◆13:43 3回裏 プロミストアイランドの攻撃 第3打者

はるか「いくぞ!」

 さて、シリアスな展開を挟んだ事で目が覚めた両軍。マウンドの
はるかが迎えたバッターは、第1打席の初球でいきなり、まことが
ヒットを打たれた千影。矢張り、バッターボックスでバットを構え
る姿からだけでは、一体何が憑依するのか見当が付かない。しかし、
自分にはこの魔球「スパークボール」がある。衛を完膚なきまでに
撃滅せしめたこの魔球に、はるかは絶大な自信を持っていた…だが。

みちる「タイム!」

 モチベーションを上げまくっていたはるかへ突然水を挿すように、
みちるがタイムをかけた。駆け寄ってくるみちるを憮然としたはる
かがマウンドで迎える。

はるか「どういうつもりだい、みちる? 折角ノッてきたのに。」
みちる「はるか。あなた、またあのボールを投げるつもりじゃない
    でしょうね?」
はるか「いけないかい? だって衛ちゃんには効いたぜ。」
みちる「でも可憐ちゃんには打たれたでしょう。」
はるか「あんな、目を瞑って打つなんて邪道な打ち方じゃ、精々が
    内野ゴロだよ。さっきだってちょっと惜しかっただけだ。」
みちる「そう、そうね。でも目を瞑りさえすれば、スパークボール
    は打てるのよ?」
はるか「・・・何が言いたいんだい? 大丈夫だって。可憐ちゃん
    が打てたのは、あの娘の天才的な音楽感覚あってこそだよ。」
みちる「忘れたの、はるか? 千影ちゃんにも、天才的な感覚は
    あるのよ?」
はるか「・・・?」

 ピンと来ないはるかへ、言い含める様にぼそっと言うみちる。





みちる「アーヴの空識覚は、伊達じゃないわ。」





はるか「・・・あ!」

 宇宙に適応した遺伝子構造を自ら獲得している種族ことアーヴが
持つ、人には無い感覚器官「空識覚」。3次元空間を自らの実感と
して解釈可能な彼らに、視覚に頼る幻影は通じない。そして「殿下」
に憑依した千影は、見事にこれを操れるだろう。

はるか「・・・そうか。ならば確かにこれは使えないな。」
みちる「そう、そうよはるか。だから、」

 次からはまともに投げて、とみちるが言おうとした、その時。
顔に影付け不気味に笑い出したはるかが、不穏な事を言い出した。





はるか「ふ、ふふふふふ、ならば遂にこれを使わねばならないなぁ」





みちる「・・・はるか?」
はるか「ふふふふふふふ。後悔するが良い、我が敵よ。貴様たちが
    私に、この封印を解かせたのだ。ふふふふふふふふふふ…」
みちる「・・・あのー、もしもしぃ?」
はるか「ふふふふふふふ雷鳴よ轟け大地よ割けよ。この封印が解か
    れし舞台を、我が前に現出(あらわ)しめよ、ふふふふふ…」

 そりゃ親友なんだから此処で止めるべきなんだろうが、みちるは
言い知れぬ「ごっつい嫌な予感」を抱き、何も言えなくなってしま
った。まー少なくともキャッチャーミットを構えた所へは球が来る
だろう、とか自分を納得させて「そ、そう?頑張ってね」とか呟き
ながら、そそくさとポジションに戻ってしまう。あのーみちるさん、
はるかさんを止められるのはアンタしかいないんですがぁ?

みちる「やーよ。あんなはるかに手出ししたら只じゃすまないわ。
    大事なメイクが崩れちゃうじゃない。」

 さっさとタイムを解き、しゃがんでしまうみちる。あーあ、どう
なっても知らないぞと書き手が思う中、主審がプレイ宣言する。

はるか「くらえ我が魔球、第2弾を!」

 顔に斜線を入れ深く帽子を被り目を隠し、つまりはすっかり「あ
やしいひと」になってしまったはるかが叫び、バッターボックスで
静かに待ち構える千影に第1球を投げた。途端、千影が正体を現す。





千影 「ほーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ!
    こぉの私に掛かれば、どんな魔球だろうとオチャノコさい
    さいですわぁ!さぁさぁあなたたち!守るのよ守るのよ!
    火ぃのよーに守るのよぉおおおおおおおお!」





みちる「いけない!春歌ちゃんがコレで来たから暫く無いと思って
    いたら!」

 とみちるが焦っても、もう遅い。天才的ソフトウェアエンジニア
にしてバグだらけの巨大ロボットシステムを殆ど一人で立て直せる
生産性を持つ通称人形遣いである彼女を憑依させた千影は、全くの
無表情・無言のまま、バットを振り上げた。あ、ちなみに先の台詞
は千影本体が抱えるバットが突然変形、ミニ千影(ユニフォーム・
バットつき)になり叫んだもの。この辺は初回の衛の技術の応用編。

