Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
石崎です。
例の妄想第172話(その4)です。
Keita Ishizakiさんの<bnvq06$acm$1@news01dd.so-net.ne.jp>の
フォロー記事にぶらさげる形になっています。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)は<bnvv4r$p9c$1@news01de.so-net.ne.jp>から
(その2)は<bol12s$5cr$1@news01cj.so-net.ne.jp>から
(その3)は<bpanfp$235$1@news01cb.so-net.ne.jp>からどうぞ
^L
★神風・愛の劇場 第172話『弱きもの』(その4)
●前日・枇杷高校
「都っ! しっかりしてよ、都ってば」
生徒達が皆倒れ、死んでいた学園。
今また、まろんの目の前で都が倒れていました。
どんなに都をきつく抱こうとも、その身体からは何も反応が返ることはありま
せん。
「…」
どれだけそうしていたことでしょう。まろんの耳元で、何者かの囁き声が聞こ
えました。
「誰なの! 何でこんな事するの?!」
すると、今度ははっきりと返事がまろんに届きます。
「私が誰であるかは問題では無い。そしてこれは貴女が戦い続けた場合にやって
来る結果としての世界」
「どうして…」
「貴女が戦い続ける限り我々は退かない。故に貴女がどんなに強くても、いずれ
はこうなるのだ。この世界には貴女しか残らない。それを望むのか」
●濱坂市・湾岸地区
「ねぇ、まろんはどこから回った方が良いと思う?」
都に呼びかけられ、まろんは顔を上げました。
「何か言った? 都」
「何よ、聞いてなかったの」
「ゴメン。早起きでぼーっとしてて」
「遊園地、どこから回ろうかという話よ」
呆れたという表情をした都は、テーブルの上にあったオレンジジュースの入っ
ていたカップを手に取ると、氷の溶けた水をズズ…と音を立てて吸いました。
目の前に置いてあった遊園地の小さなパンフレットを広げ、ぱらぱらと捲った
まろん。
「都の好きなところで良い」
「まろんの好きな所を今日は回るの」
「都様のエスコートにお任せします」
「それなら絶叫マシンフルコースにしちゃうわよ」
「絶叫マシン?」
「そ。あの遊園地、リニューアルに合わせてコースターを増設したのよ」
「そうなんだ」
「ジェットコースターだけで7種類位あったんじゃ無いかな?」
パンフレットをテーブルの上に置いた都は、遊園地の名称に合わせ惑星の名を
冠したコースターの数を数え始めました。
「ふーん。じゃ、それで良いよ」
都は眠そうな声で答えるまろんの声が、余り楽しく無さそうに聞こえて仕方あ
りませんでした。
●水無月島・水無月ギャラクシーワールド
「このコースターで最後ですね」
開園前の遊園地を歩いていた弥白と佳奈子。
他のコースターとは異なり、直線的なレイアウトのコースターを指さし、佳奈
子は言いました。
「このコースターは?」
「はい。スタート直後に時速175キロメートルまで加速するのが売りの高速
コースター、『ウラヌス』です。落下角90度の垂直降下も売りですね」
既にアトラクションの内容を丸暗記しているらしく、佳奈子は淀みなく答えま
した。
「良くもこれだけコースターを作ったものね」
「はい。これだけジェットコースターが集中している遊園地は、日本では他に1
つ位しか無いそうです」
「今日案内する方を乗せて大丈夫かしら? 乗車規定を読む限りは問題無さそう
だけど」
「電話をかけて確認しました。四肢に異常が無い限りは問題ないそうです。ただ、
流石に盲導犬は無理だと思いますが」
佳奈子の話している内容は、実は弥白も既に承知していることでした。
しかし、敢えて弥白はそのことは言わずにいました。
それは、この日のために、一生懸命勉強して来ていた佳奈子の気持ちを無駄に
したくなかったからでした。
「それでは、ファミリー向けのエリアに行きましょう」
「はい」
大観覧車を右手に見つつ、陸側にあるファミリー向けのエリアへ歩いて行く弥
白と佳奈子。
「?」
「弥白様?」
弥白が立ち止まり、上を見上げました。
佳奈子も立ち止まり、弥白の視線の先を見つめるべく、目を細めました。
「弥白様、あそこ…」
「あんなところに人が?」
佳奈子が指さした先は、直径120メートルと日本最大級の大観覧車。
その頂点に位置しているキャビンでした。
「弥白様にも見えましたか」
「ちょっと待って」
ハンドバックから小さな双眼鏡を取り出し、そのキャビンを見た弥白。
「どうですか?」
弥白の方を見て、佳奈子が尋ねると弥白は首を振りました。
「何も見えませんわ」
そう言い、弥白は佳奈子に双眼鏡を渡しました。
「確かに見えた気がするんですが…」
しかし、先程見えた人影は最早そこにはありませんでした。
*
大観覧車の頂点にあるキャビンの上に、二人の少女が立っていました。
一見、普通の少女に見えるものの、背中にある一対の白い翼が二人が人間では
無いことを示しています。
「危なかったね。今の」
「あの二人がこの地に来ているとは聞いてないぞ」
誰にも気づかれる事無く偵察を行うはずが、自分達のことを指さしている人間
がいることに気づいたのは、ミナが先でした。
それまでも人に見えない術をかけていたので、一般人には見えないはずなので
すが、念のため、更に術を強めた二人。
そうしてから二人のことを遠視で良く良く眺めてみると、それまで悪魔に取り
憑かれていた所為で普通の人間よりは大分人外の者の気配を感じやすくなってい
る人間のリストに入っている二人でした。
暫くじっとしている内に、彼女達を見失ったのでしょう。
レイ達を見つめていた二人は遊園地の奥の方に去って行きました。
完全に二人が物陰に隠れて見えなくなってから、漸く安堵の溜息をレイ達はつ
きました。
「あの二人がいたのは予定外だが、作戦には支障は無いだろう」
確認する様にレイが呟くと、ミナも無言で肯きました。
「遊園地の構造は頭に入れたな?」
「うん。だけど…」
「何だ?」
ミナは黙ってレイに手を繋ぎ、身体を通して心を繋げました。
”本当に、神の御子とやり合うの?”
