから、先生が亡くなった
事を聞くと、店を飛び出し、馬車を捕まえて先生の家へ向かいます。

 この場面はオリジナル。原作では、エマとは外で待ち合わせをしていたのに
坊っちゃまが遅刻し、ジョーンズ家に向かったエマと行き違いになってしまい
ます。その待ち合わせの約束をした時に、坊っちゃまは先生の死を知らされて
いたようなのですが、アニメでは、坊っちゃまはまだ知らなかったようです。
今回のエマの訪問は、それを知らせる為もあったようです。
 あと、骨董屋のオヤジが「知っていれば、私らも葬儀に顔を出した」と言っ
ている所からして、先生の葬儀は、本当に誰にも知らされていなかったようで
すね。エマと、臨終に居合わせたアル、そのカード仲間の二人と、特に知らせ
なくても知る立場にあった人だけが参列していた、と。

■別れの挨拶
 一方、客間で待ち続けているエマ、それを覗いている妹弟達、という図に動
きがあったのは、ハキムがやって来たから。「昼寝」をしていた時のインド風
の服装から、英国紳士風のスーツにしっかり着替えてきています。それを見た
ヴィヴィーが、唖然とした、といった感じで「着替えてる…」と言うのが何か
可笑しい(^_^;

 「何となく」その場を逃げ出してしまった妹弟達ですが、ふと気付くとコリ
ンがいません。案の定、逃げおくれてしまったコリン、ハキムに押されるよう
にして客間に入ってしまったものの、エマとハキムに見つめられて逃げ出して
しまいます。それでも、ちゃんとドアを閉めていく辺りは、小さいながらも紳
士としての躾はしっかりしているようで。

 残ったエマとハキム。生まれた村に帰る、と、坊っちゃまに別れの挨拶をし
に来たと言うエマ。戻るつもりは無い、というエマの言葉に、疑問を呈するハ
キム。
「変だな。エマはウィリアムが好きで、ウィリアムもエマが好きなのだろう?
 何故ひとりで遠い所へ行く?」

 この辺りのやり取りは、ほぼ原作通り。ただ、ハキムの疑問に対して、原作
では、エマははっきり「あきらめる」と言ってます。何も答えない…というか、
答える事ができないアニメ版のエマの様子は、この時点では、まだ彼女に迷い
があるように感じられます。

■怒れるヴィヴィー
 また一方、「逃げ出した」方の妹弟達。逃げおくれてしまって泣いているコ
リン、「忘れてたわけじゃないのよー」と宥めるグレイス、「忘れてたんだよ
な」とさらにコリンを泣かせるアーサー。
 そんな中、一人怒っている風のヴィヴィー。どうも坊っちゃまの事ばかりで
はなく、ハキムが「着替えて」いた事に対しても怒っているっぽい(^_^;
アーサーが、エマの事を「玉の輿でも狙ってるのかな」と言ったのにつられて
か、「そうと知って兄さまをたらしこんだのよ」と、上流階級のお嬢様にして
はいささか相応しくない言葉を吐くヴィヴィー。怒りが抑えきれず、「ちょっ
と言ってやるわ!」と、グレイスが止める間もなく飛び出して行ってしまいま
す。
 すれ違うメイドさんを驚かし、階段の手すりを一気に滑り降りて、客間に飛
び込んだヴィヴィー。
「あなたねぇ、何のつもりだか知らないけど、さっさと諦めて帰ったら!?ウィ
 ル兄さまもウィル兄さまだけど、あなたも常識無さ過ぎよ!!使用人は使用人、
 主人は主人、それくらいの事何で判らなぃ…」
 と、ヴィヴィーの啖呵もここまで。グレイスが口を塞いで連れ出し、アーサ
ーがきっちりドアを閉めていく、この姉弟の連携が何か可笑しい(^_^;

 この客間に怒鳴り込むヴィヴィーの場面は原作通り。手すりを滑り降りる辺
りとか、やはり動きがあると面白いです。普段アクションが少ない作品だけに、
たまにこういう場面があると引き立ちます。

