◆20:40 9回表 十番高校の攻撃

星野 「長かった・・・本当に長かった・・・」
大気 「なんと此処まで、丸1ヶ月近くですからねぇ。」
夜天 「一時はどーなる事かと思ったらしいぜ?」
レイ 「って、来たばっかのあんたたちが言うこっちゃないわよ!」

 しかしこうして感慨深いのは両軍とも同じ。ともあれ、こうして
何とかこぎつけた9回表。星野の思いは皆の思いでもあった。また、

美奈子「けど、望みも出てきたんじゃない?」
ちびう「美奈子ちゃん、どー言う事?」
まこと「向こうの眞深ちゃんの御蔭さ。なんとシスプリチームには
    攻撃のチャンスがもう無いんだ。」
ちびう「え? だって私たちの攻撃の後に、9回裏があるんでしょ?」
レイ 「それも、もうアウト3つがついちゃってるのよ。」

 そう。前回の8回裏で眞深がやらかした「6人攻撃6アウト」の
の余波は大きかった。ノーアウト満塁でセーラーチームを完膚なき
までに引き離すチャンスをものの見事に潰しただけではなく、アウ
トカウント繰り越しのローカルルールが適用される事により9回裏
のアウトカウント3つ分まで食いつぶしたのだった。都合、9回裏
のシスプリ側攻撃は既に終了している事になるのだ。

美奈子「ま、これで何とかなりそうね。あと3点か。」
レイ 「そーそー。何とか3点稼げば同点でタイムアウトだから、
    その後に1点でも先にとった方の勝ちなんでしょ?」
まこと「・・・レイちゃん。Jリーグじゃないんだから。」(^^;)
亜美 「それ以前の問題よ。」

 亜美がぽつり、と暗く言う台詞が3塁ベンチにずしりと響いた。
皆、無言。無理も無い。明るくは振舞っていたが、その3点が如何
に重いかは皆が判っていた。





ほたる「これまでの得点は、私が1点、」





まこと「私が1点。どっちもホームラン。」





 そう。既に公式記録からも分析されているが、シスプリチーム側
の攻撃に比べ、セーラーチーム側の攻撃は如何にも個人技の集まり
であり、打線の繋がりに欠けている。何とか2点は叩き出せたもの
の、それは文字通り個人が「叩き出した」だけのものであり、全員
で獲得したものではない。加えて、





美奈子「主力が、これじゃあねー。」

 ふぅ、と溜息をついてベンチ裏を振り返る美奈子。皆も一様に振
り返る。そこには、





はるか「きゅう」(>o<)
みちる「きゅう」(>o<)
せつな「きゅう」(>o<)
うさぎ「きゅう」(>o<)

 と、貴重な戦力である筈のセーラー戦士が4人も眠ったまま。

ほたる「あれ? 後から来たカルテットさん達は?」
星野 「え、其処で寝てた派手な格好の4人組? 目、覚ましたよ」
大気 「それで、何でも『スモールセレニティに会わせる顔が無い』
    とか言いながら、先ほどそそくさと帰ってゆきましたが。」
ちびう「えー! そんなぁ、折角来たんだから遊んでいけばいーの
    にぃ。いっぱい話したい事だってあったんだから。」





夜天 「あ、それと『早く行かないとアウトレットモールが閉まっ
    ちゃう』とか何とかも言いながら、財布を確かめてたけど。」





ちびう「・・・ほたるちゃん、その『沈黙の鎌』、貸して。」(--X)
ほたる「あぁあ駄目よちびうさちゃん!また島が吹き飛んじゃう!」

 はーなーせーせめてせめて一太刀、とか何とか言って暴れるちび
うさを後ろから羽交い絞めにして止めるほたるを横目に見ながら、
亜美とレイとまことは美奈子と一緒に溜息をついていた。

美奈子「目、覚まさないわねぇ・・・」
レイ 「『沈黙の鎌』の一撃って凄いのね。」
亜美 「・・・うさぎちゃんだけは違う気がするけど。」(^^;)

 ぽん、と誰かが亜美の肩に手を乗せる。見ればまことが首を振る。

まこと「亜美ちゃん。それは気の迷いだ。青春の幻影なんだよ。」
美奈子「そうよ亜美ちゃん! 私たちがすべき事は、過去に囚われ
    今を悩む事じゃないわ! 青春の蹉跌は誰にでもある事よ!」
レイ 「そうよそうよ! 私たちには明日があるわ! さぁ、未来
    に向かって歩み始めましょう! インターナショナルよ!」
亜美 「みんな、みんな・・・えぇそうね! そのとおりだわ!」

 肩を寄せ合い手を組んで「あっち」の方角を見上げて「むりやり
じ〜ん」モードに突入した内惑星系4戦士。漸く大人しくなった
ちびうさをまだ羽交い絞めにしながら、ふぅと溜息をつくほたる。
やっぱこんな試合に出るんじゃなかったと思いながら、一言。





ほたる「・・・逃避・・・・」





 ほたる、会心の一撃。内惑星系4戦士にダメージ、回復まで10秒。

星野 「でもさぁ。真面目な話、どーするよ?」
大気 「幾ら何でも、8回表に打席に立った者がもう一度立つ訳に
    も行かないでしょうしねぇ。」
夜天 「いーんじゃねーのか? どーせ草野球だろ?」

 「おきらくごくらく」に放言する夜天の首根っこをいきなり掴み、
星野が顔を寄せる。いきなりの美少年ペア急接近にドギマギする暇
も視聴者に与えず、星野が小声でポツリと呟く。





星野 「・・・もう一度、我が身を振り返り、泣きたいのか?」





 いきなりずしっと沈む、スターライツ3人の空気。「都合の悪い
事は3歩歩く間に忘れる」性格の夜天ではあったが、8回表に味合
わされた苦汁はまだ記憶に新しかった。マウンドを見れば、あの
「遠隔囁き戦術」を持つとの噂の千影が投球練習をしている。前回
に我々の弱みを的確過ぎるほどに掴んだ以上、今度は間違いなく使
ってくるだろう。その時、果たして我々は耐えられるのか? 皇女
を探して幾星霜も星星を渡り歩いたスターライツではあったが、こ
ればかりは自信が無い、と言うより勘弁して欲しかった。

美奈子「どうしよう・・・」
亜美 「どうしましょう・・・」
レイ 「ホント、どーしたものやら?」
まこと「どうしようかねぇ。」
ほたる「どうすればいいの?・・・」
ちびう「どーしょっかねー?」
星野 「どうすればいいんだ?」
大気 「如何致しましょうか・・・」
夜天 「どーしろってーんだよ?」

 9者9様だが、思いは同じ。もはや闇雲に出陣して一族諸共枕を
並べて討ち死にでもすべぇかと思い始めた、その時。





火球 「どうしたのですか、皆さん?」