8回表[2]
◆20:05 8回表 十番高校の攻撃
〔これまでのお話〕 やってきました最後の助っ人!…けどねぇ(^^;)
> と、すたすた打席に向かった・・・そのまま3人で連れ立って。
美奈子「わー! だからそれは止めて!」
レイ 「それでなくったって後2回しかないんだから!」
これを必死で止めるセーラーチーム。幾分不満げではあったが、
それでも3人が仮の姿とは言え一般社会で暮らしていた期間があり
それなりに常識を知っていたのが幸いし、ばら売りで打席に立つ事
を漸く承諾してくれた。尤も時間が時間だったから「誰が午後8時
の女になるか」で随分とすったもんだがあった3塁側ベンチだが、
星野 「ふっふっふ。矢張り女は愛嬌より度胸より卑怯だ!」
と、幾分煤けた様子の星野が打席に立った。流石に棒倒しで選ぶ
のは止めたらしく直ぐに3塁側ベンチから出てきたが、ベンチの中
が戦闘の余波で全壊している様子だけは書き記しておこう。一体、
どんな手を使ったんやら。
星野 「いらん事を書きゃがって・・・まぁ良いか。さー来い!」
打席でバットを振り上げる星野。漸く出てきた第1打者に、やや
うんざり気味な顔をしながらも、セットポジションを千影が取る。
その時、はっと気付いた亜美がベンチから声をかけた。
亜美 「星野さーん! 気をつけて、囁き戦術が来るわ!」
千影の「声」は未だに解明されていない。しかし声が聞こえる事
だけは確かであり、その内容も容赦が無い。これであっさり前回は
三振を喫した亜美だから、掛けた声には悲壮感があった。だが。
ひゅっ かきーーーん!
その瞬間、星野は見事に千影の第1球を打ち返していた。何らセー
ラー戦士の技を使わず素直にヒット狙いでバットを振り、それが実
に上手くレフトの春歌の前に落ちる。たたた、と走りこんで転がる
ボールを春歌が拾った頃には、星野はきっちり1塁ベースを踏んで
いた。久しぶりのヒット!で歓声を上げる前に、何故か呆然とする
セーラーチームと、そんな彼女らの様子をきょとんと見つめる大気
と夜天。当然千影の囁き戦術で星野がボロボロにされ帰って来ると
思っていたらしい。1塁ベースに足を置きながら、こちらもきょと
んとしている星野が聞き返してくる。
星野 「亜美ちゃーん。 声? えーっと、キャッチャーの娘の?」
亜美 「いいえ、ピッチャーの、千影ちゃんの。・・・聞こえた?」
ぶんぶん、と首を横に振る星野。どうやら彼には声が聞こえなか
ったらしい。はて?と首を傾げる亜美に、サードの咲耶がポツリと
呟く声が聞こえた。
咲耶 「だって千影ちゃん、『セーラースターズ』見てないから。」
どうやら「見ていない/知らないキャラクターの事は言えない」
と言う事らしい。これが囁き千影の弱点か!と一瞬喜ぶ3塁側ベン
チに次々届く、「視聴者の正直な声」。上から順番にピッチャー・
ファースト・ショート・レフト・ベンチ・センター。
千影 「…番組名も衣装も変わったから、違う番組かと思って…。」
;
白雪 「タキシード仮面様もいきなり出なくなっちゃいましたの。」
;
鞠絵 「ちびうさちゃんがいきなり小さくなっちゃったから…え?」
:
春歌 「あれは確か別人じゃなかったかしら?声は同じだったけど」
:
可憐 「それは確かにうさぎさんだけど本当はうさぎさんじゃなく
; ってでもちびうさちゃんもうさぎさんだった時があるけど
: うさぎさんが戻ってからはあぁ何を言っているのかしら私」
:
衛 「まー何にせよ、だよ?
『 男装の麗人、変身後も胸ぺったん 』
ってのは見苦しかったなぁ。」
(;_;)(;_;)(;_;)(;_;)(;_;)(;_;)(;_;)(;_;)(;_;)(;_;)(;_;)
美奈子「あぁっ、大気さん! いきなりナイフを手首に当てないで!」
レイ 「きゃっ!夜天君! 自分の頭をバットで殴ってどうするの!」
亜美 「星野さーん!星野さーん! 御願い立ち上がって下さーい!」
打ちひしがれる仲間を救おうとするセーラーチーム。だが、視聴
者の声の猛威は留まる事を知らなかった。とどめにセカンドから。
雛子 「ひな、高校生のオバサンの番組なんか嫌ぁい。見てなーい。」
(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)
┌──────────────────────────┐
│ シスプリチームからの集団囁き戦術によるダメージから│
│セーラーチームが立ち直るまで、少々お待ち下さい。 │
└──────────────────────────┘
もう、いいかな?
さて、未だに泣きじゃくる星野を1塁に置いたまま、此方も涙の
痕が頬に痛々しい大気が打席に入った。こりゃ駄目かな?と泣き腫
らした真っ赤な目で、ハンカチ片手に大気を見守るセーラーチーム。
だが。
ひゅっ かきーん!
