Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
石崎です。
例の妄想第172話(その8)です。
Keita Ishizakiさんの<bnvq06$acm$1@news01dd.so-net.ne.jp>の
フォロー記事にぶらさげる形になっています。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)は<bnvv4r$p9c$1@news01de.so-net.ne.jp>から
(その2)は<bol12s$5cr$1@news01cj.so-net.ne.jp>から
(その3)は<bpanfp$235$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
(その4)は<bpsnob$hnq$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
(その5)は<bretjg$k62$1@news01dj.so-net.ne.jp>から
(その6)は<budosi$mf3$1@news01dg.so-net.ne.jp>から
(その7)は<bvibt5$6bs$1@news01cb.so-net.ne.jp>からどうぞ
^L
★神風・愛の劇場 第172話『弱きもの』(その8)
●濱坂市・水無月ギャラクシーワールド
「次はあそこが良いでぃす」
時刻はそろそろお昼になろうとする頃。
少し早いが昼食にしようと弥白が言う前に、ツグミの連れの全という名の少年
の指が自分達が通り過ぎてきた方向の一点を指さしました。
「メリーゴーラウンドが良いんですの?」
「そう言うんでぃすか? あのお馬さんが良いでぃす」
「まぁ。私も乗ってみたいわ」
ツグミがそう言ったこともあり、弥白はツグミ達をこの遊園地で最も古いアト
ラクションの一つであるメリーゴーラウンドへと誘っていきました。
「ギャラクシーカルーセル」
遊園地の名称に合わせてか、そう名付けられてはいるものの、遠目には極々普
通のメリーゴーラウンドにしか見えません。
「二階建てのメリーゴーラウンドは、日本では数台しか無いそうですよ。弥白様」
弥白の心の中を読んだという訳では無いでしょうが、佳奈子が振り向いて言い
ました。
「二階建てなの?」
そう言ったのは、外観が見えていないツグミ。
「ええ。折角だから二階の列に並びますか?」
「それが良いでぃす」
列と言ったところで、現在回っているものを待っている程度のもので、実際に
はメリーゴーラウンドはがらがらの状態で、待たずに直ぐに番が回ってきました。
木馬のうち幾つかは二人乗りが可能であったので、弥白はツグミの手を引き二
人で木馬に乗りました。
メリーゴーラウンドが動いている間、ツグミのことを気遣いつつも、一緒に居
るのが稚空さんだったら良かったのにと考えていた弥白。
その想いすらツグミに伝わってしまうのではと思うと、慌ててそれを打ち消し
ました。
一方のツグミはと言うと、ニコニコした笑顔を後ろの木馬に乗った全に向けな
がら、本当に楽しそうでした。
木馬が動いていた時間は3分程でしょうか。
弥白がツグミ達と共に回転木馬を降りていくと、イカロスと共に佳奈子が待っ
ていました。
「番をして貰って悪かったわね。佳奈子さんも乗って行く?」
「いえ、私はこれには改装前に家族で乗ったことがありますので」
「あら」
家族で遊園地か…。
小さい頃、しばらく顔を見ていない両親にせがんで、遊園地に出かけた時のこ
とを弥白は思い出しました。
その時は不思議に感じなかったのですが、その遊園地には何故か自分達以外に
客がいませんでした。
その意味を知ったのは、その翌日。小学校の級友の会話からでした。
それ以来、弥白は両親にどこかに連れて行ってと自分からせがんだことはあり
ません。
だからそれは、弥白にとって封印されるべき記憶。
「ここのメリーゴーラウンドはヨーロッパから輸入されたものなんです。馬のデ
ザインとか、1台1台、動きが違っている辺りとか、結構拘ってますよね。その
割にはあまり人気が無いのがちょっと残念ですけど」
「へぇ。詳しいのね」
「いえ、ちょっと調べただけで…」
ツグミに感心され、佳奈子はほんのりと頬を染めました。
そして、じっと再び動き始めたメリーゴーラウンドを見ていました。
「僕、もう一度乗りたいでぃす」
佳奈子の方を見た全が、急にそう言うと、佳奈子は「え?」という表情でこち
らに振り向きました。
「それじゃあ、私も」
「それじゃあ今度は私がイカロスを見ているから、佳奈子さんお願いね」
「あ…はいっ」
そう言うと、嬉しそうな表情を浮かべたところを見ると、実は乗りたかったに
違いない。
そう弥白は思うのでした。
弥白とイカロスを残し、再び動き出したメリーゴーラウンド。