千影 「ほーっほっほっほ!打つわよ打つわよ!この私が打つわよ!」

 そんな訳で大変にややこしいが、無言無表情の千影(本体)が抱え
るミニ千影(人形)が「ほーっほっほ」と高ビーに笑いながら構える
バットが振り上がり、迫るボールに立ち向かう。幸いミニ千影が構
えるバットでも十分に打てそうな勢いで、ゆるゆるとボールが迫る。
打たれる!とみちるが覚悟して目を瞑った、その時。





 ぱかっ





 空中のボールが横一文字に裂けた。まるで、口を開いた様に。





みちる「口(くち)ぃ〜〜〜〜!」
千影 「なんですのなんですの、なんだったらなんですのぉ!?」

 微妙にカスタネット星国の皇女様が混じってないかと思える様な
口調で、千影(正確にはミニ千影)が戸惑ったように叫ぶ。と、ゆる
ゆると迫るボールが、





 開いた口(歯・舌付き)から、





ボール「ミノガシテクダサイ、ミノガシテクダサイ、ミノガシテク
    ダサイ、ミノガシテクダサイ、ミノガシテクダサイ、・・」





 喋り始めた。なお声質はエメロード姫@「魔法騎士レイアース」。
意外に思われるかもしれないが、はるかさんのアフレコだから(謎)。

   「だぁあああああ!」 どんがらがっしゃん

 御約束通り、総ゴケ状態の両軍。しかしマウンドのはるかは一人
得意げだった。

はるか「はぁっはっはっは! 見たか、はるか特製『可愛い魔球』
    を! これは打てまい、人として!」

 いやそれ以前にこんな魔球は人としてどうかと書き手は思うのだ
が、それは兎も角、不運な事に総ゴケの中には肝心の千影もいた。
幸か不幸か、はるかが投げた「可愛い魔球」は千影の目前にまで迫
っている。もし千影が真っ当なバットを構えていたら、きっとそれ
はストライクゾーンから外れていた筈だった。そのままストライク
ゾーンをはるか自称で可愛く通ろうとする魔球。だが。

 こつっ

 ミニ千影(やはり総ゴケ中)が構えるバットが、幸か不幸か、魔球
に当たった。いや、当たってしまった。そして必然的に、ころころ
と内野を転がってゆく「可愛い魔球」。しかしそれでも、

ボール「ミノガシテクダサイ、ミノガシテクダサイ、ミノガシテク
    ダサイ、ミノガシテクダサイ、ミノガシテクダサイ、・・」

と言い続けている。何故かファールにもならず、ころころと転がり
ながら。う〜ん、ひょっとしたら健気かも知れない(爆)。が、どう
もセーラーチーム内野陣のウケは良くないようだ。と言うか最悪。

美奈子「きゃっ!こっち来た!い、いやいや、せつなさんパス!」
せつな「え!そんないきなり、こ、これ、どうすれば良いんです?
    と、ともかく、はいセカンド!」
亜美 「きゃーっ! わ、私こう言ったの駄目なんです! とりあ
    えず、レイちゃん、御願い!」
レイ 「きゃーっ!きゃーっ!いやーっ!こっち来るなくるなー!」

 そらもうすったもんだですっかりパニックの内野陣の間をトスされ
続ける「可愛い魔球」。ちなみに外野陣は当の昔にフェンス際まで退
避済み。そして当然、行き交う魔球は

ボール「ミノガシテクダサイ、ミノガシテクダサイ、ミノガシテク
    ダサイ、ミノガシテクダサイ、ミノガシテクダサイ、・・」

と喋り続けている。少なくとも動力はゼンマイじゃないらしい。

可憐 「いやいやいやぁ!こわいよぅお兄ちゃーん!」

 一方、ランナー。勿論悲鳴を上げて逃げ惑っている。トスされ続
け内野中を

ボール「ミノガシテクダサイ、ミノガシテクダサイ、ミノガシテク
    ダサイ、ミノガシテクダサイ、ミノガシテクダサイ、・・」

と言いながら飛び交う「可愛い魔球」に、追われるが如く。まるで
お兄ちゃんがハマっているゲームに出てくる敵キャラの様。あれは
確か「ヒトウバン」とか言ったっけ。どちらにせよ、お近づきにな
りたいものではない。恐怖に駆られ、塁から塁へ走る可憐。普段の
彼女なら真っ直ぐ1塁側ベンチに書け戻り最愛のお兄ちゃんに抱き
つきそのまま押し倒しイクところまでイッて・・・ってなもんだが、
それを思いつかないほどにパニックになっている様だ。また一方、

千影 「奇妙だわ不合理だわ論理的ではないわー!」

 と喚き暴れるミニ千影を小脇に抱えながら、此方も1塁を目指す
千影。ミニ千影がパニックになっている分、此方は冷静なようだ。
そのまま1塁ベースに駆け込み、ちょんとその上に立つ。





