今年最後に猫間です。

召喚された気がするので恥ずかしながら出て参りました。
『銀盤カレイドスコープ』最終話のレビュー、を装った私的感想文です。
#webで晒している自分の日記から抜粋して加筆修正したものです。


★最終話「シンデレラ」

最終話はアバンタイトル無しで、OPをショートプログラムの演技シーンに差し替え。
なので、あの脱力するようなイメージ映像も再び(苦笑)

「1番最初の滑走順にもかかわらず、いつまでも落ちないでいた私の順位」
前回の結果どおり、リアが暫定1位でタズサは2位。
1番目の滑走で2位ってことは、順位表の上位にずっと名前が出続けていた、
ということになりますね。
そりゃあ否が応にも注目を浴びるはず。
もはやトリノでも無名の選手ではなくなったでしょう。

タズサにとって鬼門だった記者会見も、トリノでは和やかに。
「実は私、幽霊と同棲していて、彼が考えてくれたんです」
タズサには冗談でもなんでもないのだけれど、記者達にはナイスジョーク。
#リアの「桜野タズサの上を行く」傲慢発言は聞いてみたかったな。

「参考までに聞かせてちょうだい。どう違うの?」
「そうだな。一言で言えば今のタズサはまるで、シンデレラみたいだ」
タズサはシンデレラ。
12時になると消えてしまうピートのことを意図して付けたサブタイトルだったの
でしょうけれど、それを直接には台詞に出さず、暗喩としたのは良し。

「ねえ、ピート。あなたに言っておきたいことがあるの」
「分かってるよ。最高の演技をしよう」
タズサが伝えたいのは「たった一言」。それが言えない。
ピートは本当に分かっていないのか、それとも、分かっていて分からないふりを
しているのか。

「リア・ガーネット・ジュイティエフ」
「さすが氷の女王。入ってきただけで空気が張り詰めた」
控え室でリアに視線を向けられたタズサ。どうやらリアに認められたらしい。
今回のアニメ化ではリアの性格が把握できなかったので、リアに認められるという
ことがどんな意味を持つのか、いまいち分からなかったです。

一方、タズサがリアに認められたことが面白くないドミニクは自滅の転倒。
「自分の足元もろくに見ないで他人を気にして滑っているから ああなるのよ」
「オリンピックには魔物が棲んでいる、か」
「ま、私には関係の無い話ね」
「そうだね。君には僕が魔物の前に取り憑いている」
ナイスな言い回し。この作品、こういった台詞回しが本当に素晴らしいです。

タズサの滑走順は氷の女王・リアの直後。嫌な順番です。
しかし、タズサの目的を達するには滑走順なんて関係ない。
「私が今一番望んでいることはメダルやキャリアなんかじゃない。それは、ピートと
 二人の最後のダンスを踊りきること。ピートのやり残したフライトを完成させること」

タズサが見ている前でリアの演技が始まる。
「そのとき、時が止まった」
確かに時が止まった。動画から静止画に(苦笑)
リアの演技を見せてくれるのかと思ったら、紙芝居に逃げてしまいましたか。
とはいえ、このアニメではタズサとピートの二人を中心に描いているのだから、
ここでリアのフィギュアシーンを出すのは余計なこと。
リアの演技がどんなに見事だろうとストーリーには全く関係ありませんからね。
この紙芝居シーンを削っても構わないくらいですよ。
この場面で重要なのは、リアの完璧な演技など眼中に無いタズサたちの姿。
「終わったようだね」
「それはつまり」
「僕たちの出番ってことだ」

学校の体育館(?)で、オーロラビジョンの前で見守るヨーコちゃん&ミカちゃん。
自宅のテレビで見ている響子。
呑んだくれている(元?)記者ども。
黙って見つめる三代監督。
カメラを構える新田。
彼らが見守る中、タズサたちは舞台に立つ。
「見せ付けてやろう、君の百億ドルの美貌を、世界中に」
「二人の最高のフライトを、でしょ」
「そうだったね」
「この一瞬一瞬が、忘れられない記憶として、心に刻まれる」
タズサにとっては、このフリープログラムは誰よりも自分自身で感じるための演技。
確かに今ここに居るピートの存在を心に刻み込むために。

「きっと、他の人にも見えているはずよ」
「ああ、きっと見えている」
「私達が空を飛んでいる姿が」
銀盤を舞うタズサ。
タズサの演技を見てTV画面に釘付けになる響子。
抱き合って滝のような涙を流すヨーコちゃん&ミカちゃん。
「石膏仮面は完全に卒業のようね」と、三代監督。
ただただシャッターを切り続ける新田。
瞳に星を輝かせて涙をにじませるコーチ(苦笑)
「「確かに、二人は繋がっていた」」
そして、鳴り響く拍手。
この喝采はリアを超えたか……と思えたのだけれど……。

「きっと今頃コーチは、おろおろしてるでしょうね」
結局、タズサは4位。
タズサの演技への採点はミスジャッジだという声が強く、そのため、押しかけてきた
マスコミにコーチはしどろもどろに。
タズサがどこかへ行ってしまいコーチが一人で応対しているのだから無理もないです。
それにしても、ここでミスジャッジなんて話になるとは。昔の採点基準なのだろうか。