 この後、姉と兄に「連行され」てぶーたれるヴィヴィーの場面はオリジナル。
「だいたい、皆自覚が足りないんだよ」などと偉そうに言っているアーサーで
すが、一緒になって客間を覗いていたお前がゆーな、という気も(^_^;

 で、その頃の坊っちゃまはというと、先生の家に行ったものの、誰もいない
様子にがっくりしてます。へたり込んでる場合じゃありませんぞ。

 またまた一方、キャンベル家では。前回の事が尾を引いているのか、元気が
なく食事も喉を通らない様子のエレノア嬢。
ここで、エレノア嬢の父・キャンベル子爵登場です。原作では、単行本第5巻
でようやく登場する方ですが、随分早くのご登場となりました。キャンベル夫
人が、ジョーンズ家との縁談を進めていいか、と聞くのに答えず、給仕が食器
を片付ける音にも注意するなど、僅かな場面ですが何となく「嫌な親父」とい
った雰囲気が漂ってます。
ちなみに、声は堀勝之祐さん。個人的には、「良い声過ぎる」という気が(^_^;

 それにしても、エレノア嬢の「恋の病」はかなり重症のようです。ベッドに
横たわってため息をつく、その憂いた表情が何とも不憫です。

■すれ違い
 ヴィヴィーが連れ去られた後の客間。エマは、帰る事を決心してしまったよ
うです。
「同じ英国だろう」と言うハキムに、「違います」とはっきり言い切るエマ。
ここに来てはっきり判った、住んでいる世界が全然違う、と。その上、「今日
会わなくて良かった」とさえ言います。
「全然良くないぞ。私は、相手がウィリアムだというから退いたのだ。勝手に
 帰るな。ひとりで決めるな」
「もう、決めたんです」
 この辺りのやり取りは、原作とはかなりニュアンスが異なります。原作では、
ハキムはもっと言い方が激しく、それに押される感じで、エマも引き止められ
そうになるのですが、アニメの方が、エマの決心がきっぱりしてます。ヴィヴ
ィーのような小さな女の子にさえもああまで言われて、それでも何とかなる、
とは確かに思えないでしょうなぁ。

 そして、ジョーンズ邸を出ようとしたエマですが、玄関を出た所で、戻って
きた坊っちゃまと鉢合わせ。駆け寄った坊っちゃまは、エマを抱き締め、何も
知らなかった事を詫びます。劇的な場面に、妹弟達も、メイドさん達も驚いて
見守るばかり。
#原作だと、ここで奥様が「ファンタスティック!」と叫ぶ所ですが、残念な
#がらジョーンズ家には奥様がいません(^_^;

 しかし、そこに出てきた父リチャードは、エマを庇うように立つ坊っちゃま
を、妹弟達や使用人達の面前で張り倒します。
#驚きながらもコリンに目隠しするアーサーが変。遅いって(^_^;

「恥を知れ」と言う父に、「恥じる事など一つもありませんよ。父さんこそ、
こんな事をして恥ずかしくないんですか」と言い返す坊っちゃま。
#いや、人前で女性を抱き締めるのは、充分恥ずかしい事です。別の意味で。

 その坊っちゃまを無視して、父リチャードは、エマに向かって言います。
「今日のところはお引き取り願えませんか。いずれ、何がしかの埋め合わせは
 します」
 …これはまた。何ですか、お金で解決しようって事ですか、お父様?「手切
れ金をやるから、二度と来るな」って事ですか?もう、完全に対等の人間とし
てさえ見ていないようなお言葉ですな。
#父にここまで言わせるとは、脚本家容赦無い(^_^;

