Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
石崎です。
例の妄想スレッド第172話の続き(その3)です。
Keita Ishizakiさんの<bnvq06$acm$1@news01dd.so-net.ne.jp>の
フォロー記事にぶらさげる形になっています。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)は<bnvv4r$p9c$1@news01de.so-net.ne.jp>から
(その2)は<bol12s$5cr$1@news01cj.so-net.ne.jp>からどうぞ
^L
★神風・愛の劇場 第172話『弱きもの』(その3)
●桃栗体育館 半月前
「それはそれとして、まろんに提案があるんだけど」
新体操地区大会の控え室。
まろんの化粧を手伝っている、自分の化粧を済ませた都。
本当は弥白新聞のことで傷ついている筈なのに、都は笑顔を見せて言いました。
「何?」
「また、賭けをしてみない?」
「賭けって?」
「あたしとまろんと、どっちが上位になるか」
「又、食事?」
「今度は別のものにしましょ」
「景品は何?」
「もしもまろんが良かったらなんだけど」
周囲の様子を伺っていた都は、まろんの耳元で囁きました。
「デートしよう。二人で。まろんが勝ったなら、あたしが奢るから」
●濱坂市中心部
「まろん、着いたよ」
肩を叩かれ、まろんは目を覚ましました。
気がつけば、電車は濱坂の駅に入ろうとしており、起こしてくれなければ危う
く寝過ごすところでした。
扉が開き、ぎゅうぎゅう詰めのプラットホームを抜け、何とか改札の外に出た
二人。
人の流れから外れ、窮屈から解放された二人はほぼ同時に伸びをしました。
「時間、早過ぎちゃったね」
「遅刻するよりは良いでしょ」
桃栗町から電車に乗ること一時間弱の場所にある県庁所在地、濱坂市。
ひな祭りである今日リニューアルオープンする遊園地、「水無月ギャラクシー
ワールド」は、濱坂市のベイエリアの水無月島に位置していました。
交通手段としては濱坂駅で下車して水無月島まで歩くか、そこから伸びている
市営地下鉄に乗り換え、水無月駅で下車すればもう遊園地は目の前です。
休みの朝練に出る振りをするため、早朝に出立していたまろん達。
開園予定時刻にはまだ早過ぎる時間に到着してしまいました。
開園を待つ行列がどの程度かは不明とは言え、今日は限定公開日。
さ程の列は出来ていないだろうと判断した二人は、ファーストフード店で時間
を潰すことにするのでした。
●濱坂市・湾岸地区
「…はい、判りました。では、隊長には伝えておきます」
携帯電話で話していたユキは、そう言い電話を切りました。
「オットー達は何と言って来た?」
コの字型のソファの奥で、トールンが言いました。
「はい。渋滞に巻き込まれてしまい、到着が遅れるとか」
「距離的には我らより先についていてもおかしくないはず。寄り道でもしている
のではあるまいな」
「それは無いと思いますよ」
化粧室に出かけていて、丁度戻って来たミカサは、手を拭き拭き言いました。
「あ、隊長」
「話は聞いていた。本隊の到着は遅れるんだね」
「はい。未だ濱坂バイパスの辺りだとか」
「しかし、出立から2時間経過しても到着しないなど…」
「朝は高速は混みますから。こちらに向かう路線は特に。混雑緩和のために、バ
イパス道を作った筈なのですが、あまり効果は無かったみたいですね」
「そうか。ミカサがそう言うのであれば、そうなのだろう。おい、姉さん!」
そう英語で言い、ウェイトレスを呼び止めたトールン。
覚え立ての日本語でコーヒーのお代わりを要求しました。
「良くそんな不味いコーヒーを飲めるわね。トールン」
通路を挟んだ向かいのテーブルから、アンが言いました。
「トールンは味覚音痴なのさ」
「何と言った!」
「味・覚・音・痴」
それを切っ掛けに、罵りあいを始めた二人。
あまりの大声に、店長らしき人物が割って入って来てしまいました。
「お客様。他のお客様のご迷惑となりますので…」
「済まなかった」
「ああ。このおっさんが迷惑かけたな」
「何だと!」
「トールン殿」
「ああ…」
ミカサに言われ、何とか我慢したトールン。
そんな彼を馬鹿にした様に、舌を出したエリスをアンは叱りつけました。
「エリス! 止めなさい!」
「アンがそう言うのなら」
漸く騒ぎが落ち着いたのを見計らい、トールンの隣に座っていたレイが口を挟