”当たり前だ。それが我々の使命なのだから”
”どの程度やり合えば良いの?”
”今日の作戦は威力偵察だが、可能なら倒す。我々はそのためにここにいる”
”フィンとの約束は? フィンは神の御子のことが好きなんだよ?”
”倒さないとは言ってない。時期が早いか遅いかの問題だ。我々は本来…”
”私が気にしているのはそこよ”
”どういうことだ”
”使命を果たした後で、私達はどうなるの? 口約束なんて…”
”守られないなら、その時は、その時さ”
”レイ! 私達には別の可能性も”
”裏切りは好きじゃないんだ。ミナ”
”…うん”
肯くミナ。しかし、その表情は暗いものでした。
その肩に手を置いたレイ。
”心配するな。その時は、私がミナを守ってみせる”
”そんなこと、言わないで。その時は、私も一緒に戦うから”
”ミナ”
”私達は、最後まで一緒よ”
●天界・『神殿』
その時、レイとミナを天空の高みから見守っていた者がありました。
一人はレイとミナの生命をこの世界に生み出した者。
そして今一人は、その二人を別の世界へと送り込むことを決めた者。
「一時期、連絡が取れなかったのですが漸く捕捉することが出来ました」
「あの二人も、元気そうで何よりですね。リル」
そう言い、彼女は微笑をリルに見せました。
「しかしあの二人については、若干の懸念が」
「懸念?」
「本当に『あちら側』に寝返ったのではという懸念です」
「それで彼女達が幸せであるのなら、それも良いでしょう」
「本気ですか?」
「いいえ」
彼女は一体何を考えているのだろうかとリルは思います。
もちろん、そう考えていること自体が読まれているのは承知の上で。
「リルに話していなかったことがあります」
「何でしょう?」
「あの子達に命令を出していたのは貴方だけでは無いのです」
「どういうことですか!?」
驚いて聞き返したリル。
その表情が余程可笑しかったのか、彼女は珍しく声を出して笑います。
「リルにも、判らないことがあるのですね。安心しました」
「どういう意味です」
「言葉通りの意味ですよ」
何時もそうである様に、言い争うのが馬鹿馬鹿しくなって来たリルは、彼女の
次の言葉を待ちました。
何かリルが言い返して来るのを待っていたのでしょう。
暫しの沈黙の後、彼女は口を開きました。
「実はあの子達には、貴方が与えた任務以外に今一つ、機会あれば神の御子を消
去する任務が与えられていました」
「え?」
一瞬、彼女の言葉が理解出来なかったリル。
もう一度、彼女は同じ言葉を繰り返しました。
「そんな馬鹿な! 一体誰が?」
「貴方が良く知っている方ですよ」
即座に自分の政敵を何人か頭に浮かべたリル。
「その中で、最近『旅立った』方です」
「防衛部長が? 何のために?」
「つまりは、神の御子を巡って発生した諸問題の先送りと解決です」
「先送り…ですか」
神の御子を今すぐ倒してしまい、その魂が魔界の者の手にさえ渡らなければ、
魂は数百年の時を経て再び、別の人間の中に宿るだろう。
それまでは、神の御子を巡る争いは沈静化する。
そして、神の御子が復活する頃には今生きている天使達は生き残ってはいない。
つまり、今の安寧を得るために、神の御子一人を犠牲にする腹積もりか。
しかしそんなことをしては……。
「大体正解ですよ、リル」
彼女はそう言い、リルの考えを肯定しました。
「我々の手で神の御子を? 確かに、神の御子が暴走した時、我々は御子を処分
したことがあると聞きます。しかし現時点でそれを行うとなると、政治的に保ち
ません」
「だからこその彼女達の存在です」
「彼女達に全ての責任を押しつけるつもりですか?」
「正確にはフィンにということになります」
「防衛部長が急に旅立たれたのは、貴方の差し金ですね」
リルが言うと、彼女は肯きました。
そして、目の前の空間に映し出されていたレイとミナの姿が消え、別の場所が
映し出されました。
そこは、決して豊かとは言えないであろう家屋の中でした。
赤ん坊が中に居るのであろう女性と、その側に立っている夫であろう男性。
そして、母のお腹を見つめている少年。
「これは?」
「あの者が転生する筈の家族です。既に、魂はあの子の中に」
「何故私にこれを? 誰がどこに転生するのかは普通明らかにされないものと」
「リルは、この家族を見てどう思いますか?」
「ごく普通の…そうですね。ごく普通の、幸せそうな家族です。あまり豊かそう
ではありませんが」
「そのような家族の一員として転生することが、彼の望みでした」
「意外です」
「事実です。だから、私が提示した条件に彼は直ぐに同意したのです」
