Re: 人権擁護法案
Tue, 15 Mar 2005 15:57:00 +0900,
in the message, <4236873C.36B7C3CB@ht.sakura.ne.jp>,
IIJIMA Hiromitsu <delmonta@ht.sakura.ne.jp> wrote
>どうも、これについて騒いでいる人って、行政手続き関係の法令にも、そもそも
>憲法にも刑事手続きにも疎いような気が…
「これ」以外でも大概そうではないかと。:-P
# ライブドアとニッポン放送の問題について騒いでいる人って、商法にも証券
取引法にも民事保全法にも疎いような気が……。:-P
http://blog.livedoor.jp/no_gestapo/
を試しにざっと眺めたけど、
:明らかに法案が何かを想定し、何かの意図をもって作成されている感じなの
:です。
「何か」って、具体的に何?
「感じ」って、単に「そんな気がする」って言ってるのと同じだと思うのだ
が。
それだけで他人が納得すると思っているのだろうか?
危惧を述べるなら「具体的に」述べないと説得力は皆無。
新聞とかの記事は少なくともきちんと「具体的にどこがなぜ問題か」指摘して
いるからねぇ。
それをしないのなら単なる「思い過し」で終る話。
# 正直言うと、ネットでヤバいヤバいと煽っている連中の危惧は極めて抽象的
で「杞憂でしょ」の一言で片付けていい。
この点はメディアの主張の方がずっと具体的で危惧を抱くのも理解できる
(ちなみに産経新聞がさすがフジサンケイグループだけあって、ニッポン放
送の件で「企業価値が下がるのは明らか」として例の仮処分決定を批判し
ていたけど、具体的根拠は何も示していないので全く同意できない。)。
例えば朝日は明確で、「人権擁護法制定は賛成。しかしメディア規制は言論
統制につながる虞があるので反対。法務省の外局としての設置は刑務所、入
管などでの人権侵害をきちんと処置できるか疑わしいので反対。」と言って
いる。
おそらく他所のメディアも大概同じだろう。
……私が一番理解できないのは、「人権擁護委員に外国人がなると何か問題
があるのか?」という点
(ちなみに人権委員にはなれない。
権力的公務を担当する国家公務員だから。
人権委員と人権擁護委員は違うんだけど、ネットであれこれ言っている連
中の中にはそれすら区別していないと見受けられるのがいる。)。
北朝鮮がどうこう言っているけど、具体的にどういうことをするのだろう?
特定の勢力がって言うけど、委嘱に当って配慮すれば防げるだろうそんなも
の。
人権委員は国会(両院)の同意と首相の任命が必要だし人権擁護委員は人権
委員の委嘱が必要なんだからよっぽどお馬鹿なことをしない限り偏頗の虞な
どまずない。
……正直、被害妄想としか思えない。
あえて外国人を入れる必要があるとは思わないけど、排除しなければならな
い必要もそれほどあるとは思えない。
あると言うのなら具体的な根拠を示せって。
ちなみに本件に関して見かけたとあるblogのひどいことひどいこと。
http://plaza.rakuten.co.jp/munyu/diary/200503090000/
なんだけど一部抜粋して叩いてみよう。:-P
:現代の日本で訴訟が最後の手段になっているのは、弁護士の数が少ない(一
:人当たりの弁護士数は欧米より1〜2桁も少ない)のと法廷の数が少ないため
:に裁判にかかるコストが莫大なものになるからです。
# どこの国だって大概、訴訟は最後の手段だが。
だって、「終局的手続き」だからね。
これより後の手段は合法的にはない。
弁護士の数が少ないのは確かだが、「アメリカとフランスとドイツでもずいぶ
ん違うのにそれを『欧米』と十把一絡げにしている」という点で話にならな
い。
大体、一人当たりの弁護士数
(って言うか普通は、「弁護士一人当たりの人口」じゃないのか?)
は弁護士大国のアメリカで約0.0034人(=340.e-5)。:-P
日本は約0.00016人(いや、判り難いねぇ。:-P)(=16.e-5)。
その差20倍程度だからどう転んでも2桁にはならない
(10進法でないと言うのなら別だが。:-P)。
ドイツは約0.0013人(=130.e-5)で一応1桁違うけど実際には9倍程度で1桁と
言っても10倍に達しない。
フランス(約0.0006人=60.e-5。:-P)に至っては桁は同じで4倍弱。
すごいでたらめなこと言ってるよね。
ついでに言えば、一口に弁護士と言っても全てが訴訟弁護士とは限らないので
単純な弁護士の総数=訴訟のやりやすさとはならない。
訴訟弁護士の比較で言えば、アメリカと日本の差はもう少し縮るんじゃないか
と推測。
数が少ない関係上日本は多くの弁護士が兼務していると思うけど、アメリカ
じゃあ兼務はそんなに多くないんじゃないかな
(ついでに言えば、アメリカには税理士とか司法書士はいない。
すべて弁護士。
そう考えると、税務でしかも訴訟をやらない弁護士というのが日本の税理
士に相当するわけで、単純に数だけ比較しても意味がない。)。
また「法廷」というのは要するに裁判所の中にある訴訟手続きを行う施設のこ
とであるが、「そんなものの数はコストとは関係ない」。
物理的な施設の過多などコストとは(ほとんど)別問題なのである
(あまりに少なければ別だが、あまりに少ないと言うほど少ないわけでもな
い。)。
:ひとつの訴訟を終えるのに数年の時間と数十〜数百万の金がかかるのなら
:ば、諦めるかヤクザに金を渡して手っ取り早く解決するしかありません。
数年も掛かるのは例外中の例外だということを分っていない。
平均期間は9ヶ月程度でアメリカ(8ヶ月程度)と比べても遜色ない。
確かに証人尋問のある訴訟はいきなり倍以上(20ヶ月余り)の長さになるのだ
が、これって証人の都合というのもあるんじゃないの?