みました。
「それでこれからの予定なのだが、我々は作戦予定地域を上空から視察したい」
「上空から?」
「この地域には、我々の同胞の気配は存在しない。そして、神の御子は開場前は
作戦予定地域には居ないはずだから、見咎められずに偵察を行えるはずだ」
「うん。許可しよう」
既に作戦の子細については打ち合わせは終えていたものの、なお何点か念を押
したレイ。
ミカサとトールンがそれぞれ承知すると、レイはミナを伴って店を出て行きま
した。
「それで、我らはどうする?」
運ばれて来たコーヒーのお代わりを一気に飲み干し、トールンは言いました。
「そうですね…」
「私達、お買い物に行きたいんですけど良いでしょうか?」
手を上げて、そう主張したのはアンでした。
「私は良いよ」
「だって、この子の服と来たら」
「私はこれが良いんだって」
「そうじゃ。使用人は使用人らしい服装をしていれば良い」
「なんかあんたに言われるとムカつくな」
そう言うエリスの服装は、黒いワンピースに白いエプロンという姿。
もちろんアンの私物では無く、ノインの館に何故かあった代物を引っ張り出し
て来たものでした。
「大体これ、何時の頃のか判らない代物でしょ」
「魔界にこの手の服が持ち込まれて百年経ってないから、それより後の代物だ
ろ」
「大体ノイン様のお屋敷に何でこんな物があったのかしら」
「昔、人間を使用人として雇っていたことがあったんだと」
「ふーん」
これでカチューシャでもあれば、まさしくメイドそのもの。
ユキも彼女の恰好を何とかしてやりたいという欲求にかられましたが、術で何
とかするには今は術力が足りませんでした。
昨日の行動は、ユキにそれだけの消耗を強いていたのでした。
「大体、買い物に行っていたら遊園地の開園時間に間に合わない」
「お店はこの辺りに沢山あるから、買ってから着替えて行けば良い。別に開園に
間に合わなくても良いじゃない」
「お金は…」
「貯金を現地通貨に変えたから大丈夫」
「勿体ない!」
「でもその恰好だと目立って、作戦にも支障が出るわ。良いでしょ?」
そう言い、トールンの方を向いたアン。
「そうですな。姫がそう言うのなら、不肖このトールンもおつきあいします」
「お前は来るな!」
「姫様と二人だけで街を出歩かれる方がよっぽど不安です」
トールンの反応を見て、ユキは一瞬意外に感じました。
しかしすぐに、彼が出来れば危険な場所からアンを遠ざけようとしているのだ
と気がつきます。
「そうだね。アンの言う通りだ。僕達も付き合おう。店は知らないでも無い」
「いえ。ミカサは本隊と合流して下さい。大将がいなければ、彼らも困るでしょ
う。儂らなら大丈夫。知らない人間の街を出歩くのは、これが初めてではありま
せんし」
これは絶好の機会。
ユキはそう気づくと、即座にミカサに進言しました。
「私達も、本隊到着まで遊園地周辺を偵察しては如何でしょうか?」
「偵察?」
「はい。作戦予定地点は遊園地の内部とは言え、作戦の内容から考えると、周辺
部の状況は人間達の動きを予想する上で重要だと思います。それに、例の場所を
見ておきたいですし」
「そうか、私は…。うん、そうだね。では、私は本隊到着まで、ユキと水無月島
周辺部を偵察することにする。トールン殿はアンとエリスを頼みます」
「心得た」
「(やったー!)」
話が纏まると、心の中で快哉を叫ぶユキなのでした。
●桃栗町中心部
通勤・通学ラッシュの波も去り、電車が到着した時を除けば静けさすら漂う桃
栗中央駅。
そこに到着したバスからイカロスを連れ降り立ったツグミ。
他人から見れば何時もと同じ黒い服。しかし、本人に言わせれば「よそ行き」
であるらしく、良く見れば微妙に衣装に飾りが多いのが判ります。
もっとも、全体が漆黒であるのであくまで良く見ればという程度に過ぎないの
ですが。
そんな彼女を見て、駆け寄って来た少年がありました。
年の頃は十代前半。それも中学生に入ったかどうかという外見。
「ツグミお姉さぁん」
「全君」
キョロキョロと辺りを見回し──見えないですが──ていたツグミは、声のし
た方角に身体を向け、手を振りました。
「ごめんなさい。バスが渋滞で遅れて」
「そんなに待たなかったでぃす」
「さぁ、行きましょう」
「はぁい」
ツグミはイカロスと繋がっていない方の手を全の方に伸ばします。
ごく自然に、手を繋ぎ券売機の方に向け歩いて行きました。
「(あら?)」
握られた全の手は、予想とは異なり何だか緊張している気がしました。