権力欲が強かった自分の政敵の姿をリルは思い浮かべます。
とても、そんな慎ましい未来を望んでいたとは思えなかったのですが。
「彼は、前世の記憶を持っていました。貴方と同じように」
「どのような前世だったのです」
「それを貴方に言う必要を認めません。しかし、幸せで無かったことは確か」
「そうですね」
自分の前世について、ちらりと思い返したリルは即座にそれを心の奥底深く、
厳重に封印しなおしました。
「そう言えば、あの者が貴方に言伝を残していたのを伝えていませんでした」
「え?」
「『あの二人のことを頼む』とだけ」
その言伝を聞いて、意外に感じたリル。
てっきり、使い捨ての駒にでもするのかと感じていたからです。
「今一つ。貴方の防衛部長の就任についてです」
「代理ですよ」
先日の幹部会で決まった出来事を彼女は口にしていました。
情報部門と防衛部門を同一の者が兼務するという異例中の異例の人事。
「推薦したのは、前の防衛部長です」
「貴方の差し金だとばかり」
「政敵であっても、実力は正しく評価しているということですよ。リル」
そうであるならば、どうして健在の時に手を取り合えなかったのだ。
リルはその様に感じます。
その思いが伝わったのでしょう。彼女も同意するかの様に肯き、そして言いま
した。
「さて、本題に入りましょうか」
「はい」
そう言うと、彼女はリルを奥へと招き入れるのでした。
●濱坂市・水無月島
「ここが、その場所なのですね」
「ああ」
水無月ギャラクシーワールドのある水無月島。
そこに明治時代から建っている煉瓦造りの教会。
そのさして大きくもない聖堂の前に前にミカサとユキは立っていました。
「昔、貿易商人や船乗り達がお金を出しあって建てた教会らしい」
「それで、『海の聖母マリア教会』なのですね」
「うん。地中海にも、同じ名前の教会が幾つもあるそうだ」
入り口の前で二人が話していると、中から神父らしき人が覗き込んでいました。
その人に中に入ることを許可して貰い、聖堂の中に入った二人。
「これが、例の?」
祭壇の前に立ち、そこにあった聖母子像をユキは見上げました。
「ああ。マリア教会の聖母子像。人間にとっての神の御子とその母の像という訳
だね」
「神の御子…ですか。処女から生まれたと言うのは本当ですか?」
ユキの率直な質問に、ミカサは、どう答えたものかと一瞬考えます。
「聖霊の力によって受胎したということになっているけどね。キリスト教を信じ
ている者の中でも、嘘だという者もいる」
「そうですか。私はてっきり…」
「何だい?」
「いえ、何でもありません」
「?」
ユキは自分の突飛な考えをミカサに話すことはしませんでした。
それを言うと、ミカサに笑われそうな気がしたからです。
その一方でユキは思います。
この人間が信じる神と、天界に居るという神は、同じモノなのだろうかと。
●枇杷町・枇杷高校
「何? 予告状が出ただと?」
枇杷高校第一体育館損壊事件現場。
現場検証に立ち会っていた氷室達ジャンヌ特捜班のところにジャンヌからの予
告状の報が届いたのは、午前九時を回ろうとしたところでした。
「はい。今、連絡が」
「で、場所はどこだ」
「濱坂市の湾岸地区、水無月島だそうです」
「で、予告状には何とある?」
「はい、ええと…『予告状 濱坂市長様 本日日没後、水無月島の聖女の命頂き
ます 怪盗ジャンヌ』予告状に書いてあったのはこれが全てだそうです。予告状
自体はFAXで本署の方に来てます」
「命…だと?」
「はい。自分も吃驚したのですが、確かにそう書いてあるそうです」
段々と過激になって行く怪盗ジャンヌの犯行。
今までは物だけを盗んでいたが、今度は命か。
そう一瞬考え、直ぐにその考えを打ち消した氷室。
「判った。すぐに署に戻る。夏田と秋田にもそう伝えろ」
「はい!」
「それから」
「はい」
「都には学校が終わるまで伝えるんじゃないぞ」
「了解!」
さっと敬礼して走り去って行く春田。
その背中を見ながら、予告状にあった命という言葉の意味を考える氷室でした。
(つづく)
そろそろ、黒ミサの準備で妄想書きが辛くなって来るかも。^^;;;
では、また。
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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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