はるか「何をしている! タッチだ!」





 両軍が大いなる恐怖に包まれてすっかりパニックに陥っている中、
凛としたはるかの声が響いた。はっとして、立ち直る(?)内野陣。
ふとせつなが振り返れば、涙目でうるうるしている瞳を口元で結ん
だ小さな拳の向うから覗かせながら真っ青になっている可憐が、既
に3塁上にぶるぶる震えながら立っていた。どうやら件のボールが
最初に飛んでゆき、あまつさえそれを捕球しようとしたキャッチャー
が居るホームベースにはどうしても行きたくなかったらしい。はた、
と1塁ベースを見れば、こちらもすっかりパニックに陥っている人
形を抱えながら、ちょっと困った様な顔をして千影が佇んでいる。
ちなみに2塁は、亜美と美奈子がお互いに「ミノガシテクダサイ」
と言い続けているボールをトスしあっていた。まるで「黒ヒゲ爆弾
百連発タイマーでポン」の様(意味不明)。

せつな「はるかさん、だって、もう!」
はるか「違う!バッターはまだ塁に入っていない!」

 千影はきっちり1塁上に立っている。何を言っているのやら?と
いぶかしむせつな。そらまあこんな魔球を平気で投げるはるかの事
だから、元々から何を考えているのやら判んないけど。皆目検討も
つかずにいる内野陣(約2名パニック続行中)に業を煮やしたか、は
るかがマウンドから降り、すたすたと2塁(パニック中)に向かう。

はるか「貸せっ!」

 亜美と美奈子の間をぽいぽいとトスされ続ける「可愛い魔球」を
むんずと掴み、ぐいと1塁を見据えたはるかが、そのまますたすた
と1塁に向かう。途端に1塁からダッシュで逃げ出すレイ。きっと
はるかさんが怖かった訳ではなく、ボールが来るのを嫌がったんだ。

はるか「ごめんね、千影ちゃん。」

 そのまま1塁のそばに立ち、はるかが相変わらず「ミノガシテク
ダサイ」と言い続けているボールを、





 ちょん





 千影ではなく、千影が持つ、ミニ千影にタッチした。(ややこしい)





爺や 「アウトォ!」





   「だぁあああああ!」がらがっしゃん

咲耶 「えぇー!なんでー!」
白雪 「そーですの!千影ちゃんは1塁にちゃんといますの!」

 当然1塁側ベンチから批難轟々が上がる。が、塁審爺やの解釈は
明快(?)だった。

爺や 「投球に対しバットを当てて打球ならしめたのは、千影では
    なくミニ千影である。この場合は複数打者規定により千影
    の補助によりミニ千影がバッティングをしたと見なされる。
    従って野球規約によりバッターことミニ千影が進塁する必
    要があるが、千影に抱えられたミニ千影は1塁に触れてい
    ない。よってまだ進塁が果たされたとは見なされず、捕球
    のタッチによりアウトになった。ちなみに1回表の衛の打
    球は改造君による打撃であったが、それ以降に改造君自ら
    が1塁進塁を果たしており、アウトにはならない。」
    (ルール解釈責任:書き手)

 そんな事を言えばそもそもボールがいきなり喋り始めるのも反則
でないかと当然抗議が上がったが、

爺や 「ボール本体へ加工を施した場合は違反となるが、調査の結
    果この魔球は投手の魔力によりボール表面から僅か(コンマ
    2mm)に離れた所を覆う様に固定の幻影が取り巻く形になっ
    ている。よってこれはボール本体への加工がなされたとは
    見なされず、違反にはならない。」

と相成った。当然、総ゴケ状態の両軍。ひとりピッチャーは、

はるか「はぁーっはっはっはっは! 見ろ見ろ、このボクの偉大な
    魔球を! これならば打たれない、絶対にだ!」

 相変わらずの様だったが。

 なんだかんだで確定は、バッター千影のアウト。1塁可憐は3塁
に進塁。そして残るは、この大問題。

ボール「ミノガシテクダサイ、ミノガシテクダサイ、ミノガシテク
    ダサイ、ミノガシテクダサイ、ミノガシテクダサイ、・・」

 両軍の満場一致(1名を除く)で、この「可愛い魔球」は永遠なる
封印が施される事となった。相変わらず喋り続ける魔球を元に戻す
事は魔法をかけた張本人が解く事を考えていなかった為に結局不可
能であり、鈴凛特製の太陽観測衛星打ち上げ用ブースターによって、
直ちに太陽へ直接送り込まれる事になった。





 今でもそのボールは、魔球投手の魔力により守られ、





ボール「ミノガシテクダサイ、ミノガシテクダサイ、ミノガシテク
    ダサイ、ミノガシテクダサイ、ミノガシテクダサイ、・・」





と、太陽の中で言い続けているに違いない・・・。

■3回裏2アウト|1|2|3|4|5|6|7|8|9|− ■
■Sailors|0|0|1| | | | | | |1 ■
■Sisters|2|0| | | | | | | |2 ■
■3塁:可憐 NEXT:咲耶・春歌・鈴凛 ◆ マウンド はるか■