先程は気づきませんでしたが、成る程佳奈子の言うとおり、自分の記憶にある
メリーゴーラウンドに比べれば凝った作りであることが判りました。
「カルーセルがお好きですか?」
ふいに弥白は後ろから男性に声をかけられました。
「え?」
振り返ると、中年の男性と女性が並んで立っていました。
「すいません。私のカルーセルを熱心に見ているから、つい」
「私の?」
「ああ。私は昔、これの設計に携わっていたんです。それで今日は招待されたん
ですが」
「そうなんですの。カルーセルって、メリーゴーラウンドのことですよね」
「ええ。フランス語で回転木馬という意味だそうです」
「私はあんまり詳しく無いんですけれど、普通のよりも大分凝った動きのような」
「でしょう? ですが、当時の依頼主にはそんなことに金を使うなら安くしろと
怒られました」
「この遊園地の人にですの?」
「いえ。これは元々別の遊園地にあったものです。遊園地が閉鎖されることにな
って、この遊園地に私が売り込みに行ったんです。ここのオーナーは、割と理解
のある人で、わざわざお金を出してまでこれを移転してくれて」
と、最後は女性の方が言いました。
この遊園地のオーナーは、偶にパーティーの場などで顔を合わせる水無月グ
ループの御曹司、水無月大和の両親だった筈です。
「しかし駄目ですね。最近のお客さんはどちらかと言うと派手なジェットコース
ターとかに流れてしまうようです。改装の際に、補修費用がかさんで採算が取れ
ないので、無くしてしまえという声もあったそうですが、社長の意見で存続が決
まりました」
大和の両親は趣味人であり、あまり財界などの集まりには顔を出さないことで
知られていましたが、割と拘りを持ってこの遊園地を作っているのだろうか。そ
んなことを弥白は感じます。
「勿体ないことを言う方もいるものですのね」
「時代の流れというものなのでしょう。でも私は、こういう乗り物の方が好きだ
な」
「本当に」
弥白も二人に合わせて、無言で肯きました。
もっとも、心の底からそう思っていたという訳でもありませんが。
「こんな所にいらっしゃいましたか!」
噂をすれば影とはまさにこのこと。
向こうに立っている建物の陰から、どこかで見たような顔の男がひょいと顔を
覗かせ、こちらに向かって小走りにやって来ました。
「おや、あなたはひょっとして…」
「はい。山茶花弥白です。水無月大和さんのお父様ですね」
「ええ」
「この方とお知り合いで?」
メリーゴーラウンドの設計者だという男が聞きました。
「はい。山茶花グループのご令嬢で」
「それはそれは。お父様にはお世話になっております」
「父に?」
「ええ。海外で遊園地作りに投資されておりまして」
「そうですの…」
「そろそろお時間です。既にお迎えの方が入り口まで来ています」
「そうですか。もしかしたらと思ったのですが、駄目だったようですね」
「今回は諦めましょう。あなた」
「うん、仕方が無いか」
どうやら、この設計者と名乗る男女は夫婦の様でした。
「あの、何かまだご用事が」
「いえ。大したことではありません。迎えを待たせてはいけない。早く戻りまし
ょう。それでは、我々は失礼します」
「あ、はい。これからも頑張って下さい」
「ありがとう」
そう言うと、大和の父と一緒にその設計者夫婦は入り口の方向に向け去って行
きました。
「弥白様! お待たせしました」
「お待たせでぃす」
二回目のメリーゴーラウンドを乗り終えたツグミ達──佳奈子は初めてですが
──が、階段を降りて自分の居る場所へとやって来るのが見えました。
「今の方はどなたですか?」
「この遊園地のオーナーよ」
「いえ。一緒にいた男性と女性の方です」
「このメリーゴーラウンドを設計された方だそうよ」
「そうなんですか…」
頭に手を当て、考え込む風だった佳奈子。
「あの二人の方をご存じなんですの?」
「いえ。ただ、ちょっとどこかで見た記憶が…」
「有名な方なんですの?」
「そうかもしれません。ここを設計された方なんですか…」
暫し考え込む風だった佳奈子。
放っておいたらどこまでも考え込んでいそうだと見て取った弥白は、そろそろ
昼食にしましょうかとツグミ達に提案するのでした。
*
自分の力が順調に回復しつつあることをユキは自覚していました。
一晩の休息よりも、ミカサと共に過ごした時間の方が、明らかに回復が早い。
「(これが愛の力というものなのかしら)」
姉のミストならずとも、同胞の悪魔族の者が聞けば目を剥きそうなことを平然
とユキは考えていました。
もちろん、その考えがおかしいものであるということをユキは自覚してもいま
す。
「次はあそこに行きましょう。ミカサ様」
「メリーゴーラウンドかい? 懐かしいな」
妹と乗った時のことを思い出しているのだと、ユキは思います。
やがてメリーゴーラウンドの前に立つと、彼はそれをしげしげと見つめて言い