矢張り千影は囁き戦術が使えないらしい。適度に打ち頃な球が投
じられ、これを素直に大気が打ち返す。本来のパワーであれば軽く
バックスクリーンへ叩き込んでもおかしくない大気の筈だが、どう
やら集団囁き戦術の効果がいまだ後を引いている様だ。そしてそれ
は星野も同様であり、二人で泣きじゃくりながらよろよろと塁を進
む、いや塁間を歩く姿はまるで八甲田死の彷徨。そしてセンターの
衛が転がるボールに追いつきこれを中継に入った鞠絵がサードの咲
耶に投じた時には、二人はそれぞれ2塁と1塁に辿り着いていた。
3塁側ベンチでたった一人「あたし高校生なんかじゃないもん」と
ダメージの無かったちびうさだけが歓声を上げる。
ちびう「やったー1・2塁! どーだオバサンパワーを思い知れ!」
ほたる「あぁあ、ちびうさちゃん。そんな大声でオバサン!なんて」
命知らずのちびうさの暴言に轟然と燃え上がる「暴力的空気」を
察知し、慌ててちびうさの口を塞ぐほたる。尤も彼女本人もセーラー
チームの中では最もシスプリチーム姉群へ年代が近いだけに妹たち
の言い分も良く判り、気持ち的にはすっかりセーラーチームとシス
プリチームの間で板ばさみ状態。うっうっう、なんでわたしばっか
りこんなに不幸なの?と此方も涙を禁じ得ず、つい「病弱美少女」
をカムフラージュに暴言を重ねてしまったりする。強く生きろよ。
千影 「主審。タイムを請う。」
爺や7「たーいむ!」
どうやら2者にストレートに打たれ、自分の戦術不足を痛感した
らしい千影がタイムを掛けた。マウンド上に集まり、こそこそと話
し合うシスプリチーム。ベンチから伝令に可憐も入る。それを見な
がら3塁側ベンチでは、赤い目のまま亜美がじっと考えている。こ
れまでの経緯ならピッチャー交代となるはずだが、千影の囁き戦術
はスターライツ以外が相手なら極めて有効に働く事は私やほたるち
ゃんで証明済みだ。ならばフィールド内で選手交代を仕掛けてくる
筈だが、ピッチャーに有効な持ちネタのキャラは? よく考えたら
1度使ったキャラは再利用できたっけ?いやいやそもそも交代自由
の草野球ルールなんだからメカちゃんを投入されたら終わりかも、
いやいやいや鈴凛ちゃんがまこちゃんとの義理を欠いてそんな事す
るはずないし、大体なんで私ばっかり考えなくちゃいけないの?
そもそも監督は、あ、失踪中だっけ、本当に平和なカップルだこと、
きっと娘も平和な頭ね、ピンク色だし、・・・はっ。
千影 「主審。もう良い、大儀であった。」
爺や7「プレイ!」
が、どうやら下手な考え休むに似たり、だったらしい。フィール
ドへ散ってゆくシスプリ守備陣の配置はタイム前を変わらなかった。
勿論、マウンドの千影もそのまま。しかし外野の守備陣が若干手前
に守っているのが判る。どうやらバックホーム体制で構える様だ。
そんな妹たちが待ち構えるグラウンドへ入ってゆく夜天・・・だが。
夜天 「ちっきしょー!ぺったん胸で悪かったなぁ!俺だって好き
であんな臍だしミニスカなんか着た訳じゃ無かったんだ!
打ってやる打ってやる打ってやる打ってやる打ってやるぅ!」
泣きじゃくり、泣き喚き、ぶんぶんとバットを振っている打席の
夜天。ネクストバッターズサークルからしてこうだった。はっきり
言って、だだっこモード炸裂。涙のために碌に前も見えなくなって
いるらしく、バットがバットではなく只の棍棒としてしか働いてい
ない、すっかり暴れん坊状態。余りに哀れを誘うのか、主審もボー
ルが来るまではストライクを取る積もりは無いようだ。亜美は、ふ、
と溜息をついた。周りを、塁上を見れば、誰もが同じ考えの様だ。
星野と大気なぞ2塁と1塁上に座り込み膝を抱えていじいじと脇の
土を穿り返しながら「おばけなんかないさ」を歌っている。
亜美 「こんな調子じゃ、打てるわけ無いわね。ワンアウト、か…」
■7回表0アウト|1|2|3|4|5|6|7|8|9|− ■
■Sailors|0|0|1|1|0|0|0| | |2 ■
■Sisters|2|0|1|0|0|2|0| | |5 ■
■1・2塁 NEXT:夜天・亜美・ほたる ◆ マウンド 千影 ■
水野夢絵 <mwe@ccsf.homeunix.org>
GnuPG Key ID = ECC8A735
GnuPG Key fingerprint = 9BE6 B9E9 55A5 A499 CD51 946E 9BDC 7870 ECC8 A735