「全君、どうしたの?」
「どうもしませぇん」
普段通りの口調で全は答えたので、気の所為かと思い直したツグミ。
しかし実際、全の表情には微かな緊張がありました。
ツグミの目は、その表情を見ることは出来なかったのですが。
●濱坂市湾岸地区・水無月島
濱坂市中心部から徒歩圏内にある湾岸地区。
その一角に水無月島は位置していました。
日本有数の企業グループの一つである水無月グループの初めての造船所が作ら
れた埋め立て地で、後に一族の名が島の名前になってしまった場所なのでした。
その後の産業構造の変化から、老朽化した施設を抱えた造船所の機能は別の造
船所に集約され、跡地にはレジャーランドが建設されました。
その後、湾岸地区の再開発の都合から一時営業を休止していたものが、本日改
めてオープンしたのが、水無月ギャラクシーワールドというわけなのでした。
*
「これがその造船所のドック跡なんですね」
「そうよ」
パンフレットを見ながら弥白が答えると、佳奈子はドックのなれの果てをデジ
タルカメラで撮影していました。
「さ、ここはこれ位にしましょう」
「はい」
弥白が声をかけると、佳奈子はカメラをバッグの中にしまい込み、弥白を追い
抜いて先に歩き出しました。
未だ開園前の遊園地の中は、従業員が開園の準備をしている他は閑散としてい
ました。
開園より大分前に、遊園地に到着した弥白達。
水無月グループ会長からの依頼で来ていることもあり開園前に中に入りました。
良かったら、アトラクションに試乗してみますかと言われたのですが、それは
外で行列を作っている来場客に悪いので遠慮して、今は園内を二人で見学してい
るところです。
「うわぁ。凄いですね、弥白様」
弥白達が今居る場所は、各種コースターを一カ所に集めた「絶叫エリア」と名
付けられた一帯であり、今二人の目の前にあるのはその一つでした。
通常に比べ、向こう側が見えない程骨組みが多いコースター。
その骨組みの間を渦を巻くように設計されたコースは、実際に乗ってみたら骨
組みにぶつかる様に感じられるに違いありません。
「これ、木で出来ているのよね?」
「はい。日本最大級の木製コースター『ユピテル』です」
「ユピテル?」
「えっと、ラテン語で木星の意味かと。木製だけに木星…何ちゃって」
「……」
「あの、つまらなかったですか?」
弥白が沈黙してしまったので顔を真っ赤にして佳奈子は言いました。
「クスクス…。ごめんなさい。そんな意味があったなんて、思いもしなかったも
のだから」
「私も、今思いついたんです。見る前は、単純に惑星の名前を並べたとばかり」
「私もよ」
弥白がそう言い笑うと、佳奈子も一緒に笑うのでした。
「弥白様、次のコースター見に行きましょう!」
「あんまり慌てないで、佳奈子さん」
振り返りつつ、小走りに進んで行く佳奈子の姿を見て、転びはしないだろうか
と冷や冷やする弥白でした。
●……
「終点〜、終点です。どなた様もお忘れ物無きよう……」
セルシアが気がつくと、電車の中に詰め込まれていた客は次々と外へ出て行く
ところでした。
「(弥白ちゃんや佳奈子ちゃんは何処ですです?)」
決して眠っていたのではありません。
車内に入り込んだ時、網棚の上で弥白達のことを見守ろうと考えたセルシア。
大きな何かが自分の上に覆い被さって来るのに気づいた時はもう手遅れでした。
それから今まで、セルシアの記憶はありません。
辺りに弥白の姿が見えなかったので、電車の外に出たセルシア。
するとそこは、人、人、人……。
飛び回り、弥白が居ないか探しました。
しかし、居るのか居ないのか、それすらも判別出来ない程に人は多かったので
す。
遂に建物の外に出てしまったセルシアは辺りを見回すと、そこには一度も見た
事の無い光景が広がっていました。
「ここ……どこですです?」
と、泣きそうな声で言うセルシアなのでした。
●濱坂市・湾岸地区
明治時代以来という古い建物が多く建ち並ぶ湾岸地区。
その中を腕を組みながら、ミカサとユキは歩いていました。
腕を組むように提案したのはユキ。
その方が、人間達に疑われずに済むのだと主張したのです。
ミカサは口では答えず、代わりにそっとユキの腕に自分の腕を回しました。
それから、ずっと街の中を歩いていた二人でした。
ビショップの塔と名付けられた旧県庁舎。
ルークの塔と名付けられた旧税関庁舎。
キングの塔と名付けられた博物館。
クイーンの塔と名付けられた産業会館。
それ以外の名所にも一々立ち寄り、ユキに案内したミカサ。