 その父の言葉を聞いて、駆け出してしまうエマ。「失礼します」と言う、そ
の言葉の震えが何とも言えません。
#さすが冬馬さん、お見事です。

 制止する父を振り切り、エマを追いかける坊っちゃまですが、呼びかけても
振り返りもせず走り去るエマを、ついに見送ってしまうのでした。

 …だーかーらー、何でそこで追いかけるのを止めるんですか、坊っちゃまは。
確かに、エマは振り返ってもくれないし、この時点ではまだエマが故郷に帰る
事を知らなかったので、日を改めて落ち着いてから会う方がいい、とか考えた
のかも知れませんが、それでも、ねぇ…。この場は、何がなんでもエマを捕ま
えなきゃならん所でしょうに。こんなヘタレ坊っちゃまの為に、女性が二人も
泣かされてるかと思うと…。
#それにしても、息一つ切らせず走るエマに対して、始めから息が荒い坊っち
#ゃま、という対比も可笑しい(^_^; 日頃の運動量の差が如実に表れてます。

 その夜。坊っちゃまが沈んでいるのは当然として、父もかなり浮かない顔で
す。その父にお酒を勧める執事スティーブンス。この人も、グレイス同様、気
苦労が多そうです。
ここで、思わせぶりにまた例の女性の肖像画が浮かび上がりますが、父の浮か
ない顔の原因、という事でしょうか。ちょっと意図が判りづらいカットです。
灯を持って階段を降りている女性も、顔が見えないので何やら意味深な感じを
受けます。これは、髪から見てグレイスだと思うのですが、顔を見せないとい
うのに何か意味があるのか…。
#肖像画の女性本人なのでは、といった推測もネット上で見かけましたが、そ
#れだと原作とは全然違う展開にせざるを得ませんし、何より、公式サイトの
#人物紹介の説明とも食い違ってしまいます。
#ちなみに、長らく更新されてなかった公式サイトの人物紹介に、キャラが追
#加されてます。でも、コリンの紹介で「少し顔見知りする所があり」って、
#そりゃ「人見知り」でんがな、とツッコミたい(^_^;

 そして、ジョーンズ家から逃げ出したエマは、エウーゴに身を投じ…じゃな
くて(^_^;)アルの所へ。
 この先一体どうなるのか、原作を知っていても予測がつかない展開に驚愕し
つつ、続きは次回。

■次回予告
 第十一章「過去」。
 ついに明かされる(?)エマの過去。幼いエマに迫る魔の手、必死に逃げる幼い
エマ、と、時節柄ヤバいネタかな〜と思っていましたが、ちゃんとやってくれ
るようで。

■全体をみて
 今回は、原作単行本第2巻の第十二話をベースにしてはいますが、展開はか
なりオリジナルに近いです。何より、原作では本当にすれ違いっ放しのエマと
坊っちゃまが出会ってしまうというのは、大きな改変です。
#前回の記事で「父リチャードとエマとの直接対決か!?」とか書いてしまいま
#したが、まさか本当に直接対峙する事になるとは。

 この改変によって、物理的な「すれ違い」であった原作の話が、エマと坊っ
ちゃまとの心理的な「すれ違い」の話に置き換わってしまったように思います。
相変わらず情熱だけで突っ走っているような坊っちゃまに対し、「現実」をし
っかり見つめて(というか見せつけられて)しまったエマ、という。原作を読
んで、「もしこの時、エマと坊っちゃまがすれ違いっ放しではなく、出会えて
いたら」というのを想像してしまう事がありますが、それを実際にやられてし
まった訳で、「そー来たか!」と唸ってしまいました(^_^;
 ただ、出会ってしまった事で、物事が良い方に進むどころか、かえって事態
は悪化してしまいました。この辺、最悪の予想の更に斜め上をいくかのような
展開には、驚かされるばかりです。
 しかし、今回の話だけ見ると、いい加減頼りにならない坊っちゃまに見切り
をつけたエマが、貧しくても頼りがいのありそうなおじさまに走った、と見え
なくもないなぁ、などと思ってしまいました(^_^;

さて、どうなりますことやら。

では。

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宮越 和史@大阪在住(アドレスから_NOSPAMは抜いてください)
BGM : ループ by 坂本真綾