あたしゃ証人になったことがないから知らんけど、出廷を強制できるとは言っ
ても出廷を拒否しているのでもない限り証人の都合を無視して一方的に期日を
指定して来いというやり方はしないんじゃないの?
(この辺は佐々木さんにでも尋いてくれ。)
だとすれば、証人として出廷するのは当然の義務だという意識変革をしない限
り駄目じゃないのかね?
何しろ、証人として出廷するために仕事を休むことすら憚る国だからな。
数十万から金が掛かるというのは、本人訴訟では当てはまらない。
また、代理人訴訟ではしょうがないでしょ?
アメリカだって掛かるよ。
って言うか、多分アメリカは「もっと掛かるよ」
(民事については、成功報酬方式にすることで、敗訴した場合のリスクが減る
から訴訟がやりやすくなっているようである。)。
常識的に言って、「弁護士が生業として成り立つということはそれなりの金が
掛かるはず」なのは当然じゃん。
一回訴訟をやったらその手間隙は、10万円ではきかないよ。
それとも弁護士の仕事は時給換算したらコンビニバイトに毛が生えた程度だと
でも言うのか?
:日本が国際的に人権問題で非難を浴びているのは、外国人犯罪者の取り扱い
:についてです。犯罪者の人権など考慮されない時代に作られてそのままの刑
:事訴訟法や、警察の取調べ方法を改善することで国際的な非難もかわせま
:す。
おいおい、刑事訴訟法は「被疑者、被告人の人権を守るため」に「戦後」新憲
法の元で新憲法に沿った内容で新規制定しているんだよ。
何を言ってるんだ?
警察の取調べ方法というのはまあ分るけどさ。
つーかさ、「国際的な非難」をかわす為に刑事司法制度を整えるのかい?
そりゃ違うだろ?
他人に言われるからじゃなくて「自分の意思でどうあるべきかを考える」べき
でしょ。
主体性がなければ結局何も変りやしないよ。
閑話休題。
>> >第七条 人権委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う。
>> これ、司法権からも独立していますよね?
>
>していません。人権委員会は三権の中では行政に分類されますから、憲法76条の
>「行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。」という規定により、人
>権委員会がどんな決定をしようと、裁判所がそれを覆すことができます。
それは話が別でしょ。
確かに、上記「条文に言う」独立は別投稿にも指摘のあるとおり「行政組織の
中で他の行政庁の指揮監督を受けない」という意味であるわけで「行政権の中
の話」に過ぎないから司法権との関係について述べるものではないのですが、
それ以前に独立行政委員会が行政庁である以上、三権分立の建前からして司法
権から「独立」しているのは当り前です
(ただし、司法権以外の二権について「独立」を殊更に述べる意味はあまりな
い。
沿革的に言って最も独立が問題になるのは司法権だから。)。
例えば税務当局のした滞納処分に不服がある場合に(最終的には)行政事件訴
訟を提起できるからと言って、税務署(長)は司法権から独立していないなど
と言ったらそれは、三権分立の意義を勉強しなおしましょうと言われるだけで
す。
あるいは、具体的審査制とは言え法令審査権により法令の憲法適合性を判断で
きるまたは立法行為が立法権の行使であるからと言って直ちに国賠の対象とな
らないわけではない(=極めて限定的で実際にはほぼありえないとは言え理論
上は司法審査の対象となる)からと言って、立法権を司る国会は司法権から独
立していないなどということはありません。
はたまた、三権分立に限らず、例えば審級制度は下級審の判断を上級審が覆せ
る(差戻審の拘束力の問題ではなく。)のだから裁判官の独立を認めた憲法に
反するという話にすらなってしまいますが、そんなことを言う人はいません。
職権の「独立」とはそういう意味ではありません。
職権が独立しているかどうかと、その職権行使が「事後に」司法審査を受ける
かどうかとは全く別問題です。
そうでなければ、日本国の国家組織で完全に独立しているのは最高裁判所だけ
ということになります。
しかし、そんなことを言ってみても意味がないでしょう。
# ちなみに調停と仲裁以外の処分に関しては、そもそも76条2項後段の問題で
すらないと思うが……。
いやまあ、司法権が行政事件にも及ぶ根拠の一つとして、76条2項を挙げる
ことができるのでその意味で、76条2項後段を理由に司法審査が及ぶという
話をしてもいいけど。
でも、やっぱり「終審云々」とか何とかじゃなくて単純に76条2項前段の特
別裁判所の禁止の方が直截的だと思うし、何より76条2項の趣旨ひいては法
の支配の徹底ということを根拠とすべき。
>ここでいう「独立して」の意味は、他の行政官庁、たとえば法務省や厚生労働省、
>文部科学省の官僚から独立し、大臣にも口出しできるという意味です。
# 「口出し」というのは違うんでねぇの?
自分の権限に基づく正当な職権行使は通常「口出し」とは言わないでしょ
う?