それを聞きながら、本当は偵察など不要なのだとユキは改めて悟りました。
ミカサは、この街のことを熟知しているのだから。
「ミカサ様。この街のこと、お詳しいんですね」
「うん。妹と良く来ていたからね」
「妹さんがいらっしゃるんですか?」
ミカサが人間だった頃について、あまり聞いたことが無かったユキ。
妹がいたと聞いて示す反応は、ごく自然なものでした。
「うん。…いた」
「いた?」
「もうこの世には妹は、存在していない」
「あ…。あの、ごめんなさい」
「ユキが気にすることは無いさ」
どんな妹さんだったのだろう。
そう思いながらも、自分から聞くことの出来なかったユキ。
それを察してか、ミカサの方から話し始めました。
「僕は…人間だった頃、神社の神官だったんだ。妹は、そこで高校に通いながら、
巫女をしてくれていた。兄として言うのも何だが、美人だったよ」
「神に仕えていたのですか?」
「うん。天界の神様とは違うと思うけどね」
「妹さんは、事故か病気で?」
「僕の所為さ。僕が、魚月を死なせたんだ。四年前のことだ」
ナ…ツ…キ。ユキは、ミカサの妹の名を頭の中で繰り返しました。
「ノイン様は私の責任では無いと仰った。魔王様も同じことを言う。だけど違う。
あれは僕の責任だ」
「ミカサ様…」
「その後、妹の魂は天界に持ち去られた。それを知り、僕は魔界に身を投じた。
妹の魂を取り戻すために。これが僕が今、こうして魔界の一軍を率いている理由
なんだ」
気がつくと、ミカサは組んだ腕をユキから離していました。
「僕のことを軽蔑したかい? こんなつまらない理由で魔界にいるなんて。でも、
誰かに聞いて欲しかったんだ。ノイン様でも魔王様でも無い、他の誰かに」
「そんなことありません!」
ユキはそう言い、人目も憚らずミカサのことを後ろから抱きしめました。
「ミカサ様にその時何があったのか、私は知りません。知りたいとも思いません。
だけど私は今のミカサ様を知っています。誰にでも心優しきミカサ様を。…人間
界から魔界の一員になった今でも、妹さんのことを愛しているんですね?」
「ああ」
「だったらつまらないことなんて、言わないで下さい! ヒトがヒトを愛するこ
とが下らないなんて、言わないで下さい!」
*
愛という感情は、決して持つべからず。
世界に生まれ出た時から、それは繰り返し聞かされた言葉。
それがあると思うから、知恵ある者は悩み苦しみ、そして争う。
愛を信じなければ、例え裏切られようとも傷つくことは無い。
故に、努々愛という感情を抱くべからず。
私はそんなのは嫌だ。
悪魔族であることが愛を捨てることならば、そんな種族など捨ててしまいたい。
だけど……。
*
気がつくと、ミカサはこちらの方を向いていて、自分の頭に手を載せていまし
た。
「すまなかった。気を悪くしたなら、謝る」
ミカサを見上げたユキ。
思ったより近くに顔が側にあって、ユキの顔が紅潮しました。
「謝らないで下さい。私、嬉しいです。こんな秘密を私に話して下さって」
「!」
ミカサが我に返った時、ユキの身体は既にミカサから離れ、背中を向けていま
した。
その時の感触を確かめるかのように、ミカサは唇に手を当てました。
「私、待ってますから。ミカサ様がナツキさんへの気持ちに整理をつけられる時
まで」
「ユキ?」
「私の気持ち、ミカサ様は迷惑に感じられますか?」
「知っていたんだ」
「え?」
「ユキの気持ちは、気づいていた。気づかない振りをしていた。だけど、振りを
し続けていることが苦痛だった。だから何時か話そうと思っていた。だけど正直、
どう思われるのか怖かったんだ」
「それで良いんです。それでこそ、私のミカサ様です」
弾ける様な笑顔をその顔に浮かべ、ユキがミカサの方に向き直りました。
「さあ、開場時間までに、この街の名所を全部回りますよ。ミカサ様」
そう言うと、ユキはミカサの手を引いて歩き出しました。
やがて足を速めたミカサは再びユキと腕を組み並んで歩いて行きました。
先程よりは大分密着した状態で。
(つづく)
このカップルも、そろそろ関係を少し進めようかと。
では、また。
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Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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