「でも、素晴らしい演技をしたことに変わりはない。そんなところかしら」
三代監督が言うように、たとえ点数は低くても、タズサの演技が素晴らしかったのは
誰もが知っている。
観客も、リアも、そしてタズサたち自身も。

「もう時間が無い。私まだ、何も伝えられてないのに」
マスコミをコーチに任せてタズサがやってきたのは、凍りついた湖。
まさか自然の氷面で演技するつもりなんじゃ、と思いましたけれど、流石にそれは
やりませんでしたか。
「あのさ、今日のフリープログラムのことなんだけど、私たち、ちゃんと空 飛べた?」
「そんなことわざわざ言わなくたって、君が一番分かってるじゃないか」
「どんなに分かりきってることでも、はっきり言葉にした方が良い場合ってあるもんよ」
「そうだな。それじゃ……。僕らは、あのとき確かに空を飛んでた。
 最高の演技をやりきったと思う。二度とあの感覚は味わえないと思ってた。
 これでもう、思い残すことは何もない。ありがとう、タズサ」
ピートはもう、心残りは何もないと言う。
けれど、タズサには、まだ一つだけ残っている。
言っておきたい「たった一言」が。

「もう一つ、あなたに言っておきたいことがあるの」
「どうしたの、そんなに怖い顔して」
「いいから黙って聞いて! 私……」
「あ、雪だ。別れのシーンに雪を降らせるなんて、神様も粋なことするよね」
タズサは「たった一言」を告げようとするけれど、その度にピートがはぐらかす。
これは、わざと言わせたくなかったのでしょうね。
別れが辛くなるから。また心残りが出来てしまうから。

「ねえ、タズサ。そろそろ、時間みたいだ」
「ちょっと待ちなさいよ、まだ話が」
「100日間、いろいろあったよね。でも、あっという間だったな。
 人生で一番トマトを食べた三ヶ月だったけど、結構 楽しかったよ」
「行かないで! ずっと私に憑依していいから! お風呂とか着替えとか不便なことは
 いっぱいあるけど、それくらい いくらでも我慢してあげるから!」
「泣くのは嫌だって言ってただろう」
「ピート、ピート、ピート、ピート、ピート……。私、あなたのことが」
「最後は笑って見送ってほしい」
そして、別れの時が来た。
「タズサ、さよなら」
ピートは消え、残されたタズサは、とうとう伝えられなかった言葉を呟く。
「ピート、大好きだよ」

と、ここでOP曲が流れて、これまでの映像と共にスタッフロール。
惜しいなぁ。個人的には素直にED曲『energy』をかけて欲しかったです。
タズサの台詞の直後に「もっともっと近くに感じてたいよ〜♪」と始まっていたら本気で
泣いていたところですよ。
もっとも、後日談になる映像はOPのアップテンポなノリでないと合わないので、こちらも
捨て難いのですけれど。

というわけで後日談は曲に乗せて映像のみです。
コーチの結婚式。どうやら無事に結婚したようですね。
練習中の至藤響子、を撮っている新田。響子は辞める気なんて吹っ飛んだかな。
ヨーコちゃんに悪い虫が!
ミカちゃん、剣は無いから(エキシビション用の衣裳かな?)
いつまで呑んだくれているんだ記者ども。
リア、来日?
やっぱりタズサは記者相手に暴言か(笑)
最後に飛んでいた飛行機、煙を噴いているぞ(汗)

ところで、スタッフロールの中に「演出 Alan Smi Thee」という名前が。
最初は気付かずスルーしていたのですが、webの方で指摘されて知り、驚きました。
映画では監督を「アラン・スミシー」として匿名にすることがあるのは知っていました
けれど、まさか日本のアニメでそれをやってしまうとは。


<総評>
客観的評価/4- 主観的評価/5

作画や演出など、いろいろと注文を付けたい部分はあります。
肝心のフィギュアシーンに至ってはバンク使用まで。はっきり言って、めためたです。
ですが、そんなマイナスを打ち消してしまうほどの勢いが、この作品にはありました。
そう、勢いです。
ぶっ飛んだギャグ、絶妙の台詞回し、痛快な毒舌といった表面的な勢いのことだけでは
ありません。
クオリティは決して高くなかったけれど、この作品を通じて伝わってくる熱意。
自分はそれを高く評価したいのです。
#できれば、その熱意の何割かをタズサの演技シーンにも分けてほしかったのですが。

これほどの勢いがある作品を、たった1クールという短期シリーズで終わらせてしまう
のは非常に残念です。
とはいえ、たとえ尺が短くてもトリノ冬季五輪への機運が高まる今の時期にアニメ化が
実現したことは幸運でした。
トリノまでの道程を描いた今回のアニメ化は、来年ではもう遅いのですからね。
「See you next world stage!」
来シーズンか、それとも4年後か。
もしまた会えるときが来るのだとしたら、そのときこそは、フィギュアのシーンにまで
力を注いでほしいものです。


では、来年も宜しくお願いします。

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  猫間 鈴秋 / NEKOMA SUZUAKI
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