監査役が会社の業務上の問題点を指摘したり会計検査人が会計上の問題を指
摘したりするのは「口出し」とは言わない
(言われる当事者は言うかも知れないけど。)。
一般的には、「正当な権限のない者が」横槍を入れるようなのを「口出し」
と言うのでは?
まあ要するに「行政組織内部で」他の行政機関から指揮命令監督を受けないと
いう意味の「独立」ということでしょ?
>この人権委員会と同様の規定は、公正取引委員会をはじめ多くの組織にあります。
# 実はあまり多くない。:-)
今、二桁あるっけか?
独立行政委員会は例外である上に特にアメリカ型の官僚システムを採らない日
本においてはあまり存在意義がないために、戦後雨後の筍のごとく設けられた
委員会の数はその後減ってしまいました。
# 最近再評価を受けている気もするけどね。
>この公取委の規定は、今回の人権委員会の規定とよく似ている印象を持ちました
>ので(まだ全部比較はしていませんが)、独禁法と読み比べることをお勧めしま
>す。
まあ独立行政委員会であるという点で類似性が強いのではないかとは思いま
す。
ところで、独禁法もいいけどその前にまず「三権分立」と「独立行政委員会」
というものを理解した方がいいと思うな。
独立行政委員会が「何からどのように独立しているのか」は、合憲性を論じる
前提に他ならないからね。
そこで「独立」について「三権分立における行政権以外の二権との関係」など
問題にならないことは、直ぐに解る。
>それから……裁判なしで捜索も処分もできる、という懸念がありましたが、人権
>委員会は立入調査に関して実力行使ができないので、不服であれば、
そう?
問題の立入調査権が強制調査権でないという理由は特にないと思いますが
(行政調査については3分類が通説だと思うが、強制調査と任意調査と後何
だっけ?)。
もし強制調査ならば、行政上の即時強制として妨害を実力で排除することは当
然できます。
この場合、
> ・立入調査を拒否
というわけにはいきません。
拒否しても強制調査を受けるだけです。
> ・建物に立ち入ろうとしたら建物の管理権を根拠に排除する
> (必要に応じ、不法侵入や、物を持ち出そうとしたら強盗で刑事告発)
# 強盗よりはまず窃盗でしょ?:-)
「刑事告発するくらいならその場で現行犯逮捕」の方がいいんじゃない
の?とは思うけど……って言うか被害者なんだから「告訴」じゃないの?
まあそもそも「正当な法令行為なんだから違法性を欠き犯罪を構成しない」
のですが。
即時強制ができるなら、排除の態様如何によっては逆に公務執行妨害罪等
を構成する可能性もあります。
……そもそも強制調査権とかがなかったら実効性がないんじゃないの?と思い
ますけどね。
# まあ後暗いところがないのなら調査拒否する必要もないとは思うのだが。
それにしても、人権保障のための人権委員会がその活動において人権保障のた
めに裁判所の判断を要するというのも逆説的で面白いとは思うけど、実際問題
として、裁判所の判断を一々待っていたら、手遅れになるんじゃないの?
り司法権は事後的救済措置で、それでは不十分だから行政による救済を行おう
というのが人権擁護法の目的ではないのかねぇ?
司法判断を要するのだったら「骨抜き」もいいところじゃないか。
# 行政が信用できないというのはそれはそれで構わないけど。
ちなみに、44条の立入調査は「人権委員または人権委員会事務局の職員」にし
か認められてないからね。
人権擁護委員には認められてないよ。
>あとは、人権委員会を法務大臣の下に置くか、それとも内閣直轄にするか、とい
>う問題だけでしょう。
違います。
法務「省」の外局とするか内閣「府」の外局とするかあるいは法務大臣の所
轄(*)とするか内閣「総理大臣」の所轄とするか、です。
(*)「所轄」とは予算と人事権を握っている程度の影響力しかないという意
味。
委員会の設置は、国家行政組織法3条3項、内閣府設置法49条1項により、省ま
たは内閣府の外局として行うことになっています
(他の設置規定は未確認。
内閣府設置法49条2項は、条文を読む限り、委員会に委員会を設置できると
いう規定だと思いますが。)。
そして、法務省の外局とすれば所轄行政庁は法務大臣になるし、内閣府の外局
とすれば所轄行政庁は「(内閣府のトップである)内閣総理大臣」になりま
す。
なお、内閣の機関として内閣所轄となっている独立行政委員会は人事院があり
ます(これは国家公務員法に規定。)がこれは独立行政委員会の中でも例外的
存在で、人権委員会を人事院と同じ扱いにする理由は特にないでしょう。
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SUZUKI Wataru
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