ました。
「ここは、昔と何も変わってないな」
「昔?」
「この遊園地が改装する前に来たことがあるんだ」
「……」
昔のことはあまり聞いてはいけないのかもしれない。
そう思うと、何も言えなくなってしまったユキでした。
兎に角行列に並ぼうと、入り口がどこにあるのかと視線を走らせた時、見覚え
のあるヒトが立っていることに気づきました。
全身黒づくめの女性。そして連れている大型犬。
「(あら、あの娘は…)」
「ユキ?」
「御子の関係者がいます」
小声でユキはミカサに言いました。
「あれが瀬川ツグミなのか」
やはり小声で、ミカサが言うとユキは肯きました。
「ここに来ていたとは」
「勘が鋭い娘だということです。作戦の妨げにならないと良いのですが」
「だが、ここで手出しは無用だ。やり過ごそう」
「はい」
そう肯き合った二人ですが、懸念は無用でした。
ツグミとその一行は、ユキ達の方を見ること無く、反対側の方にぞろぞろと歩
き去って行ったからです。
「行ったようだな」
「それでは、メリーゴーラウンドに乗りましょう。ミカサ様!」
そう言い、ミカサの手を引くユキの頭の中からは、ミカサの過去のことはすっ
かり消え去っているのでした。
●濱坂市湾岸地区
「これが、問題の聖女か」
「はい。この島にある唯一の聖女、聖母マリア像です。明治時代に作られた品で
すが、県の文化財に指定されています」
貿易商人達の寄付により建築された教会、「海の聖母マリア教会」のマリア像
の前で話していたのは、桃栗警察署ジャンヌ特捜班、東大寺氷室と春田刑事。
「この島に他に聖女は無いんだろうな?」
「はい。教会は他にはありません」
「遊園地があるだろう。今日開園したとか言う。あそこには無いのか」
「は。自分もそう思い、遊園地に問い合わせました。聖女の類はあの遊園地には
存在しないそうです」
「そうか。それでは、周辺部を見回ることにしよう」
「はい」
*
教会の入り口から出て来た二人の男をその少女達は見逃しはしませんでした。
一人は金髪、もう一人は漆黒の髪。
金髪の方は帽子の中にその長髪を隠し、サングラスまでかけていたのでその特
徴が判りづらくなっていたのですが。
「どうやら、予定通りここに目をつけてくれたようだな」
「ええ。彼らは我々にとっての『聖女』が誰かなど判らないでしょうし」
「これで、どちらに転んでも作戦は上手くいく」
「ちょっと、後ろめたい気もするけれど」
「それが我々の使命だ」
「だけど…」
「言うな」
「…」
「それより、時間は未だある。それまで、中で楽しもうじゃないか」
「…それもそうね」
そう言うと、その二人の少女──レイとミナ──は、直ぐ近くにある水無月ギ
ャラクシーワールドに向け、歩いて行くのでした。
●水無月ギャラクシーワールド・レストラン『銀河亭』
太陽の名を冠する大観覧車に乗った後で、急流下り「メルクリウス」、電磁
コースター「ウェヌス」、フリーフォール「テルス」を梯子したまろん達。
昼食を取ろうと、午後一番に乗る予定のロケットコースター「マルス」を横目
に見つつショッピングモールの中にあるレストランにたどり着いた頃には少々疲
れ気味。
絶叫系のアトラクションを梯子したとあっては無理も無い話ですが。
レストランに到着したのは、丁度お昼に差し掛かろうとしている時間。
店内は招待客で溢れかえっていて、店員からは「カウンター席で宜しいでしょ
うか?」と言われるような状況でした。
席に案内される途中、空いている席を見て「空いてるじゃない」と呟いた都。
しかし、そこには「予約席」と札が置いてありました。
*
「思ったより回れないものね」
水をちびちびと飲みながら、そう呟いたのはまろん。
「うん。平日なのにこんなに混んでいるなんて、世の中暇な人が多いわね。大学
が春休みってこともあるんだろうけど。大体何人招待したのよ!」
「招待券が簡単に手にはいる訳よね。午後はどうしようか?」
「もちろん、初志貫徹に決まってんじゃない! 惑星の並び順で、火星、木星、
土星、天王星、冥王星、海王星の順番で乗りに行くわよ」
「今は冥王星と海王星どっちが外側だっけ?」
「海王星でしょ」
「残念。今は冥王星が外側よ」
都とまろんの会話に良く知った声が割り込んで来ました。
「ツグミさん!?」
まろんが驚いて振り向くと、目の前にツグミが微笑を浮かべて立っていました。
そしてその傍らには、何故か山茶花弥白がいて、こちらを睨んでいるのでした。
(つづく)
漸く中盤。^^;;;
残りをジェットコースターの如く話を進めることが出来ると良いのですが。
では、また。
--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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